空中散布・松枯れにもどる
t30102#無人ヘリに関する都道府県アンケート調査〜回収率100%〜散布前に周知する指導はしているが、周知実態の把握はされていない#16-09
【関連記事】記事t29402。記事t29601
【参考サイト】農水省:空中散布等における無人航空機利用技術指導指針」(「ガイドライン」)
空中散布等を目的とした無人航空機の飛行に関する許可・承認の取扱いについて」(以下「両局長通知」)
無人ヘリコプターによる農薬散布については、昨年、国土交通省への申請が義務付けられ、国交大臣の許可・承認が必須になりました。さらに、12月に、農水省の「空中散布等における無人航空機利用技術指導指針」(以下「ガイドライン」)と農水省・国土交通省両局長の通知「空中散布等を目的とした無人航空機の飛行に関する許可・承認の取扱いについて」(以下「両局長通知」)が発出されました(記事t29402参照)。
そこで、農薬危害防止運動の中でも無人航空機に焦点を当て、5月23日、都道府県に質問をだし、47都道府県すべてから回答を得ました(このうち、農薬空散をしていない都府県は、東京、神奈川、大阪、和歌山)。
今号では周知に関する実態、安全距離、緩衝地帯設置などについてまとめました。
都道府県への問合せ:2016年度の農薬危害防止運動等に関するお尋ね(無人航空機による農薬散布について)
★事前周知の実態を把握しているか
無人ヘリでも、ドローンでも、空から農薬を散布するには、実施主体が、散布計画を都道府県協議会等へ提出し、事前に周辺住民、学校、病院その他に知らせることになっています。それを指導・補完するのは、都道府県です。どこが、どのような方法で、どのような内容の散布情報を知らせているか、県は把握しているかを聞きました。
さすがに、事前周知はしていないという回答はありませんでしたが、会議や研修会で指導したなど、通りいっぺんの指導がほとんどで、周知内容の実態を把握しているところは、少数でした。
【周知するよう指導しているが実態は把握していない】 36道県
北海道、青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島、茨城県、栃木、千葉、埼玉、山梨、
静岡、新潟、愛知、富山、石川、福井、三重、滋賀、奈良、和歌山、岡山、広島、
山口、島根、香川、徳島、福岡、佐賀、長崎、大分、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄
これらの県は実施主体任せで、本当に周辺住民などに十分に知らせているか、きち
んと把握すべきだと思います。
【実施計画書などで把握している】5県
計画書や実績報告書の中に周知方法などを書かせることによって把握している県も
ありました。また、実施主体だけが周知するのではなく、県や市町村などが郵送等
で関係団体に知らせる場合もありました。
群馬:実施主体がチラシ、広報誌への記載、公共施設への郵送で、散布日、散布場所、
散布内容等を周知。県も関係市町村や医師会、養蜂協会らに情報提供している。
長野:県に提出された実施計画書、実績報告書により事前周知方法の把握をしている。
岐阜:計画に周知方法の欄を設けて把握。
愛媛:実施主体が実施区域の居住者に一斉放送や文書配布で周知。県は農産園芸課が
実態を把握。具体的には実績報告と危害防止対策の実績提出を求め詳細を把握して
いる。
高知:実施団体から県へ出された散布計画書を市町村や電力会社に送付。実施団体も
チラシや看板などで事前通知を行っている。
【その他】2府県
JAが実施主体になっているところで、組合員との関連か、他の実施主体と違うや
り方をしているところがありました。
京都:JAによる散布は計画段階で周辺住民の許可を得るようにしている。その他の
散布は回覧等で情報提供している事例を確認
鳥取:委託を受けたJA担当者が電話等で周知。地域によっては防災有線で連絡
★周知方法とその内容
【参考サイト】島根県:東部農林振興センター管内無人ヘリ空中散布の実施計画位置図
岡山県総社市:無人ヘリコプター散布計画お知らせ
事前周知していると答えた県の具体的な周知方法は、文書・書面(7道県)、チラシ(9県)、広報誌(6道県)、広報車(4県)、回覧(9府県)、訪問(3県)、看板(8県)、放送・防災無線(9県)、電話(2県)、公共施設への郵送(1県)などでした。周知内容は日時や場所、農薬名などでした。注意事項記載を挙げたのは静岡のみでした。
島根は周知方法ごとの件数を示しました(たとえば、2015年は、有線又は無線放送7、ケーブルTV1、回覧6、文書・口頭9、声かけ1、地域に掲示3、圃場に色テープ4、その他64)。
ホームページで知らせているという県は栃木、島根のみでしたが、松枯れ空散の場合でも、県のHPで公表しているところもあります。水田や畑の無人航空機空散についても、できないことはありません。
市町村レベルだと、岡山県総社市は地図入りで知らせています。誰でも見ることができ、事前周知にはかっこうの道具ではないでしょうか。今後、散布計画を知る立場にある道府県には、すべての市町村ごとに無人ヘリ散布の計画をホームページに掲載するようにしてもらいたいと思います。
★養蜂者への情報提供や巣箱避難はどうなっているか
【参考サイト】栃木県:水稲開花期における個人防除の予測時期および無人ヘリによる農薬散布計画
