思いつくまま2004.16

2004.6.28 茶道はバリアフリー

 茶道と一口に言ってもいろいろな流派があります。まず千利休の流れからすると、表千家、裏千家、武者小路千家の三千家で、この千家から分かれた流派に江戸千家、久田流があります。このほかの流派で私が知るところでは遠州流、藪内流、石州流、宗和流、宗箇流、大日本茶道学会などがあげられます。

私自身は裏千家流を勉強していますが、他の流派のお茶会に行くことはとても楽しみなことです。床の間の飾り方、お道具や点前の作法など違いを知るのは興味深いです。帛紗をつける位置や、捌き方、抹茶の泡の立て方、お茶碗の廻し方、茶室に入る足の左右など、自分が習っている流派と違うと、はじめはちょっと違和感を感じたものでした。

この頃、私は他流派のお家元の本を積極的に好んで読んでいます。例えば、千宗左著「茶の湯随想」、小堀宗実著「茶の湯の不思議」、田中仙翁著「茶を学ぶ人のために」等々。流派はそれぞれですが、根本の考え方は皆同じということをこれらの本からしっかりと確認できました。表面上違っていることは末梢的なことで、根幹の考えは茶道すべてに共通しています。やはり、お家元といわれる方々の本からは、流派を超えて心に響くところがあります。いうなれば、流派というバリアはなく、茶道はバリアフリーの世界だと思うのです。

2004.6.12 看護学校茶道

今年初めから、看護学校の生徒さんが稽古に通ってきてくださっています。今まで 全く茶道の経験がない方々ですが、月に2回、本当にまじめに、素直に稽古に励んでいます。割り稽古から始って、盆略を終え、いまは本格的に薄茶の平点前に入りました。

看護学校は、レポートを出したり、つねに試験があったり、実習があるなどとても勉強が大変そうですが、充実した学生生活のようです。目的意識がしっかりしているので勉学にそれぞれ楽しく一生懸命励んでいる様子、将来立派な看護師さんになるであろう方々なので頼もしい限りです。地方から出てきて寮生活をされている方もいますが、少人数クラスなので友達同士も大変仲がよいようです。稽古日には午前組は10時ピッタリに、午後組は1時ピッタリに揃って来てくださいます。時々、先生もついていらっしゃいますが、先生と生徒さんの会話を聞いていても家庭的で和やかで、マンモス大学にいた私はとてもうらやましく感じます。

若い方は、本当に進歩が早く眼をみはります。点前の手つきなど注意すると「はい」と気持ちよい返事をして直してくれます。皆の前でお点前をする緊張感や、普段たたみに正座する事がなくなった現在、ちょっと非日常的なお茶の世界を楽しまれているようです。3年生になると、実習でとても忙しくなるそうですし、看護師さんになったらお仕事が大変なので、言うなれば期間限定のお稽古(?)のようですが、今のうちにゆったりと稽古をして欲しいと思います。わたしも短期間で茶道のよさを一生懸命お教えしようと思います。

2004.5.18 点前と手前

お茶を点ててお客様にお出しする一連の所作を「点前」といいます。この「点前」という言葉は、お茶の世界独特の用語で、辞書には載っていません。中国でお茶を立てることを「点茶」といっていたので、お茶を点てる手ぶりを 中国流に「点前」の字を当てて書くことになったのだそうです。 ちなみに 炭をつぐ所作は「炭手前」といいます。火がおこるよう手を使って炭をつぐ、技術が要求されるので「炭手前」と書くようです。

一服のお茶をお客様にお出しするのに、亭主は、お道具をあれこれ考え、軸、花も趣向に沿ったものを選び、露地も手入れをし、打ち水をし お茶、お菓子にも心を砕いて最高のおもてなしをと心がけます。そして、お客さまの前で心をこめてお茶を点てて、お出しします。手先だけでなく、誠心誠意、心でお茶を点てるので「点前」なのです。

お客はそのお茶を戴く時、そういう亭主の全体的なもてなしを十分理解しているので単に「頂戴いたします」とは言わず、「お点前頂戴いたします」と言って戴くのです。つまり、目の前の一碗のお茶と、それまでの亭主の心くばりすべてに感謝をもって戴くという意味なのです。日常 他所の家に呼ばれてコーヒー等出された時に、「頂戴します」「いただきます」と言うのとちょっと違うのです。

2004.5.1 茶道って何ですか?

