所用があって広島に行き、原爆ドームと平和記念公園を訪ねた。
「原爆ドーム前」で路面電車を降りると、すぐ前のビルの陰に骨組みだけのドームを残し、崩れた建物が見えてきた。
これが写真で何度も見た原爆ドームであった。
原爆で破壊された時のままの保存で、屋根のない建物の中はレンガなどのがれきで埋まり、鉄骨が曲がり、壁は崩れていた。
一瞬にこれまでに破壊した原爆の威力はすさまじいものである。
この破壊された建物の境界の外はきれいに整備された公園となっていて、大きな楠が葉を繁らせており、背後には大きなビルが建っていた(写真)。
60年近い歳月が原爆ドームの粉塵も鋭利な破壊面も洗い流し、人間臭さもすっかり消し去ったように見えた。
原爆ドームと川を挟んだ向こう側が平和記念公園になっていて、今では直径50aはあるかと思われる楠などが繁る公園となっている。
樹木の間には「原爆の子の像」を始め多くの碑が建てられており、公園中央に「原爆慰霊碑」があって、ここは毎年8月6日に慰霊祭が行われる場所である。
アーチ型のこの慰霊碑の内側から向こうに「平和の灯」、さらに向こうに「原爆ドーム」が見えた。
公園には「広島平和記念資料館」があり、ここも見学した。
以前に長崎の原爆資料館を見て衝撃を受けたことがあり、そのときに比べれば、思ったより展示が穏やかに感じられた。
遺品や被爆者の惨状を写した写真など悲惨なものは少なかったように思う。
戦後、米軍が原爆に関する資料を検閲し、原爆の惨状を書いた手紙などは出させなかったという。
このためかどうか分からないが、展示も公園の記念碑も反米的なものは見られず、「原爆の惨状を二度と起こしてはならない」とのメッセージが強かった。
広島の市街地は大きなビルが建ち並び、平和公園も緑に覆われた。
一見しただけでは広島が被爆地だとは分からなくなっている。
都市は復活しても、多くの犠牲者のことを忘れてはならない。
原爆ドームが20世紀の負の遺産として、世界文化遺産として登録された。
原爆慰霊碑には「安らかに眠って下さい 過ちは繰り返しませぬから」と刻まれている。