2015年の調査では、農薬散布情報の養蜂者への通知は、多くの県で実施されていました(記事t28805参照)。本年は、農薬空中散布計画の養蜂者への周知と巣箱の避難について尋ねました。
斑点米カメムシ対策のネオニコチノイドらの農薬散布は、空中散布が多く、「ガイドライン」で、実施主体は散布計画を都道府県協議会を経て都道府県の担当部署に提供し、畜産担当が養蜂組合や養蜂者に散布情報をなどに知らせることになっていたからです。
【空中散布情報の周知】
空中散布を実施していない4都府県を除き、準備中の鳥取を含め、43道府県の殆どは、空中散布実施団体などから県の担当部署が得た情報を直接又は養蜂団体を通じて、養蜂者へ伝えているとの回答でした。ただし、情報の提供方法はバラバラでした。
単に、情報を共有するよう関係団体を指導するだけで、県自体はその内容を把握していないところ(広島、山口)もあれば、 養蜂者にファックスで知らせたり(香川)、郵送等により通知(静岡、兵庫(依頼飼育者対象))するところもあります。
農薬使用者や養蜂者と行政でつくる連絡協議会などに提供された散布情報を道府県が養蜂団体や養蜂者に知らせるケースが大部分ですが、下記の回答もありました。
栃木:県が提供した飼育者リストにより、実施主体が事前周知する。水稲開花期につ
いては、散布計画を県HPに掲載。
島根:飼育情報を空中散布実施者へ提供することに同意した養蜂者へは、空中散布実
施者から散布情報を通知するよう指導している。県農林振興センターのHPで散布
計画を掲載する等事前周知に努めている。
【蜂場情報の提供】
巣箱がどこに設置されているかを、養蜂者が農薬使用者に提供することも重要です。青森や新潟が提供していると答えたほか、山形と兵庫が転飼計画を防除実施主体に提供するとしていますが、県が仲立ちした両者の協議会などで、情報交換が実施される以外に、当事者間の情報提供の双方向性が明確ではありません。
【巣箱の避難について】
避難についての質問には、北海道、茨城、千葉、富山、石川、奈良、徳島、高知、福岡、鹿児島、沖縄の11道県からの回答はありませんでした。
山形が当事者間の話し合い、静岡がチラシで注意しているとのことでしたが、避難場所を設置したかどうかについては、回答はありませんでした。
また、農水省は、蜜蜂被害軽減対策の推進についての通知で『蜜蜂被害を軽減するため、−中略−必要に応じて消費・安全対策交付金を活用されるよう併せて周知願いたい。』としていますが、実際に、巣箱避難についての補助金の有無について尋ねたところ、回答した30府県がすべてが、「ない」(うち宮崎は把握していない)としました。
記事t30101の農水省のミツバチ調査で述べたように、無人ヘリ空中散布面積の一番多い北海道では、散布周知だけで、被害が減らなかったことを留意しておくべきです。
★住宅地域30m以内の散布禁止はしない
両局長通知では、農用地等によっては、家屋や電柱等の物件から 30mの距離があり、架線接触や家屋衝突の事故防止のための安全性が確認されることになっていますが、農薬飛散防止を目的にはしていません。
どのような認識で指導しているか尋ねました。いずれの県も国土交通省の許可・承認を得れば30m以内でも散布してよいとの立場で、国のガイドライン、建物等へ向かう飛行を避ける、風速規制を守るなどの農林水産航空協会の安全対策手引の遵守やオペレーター及びナビゲーターの連携強化、研修会や操縦訓練で事足りるとしました。
中には、以下のような回答もありました。
福井:安全確保が危ぶまれる場合は地上防除等に切り替えるよう指導。
鳥取:無人ヘリコプターの安全・効率的な散布作業をするために、農薬散布をお引き
受けできない場合は事前に依頼主である農家の方にお断りをするように指導してい
ます。
宮崎:特に、住宅が密集した場所や、隣接した他の作物が植栽されている場合には、
無人ヘリでの散布は行わないようにしています。必要な場合には、当事者間で話し
合いを行い、双方の合意があった場合には、散布を実施しています。
沖縄:十分な距離を確保できない部分については、無人ヘリによる散布を実施せず、
地上作業による散布で補完するべきというのが基本的な考え方としています。
★緩衝地帯をつくる県はない
私たちは、住宅地周辺での空散を禁止する緩衝地帯の設置を求めています。この件で、都道府県の対応を質しました。
40を超える道府県は、現行の「ガイドライン」や通知などを遵守し、適正使用を指導すればよい又は国の判断に任せるとの答えで、緩衝地帯の設置に対する賛意はみられませんでしたが、以下のような回答がありました。
富山:緩衝地帯を広く取れば、農薬事故リスクは軽減されると考えられますが、現在の
ところ、被害報告等はありません。
島根:指針を準用し30mとしているが、人の健康や非対象農作物等に影響を与えるこ
とがないよう、実施区域や散布時間等の状況に応じて、―中略―指導している。
徳島:広い緩衝地帯があるのが理想的ですが,実際の生産現場で広い緩衝地帯を設ける
のは,多くの場所で困難です。
高知:30mという距離のみを考えるのではなく、状況に応じて農薬の安全使用に必要な
拒離及び被害防止対策をとる必要があると考えている。
沖縄:飛散注意エリアは50mとされています。従って散布作業は注意エリア内へ通行人
の進入を規制した上で実施すべきと考えています。
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作成:2016-12-30