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t28504#デング熱蚊対策で厚労省が指針と手引き公表−大多数の国民のため殺虫剤散布は必要と#15-05
【関連記事】記事t28302
【参考サイト】厚労省:「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針(案)」に関する意見募集について、指針案と概要
反農薬東京グループのパブコメ意見と厚労省のパブコメ意見結果
4/28の報道発表:デング熱・チクングニア熱等蚊媒介感染症の対応・対策の手引き 地方公共団体向けについて
4月28日に厚労省結核感染症課から、「蚊媒介感染症に関する特定感染症予防指針」(以下、「指針」)と「デング熱・チクングニア熱等蚊媒介感染症の対応・対策の手引き 地方公共団体向け」(以下、「手引き」)が公表され、自治体にも示されました。
これらは3回の蚊媒介性感染症小委員会(記事t28006参照)とパブリックコメント(記事t28204、記事t28302参照)を経て作成されたもので、指針は基本的方向性、手引き(作成は国立感染症研究所)が個別具体的な対応対策の内容となっています。指針案に対するパブコメ意見は52件あり、本案では説明追加や字句修正が3箇所ありました。ここでは私達の生活に直接影響する手引きの内容のうち蚊対策を中心にみていきます。
手引きは、地方公共団体向けのもので、最初に「国内感染症例を早期に探知し、早期の対応を管理者、市町村、都道府県らが実施すべき事項をまとめたもの」とあります。デング熱と、これによく似た症状を示すチクングニア熱を媒介するのはヒトスジシマカのみであるとし、その生態、発生源、調査方法などが記述された後、「個人的及び地域的防御法」「平常時の対策」「発生時の対応」という章立てになっています。
★個人的及び地域的防御法の推奨
ヒトスジシマカの幼虫は比較的小さい容器に発生することから、発生防止対策として、屋外にある放置容器に水がたまらないようにする等が、また、蚊の屋内防止侵入と刺されない方法としては、「網戸や扉の開閉を極力減らす」「肌の露出を減らす」とあります。
私たちは、地方自治体のHPなどにみられるような「消火・防火用水などの水槽・浄化槽・排水槽などの通気管に防虫ネットをかける」「池などにはボウフラの天敵の魚を飼育」「ブロック穴・木や竹の切り株の穴などは、土やパテなどで埋める」「網戸窓枠の隙間を塞ぐ」といった方法を手引きで一括紹介して欲しいと要望しましたが、叶いませんでした。また、都道府県のリーフレットなどで、蚊発生源の注意ポイントとして挙げている、お墓の花立てや水受け、巷にあふれる雨排水マスなどの対策も、示されないままです。
もうひとつ問題は、網戸や蚊帳の効果をあげながら、殺虫・忌避剤の利用も効果的としていることです。「夜間使用されている蚊取り線香、蚊取りマット、液体蚊取りなどの殺虫剤は〜昼間からこれらの殺虫剤を使用する方法も効果的〜発生時だけでなく平常時から実施する必要があることを住民に周知」とあります。さらに、「長袖シャツ、長ズボンを着用し、裸足でのサンダル履きを避ける」としながら、忌避剤ディートを「用法・用量や使用上の注意を守って適正に使用」として、薬剤への依存も推奨しています。これら薬剤はその毒性等を示し、常時使用について注意を喚起すべきです。
★平常時、成虫に化学防除は必須でないと
デング熱が発生していない平常時について、手引きでは、リスク地点(デング熱流行地から多くの人が訪れる/長時間滞在する者や頻回に訪問する者が多い/蚊の生息好適地/過去に推定感染地など)を選定、そこでは、蚊の生息調査、清掃(下草を刈るなど、成虫が潜む場所をなくす)又は物理的防除(ごみや不要物などを片付ける)を行い、成虫については、殺虫剤散布は必須でないとし、幼虫については、薬剤による化学防除はその密度が高い時に、実施を検討するとなっています。また、蚊がデング熱ウイルスをもっているかどうかの検査について、その意義は薄いとしており、ウイルス検査は、患者が発生した地域で行えばよいということです。
住民が手軽さと感染症への過度の恐怖から薬剤依存の蚊対策を求め、行政もそれに引っ張られないよう見守る必要がありそうです。そして何より私達一人一人が面倒がらずに身の回りで、清掃・物理的な蚊発生防止対策に取り組むことが大切です。
★感染症発生時の対応
手引きでは、殺虫剤防除については「発生時調査において成虫の密度が高いと判断された場合」「事前に周辺住民へ周知した上で」実施することになっています。また、「過去の相談等により、近辺に化学物質に敏感な人が居住していることを把握している場合には、十分配慮する」としています。
