改定農薬取締法関係にもどる

t31301#農薬取締法改定が俎上に、(その2)農水省の目指す再評価制度とは  #17-09
【関連記事】記事t31201改定農薬取締法関係の記事一覧(2008年までは、こちら)
【参考サイト】農水省:農薬資材審議会の頁農業資材審議会農薬分科会
           農薬登録制度に関する懇談会の頁

 記事t31201つづき、農水省が示している農薬取締法改定方針の内容を紹介します。
 農取法では、登録農薬の使用が、人や環境に悪影響を与えることを防止するため、第六条の三(職権による適用病害虫の範囲等の変更の登録及び登録の取消し)で、 農水大臣は、適用病害虫の範囲や使用方法を遵守しても、以下のような事態が生ずると認められるに至つた場合において、これらの事態の発生を防止するためやむをえない必要があるときは、その必要の範囲内において、当該農薬につき、その登録の変更や登録取り消すことができる、となっています。
 @使用に際し、危険防止方法を講じた場合においてもなお人畜に危険を及ぼすおそれ
  があるとき。(人畜とは、人や家畜のほか、養蜂や養蚕などの飼育昆虫も意味する)
 A当該農薬がその使用に係る農作物等の汚染が生じ、かつ、その汚染に係る農作物等
  の利用が原因となって人畜に被害を生ずるおそれがあるとき。
 B農地等の土壌の汚染が生じ、かつ、その汚染により汚染される農作物等の利用が原
  因となって人畜に被害を生ずるおそれがあるとき。
 Cその使用に伴うと認められる水産動植物の被害が発生し、かつ、その被害が著しい
  ものとなるおそれがあるとき。
 D水質の汚濁が生じ、かつ、その汚濁に係る水の利用が原因となって人畜に被害を生
  ずるおそれがあるとき。
 要するに、農取法は、人や環境に被害が起こった場合の後対策としての、登録変更や取消であり、予防的な使用規制することはなく、農作物の生産を第一に考えたものです。使用上の注意を守り、適正に使用すればよいとしてきたのが、行政や業界であることを念頭において、農水省の再評価制度がどのようなものかを、資料「国際標準を踏まえた農薬規制のあり方と今後の改革の方向性」でみていきましょう。

★「世界一厳しい」制度でなかった農取法
【参考サイト】農水省:第17回 農業資材審議会農薬分科会配付資料にある
           国際標準を踏まえた農薬規制のあり方と今後の改革の方向性農薬取締行政の改革について

