第69回「浜風にのって」(2002年11月9日)

ムラサキシキブ

ここでムラサキシキブとは源氏物語を書いた紫式部ではなく、落葉低木のムラサキシキブ(写真)のことである。

ムラサキシキブは初夏のころ小さな花が咲き、10月に直径2〜3_の紫色の実をびっしりとつける。
この鮮やかな紫色の実からムラサキシキブと名付けられた。

群馬の社宅に入ったとき、庭に高さ50aぐらいのムラサキシキブが植えられていた。
秋になると紫色の実を付け、それがムラサキシキブを知った最初だった。

横浜に居を構えてから、花屋にムラサキシキブの苗を見つけ、早速、狭い庭に1本植えてみた。
その木が昨年から実をつけ、今年も紫の実をたくさんつけている。

秋になると、ピラカンサやベニシタン、モチノキ等多くの木がオレンジや赤い実をつける中で、紫の実が珍しい。
この紫色は平安人の高貴な色で今も高僧の衣の色であり、ムラサキシキブは紫式部の名に恥じない気品の持っている。
花言葉は「聡明(そうめい)」。

植物の名前に詳しいわけではないが、植物の一般名に人名がそのまま付けられているのはムラサキシキブだけではないかと思う。
ベンケイ(弁慶)ソウ、アツモリ(平敦盛)ソウ、クマガイ(熊谷直実)ソウのように人名を冠した名前はあるが、人名そのものが植物名となったのはムラサキシキブのほかに知らない。

これにくらべ、ヨーロッパでは植物学者や探検家などが初めて外国から持ち帰った植物に、その人の名前を一般名とすることが多い。
ダリア、フリージア、ブーゲンビリア、カメリア(ツバキ)などは人名から付けられた名前である。

17世紀に宣教師G・カメルがアジアからツバキをヨーロッパに持ち返り、ツバキがカメリアと呼ばれるようになった。

植物に限らず、欧米ではいろいろな場所に人名を付けて、その人を顕彰することが多いと思う。ケネディ空港(米)、ド・ゴール空港(仏)、レオナルド・ダ・ビンチ空港(伊)などがそれで、ヒースロー空港(英)をダイアナ空港と改名しようとする運動もあったという。

 昨年、我が家のムラサキシキブの紫の実はメジロが来て全部ついばんでしまった。
今年もメジロ実を食べに来るだろうかと、心待ちにしている。

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