もちろん、成虫、幼虫対策の清掃・物理的駆除を実施した上での話です。しかし「十分配慮する」とは、具体的にどのようなことでしょうか? 厚労省結核感染症課の話では「個人の事情に合わせて話し合いをし、被害のない対応をする。強権的な散布はしない」とのことでしたが、薬剤弱者は場合により、担当部署との話し合いが必要なようです。
その殺虫剤防除の根拠として手引きには、感染症予防法第5章第28条「ねずみ族・昆虫等の駆除」の「駆除すべきことを命ずることができる」のみが記され、要望してきた同34条と施行規則15条‐2の「必要最小限度の措置」の記載はありません。
次項の「散布時の注意点」でも同様です。昨年、都内住宅地で、患者が地域内で特定されないことを「強く希望された」からと、半径100mではなく150mを事前了解のうえ散布、というケースがありました。こうした人権配慮を、拡大散布の理由にしてもらいたくはないものです。
★散布時の待避とは
「成虫・幼虫駆除の実際」の節にある殺虫剤散布の場合の注意点は以下のようです。
「池や河川などの水系がある場合は可能なら養生(注:具体的にはシートなどで遮蔽する)」「犬猫などのペットがいる場合は、住民と共に一時的に待避させるなどの配慮が必要」とあります。住民とペットは待避することになりますが、どこに、どの程度の時間待避するのかわかりません。
さらに、農薬と同じ成分の殺虫剤が検出され、出荷停止になる可能性のある農作物やミツバチへの配慮も要望しましたが、なんの注意も見当たりません。
★問題多い住民用お知らせチラシ
(a)蚊の生息調査中 (b) 蚊にご注意! (c)○○患者の発生に伴う薬剤散布のお知らせ とそのひな型が手引き末尾にあります。
(c)は予定日時、散布場所地図、散布殺虫剤名、散布理由、散布時・散布後注意点、相談窓口の連絡先となっています。殺虫剤名の後には「薬事法で使用が認められた薬剤を定められた濃度で適正に使用」との記載事例がありますが、使用薬剤の毒性や被曝による健康被害などの記載は指示されていません。また、散布理由に「近隣の蚊から感染した可能性がある」ためとありますが、「可能性」だけで、散布を実施すべきではないと思います。
散布時・散布後注意点は「散布時は散布場所に近づかない」「散布場所に面する窓を念のため締める」「小さなお子様やペットが散布時・散布直後に散布場所に立ち入らない」となっています。が、「散布場所に面する窓」だけ「念のため」とは、殺虫剤揮発成分の有害性を認識していないとしか思えません。殺虫剤揮発成分が洗濯物や、屋外にある子どもの遊具やペットの器などに付着したり、散布場所面以外の戸窓から屋内に侵入する危険性が十分にあります。
★防除用殺虫剤リストを見直せ
蚊対策に適用のある殺虫剤については手引き末部の表に、有機リン系が成虫用25と幼虫用23、ピレスロイド系が成虫用16と幼虫用2、昆虫成長制御剤が幼虫用15の商品が掲載されています。有機リン系殺虫剤は神経毒性・発癌性ほか有害性が強く、EUでは2009年の農薬再評価で、殆どの薬剤が不認可となって使われなくなっており、私たちは、掲載削除を求めていましたが、要望がいれられたのは、MPPだけです。
ジクロルボス(DDVP)は、日本でも2012年4月に農薬登録が失効しています(記事t24903参照)。成虫用ジクロルボス乳剤の項には「過剰な使用を避ける」と添えられただけです。
ダイアジノンも国際がん研究機構(IARC)が3月20日、「ヒトに対して恐らく発がん性がある」と公表したものです(記事t28401参照)。
ピレスロイド系殺虫剤も神経系や免疫系、生殖系への毒性が指摘されており、手引きには「ピレスロイド系・有機リン系殺虫剤は即効的であるが長期間の効果の持続性は期待できない」「昆虫成長制御剤は遅効性ではあるが効果の持続性が期待できる」とあります。ならば、幼虫防除には昆虫成長制御剤のみ使用して欲しいものです。
こうした問題ある殺虫剤をリストに掲載し、推奨することはやめるべきです。
★信じられない厚労省の言い分
リストにある防疫用殺虫剤の散布濃度は、同成分の農薬地上散布に比べて高濃度なケースも多く、農薬散布で体調不良を訴える人達が近年、少なくないことを考えると、この様な高濃度散布が住宅街で行われることには非常に不安を感じます。
最後に、手引きにみられる厚労省の本音を挙げておきます。
『デング熱国内感染発生時などの緊急時またはその発生リスクが高いと予想される
場合における殺虫剤の利用は、使用法を遵守する限りにおいては、大多数の国民
にとって疾病媒介の機会を軽減する利益が殺虫剤による有害事象が発生する可能
性(リスク)を大きく上回るという観点につき、散布予定地の住民・来訪者など
に対して理解を求める必要がある。』
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作成:2015-05-27