改定農薬取締法関係にもどる

t31201#農薬取締法改定が俎上に、(その1) 農水省版「人も蜜蜂も」#17-08
【関連記事】改定農薬取締法関係の記事一覧(2008年までは、こちら)
【参考サイト】農水省:農薬資材審議会の頁農業資材審議会農薬分科会
           農薬登録制度に関する懇談会の頁

 7月13日に開催された第17回農業資材審議会農薬分科会(配布資料)で、農薬取締法(以下農取法という)そのものの改定に取組みはじめることがわかりました。

★2003年の改定農取法以後の動き
【参考サイト】農水省;第17回農薬分科会資料にあるこれまでの農薬取締行政の国際調和の取組について

 2002年に発覚した無登録農薬事件を契機に、2003年に適用違反の農薬使用者に罰則を科するなど農取法改定が実施されて以後、同法の大きな改定はありません。
 農水省では、その後、消費・安全局長が私的に「農薬登録制度に関する懇談会」を設置し、2007年12月に第一回の会議(議事概要配布資料)が開催され、農薬のリスク管理について、現状と刷新についての論議が開始されました。
 この懇談会の意見をもとに、農水省は、2009年9月に「我が国における農薬登録制度上の課題と対応方針 」をまとめました(記事t21801参照。対応方針)。その後、国際調和を謳い、2011年には、作物残留試験についての通知改定が実施され(記事t23502参照)、2014年には、OECDとの整合性をとるため、登録申請書式をドシエ方式としました(記事t27101参照)。
 さらに、つづいたのが、2016年9月に始まった、原体規格の導入以後の一連の農薬登録申請に関する農薬取締法施行規則や関連通知の改定の実施です(記事t30902参照)。

★農水省の改定の狙い
【関連記事】5・31集会案内と集会報告:記事t31002記事t31102

 わたしたちは、5月31日開催の農薬危害防止運動へ消費者・市民からの提案集会「今こそ人とミツバチ等への農薬被害を食い止めよう」で、従来の通知や指導だけでなく、農取法の改定を求めました。これに呼応するように、農水省が法改定を俎上にあげましたが、その目的や農薬についての認識は、わたしたちの考え方と大きな隔たりがあります。まず、農水省の資料「農薬取締行政の改革について」をみてみましょう。

★国際調和を強調するが
【参考サイト】農水省;第17回農薬分科会資料にある農薬取締行政の改革の方向性について
                        国際標準を踏まえた規制のあり方と今後の改革方針

 「背景と目的」で、農水省は以下のように主張します。
 『効果が高く安全な農薬を迅速に供給できるようにすることは、国民に対する安全な
 農産物の安定供給のために不可欠であるとともに、農業者の生産コストの引下げや農
 産物の輸出促進、高い開発力を有する農薬メーカーの海外展開にも資するものである。
  農薬を使用された農産物の輸出を促進するためには、我が国の制度を国際調和させ
 ることが不可欠である。
  先般成立した農業競争力強化支援法においても、農薬に係る規制について、より安
 全な農薬の安定供給や農薬登録制度の国際調和を図るべく、最新の科学的知見を活か
 し、合理的なものに見直していくこととされている。』
 『農薬の登録制度について、効果が高く安全な農薬の開発・供給を促進できるよう改
 善していくことが必要である。
  科学的に安全であることを証明できた農薬だけ市場流通させる仕組みは、先進各国
 で共通であるが、我が国では、欧米では既に導入されている以下のような仕組みの導
 入が進んでいない。』
 との認識を示した上、次の2点を挙げました。
@農薬が人や環境に影響を及ぼす可能性(リスク)を事前に把握し、その問題の発生を未然に防ぐという「リスクアナリシス」の考え方で農薬の登録時の評価を行う。
A 農薬の登録後の科学の発展に伴い明らかになる新たな知見に対応して、農薬の安全性を定期的にその時点の最新の科学に照らして「再評価」する。
 そして、改革事項の内容に応じ、農薬取締法を含めた関連法令及び通知の改正を行った上で、施行までに一定の準備期間を経て、平成 33 年度を目途に再評価制度等を導入する予定、としました。
 要は、農薬について、欧米で実施されている仕組みを導入し、同様の制度下におこうというわけで、そのことにより、農業競争力を強化し、農薬が使用された農産物の輸出を促進するというのが、改定の大きな目的です。
 「国際標準を踏まえた規制のあり方と今後の改革方針」には、農薬の開発、登録、製造(品質管理)、販売、使用、回収・廃棄に分け、国際標準を踏まえた規制のあり方/我が国の現行制度とその課題/改革の方向性についてが一覧表で示されていますが、農薬を減らそうとの方向性は窺えません。
 再評価制度の導入については、次号以後にまわし、今号では、「その他の改正事項について」を取り上げます。

