空中散布・松枯れにもどる

t28801#無人ヘリ、2014年の事故件数は前年13件増の49件、うち骨折事故1件〜農水省の事故報告と対策から#15-08
【関連記事】記事t27302(2013年事故)、記事t27601記事t28508記事t28703
【参考サイト】農水省;平成27年度以降に向けた無人ヘリコプターの
             安全対策の徹底及び平成26年度の事故情報の報告状況について
             無人ヘリコプターに関する情報にある無人ヘリコプター安全対策通知集
             無人ヘリコプター利用技術指導指針(H27/07/08最終改正版)
       農水省9月30日公表:平成26年度 農林水産航空事業 実施状況全国実施面積推移
             都道府県別無人ヘリ詳細(無人ヘリコプター機体数:2655、認定オペレーター数:11810、
                  散布面積:105万224ha、事故数:49件)

 前号で、農水省植物防疫課が発表した2014年の農薬空中散布用の無人ヘリコプター事故事例の速報として、総件数49件とお知らせしましたが、今号で、その詳細を紹介します。14年は13年と違い、死亡事故はありませんでしたが、オペレーター1名の骨折事故があり、総件数は36件から13件も増加しました。

★架線への接触事故が84%の41件
 事故事例は次頁からの表(省略)に挙げたとおりですが、発生年月日と大まかな事故状況、被害状況が開示されているだけで、発生場所は明らかになっていません。
【事故状況内容別件数】水稲防除での事故が94%で、殆どが7-9月に発生しています。
  ・人身事故1件(1)。主翼の衝突によるオペレーターの骨折(()は2013年度)
  ・物損事故48件(35)。
     架線(電線等) への接触:41件(26)
    電柱等への接触: 6 件(9)
    その他物損事故: 1 件(0)
【被害状況内容別件数】延べ件数で一番多いのは、機体損傷や大破で44件、架線切断や損傷の40件、建物等の被害5件、農薬流出と農作物被害各2件でした。
【事故原因別件数】下表には、〇番号で事故原因と延べ件数を示してありますが、これは、散布関係者の報告によるもので、第三者が科学的に原因調査した結果ではありません。一番多いのは、散布高度の高低や障害物に向かっての飛行など不適切な散布で33件ありました。
   @架線等の見落とし、事前の確認不足 :17件、
   A合図マンとの連携不足(情報共有不足、配置が不適切、指示の遅れ等):25件
   Bオペレーターの操作ミス、目測誤り等:22件
   C不適切な散布方法(散布高度が高い・低い、架線・建物に向けた散布等):33件
   Dその他:16件

★原因を散布関係者のミスにしているが
【参考サイト】農林水産航空協会:Top Page農林水産航空事業の頁産業用無人ヘリコプター運用要領
        農薬インデックス:Top Pageにある無人ヘリコプター用農薬の頁
          産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための安全対策マニュアル 合図マンマニュアル
           「無人ヘリコプター防除-安全飛行-ポイントを確実に実行、事故ゼロを目指して」
          飛散低減対策安全なフライトに向けて

 農薬散布については、農林水産航空協会(業界団体で組織された、農水省所管団体。以下、協会という)が発行する「産業用無人ヘリコプターによる病害虫防除実施者のための安全対策マニュアル」や関連する合図マンマニュアル、安全対策やドリフト防止のリーフレットに、散布者向けのさまざまな使用上の注意が記載されています。
 たとえば、『オペレーターと機体の距離 20〜150m』(以前は15〜150mとなっていた)『飛行方向は、人や民家、河川、障害物、電線、架線、太陽等に向けて飛行させない』とあります。機体と障害物の距離についての規制はありませんが、合図マンは、障害物との距離を目測して、衝突しないように、トランシーバーや手信号などで、オペレーターに連絡するのが役目です。障害物からの距離をオペレーターや合図マンと同じ20mにし、操作をきちんと行えば、事故は起こらないはずですが、圃場と生活圏が近接している日本の農耕地で、人の眼と手によるボタン操作に頼っている無人ヘリ空中散布は、欠陥技術といえるほど、事故が多発しています。

★農薬を浴びて大丈夫か
 そんな中で、散布者が地上散布より高濃度で農薬を被曝する懸念もあります。ヘルメット、マスク、保護めがね、長袖の上着、長ズボン等の装備などが求められていますが、写真(−省略−)に示すように、協会が推奨する合図マンの服装は、左のようにマスクや保護メガネをつけているのに対し、実際の散布現場をみると、右のようで、オペレーターは、マスクもメガネもつけていません。このような農薬の危険性に対する散布者の意識の低さは、周辺住民の健康への配慮の欠如につながるでしょう。

★技術指針改訂しても、事故防止は期待薄
 上記のような事故調査結果を踏まえ、農水省は、7月8日に、「無人ヘリコプター利用指導技術指針」を改訂、3項の「 実施に当たっての危被害防止対策の(5)オペレーター及び合図マンの安全を十分に確保し、特に以下の事項に留意すること。」とし、下記が追加されています。
  (5)-Jオペレーターは、機体を空中散布等の実施区域に隣接していないほ場又は飛
   行経路上に家屋や架線等がある隣接したほ場に移動させる場合は、機体を着陸さ
   せた上で陸上を移動させること。
  (5)-L機体を操作する際又は陸上を移動させる際には機体に衝撃を与えることのな    いよう十分に注意すること。
  (6)実施主体は、機体の操作又は移動の結果、機体に衝撃を与えた場合はその都度機    体の点検を受けること。
★法規制がないのが一番の問題だ
 しかし、事故を起こしたオペレーターについては、認定取り消しや再研修などのペナルティーもありません。無人ヘリコプターによる農薬散布で、国が法規制しているのは、登録農薬がどのような散布条件で使用できるかということだけで、機体やオペレーターについては、協会にまかせっぱなし。自ら機種を認定し、無人ヘリコプター1機ごとに登録証明書を発行し、さらに、機種ごとに、研修して産業用無人ヘリコプターオペレーター技能認定証を交付しています。これは法規制でないため、認定機種でなくとも、また、技能認定がない誰でもが、農薬を散布することが出来るということになります。
 本年浮上してきたドローン型無人ヘリについては、登録農薬の散布条件も定まらないまま、空散が実施されているため、私たちは使用禁止を求めていますが、農水省は規制する法的根拠はないとしています。

 以上は、無人ヘリ散布作業者への対策ですが、周辺住民への対策はありません。私たちは、住宅地周辺での無人ヘリ散布禁止、緩衝地帯の設置を求めていますが、こちらの対策も一向に進んでいないのが現状です。
 そんな中、農薬危害防止運動を実施中の8月8日に、秋田県男鹿市の水田近くの特別養護老人施設「ゆりの希」の屋根に無人ヘリが衝突する事故も発生しています。(秋田魁8月9日記事)

  表 2014年の無人ヘリコプター事故状況 −省略−

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作成:2015-08-27