室内汚染・シロアリ駆除剤にもどる
t31506#シロアリ防除剤原因の健康被害〜ハチクサン(イミダクロプリド)による2症例#17-11
【関連記事】記事t28605、記事t31005、室内汚染・シロアリ駆除剤記事一覧
【参考サイト】日本しろあり対策協会:Top Page、薬剤認定の流れ、認定薬剤等リスト
バイエル:バイエルクロップサイエンス社
バイエル エンバイロサイエンス事業部 シロアリ製品
ハチクサンMEの製品カタログとSDS
ハチクサンFLの製品リーフレットとSDS
記事t31005で、シックハウス検討会による室内汚染物質の新たな指針値について、厚労省案の問題点を指摘しました。この時のパブコメ意見で、ネオニコチノイド系シロアリ防除剤の規制が検討されていないことを問題視しましたが、本年6月、東京で開催された第26回日本臨床環境医学会で発表された研究内容について紹介します。
★イミダ系防除剤処理後の健康被害事例
【参考サイト】日本臨床環境医学会;Top Page、第26回学術集会のプログラム
平久美子(東京女子医大東医療センター): 「住宅の床下へのネオニコチノイド系
殺虫剤含有防蟻剤水溶液の散布は安全か?一事例に学ぶ危険回避への提言」
東京女子医大東医療センターの平久美子さんは「住宅の床下へのネオニコチノイド系殺虫剤含有防蟻剤水溶液の散布は安全か?一事例に学ぶ危険回避への提言」と題する報告を行いました。同学会の要旨集には、『防蟻剤としてイミダクロプリド、チアメトキサム、ジノテフラン、アセタミプリド、クロチアニジンが用いられている。防蟻剤の住宅への使用について居住者の安全を考慮した基準はない』として、イミダクロプリドを含むシロアリ防除剤が使用され、居住者が健康被害を起こした事例が掲載されています。
【症例1】木材用処理剤ハチクサンME(イミダクロプリド:2.0%、シプロコナゾール:2.0%,IF-NR:2.0%)と、土壌処理用コシイアリピレス(ビフェントリン含有)が戸建住宅で使用されました。
ハチクサンMEは木材防腐剤との複合剤で、20倍希釈し、木部に塗布又は散布で使用、他の薬剤とを混合しないとありますので、土壌用のアリピレスは、別個に散布されたのでしょうが、住宅内は、両成分で汚染されたことでしょう。
処理は、50代女性が在宅中に、一階床下で行われましたが、床の絨毯や洗面所鏡に付着物があり、シロアリ業者がずさんな処理をしたものと思われます。
[女性の症状]終了数時間後に、悪心、嘔気、下肢脱力、翌日には、下腿筋攣縮、筋痛が出現した。絨毯の上の椅子に座ると咳が出るようになった。1ケ月半後の腎臓の定期検査で蛋白尿が陽性となり以後持続している。
6ケ月後、動惇が出現し洞性頻脈と心電図所見でST低下が見られ、タバコ煙により頭痛、吐き気が出現する様になり、やがてシャンプー、柔軟剤、排気ガス、ペンキ、建築工事、香水にも反応する様になった。
シロアリ防除剤の分析では、7ケ月後に二階の換気フィルターとハウスダストからイミダクロプリドが検出された。
【症例2】土壌処理剤用ハチクサンFL(イミダクロプリド20%)が賃貸アパートの一階の床下に散布され、30代の母親と7歳と5歳の兄弟が被害を受けました。
[母親の症状]散布後、全身のしびれ、関節痛、筋肉痛、下肢の筋脱力、筋攣縮、前腕尺側の知覚低下、うつ状態が出現、4ケ月後やや軽快したが症状は続いている。
[7歳男児の症状]散布後、咽頭痛を訴え嘔吐、夜に足をバタバタして泣き、ボーとして口数が減り、その後、頭痛と全身痛を訴え、体の動きがぎこちない、失禁、流延、会話が混乱し字が汚くなる、ボーとして落ち着きがない、その日食べたものを忘れる、聴覚過敏が出現した。
[5歳男児の症状]散布後、腹痛、頭痛、足のしびれ、ふるえ、聴覚過敏を訴え、道に迷うようになり、イネ花粉症を発症した。
