空中散布・松枯れにもどる

t26303#長野県での空中散布廃止を求める活動 (長野県千曲市  池田靖子)#08-07
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     2013年度 松枯れ対策等の農薬空中散布予定
【参考サイト】長野県:農薬の空中散布検討連絡会議のページ
            第4回農薬の空中散布検討連絡会議(2011/08/11)にある今後のあり方案の概要
       千曲市:林業振興協議会

★農薬空中散布と健康被害の実態
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 2009年、上田市の保育園で「松くい虫防除農薬の空中散布による健康被害」についてのお話を聞き、有機リン系スミパインの空散で不整脈や多動と診断される子ども達がふえている事実を知り、大変ショックを受けました。
 2008年6月、上田市で空中散布があった日の事です。前日までは絵をとても上手に書いていた子が、じっと座っていることもできず、全く絵にならない線の殴り書きになってしまったり、奇声を発したり、暴力的になったり、様々な体調の異常があった事などを口々に訴えていました。
 そこの保育園の園長さんが化学物質過敏症だった為、御自分が異常な体調不良になってしまい、すぐ保健所に問い合わせたそうです。そこで「松くい虫防除の空中散布が行われた」と言われ、ご自分の体調不良と、子ども達の変化の原因が農薬の為という判断ができ、すぐ農薬中毒治療に詳しい先生の治療を受けたことで、全員無事回復することができたという事でした。
 その後、佐久総合病院で空中散布の健康被害調査をして頂き、その結果を持って上田市長に「空中散布中止を求める要望書」を提出し、2009年から上田市では健康被害の予防原則を重視して、松くい虫防除の空中散布は行われなくなりました。(記事t21002記事t21406参照)

★千曲市での活動
 上田市の方々の話を聞き、農薬と子ども達の発達障害の関係という大変な事実を知り、私達は早速、千曲市でも、スミパインの空散を中止してもらうべく、署名活動を実施しました。そして2010年5月24日、1040筆の署名を持って「空中散布中止を求める要望書」を千曲市長に提出しました。
 しかし返ってきた答えは「千曲市では健康被害が出ないように注意してやっているから大丈夫です。」「健康被害を訴える人は全くありません」ということでした。
「本当に健康被害が出ていないのか調査をしてください」と言うと「学校や保育園で聞いてみましたが、特に体調を悪くした子ども達の報告は全くありません」と断られてしまいました。
 私達はその後も2011年、2012年と毎年、千曲市に対して要望書や申し入れ書を提出してきました。「胎児や乳幼児の脳にはどんなに微量であっても、脳神経に影響を与える可能性が否定できない」と言われる脳神経学者の黒田洋一郎先生や青山美子先生、松島松翠先生の資料を添えて「千曲市の子ども達に発達障害を疑われる子が非常に増えています。少しでも関係性が疑われる農薬の空中散布は止めて下さい」と強く訴えて来ました。

★千曲市の子ども達の状況
千曲市の空中散布区域にある小学校のある学年では、約3分の1の児童が発達障害を疑われる状態で、担任の教師の他に副担2人と校長先生や教頭先生まで手伝いに入らねばならないという実情を聞いています。さらに、来年入学する児童の中にも、支援を要する児童が異常に多いという事も聞いています。この事態こそ「緊急事態」と言わずに何と言えばよいでしょうか?
 私達は市行政に対し、子ども達の状況を散布区域とそれ以外の地域との比較検討を行い、子ども達の脳神経に影響を与える可能性を少しでも軽減して頂くように要望しておりますが、この件についても全く善処はみられません。

★長野県の対応と反応
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 上田市の空中散布健康被害者が中心になって、2010年6月17日、長野県議会に対し5819筆の署名と「農薬の空中散布中止を求める要望書」を提出し、健康被害の深刻な実態を訴えた事を受け、県は、2010年12月に、「農薬の空中散布検討連絡会議」を設置し、その中の「有人ヘリコプター松くい虫防除検討部会」で、「松くい虫防除のための農薬の空中散布の今後のあり方」が論議されました。
 2011年8月11日の第4回の検討会議で示された資料の中には「空中散布についての現状認識」として『空中散布は重要な松林を守る為、現時点では実施可能な予防方法や予防効果などの面から、他の方法に代替えすることができない有効な予防策である』として、その効果を示す写真が発表されました。その写真は岩井堂山という山の北側は千曲市、南側は坂城町に属し、坂城町は2009年、2010年と空中散布をしなかったので広範囲に松枯れが確認でき、千曲市側は毎年実施しているので、松枯れはほとんど確認できないというものでした。
 実はこの写真で示された千曲市側は、秋になると殆どが黄色に紅葉する落葉樹林で、ところどころに松林がせいぜい20%くらいある程度のところなのです。(11月に私達は現地検証をしましたところ、県が示した千曲市側の松枯れがないという山は、真黄色に紅葉しており、点在する松林の中には伐倒駆除してあるビニールの山がわずかな範囲に何十個もありました。本誌245号参照)
 県が示したこの写真を見て騒ぎ出したのが坂城町の松山の所有者達でした。
 松が枯れては大変だから是非空中散布を再開せよの動きが強くなり、2012年、とうとう坂城町は、日本ではじめて、エコワン3フロアブル(チアクロプリド含有)を7.5 倍希釈という高濃度で有人ヘリ空散を再開してしまいました。その後、松本市四賀地区も空中散布の動きが強まり、今年度から無人ヘリでマツグリーン2(アセタミプリド含有)の空中散布を開始しました。県の検討会議で示された「他に代替することができない有効な予防策」という方針と、でたらめとも言える効果写真を鵜呑みにした人たちを空中散布に突き動かしてしまうという、健康被害を訴えた人たちの想いとは全く裏腹な結果になってしまいました。

