第21回「浜風にのって」(2001年12月8日)

畦地梅太郎展

 畦地梅太郎は郷里愛媛県出身の版画家ということもあって、以前からその名前を知っており、何回かその作品を観たことがある。なかでも口を大きく開けた山男の素朴な版画が印象に残っていた。

 畦地が晩年を町田市で過ごしたことから、自作版画を町田市に寄贈し、この版画が大きな役割を果たして、版画専門の市立美術館が町田市に設立された。
 その町田市立版画美術館で畦地梅太郎の生誕百年記念展が開催され、近くなので気楽な気持ちで観に行った。

 作品は年代に沿って展示されていて、最初の鉛板を用いた素朴な版画から、モノクロの風景版画、多色版画と続き、「伊予十景」という版画が並んでいた。
 ここに「八幡浜の海」「八幡浜栗の浦」「法華津峠展望」などの地名のタイトルが出てきたのにびっくりした。昭和11年最初の版画集の作品だそうで、覚えのある風景が単純化され、緑から黄緑の美しい鮮やかな色彩で刷られていた。

 「八幡浜の海」は愛宕山あたりから見た景色であろうか、前景に畑があって、左に諏訪崎、右に向灘、中央に佐島があって、まさに八幡浜の海である。

 続いて観てゆくと、版画「八幡浜劇場」が出ていて、これにも驚いた。昭和21年の作品で、破風屋根の載った赤い手すりの三階建ての劇場と、その前のたくさんの見物人が描かれている。
 もうこの劇場は無くなったそうだが、半世紀近くも前、ここに行った頃をつい思い出して懐かしくなった。

 畦地作品の展示は、山の風景版画から山男シリーズ、山男の家族シリーズと続き、山男シリーズは畦地版画を代表するもので、私の記憶にも残っている。

 今回、改めて山男の作品を観て、その見事な造形と色彩の素晴らしさに魅了された。
 山男は埴輪を思わせるような単純な顔でをしていて、その鳥を抱いた姿は優しさに溢れている。山の家族に描かれている子供の顔は純真そのものである。

 作品にはその作者の心情が反映するそうで、畦地梅太郎は山男や山男の家族のように心の優しかった人に違いない。

 畦地の町田のアトリエがギャラリーとして公開されているそうで、訪ねたいと思っている。

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