ハチクサンの使用上の注意には、『居住者や近限の住民に病人、特異体者(アレルギーや化学物質に過敏な体質等)、妊婦、乳幼児等が居る場合には、薬剤の影響が出ない様にあらかじめ関係者やかかりつけの医師と相談してもらうなどして、十分に配慮してください。』とあります。
日本しろあり対策協会は、しろあり防除施工における安全管理基準で、防除業者は、施主に、使用薬剤の説明をするほか、居住者や近隣などに関する調査確認書(健康状態の項も含まれる)を作成することを義務付けていますが、このような被害報告を知ると、果たして、どの程度実施されているか、疑問を感じます。
★ネオニコ類の室内汚染実態
【参考サイト】東京都健康安全研究センター研究年報:Top Page、第66巻(2015)
斎藤育江,大貫 文,鈴木俊也,栗田雅行
シロアリ駆除剤由来のネオニコチノイド系殺虫剤による室内環境汚染(vol.66, p225-233)
上の2事例では、居住区域にどの程度のイミダクロプリドやその他のシロアリ防除剤成分が存在していたか、また、居住者がどの程度摂取して、発症したか不明です。
東京都健康安全研究センターの斎藤育江さんらが、同センター年報(66巻225頁、2015年)で報告したのは、ネオニコとコナゾ−ル系混合シロアリ防除剤などで処理された戸建木造家屋内の汚染調査結果です。
試料採取は、2012年2月〜2014年9月に、7軒で実施され、うち4軒はイミダクロプリド,3軒はクロチアニジンが使用されていました。下表は、室内空気や埃中に検出されたデータの一部です。
表 住宅室内で検出されたネオニコ類濃度
試料 イミダクロプリド クロチアニジン
室内空気pg/m3 <0.2〜17.6 <0.2〜1090
検出率* % 40(4/10) 83(5/6)
室内埃 ng/g 4.9〜98900 3.7〜1790
検出率 % 100(7/7) 100(5/5)
*検出率:試料採取した部屋数ベース
クロチアニジンが1090 pg/m3検出されたのは一階の部屋で、新築時に薬剤処理を行っており,築後3年7ヶ月が経過していました。床下では3130、2階662pg/m3.でした。
また、一階の室内埃に98900ng/gのイミダクロプリドが検出された住宅は、築後17年目のリフォーム時に薬剤処理が行われ。その2週後の測定値で、この時の住宅床下で58.4であったイミダクロプリド濃度は、6ヶ月の夏場には、81.4pg/m3と増加していました。
調査した住宅中には、混合成分のシプロコナゾールが室内空気に最大221pg/m3検出されたほか、イミダクロプリドとアセタミプリドの2種、チアトキサム,クロチアニジン及びアセタミプリドの3種が検出されたところもあり、3軒の住宅では,居住開始後あるいは薬剤処理後に,居住者に不整脈を含む何らかの不快な症状が起きたとの訴えがあったそうです。
★水分や埃と共にネオニコ類は大気中へ
【参考サイト】臨床環境医学誌:Top Page、第24巻第1号(2015)
斎藤育江、大貫文、鈴木俊也、栗田雅行
ネオニコチノイド系殺虫剤の大気中への拡散に及ぼす水分、温湿度及び粒子状物質の影響(vol.24,p37)
蒸気圧が低くいネオニコ類が、床下から拡散し室内を汚染する理由について、斉藤さんらは、4種のネオニコのモデル試験で、水分、温度や粒子状物質の影響を調べました。
その結果、床下の水分が多いと、処理後しばらくは、水分の蒸発に伴って、床下のネオニコ濃度が高まり、室内汚染が発生しやすいこと、また、ほこり粒子があった方が、固体又は気体状ネオニコが、粒子に付着、大気中に拡散して、室内濃度が高まる現象が見られたとのことです。
脳・神経系に悪影響を及ぼすネオニコチノイドを、ミツバチだけでなく、食品に残留し、水系汚染し、散布地域や室内空気をも汚染して、人が取り込むことを野放にしておいてはなりません。
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作成:2018-01-30