★県内8団体連名で県知事に要望書提出
 一方、上田市や千曲市、坂城町や松本市四賀地区ほか、県内で、空散に反対する人たちがそれぞれに各地区毎に活動していましたが、皆で県に訴えていこうという事になり、今年1月21日、8団体連名で長野県知事宛に「農薬の空中散布に関する要望書」を県林務部長に提出しました。
・子ども達の発達障害と農薬の関係について関係部局の連絡を密にしてしっかり調査検討し、子ども達に障害を与える事のないように
・県の検討部会で示された岩井堂山の空散効果写真は大変不適切なものなので削除するようになど、6項目を要望しました。
 それに対する県の対応は「県としても調査を進めています。国の基準に沿ってやっています。より安全性の高い薬剤を使うようにしています。」など進展性のみられるものではありませんでした。

★長野県空中散布廃止連絡協議会発足、県に申し入れ書提出
申し入れ書

 8団体連名で要望書を提出したことから、皆の思いを1つにまとめていこうということで、「長野県空中散布廃止連絡協議会」が5月26日に発足致しました。最初の活動として長野県知事宛に「松枯れ防除の空中散布(有人・無人)廃止に関する申し入れ書」を県林務部長に提出致しました。
1,県が委嘱した有人ヘリ松くい虫防除検討部会の「最終報告書」には、決定的問題点
  が多々ありますので、報告書を凍結・破棄して下さい
2,「報告書」に基づいて実施される予定の市町村に対しては空中散布を保留・中止す
  るように指導・通達して下さい。
3,もしも強行実施される場合については、下記の調査を必ず行って下さい。
  @空散の防除効果(マツノマダラカミキリ虫の密度比較)調査
  A人間健康への被害調査
  B自然生態系への影響調査
  C気中濃度、水質、土壌などの調査
4,空中散布防除の代替方法である、松を守るための「総合的防除方法」を確立・指導
  してください。
5,『最終報告書』の締めくくりに「新たに得られる知見を積極的に活用し・・・・空
  中散布のあり方の検討・見直しを行っていく事が必要である」に則り、速やかに実
  行して下さい。
以上、5項目の申し入れを行いました。

★影響はないと県の回答
 申し入れに対する県側の答えは次のようなものでした。
 ・空散の実施については県がやるように指導しているのではなく、各自治体が独自に
  判断して行っているものです。
 ・散布については国の基準に沿って、より安全性に配慮して行っていますので問題は   ないと思われます。  ・大気調査、環境影響調査なども県として行っております。(千曲市の散布区域で)   昨年度の調査では、大気中に散布当日、最大0.43μg/m3でしたが、県の推定した気   中濃度評価値(60μg/m3)以下であり、影響は無いものと思われます。  その他、土壌調査、植生調査等*でも問題は確認されず、影響は無いものと思われます。   *注:昆虫等の調査結果はまだ公表されていない。
★2013年6月の空中散布実施
【参考サイト】千曲市:平成25年度 薬剤空中散布
       坂城町:松くい虫防除対策の一環として空中散布を実施します

 空散を止めてほしいと願う私達の思いはなかなか届かず、今年も長野県内のあちこちで実施されました。千曲市での実施予定は6月18日、19日となっておりましたが、18日は早朝わずかの降雨があった為順延となり、翌19日は朝から降雨の予報なので20日に散布するという、変更の通知が屋外放送でありました。18日朝6時40分頃でした。
 「空中散布は本日行いませんでしたので20日に行います」と2度繰り返しただけでした。その時間に屋外放送を聞く事のできなかった人々はこの情報を知る事は全くできません。しかもこの放送を流したのは散布地区だけだったようです。市民の殆どが20日に散布する事を知ることはできませんでした。
 そして20日の朝、5時頃、散布予定の山には雲がかかっていました。『こんな気象条件の悪い状態で実施するのかなー』と思っていたら、6時頃になってヘリコプターの音が聞こえてきました。
 そして6時40分頃、又、屋外放送がありました。「本日空中散布を実施しましたが、更級地区の一部ができませんでしたので、残りは明日実施します」と2度繰り返し放送していました。
 そして翌21日朝、前日と同じように重苦しい雲の垂れこめるような日に、更級地区の残りと雨宮・倉科地区を散布しました。両日とも、昨年と同じく台風4号に影響され、雨降りになりました。気温が高くならなかったので、窓を閉めている事が出来たことは良かったかなとも思いました。
 このように、気象条件によって非常に左右される空中散布の実施について、住民への周知徹底という事はほとんど不可能ということがよくわかりました。しかも更級地区においては、予定通りに終了できなかったので残りは明日ということになり、2日に亘って農薬に曝されることになってしまったわけです。この影響がどのように出てくるかは誰にもわかりません。

★その後の状況と今後に向かって
 今年の散布後の状況では、体調の不調を訴えた人は千曲市及び坂城町でも昨年よりは少ないようでした。散布時の風の方向が山の方に向かっていた、という人がありましたが、散布地域よりかなり離れた(4kmくらい)地域の方が「朝、すごく薬の臭いがした」「とても頭が痛かった」と言っていました。風向きの加減で農薬は遠くに飛ばされたのかも知れません。
 また、散布地からだいぶ離れた上田市に住む化学物質過敏症の方も、散布当日の昼近くになって、吐き気、尿がでない、痙攣、しびれ等など、ひどく体調を崩したと話しておられました。

 マツノマダラカミキリというたった1種類の虫を殺す為だけに、その範囲にいる全ての生き物に大変な影響を与えてしまう、空中散布という暴挙は、何としても廃止してもらうように、「長野県空中散布廃止連絡協議会」の活動に、みんなの力を結集していきたいと願っています。多くの方々のご協力を宜しくお願い致します。

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作成:2013-07-28