胸の痛みは、主に心臓や肺の病気によって起こる
中医学では、胸の痛みを「胸痺」といいます。「痺」は、からだの活動に必要な機能や栄養代謝(「気・血・津液・精」)が停滞したり不足して痛むという意味です。
以前は、心臓や肺の周辺の痛みだけではなく、みぞおちや胃の痛み(「胃かん痛」)までを胸痺に含めていました。しかし現在では、胸と胃の痛みをはっきりと分け、からだの活動の中心となる「五臓」のうち「心」あるいは「肺」、現代医学でいえば心臓の冠状動脈の病変によって起こる狭心症や心筋梗塞などの心臓病、あるいは肺の炎症を原因とする痛みを胸痺と考えます。なお、高熱が続いたり、膿のようなたんがたくさん出て、場合によっては喀血することもある肺の化膿性炎症による胸痺については、今回はふれません。
心の病変で起こる胸脾は、心を通る血管(「血脈」)内の血液の流れがなんらかの原因で停滞したり、心の活動に必要な滋養(気・血・津液・精)が不足し、全身の血液の循環をコントロールする心の活動がおとろえるために起こります。その原因となるのは、ストレスや飲食の不摂生・加齢・慢性病などさまざまです。しかも、病変が進むと命にかかわることもあるので、適切な診断を行って、早めに治療することがたいせつです。
さまざまな原因が滋養の停滞や不足を引き起こす
中医学では、発病因子(「病邪」や「気滞」「血オ」「痰」「病理産物」など)によって滋養(気・血・津液・精)の流れが停滞したり不足したりすると、痛みが起こると考えます。心の病変で胸が痛むのは、心を通る血管(血脈)の流れが滞ったり、血が不足するからです。
また、発病因子によって症状が起こることを「実」、滋養の不足によってからだの機能が失調して症状が起こることを「虚」といいます。したがって、滋養の停滞によって起こる胸の痛みは「実痛」、滋養の不足によって起こる胸の痛みは「虚痛」といえます。
実痛の原因となりやすいのは、感情のうっ滞による内臓の機能の停滞(気滞)や、飲食の不摂生などによって体内で生まれた不要な水分が集まって生まれる発病因子(「痰飲」)、内外環境の変化で生じる「寒邪」や「熱邪」といった自然環境の過度の変化、あるいは気滞の結果生まれる血流の停滞(血オ)です。
一方、虚痛の原因となるのは、心の活動に必要な滋養の不足や、からだの物質面(「陰」)と機能面(「陽」)のバランスの失調(「陰陽失調」)などです。
実際は、からだのおとろえに発病因子がつけ込むというように、虚と実がからみ合った状態(「虚実挟雑」)で胸の痛みが起こるケースがほとんどです。したがって、中心となる原因をみきわめることがたいせつです
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