空中散布・松枯れにもどる

t28005#三保松原、無人ヘリ農薬散布推進では、松も人も守れない〜静岡県検討会の提案は問題#14-12

 2013年に世界遺産に指定された富士山の構成資産のひとつとして、静岡市の三保松原も指定されています。ところが、約3万本と言われる松林は松枯れがひどく、静岡県、静岡市が必死になって松枯れを食い止めようとしています。
 記事t27405でお知らせしたように、その主な対策は農薬散布です。私たちは、今年の6月に静岡県、静岡市に質問と要望を出しました。その後、静岡市に再質問をし、2回目の散布の中止を求めましたが、静岡市の回答は「今後も必要最小限の薬剤散布を実施していきたいと考えており、徹底した防除を実施することで、少しでも早く松くい虫被害を無くし、薬剤散布に依存しない管理体制にするため、第2回目の散布及び今後の薬剤散布について、ご理解いただきますようお願い申し上げます。」というもので、予定通り実施されました。

★静岡県松林保全技術会議の提言書
【参考サイト】静岡県:森林整備課の頁にある
       三保松原の松林保全技術会議:三保松原の松林保全に向けた提言書

 一方、静岡県は「三保松原の松林保全技術会議」を設置し、同会議は、以下のメンバーで、2014年12月2日「三保松原の松林保全に向けた提言書」を発表しました。 【メンバー】座長:近藤誠前文化庁長官。副座長:太田武彦東京大学名誉教授。委員:黒田慶子神戸大学教授、小林一三秋田大学名誉教授、杉本隆茂東京大学名誉教授、中根周歩広島大学名誉教授、中村克典森林総合研究所東北支所グループ長、西村弥亜元東海大学教授、東恵子東海大学教授、二井一禎京都大学名誉教授、吉崎真司東京都市大学環境学部長、吉田成章元森林総合研究所九州支所長。オブザーバー:3名。
 しかし、松枯れの原因として従来のマツノマダラカミキリ、マツノザイセンチュウ説をとる人が多いため、農薬散布でマツノマダラカミキリを殺すことによって松枯れをなくすという結論になるのではないかと、会議の成り行きが注目されていました。

★提言の趣旨
 提言書にあるのは、下記の5項目です。
 1 三保松原の目指すべき松林の姿を共有し、三保松原保全センター(仮称)を拠点として
  地域の人々が保全活動を展開する仕組みや人づくりを進め、人とのかかわり(松林との
  共生)による持続的な松林保全を目指す。 
 2 極力薬剤等には頼らないで、自然の力を最大限に活かした松林の保全の実現を目指す。
 3 喫緊の課題であるマツ材線虫病の被害については、すべてのマツをデータベース化する
  などの管理体制を構築し、効果的な防除法により早期に微害化する。 
 4 マツと菌根菌との共生の促進などの自然にやさしい手法の導入試験や開発により、マツ
  の生育に適した環境づくりを進める。 
 5 様々な環境変化に適確に対応していくため、最新の科学技術の知見を取り入れた順応的
  管理を進めていく。
★極力薬剤等に頼らない?
  提言の趣旨第2項に、「極力薬剤等に頼らないで」とあるので、従来の農薬散布はやめにするのかと思いましたが、とんでもない。第3項「効果的な防除法により早期に微害化する。」がくせものでした。すなはち、
 ・ 松枯れの発生したマツの発見・伐倒駆除を確実に実施するため、地域住民等と連携
  した監視体制の強化やマツの専門職員等の配置を行う。 
 ・ 徹底した対策を継続的に実施するため、マツ個体のデータ収集と管理を行う。 
 ・ 被害の早期微害化に向けた目標を設定し、被害量の正確な把握、対策の評価、改善を
  継続的に進める。(数値目標:@5年以内にマツ材線虫病被害2本/ha・年以下とする。
  A最終的には、1本/ha・年以下を目指す)
 ・その対策の評価、改善に当たっては、専門家による技術指導等を受ける。 
とあります。

★実は、農薬散布の徹底がはかられる
さらに、「喫緊の課題である」松枯れ被害の微害化するための「防除の確実な実施」として、下記のように、ラジコンヘリコプター(無人ヘリ)や高所作業車による農薬散布が謳われていました。
 ・カミキリが生息するマツの先端部に、薬剤の使用量が低減できかつ周辺への影響が
  少ない効果的な散布が期待できるラジコンヘリコプターによる薬剤散布を導入する。
 ・ラジコンヘリコプターが導入できない区域は、高所作業車等を活用した丁寧な地上
  散布を実施する。
 ・ 松枯れの監視から防除の作業を容易かつ確実に実施するため、林内管理道を充実させる。
 ・カミキリが羽化する前に枯れたマツを伐倒し、すべての枝から幹を林外へ運び出し、
  焼却処分等による駆除を徹底する。
 ・老齢大木などの特に大切なマツを守るため、樹木医など専門家の助言を求め、樹幹注入
  など特別な対策を行う。
 ・三保松原の周辺からの感染を阻止するため、三保松原の周辺地域について、マツの
  所有者等の協力を得ながら、樹種転換等の対策を進める。
このように、薬剤等に頼らないと言いながら、早期に松枯れ被害をなくすため、徹底した農薬散布を実施するというわけです。
 なお、近藤座長の言によれば、提言は、知事へのアドバイスであり、松枯れ原因についての学術論争に決着するものでない。仮に意見の違いがあった場合−中略−あくまで現実的に、最終的には私の判断で、知事の期待に応えるために、ある文章で落ち着かせざるを得ないと、されています(第3回「三保松原の松林保全技術会議」議事録)

