第31回「浜風にのって」(2002年2月17日)

太巻き寿司

 大阪では節分の日、太巻き寿司を食べる風習がある。
 この食べ方が変わっていて、家族一同がその年に神様が宿るという方角に向いて、太巻き寿司を切らないでかぶりつくのである。
 寿司を切って食べると縁が切れると言って嫌われる。

 今年もこのことをテレビで放送していて、ご存じの人も多いと思うが、私が興味深かったのは、それをレポートした女子アナの言葉であった。
 この女子アナは大阪出身で、これまで、全国どこでも節分には太巻き寿司を食べるものと思っていたという。
 20年以上も節分に太巻き寿司を食べてきても、周囲が全部それであれば、大阪という限られた地域の習慣であることに彼女は気が付かなかった。

   全国あちこちで生活すると、これに似たことを何度も経験した。
 群馬は保守色の強いところで、公立高校の伝統校はどこも男女別学で、昔の名門中学や名門女学校がそのまま高校として残っている。
 男女共学の高校はレベルの低い高校と見られており、地域の有力者はたいてい男女別学の高校出身者である。
 私が共学の高校を出たというと、一瞬、けげんな顔をされたことが何度かあった。
 男女別学が非常に少数派だという認識がそこではほとんど無いようである。

 群馬の葬式も奇異に感じた。
 自宅での葬儀では、屋内に座るのは僧侶の他は女性だけで、男性は喪主といえども庭先に立つ。
 供物も変わっていて、座布団一揃いとか和テーブルなどの品物が名前の札をつけて祭壇の回りに飾られる。

 高校の男女別学にしても、葬式の風習にしても土地の人にとっては当たり前のことで、私のような外部の人間が変だと指摘すると、こちらが変人扱いされてしまう。

 有明海沿岸ではイソギンチャクが食べられ、魚屋でイソギンチャクがごく普通に売られている。
 みそ煮にするとふんわりとした食感で、よその人にイソギンチャクだと判る人はいない。

 バレンタインデーにチョコレートをプレゼントするのも日本だけの習慣のようである。

 土地土地によって、伝統に支えられた風習があり、それをよそ者がとやかく言うことはないが、その土地の人も独特の風習であることを頭に入れて置いた方が良いように思う。

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