[農水省の農取法改定(人の問題)]
 改正事項のトップは「農薬使用者の安全に関する評価の改善」で、農水省のいう「人」は、農薬使用者のことであることがわかります。まず、何が書かれているか見てゆきましょう。
 (1) 我が国の現状
  (a) 農薬使用者の安全は、その農薬の毒性に応じて防護装備を着用するよう注意事項を
   付すことで確保することが原則。
  (b) 暴露量が多くても使用方法の変更を指示することはなく、また、暴露量の少ない農薬
   について過剰な防護装備を義務づける場合もある。
  (c) 登録されている多くの農薬では、急性毒性の強さに基づいてのみ注意事項が付されて
   おり、現在のリスク評価は農薬使用者の安全を評価する上で実質的に機能していない。
 (2) 改善の方向性
  (a) 農薬使用者の安全に関する評価を、毒性の強さのみ評価するハザードベースから、
   「毒性の強さ」及び「使用方法に従って使用したときに皮膚や吸入を通して摂取する
   暴露量」を考慮したリスクベースの安全性評価に変更する。
  (b)登録を受ける使用方法ごとに評価する。暴露量が毒性指標を超えなければ登録。
  (c)毒性指標を超えた場合でも、使用方法の変更(使用量を減らす、より暴露の少ない剤型
   への変更等)や、使用時の防護装備着用の義務づけ等により、農薬使用者への暴露量を
   軽減して農薬使用者の安全を確保できれば登録可能。
  (d)より暴露量の少ない農薬、使用方法に変えていくことにより、農薬使用者への暴露の
   未然防止を推進。周辺住民等の暴露の低減にも繋がる。
  (e)具体的には、以下を実施。
   ・毒性と暴露量を考慮したリスクベースでの新たな評価法の枠組みを策定。
   ・農薬使用者の安全性を評価するため、暴露経路(経皮及び吸入)を考慮に入れた毒性
    指標を導入。
   ・農薬使用者の暴露量を、農薬の使用方法の違いによる暴露の実態を反映して算出する
    方法を検討。
★農水省のいう「人」とは
 「人」の安全とは、農薬使用者の被曝防止であり、一般人については触れられていませんが、食品中に残留する農薬の摂取防止ということになるのでしょうか。
 日本では、住宅地に近接した水田や農地や森林等だけでなく、公共施設や公園などの植物栽培に農薬が多く使われます。
 農薬使用者の家族の安全や5・31集会で私たちが取り上げたクロルピクリン使用地周辺、ppv対策と称する民家の庭先にある梅のアブラムシ駆除への殺虫剤散布、その他、美観保持や除草のための住宅地での農薬使用による住民被曝の問題は、どこにも触れられていません。通知「住宅地等における農薬使用について」は、どこへ消えたのでしょう。
 上記の資料では、『農薬使用者への暴露の未然防止を推進。周辺住民等の暴露の低減にも繋がる。』となっているだけです。

