街の農薬汚染にもどる

t29203#肝心な部分のデータは「持ち合わせていない」とメーカーの石原産業
  フロニカミド(ウララ)への質問と回答、農水省検討会もデータ提示なし #15-12

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 記事t29104で述べたように、2015年11月、東京都青梅市はPPV(梅輪紋ウイルス)対策として、ウイルスを媒介するというアブラムシ駆除のために、住宅地で農薬散布を実施しました。散布されたのはフロニカミド(ウララDF)ですが、都の農林総合研究センターが報告書で『(10月に)ウララ DF の散布が実施されているが,本剤の防除効果は認められなかった』と記載されている代物です(本誌291号参照)。そこで、ウララを梅のアブラムシに適用登録しているメーカーの石原産業に尋ねてみました。農水省への質問に対する回答と同省「平成27年度ウメ輪紋ウイルスに関する対策検討会」(以下、検討会という)の概要とともに紹介します。

★メーカー石原産業への質問
【参考サイト】石原産業:Top PageウララDFチラシMSDS

 ウララDFについてお尋ねします(質問と回答)
 石原産業には、11月3日に質問し、11月13日に回答を得ました。概要を示します。
 <質問1>アブラムシに対するフロニカミドのLD50(半数致死量)はどの程度か。
  【回答】アブラムシに対する活性はLC50値(半数致死濃度)で測定されるためLD50の
    データはない。フロニカミドを葉に散布処理しその後モモアカアブラムシ成虫を放虫
    した場合の吸汁阻害に基づくLC50値は、0.7ppm。フロニカミドは蒸気圧が低いためガ
    ス化による活性はない。

 <質問2>ウララDFの作用について、HPに『本剤を処理されたアブラムシは、処理後
  30分以内に口針が作物に挿入できなくなり、吸汁が阻害され、最終的(2〜3日程度)
  に餓死します。』とある。この吸汁阻害作用の詳細は?
 【回答】吸汁阻害効果は、モモアカアブラムシが寄生した葉への散布処理に基づくもので、
   接触効果と経口効果の両方が関与していると考えられる。アブラムシの吸汁行動を阻害
   することは判っている。詳細な作用機作は解明されていない。

 <質問3>フロニカミドは浸透移行性に優れており、根部から地上部,葉表および葉裏から
  葉内,さらには処理された茎部より上方の茎葉部に浸透移行することが、試験で確認され
  ているとある。ウメに適用登録があるウララDFが土壌に散布された場合、根から茎葉部
  に移行したフロニカミドにより、アブラムシの発生を抑制又は駆除することができるか。
 【回答】ウメでは茎葉散布でのアブラムシ防除の登録を取得しているため、ウララDFを土壌
   に散布した場合茎葉部に寄生したアブラムシの発生を抑制または駆除できるか否かを評
   価したデータは持ち合わせていない。

 <質問4>ウララDFは、残効性、耐雨性があるとされているが、ウメに散布した場合、フ
  ロニカミドやその代謝物が葉にどの程度残留するか。葉に検出されなくなるまでの期間は
  どの程度か。
 【回答】ウララDFの残効性、耐雨性はポット植えのナスでの効果試験に基づくもので、ウメ
   に散布したウララDFの葉での挙動に関するデータは持ち合わせていない。

 <質問5>10月から11月の秋期に、ウララDFをウメへ散布した場合、アブラムシの駆除や
  発生抑制効果はどの程度か。また、落葉した葉へのフロニカミドの残留値はどの程度か。
 【回答】秋期のウメヘの散布について、効果を示すデータはないが、アブラムシが活動する
   条件であれば、時期に関わらず駆除可能と考える。落葉した葉へ残留データは持ち合わ
   せていない。

 <質問6>ウメへの散布で、アブラムシによるPPV感染の阻止効果は、どのようなものか。
 【回答】アブラムシによるPPV感染への阻止効果を評価したことはない。

 <質問7>死に到らない量での、アブラムシの生態へのフロニカミドの影響はどのようなも
  のか。ウメなどに適用した場合、@胎生雌の単為生殖能への影響、A雄の発生への影響、
  B有翅型の発生への影響、C卵生雌の産卵能への影響、D越冬中の幹母卵への影響、
  E翌春の幹母卵から胎生雌の発生への影響、等について、教えられたい。
 【回答】死に至らない量でアブラムシの生態への影響を評価したデータはない。

 <質問8>フロニカミドは、各種天敵類に対して高い安全性を有するとされているが、ウメ
  園などのフィールドでの天敵昆虫やただの虫の生息状況への影響はどうか。
 【回答】ラベルに表示している注意事項(効果・薬害等の注意事項、安全使用上の注意事
   項)に記載されている内容に従って下さい。

 <質問9>ウララDFを住宅地等で散布する場合の、子どもたちや生活者への注意事項は?
  また、散布した場合の生活環境(大気、土壌、水系−地下水を含む)への飛散、汚染状況、
  その経時変化のデータを示されたい。
 【回答】登録されている使用方法及び注意事項に従えば生活環境に悪影響を及ぼすことはな
   いと考えております。

