改定農薬取締法関係にもどる
t31401#農薬取締法改定が俎上に、(その3) 農薬の受動被曝を防ぐには#17-10
【関連記事】記事t31201、記事t31301。改定農薬取締法関係の記事一覧(2008年までは、こちら)
【参考サイト】農水省:農薬資材審議会の頁と農業資材審議会農薬分科会
農薬登録制度に関する懇談会の頁
わたしたちは、いままで、農薬による人や環境への悪影響をなくすために、さまざまな要求を農薬行政につきつけてきました。その根底にあるのは、農薬のように生命現象にマイナスの影響を与える有害物質を開放系にばらまくことは、できる限り止めるべきだという考えで、以下を大きな目標にしてきました。
@農薬使用者が、自らの健康を守るため農薬の危険性を知り、その使用を減らすこと、
A農薬散布による受動被曝を強いられる一般の人たちが健康被害を受けないこと、
B環境中の生物多様性の維持と生態系を保護すること。
前2回の連載で、おもに、農水省の改定の方向性を紹介してきましたが、今号からは、農水省のように、廉価な農産物生産維持に重きを置くのでなく、残留農薬をはじめ、受動被曝による農薬健康被害を受ける立場の視点から、農薬取締法改定の方向性を検討したいと思います。
★「ハザードからリスクベースへ」の危険性
農水省が、人の被害防止で、第一にとりあげたのは、農薬使用者の健康についてでした。示された改善の方向性は、『農薬使用者の安全に関する評価を、毒性の強さのみ評価するハザードベースから、「毒性の強さ」及び「使用方法」に従って使用したときに皮膚や吸入を通して摂取する「暴露量」を考慮したリスクベースの安全性評価に変更する。』となっています。
一見、経皮、経気経路の暴露量を配慮する評価はよいことのように思えます。しかし、開放系で散布する農薬は、その毒性の強さ=ハザードがいちばん重要です。いままで、毒性評価が十分でなかったため、多くの農薬使用者が中毒になり、その結果、毒性試験が強化され、ハザードベースの評価で、使用が禁止されてきました。現行の「農薬の販売の禁止を定める省令」には、27農薬が挙がっており、その中には、急性毒性だけでなく、難分解性で蓄積性の高いもの、発がん性があるもの、神経系・生殖系・免疫系に影響を与えるもの、猛毒性のダイオキシン類を含むものなどがあります。
このほか、毒性が問題となりましたが、法的な使用禁止措置はとられないまま、登録失効によりこっそり消えていった農薬があることも忘れてはなりません。また、発達障害の疫学調査で、子どもの脳・神経系に影響を与えると報告されている水銀や有機塩素の一部の農薬は使用規制が行われ、有機リン剤が、これにつづいています。さらに、EUでは、安全だとされてきたネオニコチノイド系も神経毒性が問題となり、全面禁止になろうとしています。
化学物質の暴露量を配慮したリスクベースの評価では、少量を非開放系で使用すれば、禁止する必要はないという、メーカーの都合のよい主張がありますが、開放系で使用せざるを得ない農薬には、この理屈は通じません。たとえば、ミツバチ毒性の強い農薬を禁止するのでなく、花の咲く時期に使わなければよいということになるわけです。EUでは、リスクベースよりも、ハザードベースの試験内容を改善することで、ミツバチ毒性の強い農薬の市場に出回ることを禁止する動きとなっています。
農水省は、リスクベースで、暴露量を考慮して、毒性指標なるものつくり、指標を超えなければ、登録を可とする方針です。この指標が具体的にどうなるかは不明です。
★住宅地通知など努力規定を義務化に
2003年の農取法改定で、住宅地等での受動被曝の防止について、わたしたちの要求に応えて、農水省が示したのは、農取法第十二条(農薬の使用の規制)に基づく、「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(以下、遵守省令という)でした。その第六条(住宅地等における農薬の使用)には『住宅の用に供する土地及びこれに近接する土地において農薬を使用するときは、農薬が飛散することを防止するために必要な措置を講じるよう努めなければならない』とあり、具体的には、農水省と環境省2局長連名通知「住宅地等における農薬使用について」(以下、住宅地通知)が、発出されています。
この通知には、『学校、保育所、病院、公園等の公共施設内の植物、街路樹並びに住宅地に近接する農地(市民農園や家庭菜園を含む。)及び森林等において農薬を使用するときは、農薬の飛散を原因とする住民、子ども等の健康被害が生じないよう、飛散防止対策の一層の徹底を図ることが必要である。』『近辺に化学物質に敏感な人が居住していることを把握している場合には、十分配慮すること』とあり、遵守すべき事項が書かれていますが、義務化されていません。
空中散布についても、同じです。無人航空機では、散布計画届出や周辺への周知、有機圃場への飛散防止は、すべて、努力規定にすぎません。
今回の改定では、農薬による人の健康被害防止について、農薬使用者に焦点をあてているものの、農薬散布地域で生活する人たちが食品や飲料水などからの経口摂取に加え、経気、経皮による受動被曝防止の対応策が抜け落ちています。
農水省の方針には『より暴露量の少ない農薬、使用方法に変えていくことにより、農薬使用者への暴露の未然防止を推進。周辺住民等の暴露の低減にも繋がる。』とあります。しかし、これは、全く逆で『周辺住民の受動被曝を減らすようにすれば、農薬使用者の暴露低減につながる』とすべきです。
★農取法における使用者の罰則強化
当初の農取法では、登録されていない農薬を使用したり、ラベル表示通り使用しなくとも、農薬使用者に罰則を適用できませんでしたが、2003年の改定で、食用作物について、適用作物や使用条件を守らない使用者を罰する条文が追加されました。
しかし、改定前まであった防除業者の届出制度は廃止され、業者も家庭での農薬散布者も同一視されることになりました。さらに、食品に残留する農薬が基準を超えないことを第一義的に考えた罰則規定であり、生活圏に栽培される樹木や芝、花卉などに使用する場合には、違反使用しても罰則はなく、農薬の飛散や大気汚染による被害防止にも、強制力のない指導しか行われないというのが現状です。受動被曝被害が発生する恐れがあっても、その都度立ちはだかるのが、行政指導部署の「罰則がないから農取法でこれ以上、指導できない」との言葉です。前述の努力規定の義務化と罰則は被害防止策としてワンセットで考えるべきで、法改定しなければ、記事t31402の加須市の小学校での樹木への散布や記事t31404の青森県でのクロルピクリンの使用など悪しき事例は繰り返されるばかりです。
もうひとつ問題なのは、フィプロニルの記事で触れたように、農薬と同じ成分が、法規制なしに、他の用途でも、使用されていることですが、これは、次号以降で、とりあげます。
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作成:2017-10-27