★技術会議メンバーの主張から
【参考サイト】県松林保全技術会議議事録:第一回(6/22)、第二回(8/25)、第三回(11/04)

 静岡県松林保全技術会議は、3回開催され議事録がホームページにでています。その中から、普通聞けない議論の内容を一回目の議事録からひろってみます。なにしろ、静岡県によれば、現在の松枯れ専門家の最高峰の面々の議論です。
 平成26年6月22日開催の第一回では、それぞれの委員が持論を展開しました。
最初に説明したのが元森林総合研究所で、松枯れ対策について空中散布だけでは防止できない、松林周辺の樹種転換を徹底するようにと各地で指導してきた吉田成章委員です。
 吉田委員が成功例として挙げた和歌山県煙霧が濱と佐賀県唐津市の虹ノ松原に関しては、実は松枯れは減っていないとして中根委員が指摘し、のちに、黒田委員が煙霧が濱の枯れた状況を説明しました。それによると、確かに吉田委員の指導によって周辺のまだ枯れていない松もすべて切ってマダラカミキリの飛び込みを防いだが、10年経った今ではその後に育った松に被害が目立ったということでした。
 吉田委員は、現在の状況については知らない、数字は行政の出したものだと説明しました。10年たてば元の木阿弥では、永久に松を守るということにはなりません。
 黒田委員は、「広く薄くやると効果がうんと落ちるという特徴があります。そういうことで、広葉樹にもし転換していれば、そのまま維持するのが一番これは効率的ですが、実行は進みませんでした」と述べ、地元の人たちがあくまで松にこだわるのが原因としました。
 森林総合研究所東北支所グループ長の中村委員は、三保松原について、今までの防除がうまくいっていたからこれだけ何とか残っている。「空中散布をやめた島根県や地上散布に切り替えた九十九里なんて見ていただければわかるようなことになってしまいます」「予防散布は、基本的に空中散布のほうが地上散布より効きます。1回散布で危なければ2回散布にするということで、特に、今守らなければいけないという時期であれば、強めの方法を使うということで問題ないだろうと思います」とあくまで農薬散布をすすめています。
 二井京都大学名誉教授は、松枯れを専門にしてきた人間は、松のマダラカミキリとマツノザイセンチュウによるものと認識している、これが原因であると断言し、他の説をけん制しました。
 中根委員は、1970年代から松枯れは農薬を使用してきたが、収束していない。松の木が衰弱している、ザイセンチュウとかそういう問題以前に樹木の成長がうまくいってない現実があると切り出しました。ポットの松に線虫を摂取して実験したところ、120本やって枯れた松は一本もなかった。従来の材線虫、松くい虫が原因とする松枯れ説は、現実と食い違う。後食を受けなくても松は枯れることがある。線虫がいても、マダラカミキリがいても、それらが松枯れを有意に促進しているとは言えない。「一番大事なのは、マツが元気になること。それが最も早い解決の仕方ではないかというふうに思います」と根本的に虫因説に疑問を呈しました。
 杉本委員は、三保松原のマツが非常に減っているのは、「松くい虫とか松枯れの問題でなしに、人間のほうがむしろ松くい虫以上に侵食して松林をカットしてしまっている」ということがあると指摘しています。
 西村委員は、静岡市文化保護課の調査では、いずれの枯れた松からも線虫は見つからなかった。原因は地下部にあると考えられたため、実験した結果、被害区の松枯れの1次的な原因は、土壌の富栄養化による菌根菌の存在量と活性の低下によるものと推測されたと報告しました。
吉崎委員は、松林の維持に必要な汀線から砂浜、マツ林へと砂の循環・移動がなくなって松の生育環境が変わったことが問題だと指摘しました。
続いて、東委員、太田副座長が発言していますが、松枯れの原因とその対策方法で諸説があることがよくわかります。

★ユネスコは納得するか
 松枯れザイセンチュウ-カミキリ仮説にこだわり、カミキリ駆除のためと称して、従来以上の農薬散布の徹底になった場合、人の健康被害や生態系の破壊につながります。提言書には、「松の健康」とあっても「人の健康」という語句は、全くでてきません。松林や海の生態系、鳥や魚、昆虫類についても触れられていません。
この提言をもとに、知事は2016年2月1日までにユネスコに保全状況報告を出します。世界遺産を守るため、農薬に頼ることを、ユネスコが納得するでしょうか。
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作成:2015-02-27