 <質問10>フロニカミドの摂取や吸入・付着被曝などによる人の健康への影響はどのような
  もので、どんな症状がでるか。また、治療法は?
 【回答】本剤の散布により人の健康への影響はないものと考えております。ただし、散布す
   る方に対しては、希釈前の製剤そのものについて「眼に対して刺激性があるので、眼に
   入らないよう注意する。眼に入つた場合には、直ちに水洗し、眼科医の手当てを受け
   る。」として、ラベルの注意事項に記載させて頂いております。
 同社がフロニカミドを2006年に登録してから10年近くたっているのに、『データは持ち合わせていませんという』回答が多いのに驚きました。
 要するに、ウララでアブラムシが死ねばよいだけで、作用機構やウメ樹木中でのウララの挙動、環境・生態系への影響、マウスの発がん性試験で、非遺伝毒性メカニズムながら、肺腺腫、肺がんが認められた同剤の人への影響などには、関心もなく、科学的データを持ち合せないとうことです。

★農水省・検討会はデータを示さず
【参考サイト】農水省:ウメ輪紋ウイルスの関係情報にある
         H27年10月の第一回検討会(開催案内)と議事概要

 10月6日の私たちの農水省植物防疫課への質問(記事t29004参照)に対する回答は10月29日にあり、PPV感染木に関するものは「10月16日の検討会で公表予定」となっていました。
 しかし、11月27日に公表された検討会の議事概要は、以下のようでした。
『アブラムシ防除を4〜5月に、感染状況調査を、5月上旬、6月上旬、8月下旬に実施し、計190園地、253本の感染が確認された。これら感染植物について、感染確認後2週間以内に感染植物の約6割の枝の切除が実施されたが、約1.5割は1ヶ月以上を要する結果となった。』 『@実生苗を用いた感染調査(4月末〜10月、来春にも調査を実施予定)、Aウメにおけるアブラムシの寄生率調査(5月〜9月)、B有翅アブラムシの発生状況及びPPV保持状況調査(5月〜7月、10〜11月にも調査を実施予定)を実施した。
 効果検証試験の結果、強化対策によりアブラムシの寄生は低く抑えられており、一定の効果が確認された。しかしながら、5月に、梅郷地区に設置したトラップにPPVを保持したアブラムシが1頭確認された。』、専門家の評価として『強化対策の効果の発現は見られるものの、感染源の除去を目的とした枝の切除に一部時間を要したこと(PPVを保持したアブラムシが確認された原因の一つと考えられる。)から、植栽の判断は次年度にすべきと評価された。』とあるだけで、議事録や調査資料の公開もありません。

 植物防疫課への『春のチアクロプリド製剤散布で、アブラムシ発生はどの程度抑制されたか』との質問には、『強化対策実施地区中心部のアブラムシの寄生率は、地区外の1割程度と低くなっています。』また、アブラムシのPPV保持率については『有翅アブラムシのPPV保持状況調査は、春の調査では、強化地区内で1頭(0.3%)、地区外で2頭(3.3%)の保持を確認しました』とありましたが、調査方法や科学的データはありませんでした。

★農水省も同じ穴のムジナ回答
  農水省への質問と回答;青梅市のPPVとアブラムシ駆除農薬の散布について

 その他の質問でも、データは示されません。たとえば、発生したアブラムシのうち、有翅型の比率はどの程度か、尋ねたところ『正確に有翅型の比率を把握することは困難であり、データを収集しておりません。』でした。アブラムシが他の植物へ移るには翅が生えた虫が生まれることが条件です。有翅型は500m飛ぶとして、その範囲の感染する樹木を伐採しているのに、どのくらいいるかわからないでは困るのではないでしょうか。
 また、農薬散布前のアブラムシの生息状況についても、『アブラムシの種類ごとのデータは持ち合わせていません。』とのこと。メーカー同様、データをもっていないことが明らかになりました。
 アブラムシ対策にどのような農薬の使用を計画されているかについての回答は、『防除に使用する薬剤については、自治体が選択しており、国は、農薬取締法に基づく適正な使用を指導しています。』で、デンプン系や界面活性剤系農薬の使用や農薬散布以外の方法の検討については、『防除の対象となる植物が多数存在すること等から、農薬以外では防除できないため、農薬による防除を実施することとした。』
 また、PPVは海外からはいってきたウイルスということだが、外国では、どのような方法で、感染を抑制しているか問うたところ、『諸外国では、PPVが新たに発生した場合、大規模な発生調査を行い、まん延を防止する目的で検疫区域の設定、罹病樹及びその周囲の宿主植物の伐採・処分、媒介虫であるアブラムシの防除、苗木、穂木の移動規制等を行っていると承知しています。』とのことでした。

★農薬散布中止は、明確に拒否
 私たちは、PPV防止対策として、住宅地でアブラムシ駆除用農薬の一斉散布をやめるよう求めていますが、農水省は、
(1) 調査:年3回の悉皆(しっかい)調査を実施し、早期に感染植物を発見。
(2) アブラムシ防除:PPVが感染するウメ、モモなどの全ての植物(宿主植物)に対して年2回(有翅アブラムシが発生する春、秋)の防除を実施。
(3) 伐採: 感染植物が確認された場合には、原則、即時に伐採を実施。やむを得ず伐採が遅れる場合は、少なくとも枝の切除等の感染拡大防止措置を実施。
 と3つの対策を挙げ、今後も農薬散布をすると断言しています。
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作成:2016-02-28