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生薬名・・・・附子 ぶし

 

生薬名 附子(ぶし)
基 原 神農本草経の下品に収載。キンポウゲ科 Ranunculaceae 烏頭 Aconitum carmichaeli Debx. (カラトリカブト)の側根。
性 味 味は大辛、性は大熱。有毒。(脾経:心・脾・腎経)
主成分 aconitine C34H47O11N ・ mesaconitine C33H45O11N ・ hypaconitine C33H45O10N などの alkaloid 、および非アルカロイド成分
薬理作用 回陽救逆・温脾腎・散寒止痛
強心作用・鎮痛作用・消炎作用・下垂体−副腎皮質系の興奮作用
臨床応用 附子は全身機能が衰弱したもの(陽虚)だけに使用する。附子を応用するときには以下のことを参考にする。
  1. 脈が沈遅で無力あるいは細弱。
  2. 寒がる・寒冷を嫌う・四肢が冷たい・腰や膝が冷えてだるい。
  3. 尿量過多・泥状便で回数が多い(陽虚の下痢)。
  4. 顔色が蒼白・唇の色が淡白・よだれが多い・舌苔は白膩・舌質は胖大。
  5. このほか、下肢の浮腫・眠い・自汗など。

以下の基本的な症状に基づいて他の症状も考慮に入れた配合を行う。

  1. 陰証の水腫(陰水)に用いる。全身機能の衰弱症状をともなう水腫が“陰水”で、慢性腎炎・心不全でよく見られる。この場合には、明らかな脾腎陽虚の症状があって、一般的な利水剤だけでは効果がないので、必ず附子・乾姜などの薬物を加えて全身的な機能(主として血液循環機能)を改善し、温腎去寒・温脾利水によって浮腫を除くべきである。
  2. ショック・虚脱(亡陽厥逆)に用いる。皮膚が氷のように冷たい・呼吸が微弱・四肢厥逆(冷たくて温まらないこと)・脈が微細あるいは沈伏(軽くおさえても触れず、骨におしつけるようにしてやっと触れる脈)などの循環不全の症状があるときに使用する。
  3. 陽虚の衰弱に用いる。とくに、下半身の冷感・腰や膝がだるく無力・冷えて痛む・下腹部の冷えとひきつるような痛み・頻尿・脈が細弱などの腎陽虚(命門火衰)の症状があるときに使用する。慢性疾患・老年にともなう衰弱でみられる。このときは、補益剤に附子を加えた方がよい。
  4. 風寒湿による痺痛に用いる。とくに、はげしい頭痛・寒冷によって痛む・温めると痛みがやわらぐ・寒がる・寒冷をきらう・四肢が冷たい・舌苔は白・脈は弦細などの顕著な寒象をともなう関節リウマチに用いる。
  5. 寒証の腹痛に使用する。腹鳴・腹痛・上腹部痛・よだれが多い・痰がでる・泥状便・下痢・手足が冷たい・脈は弦細などの脾胃虚寒の症状(消化性潰瘍・神経性胃腸炎・慢性結腸炎などでみられる)に用いる。

このほか、寒がる・背中の冷感・うすくて白い痰が多量にでる・息苦しい・咳嗽・舌苔が白いなどの寒象が顕著な肺の痰飲(気管支喘息、ある種の慢性気管支炎などでみられる)に、附子を加えて温腎しなければならないときもある。

用量 中毒をさけるため過量にならないようにする。補益薬の作用を強めるのに使用するときは1.5〜5g、強心・温中散寒止痛には5〜9g。虚脱・ショック時の救急には18〜24g、ときには30gも用いるが、経験のある医師が使用すべきである。また、附子を習慣的に服用している地方では、よく炮製したものを30〜90gぐらい使用している。附子に対する個体の感受性にもよると思われるが、これを常用量とみなしてはならない。一般に熟附子片の常用量は3〜9gである。
使用上の注意
  1. 陰虚・熱証には禁忌である。以下の症状が一つでもあれば使用すべきでない。
    @脈が実数か洪大。A熱結の便秘。B高熱。C内熱外寒(体表に熱がなく・四肢が厥冷し・ひどければ悪寒するが、口乾・口渇・冷たいものを飲みたがる・便秘・舌質紅・脈数で有力などの裏熱(内熱)の症状があるもの。体内で炎症がさかんであるが、反射性に体表血管が収縮している状態と考えられる。)(真熱仮寒)。
    以上はみな熱証であるから、附子を投与すると火に油をそそぐようなもので、熱象がよりつよくなり、歯齦出血・甚だしければ痙攣などの反応が生じる。
    D房室間ブロックをともなう心疾患にも使用しない。一般に心筋障害・肝機能障害には用いない。妊婦には禁忌である。
  2. 生附子は中毒をおこしやすいので、熟成したものを用いるのがよい。1時間以上煎じると、心臓に対する毒性は弱まるが、強心作用は変わらないので、附子を配合した方剤は最低1時間は煎じる必要がある。
  3. 中毒症状は、四肢のしびれ(手指からはじまる)・めまい・衰弱感・発汗・よだれ・悪心などで、重篤な場合は動悸・不整脈・血圧降下・痙攣・意識障害をきたす。軽症には胃洗浄・保温などの一般的な処置を行い、重症には atropin 注射が必要である。軽症の中毒には、生姜120g・甘草15gを煎じるか、緑豆90〜120gを濃く煎じて服用すると、一定の解毒効果がある。
  4. 実験によると、熟附子片は甘草か乾姜と一緒に煎じると毒性が低下する。それゆえ、古人が去寒剤には附子とともに甘草・乾姜を配合していることには、科学的な根拠があり、温裏の効能を強めると同時に附子の毒性も弱めているのである。
  5. 習慣的に、貝母・括楼仁・白及・半夏・白斂との配合は禁忌である。
  6. 附子を配合した薬剤は一般に温服する方がよい。極度の陽虚のときは補陽の意味で熱服し、下半身がだるく冷えるなどの下部の虚寒の症状と顔面紅潮・煩躁などの上部の仮熱の症状があるときには冷服するのがよいとされている。
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