生薬名 |
当帰(とうき) |
基 原 |
神農本草経の中品に収載。セリ科 Umbelliferae
当帰 Angelica sinensis (Oliv.) Diels
の根を乾燥したもの。根頭部を帰頭、主根部を帰身、支根を帰尾(または当帰鬚)という。現在では一般に帰頭・帰身を分けず、帰身か全当帰を使用している。全当帰とは帰身・帰尾を含めたものである。 |
性 味 |
味は甘・辛、性は温。(帰経:心・肝・脾経) |
主成分 |
精油・子宮興奮性成分・蔗糖・ビタミンEなど |
薬理作用 |
補血・行血・潤腸・調経
子宮の機能調整作用、鎮静・鎮痛作用、利尿作用、ビタミンE欠乏症に拮抗する作用、抗菌作用
このほか、潤腸して通便し、肝臓を庇護して肝グリコーゲンの減少を防ぐ。子宮の発育を促進する作用もあるようである。 |
臨床応用 |
当帰は臨床では最もよく用いられる薬物の一つである。補血・行血が必要なときには、血証(血オ・血虚・出血などの総称)・虚証・表証・化膿症を問わず当帰を用いる。
- 婦人科の主薬で、主に月経の調整に用いる。月経痛、無月経・月経不順に効果がある。要するに、月経を調整する方剤にはみな当帰を用い、その行血・鎮痛作用(子宮を収縮してオ血を排出したり、子宮の痙攣を弛緩して鎮痛する)を利用する。
- 補血に使用する。動悸・健忘・不眠・精神不安などの心血虚の症状には、当帰で補血して鎮静する。脾虚のため、痩せて色つやが悪いときは、当帰で補血することによって脾を健運(消化吸収の促進)する。頭がふらつく・目がくらむ・耳鳴り・筋肉がピクピクひきつるなどの肝血虚の症状があるときには、当帰で補血することによって柔肝する。
- オ血に使用する。とくに打撲・捻挫などの外傷や血管の疾患によって生じた内出血・血流停滞・腫脹・疼痛に対して、去オの効能(循環を改善し鎮痛する)を利用して、打撲・捻挫や血栓性動脈炎の治療方剤に当帰を使用する。
- 腹痛に用いる。虚寒のため気血がオ滞して生じた腹痛に適している。膿血性の下痢と腹痛をともなう赤痢の初期や婦人の便秘・腹痛などの気滞血オの症状にも用いる。
- 慢性化膿症に用いる。当帰の活血・補血・止痛の効能によって循環を改善し・抵抗力を増す。
- 腸燥による便秘に用いる。気血両虚のものに適する。
このほか、気血両虚のものの表証やオ血による頭痛や関節痛にも、当帰の行血鎮痛の効能を利用する。 |
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用量 |
常用量は9〜12g。表証には少量で3〜9g。補血して血液循環・便秘を改善するときには、やや大量で12〜30g、最高60gまで用いる。たとえば産後の血虚に使用する当帰生姜羊肉湯の当帰の量は30g以上であるが、当帰補血湯の当帰は6gだけで黄耆の補助に用いられている(この方は“補血”という名がついているが、実際には補気することによって行血するのである)。 |
使用上の注意 |
- 古人は“帰頭は補血し、帰身は養血し、帰尾は破血し、全用すれば活血する”とか“帰頭は頭(頭部・頸部・胸部を含む)を補い、帰身は身を補い、帰尾は四肢を補う”と言っているが、実際にはこれにこだわる必要はない。臨床で使用するのも、市中での販売も一般に全当帰である。細分するときには、次の原則を参考にして選べばよい。血液循環の改善・解表剤への配合には全当帰を、血虚の治療・月経の調整には帰身を、打撲・捻挫の腫脹や疼痛(オ血)・関節の運動障害には帰尾を使用する。
- 当帰を長期間あるいは多量に使用すると、咽喉痛・鼻孔の灼熱感などの虚火上炎(陰虚火旺)の症状があらわれる。このときは、処方中に金銀花・生地黄などの清熱涼血薬を適当に加えるとよい。
- 当帰には通便作用があるので、脾陽虚による下痢には使用すべきでない。平素軟便のものに当帰を使用する必要があるときには、白朮・茯苓を適当加えて当帰の潤腸通便の効果をおさえる必要がある。
- 当帰は温性であるので、肺陰虚・肝火旺・吐血が止まったばかりの患者などには使用すべきでない。
- 当帰は活血の効能が強いので、性器出血過多には使用しない方がよい。
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生薬画像 |
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