[農水省の農取法改定(蜜蜂の問題)]
 一方、環境に関連して、農水省は蜜蜂対策をどう考えているのでしょう。資料「蜜蜂への影響に関する評価の改善」から紹介します。
 (1) 背景
  (a) 蜜蜂の減少の主な原因として、欧米では、「栄養不足」、「ダニ等の寄生虫」、「病気」、
   「農薬」等が挙げられており、いくつかの要因が複合的に影響していると考えられている。
   我が国においても、農薬の関与が疑われ る蜜蜂の被害が毎年発生しており、現行の
   対策の実施に加え、更なる取組が必要。
 (2) 我が国の現状
  (a) 農薬登録に係る蜜蜂への要求試験は、成虫での急性毒性試験(経口あるいは接触)のみ。
  (b) 登録されている農薬では、成虫への急性毒性の強さに基づいてのみ注意事項を付しており、
   農薬の暴露量を考慮したリスク評価とはなっていない。
 (3) 改善の方向性
  (a) 農薬登録に係る蜜蜂への影響評価を、蜜蜂への毒性のみ評価するハザードベースから、
   「蜜蜂への毒性の強さ」及び「蜜蜂への農薬の暴露量」を考慮したリスクベースの
   安全性評価に変更する。
  (b) 暴露量の算出に当たっては、我が国の農薬の使用方法を考慮する。
  (c) 個々の蜜蜂への影響だけでなく、蜂群単位への影響を評価できるか検討する。
  (d)具体的には、以下を実施。
   ・蜜蜂への農薬の暴露経路を考慮し、幼虫への影響や成虫への慢性毒性影響、蜂群への
    影響を評価するための、段階制の評価法とデータ要求を導入。
   ・暴露量を算出するため、作物や農薬の使用方法を考慮した暴露シナリオを策定。
   ・リスクの程度に応じたリスク管理措置(使用方法の変更、注意事項の義務づけ
   等)を検討。
★農水省のいう環境・蜜蜂とは
 ミツバチ等への農薬影響についての試験については、私たちも『花粉媒介昆虫への影響試験を義務づけ、毒性に応じて、ランク付けを行い「蜜蜂等危害性農薬」(仮称)を指定する。』を求めましたが(271号参照)、農水省の対策は、いつも、農薬は適正に使えばよいという立場で、あらたな試験を義務づけてはきませんでした。
 今回示された上記の「蜜蜂への影響に関する評価の改善」は、いままでの軌道修正にもみえますが、蜜蜂は養蜂ミツバチを意味し、野生のミツバチやポリネーター保護についての言及はありません。

★環境省にまかせた生態影響評価の改善
 ミツバチ以外の生物への影響評価について、わたしたちは、記事t31202の水産登録保留基準の記事でも触れたように、トンボ、ヤゴ、両生類、野鳥、土壌生物、生態系への影響などの評価を求めています。人も含め生物多様性の保持こそが、地球上の生命の存続の証しとなるからです。
この資料にある環境省の取組みは以下。

[環境省の農取法改定(生態影響問題)]
 (1) 我が国の現状 
  (a)農薬の生態影響に関するリスク評価の対象生物が水産動植物に限られているため、
   生態系保全の観点からは不十分。 
  (b)第4次環境基本計画(平成 24 年 4 月 27 日閣議決定)では、「農薬については、
   水産動植物以外の生物や個体群、生態系全体を対象とした新たなリスク評価が可能と
   なるよう、科学的知見の集積を図りつつ、検討を進める」とされており、水産動植物
   以外の生物に対する影響調査を実施中。 
 (2) 改善の方向性 
  (a)農薬の生態影響評価を改善するため、評価対象を水産動植物から拡大し、
    農薬登録保留基準を設定。 
  (b)具体的には、以下を実施。 
   ・水産動植物以外の水生生物及び陸生生物に対する生態影響の評価を行うため、
科学的知見と国際的な標準との調和を踏まえ、試験生物を選定するとともに、
毒性試験方法を策定。 
   ・農薬が環境中で試験生物等に与える影響について調査・検討し、暴露量を算出すると
    ともに、当該影響についてのリスク評価手法を策定。 
   ・試験生物による評価結果から農薬の使用が生態に著しい影響を生じさせるおそれが
    ある場合に登録を保留するための基準値を設定。
 環境省の第58回農薬小委員会では、上述の農水省の改善の方向性の具体的実施内容のあとに、つぎの「見直しの進め方」が追加されています。
  (a)農薬の生態影響について、これまでの調査結果や欧米等における評価状況等について、
   中央環境審議会土壌農薬部会及び農薬小委員会に順次報告。 
  (b)水産動植物以外の生物の影響評価により農薬登録を保留する措置を講じるためには
   農薬取締法の規定の一部を改正する必要があるため、関係省庁と対応を協議。 
  (c)具体的な評価対象生物やリスク評価の方法等は専門家からなる検討会で予備的な
   検討を行い、その後中央環境審議会の意見を伺った上で告示等を改正。

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作成:2017-08-27