第98回「浜風にのって」(2003年6月7日)

江戸開府400年(2)

汐留シオサイト

JR新橋駅東側の汐留(しおどめ)地区に「汐留シオサイト」と呼ばれるビル街が誕生した。

 汐留は江戸開府のころ、水路にせきを設けて海水の流入を防いだことからこのように呼ばれるようになったと伝えられており、20年ほど前までは国鉄の貨物専用駅だったところである。
東京ドーム7個分というその跡地に100メートルを越えるビルが10棟も建って、昼間人口6万人のビル街が突如として出現した。

その一角の松下電工ビルで「ジョルジュ・ルオー展」が開催されており、汐留シオサイト見物を兼ね、ルオー展を見に行った。

 新橋で地下鉄を降り、地下通路を通ってシオサイトの地上に出ると、そこは巨大なビルの直下であった。
首を精一杯後ろに曲げて見上げても、ビルの一番上が見えないほどで、ガラス張りのビルの壁面が覆いかぶさってくるように感じた。

首をねじ曲げながらビルの谷間の歩道デッキを歩いてルオー展に入った。

 ルオーの絵はピエロやキリストの顔を厚塗りの太い描線で描いていて、絵に興味のある人ならだれでもその特徴のある絵の記憶が残っていると思う。
今回の展覧会は松下電工NAISミュ- ジアムの開館記念展で、所蔵品約100点を展示しており、作品はどれもルオーらしさにあふれていた。

絵の前に立つと、鋭利で冷たい線のビル空間とは全く違って、人間味あふれる温かな空間であった。

 解説に、ルオーは「20世紀最大かつ最後の宗教画家」とあり、その絵は「愛とあわれみに満ちた魂の賛歌」とあった。
「女曲馬師(人形の顔)」(上図)と題した6号ほどの絵は前歯を少し見せた少女の像に画家の愛が満ちあ
ふれている。

 汐留シオサイトの東側に高速道路を挟んで浜離宮恩賜庭園があり、ここにも足をのばしてみた。

浜離宮は江戸時代初期に徳川将軍家の別邸として作られたもので、代表的な大名庭園といわれている。
外周はクスノキやケヤキのような高木で囲まれており、内側は芝生の中に形の良い松が配置されている。

 この庭園から汐留方向を眺めると(写真)、緑の高木の上に何本ものビルがそびえて、400年近い歴史を圧倒しているようであった。

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