家を購入して最後の無償点検修理があり、ふすまとかドアーの立て付けなどを2時間ほど補修した。
この点検修理に来た職人さんが私と同年輩のベテランで、仕事をしながら色々と話をしてくれた。この職人さんは、親方の下で鍛えられながら一から仕事を身につけた、と言って懐かしがっているようにみえたが、その仕事が最近は役に立たなくなったという。
そう言って見せてくれたのがかんなの刃だった。
驚いたことに、刃の裏面に大型安全剃刀のような刃物が付いていて、これがかんなの替え刃だった。
のこも見せてくれて、これも替え刃だと言い、私は使っていませんがのみにも替え刃のものがありますよと言った。
最近の大工仕事は電動工具が主体とは聞いていたが、刃物が替え刃になって、使い捨てになっているとは知らなかった。
なるほど替え刃にすれば刃物を研ぐ手間がかからず、随分と楽になるだろうと思う。
この職人さんの若い頃はかんなやのみを研げるようになるのが修行の始まりで、雨で仕事が出来ないときには朝から晩まで刃物を研いでいたという。
のこは目立てを専門の職人さんに頼んでいたが、もう目立ての出来る人がいなくなったそうだ。
刃物を研がなくても、のこの目立てが出来なくても、電動工具で能率良く立派な家が建つので、全く問題はありません、と職人さんは言った。
大工が刃物を研がなくなり、のこの目立て職人がいなくなって、古くからの技術が失われてゆくようであるが、家に来た職人さんはこのことを残念がるようではなかった。
家の建て方を含めて、新しい技術でお客さんの喜ぶ家を出来るだけ安価に建てるのが今の大工の仕事だという。
かんなを研ぐようなやり方で家を建てたのでは手間ばかりかかって、とても商売になりませんとも言った。
伝統的な物作りの技術が次第に失われるのは残念なことであるが、採算の採れない仕事が消えるのはやむを得ないことだと思う。
家に来た職人さんが自分の技量が使えなくなった事を嘆くのではなく、新技術を積極的に取り込み、良い時代になったと話すのに拍手を送りたい。