 農水省が「農取法の課題及び改革について」であげている主な事項の概要(文中⇒は方向性)を示します。
【登録について】
 ・食品に残留した場合の健康影響に関しては、リスク評価の前提となる暴露の評価が
  十分ではない⇒食品に残留した場合の健康影響に関しては、十分な作物残留試験
  データを確保し、より充実した暴露評価を実施する 
 ・使用者の健康への影響に関しては、リスク評価が実施できていない ⇒使用者の健康
  への影響に関しては、毒性のみを考慮した評価から、毒性と暴露を考慮したリスク
  評価に転換する
 ・家畜のうち蜜蜂について、毒性のみを考慮した評価を行っているが、農薬の関与が
  疑われる被害が毎年発生している⇒蜜蜂への影響に関して、毒性のみを考慮した評価
  から、毒性と暴露を考慮したリスク評価に転換する 
 ・環境への影響に関しては、水産動植物への影響のみを評価している⇒環境中の動植物
  への影響に関しては、水産動植物だけでなく、陸生の動植物への影響も評価する
 ・農薬の登録審査のうち、審議会に意見聴取せず評価しており、評価の過程が不透明
  な部分が存在 ⇒登録審査の過程で、使用者等への安全性評価について、農業資材審議会に
  意見聴取し、公開の場で審議する
【販売について】
  登録の失効後であっても、既に流通しているものは販売を法律上禁止してはいない
  ⇒農薬の登録の失効後の販売を、原則として一定期間に制限する
【使用について】
 ・製造者は、農薬の使用方法や注意事項等の正しい情報を農薬のラベルに記載する義務
  ⇒情報の伝達方法を改善
 ・使用者は、ラベルに記載された使用方法を遵守する義務 ⇒使用者及び蜜蜂への影響
  に関する使用上の注意事項について、使用者に遵守を徹底する 
 ・登録の失効後であっても、既に流通しているものは使用を法律上禁止してはいない
  ⇒農薬の登録の失効後の使用を、原則として一定期間に制限する。特に、人や環境
  へのリスクが高いことが判明し、登録を取り消した農薬は、直ちに使用を規制する 
【回収・廃棄について】
  販売禁止農薬に指定されたものは、製造者及び販売者に、回収の努力義務 
  ⇒人や環境へのリスクが高いことが判明し、登録を取り消した農薬は、製造者及び
  販売者が回収する
【登録後の科学の発展に対応した安全確定】
 ・農薬製剤ごとの3年間隔での再登録  の仕組みが存在⇒登録された全ての農薬について、
  有効成分ごとに定期的に、その時点の最新の科学に基づく再評価を行い、登録の継続、
  変更又は取消しを判断する 
 ・国際的な再評価の実績等を考慮し、再評価は 15 年間隔で実施する 
 ・既に登録されている農薬については、毒性や使用量に基づいて優先度を付して、
  2021年度以降、順次再評価する 
 ・人や環境への被害の発生防止のためやむを得ない場合は、農林水産大臣の職権で
  登録の変更又は取消しが可能 ⇒新たな科学的知見により登録基準を満たさなくなる
  おそれがある場合、適時必要な評価を実施し、登録の変更又は取消しを判断する
★農水省の目指す再評価制度の方向性
 農取法の上述の欠陥を是正するために、農水省は、欧米の制度を利用しようとしていますが、公表されたのは、方向性だけであって、具体的な法条文や運用をどうするかは、今後のわたしたちの運動次第です。
 以下に、農水省資料「再評価制度について」全文を示します。
1.  経緯と現行制度の問題点 
 ・安全な食品の安定供給のため、農薬の登録とその安全性評価は必須である。新規登録時には
  数多くの試験結果をその時点での最新の科学に基づいて評価し、ヒトや環境生物に
  安全と認められたもののみが登録され、上市される。 
 ・いったん審査を受けて登録された農薬であっても、科学の進歩によって必要とされる
  データの種類およびそのレベルとデータの評価法は変化する。また、抵抗性や、
  時代に応じた農業施策・防除方法に対応した使用方法に変更していく必要もある。 
 ・そのため、欧米では有効成分ごとに定期的に再評価を実施し、防除効果があり、最新の
  科学的基準から見て安全性の高いもののみが市場に流通する仕組みとなっている。
  また、定期的再評価はCodexでも1992年から導入されている。 
 ・我が国にはこのような定期的な再評価制度がなく、欧米での再評価の結果、安全性
  に懸念ありとして登録抹消された古い剤も再評価を受けないまま維持されている。
  従って、科学の進歩に伴って、欧米で必要とされている新しいデータを申請者が
  作成する動機もない。 
 ・一方で、再評価制度がないため、新しい基準やガイドラインの導入のたびに評価が
  必要となり、評価側、申請者側ともに負担が大きい。 

2. 欧米での農薬の再評価制度の概要 
 ・すべての有効成分とそれを含む農薬を登録後10年から15年おきに再評価。科学の進歩に
  対応した最新の基準に照らしてヒトの健康や環境に対して安全であることを確認。 
 ・欧米ともに、再評価制度は下記のように二つの段階を設けて実施。 
  @定期的な再評価を導入する前にすべての定期的な再評価を導入する前にすべての
   既登録剤について新規剤と同様の再登録審査を実施(EU指令  Dir. 91/414/EEC、
   および、FIFRA 1988年改正)。 
  ・優先度の高いものから実施。 毒性上の懸念の高いもの、及び、使用の多いものを
      上位に位置づけ。必要に応じて、環境影響も考慮。 
  ・再登録した剤はその時点の最新の基準に基づき安全性を担保。 安全性に懸念がある剤は
      登録抹消、あるいは、リスク低減のための使用制限をした上で再登録。ただし、
      将来的に常に安全と判断できることを保証するものではない。 
  ・欧州は1993年〜2009年、米国は1988年〜2008年にかけて再登録を完了。 
  A定期的な再評価:上記@により再登録した各剤、および、その間に新規登録した
   剤について、それぞれの再登録あるいは登録を起点にして10年から15年おきに再評価を実施。 
 ・欧米ともに@を終了し、現在はAの定期的な再評価を実施中。 
  @欧州:法(EC 1107/2009)で手続きを定めて開始。各剤について登録期限の3年前に
   データを添えて申請するようスケジュールを提示し、申請されたデータを順次評価。
   2019〜2021年に登録期限となる剤について再評価スケジュールを公表したところ。
  A米国:法(FIFRA、1996年改正)に基づき、2007年10月1日時点で登録のあるすべての
   剤について再評価を実施中。15年以内(2022年10月1日まで)に完了予定。2017年までに
   評価を開始する剤のリストを公表。 

3. 導入する制度 
 ・登録のあるすべての農薬について、最新の科学的水準のもとで安全性や品質が担保
    できるよう定期的に再評価する。また、製造方法の変更にも対応できるようにする。
   [コメント]研究「論文や環境調査などの情報窓口を設け、適宜実施すべき。
 ・制度導入時点で既登録の農薬については、有効成分ごとにまとめて優先度を決定。
   優先度にしたがって2021年から再評価を開始する。
   [コメント]欧米で評価が終わった有機リン剤ほかの農薬は、早急に規制するべきだ。
 ・現行の農薬製剤ごとに行っている3年に1回の再登録の手続きを廃止する。
   [コメント]私たちは、現行の3年間再登録までに、人や環境影響データなどの集積し、
    対応すべきと主張。 
 ・再評価によって新規剤の評価が遅れないように留意する。 
 ・再評価とは別に、安全性や抵抗性に問題があることが判明した場合には、リスクの
    程度に応じて農林水産省の判断で登録の変更あるいは取消ができるようにする。 
 ・制度の概要 
 @有効成分ごとに定期的に再評価する制度を導入する(2021年4月)。それ以降、登録
  されているすべての農薬について、定期的に最新の科学に基づいた安全性評価やラベル
  の有効性の検証を行うようにする。 
 A再評価までの期間は、最初にその有効成分を含む農薬が登録された時点、または最後に
  再評価された時点を起点にして15年おきとする。 
 B2021年3月末時点で既登録の農薬は、有効成分ごとにまとめて優先度を決定。優先度に
  したがって1回目の再評価を2021年に開始し(15年を超えるものもあるが、可能な限り早く)、
  登録の継続、変更、取消を決定する。 
 C再評価にあたっては、その申請時点でのガイドラインに対応したデータの提出を求め、
  新しい科学的知見、技術的知見、モニタリング結果等に照らして評価する。各試験
  ガイドラインはOECDガイドラインの改定にあわせ随時更新する。 
 D評価結果に基づき、原体規格の設定及び毒性指標(ADI、ARfD等)、使用基準、残留基準等を
  確認または再設定する。  

4.スケジュール
 ・方針決定、既登録農薬の再評価について優先度設定の原則の策定: 2017年
 ・既登録農薬の優先度及び再評価スケジュールの決定: 2018年
 ・評価体制の整備、各種リスク評価法の改善に関する検討、メーカーによる再評価に向けた
  追加データ作成: 2017年〜2021年
 ・再評価開始: 2021年
 ・これらのスケジュールに合うよう、必要な法制度を見直していく。

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作成:2017-09-25