茶道をやって約40年近くになります。しかしいまだに「茶道って何ですか?」と尋ねられると、簡潔に説明するのに苦労します。

日本人なら、茶室があって、お抹茶とお菓子を頂くことくらいは知っているので大体次のように説明することにしています。

l        茶室にお軸をかけ、季節の花をいれ、炉に火を入れ 湯をわかし、茶碗、茶杓、棗などの道具はそのときの趣向に合わせて取り合わせ心をこめてお客様の前で一碗のお茶を決まった手順で点ててお菓子とともにお出しすること。

l        お点前にはいろいろ種類があり、さまざまな決まりがあってそれを一つ一つ修練することで心からもてなす心と、もてなしを受ける心が培われ、“もてなし”という生活文化を芸術にまで昇華させていくこと。

l        修練することで、自分の心が落ち着き、思いやり、譲り合う気持ちを育てる。

先日、海外に行って10人ほどで会食している時、主人が妻は茶道をしていると余計な(?)ことを言ったがために、同席していた外国の女性が興味を示して、茶道について簡単で良いから説明してと言われてしまいました。会食中の会話の一つとしてあまり複雑なことを言っても多分ややこしくなるだけと思い次のような簡単な説明で済ませてしまいました。

Tea ceremony is heartfelt hospitality with serving a bowl of tea to guests in a special tearoom. There are many rules for making and taking tea. We have to learn many customary procedures by repeated practices. That is an essence of the tea ceremony.

帰ってから生徒さんにこの体験を話したところ、電子辞書を持って行って“茶道”を引き その英語版を言ったらいいのではとか、海外に行く時は、茶道を実際にしている写真を何枚か持って行って説明したら良いのではないですか等といわれ、さすが若い方の考えと、貴重なアドバイスとして、次に海外に行く時は大いに参考にしようと思いました。所詮日本語でも説明が難しい茶道、これを英語で茶道を全く知らない外国の方に説明するのは至難の業でしょう。

2004.4.4 梅窓院 春の茶会

桜が満開の中、お茶会に行ってきました。梅窓院はたくさんお茶室があったのを、ビルに建て直し その中に茶室をしつらえました。そのお披露目の茶会で、モダンなビルと茶室がどうマッチしているのか興味津々で出かけました。

竹林を通っていくと入り口です。広い講堂が待合で、それぞれの席の案内板のところに椅子が並べられ客はゆっくり待ちます。講堂の一角を紅白の天幕で囲って、点心席にしてあります。

まず、薄茶席に入りました。案内のお嬢さんの後について迷路のような白い壁の廊下を左右に、上下に進み、洋間のドアを開けると純日本風の玄関で、畳の部屋が現れそこがお席です。席開きの茶会なので鶴、松、熨斗、などおめでたい意匠、銘が取り合わさられていました。多加喜棗といって全体が朱で、黒い烏がふたに描かれています。烏というと、不吉なイメージでしたがこれは明け烏といって日の出前に鳴く烏で おめでたい意匠とのことでした。茶杓は淡々斎好みの銘「五葉」で裏が朱の漆になっていて五葉の松が描かれています。

濃茶席は、下蕪の立派な古銅にみごとなボタンが入り、及台子で黄交趾皆具、いかにもお披露目の席といった華やかなお席でした。若い男の方が点前され、華やかなお道具組には、袴姿の凛とした男の方の点前が席を締まらせているようでした。

吹き抜けのロビーの空間に、立礼席がしつらえてあります。赤い野点傘に歌花筒が掛かり、花いかだとニリンソウが挿してありました。この席で気に入ったのは、お釜です。竹の模様があり、鐶がすずめなのです。お釜の鐶のデザインにはいつも感心します。

実はこの日は花冷えの小雨が降る日でした。しかしビルの中の茶室なので、寒さも雨も感じない、客としては有り難い茶会でした。

2004.3.29 銘をつける文化

3月7日のこの欄で[茶杓の銘]について書きました。

茶道では、茶杓のみならず、茶碗、花入れ、茶入などの道具に銘をつけることがあります。「名」でなく「銘」という字を当てるところに意味があると思います。辞書を引くと「銘」は心に刻みつけて忘れないという意味があって、“感銘する”“肝に銘ずる”などに使われ、単に呼び名、名前、名称を表す「名」とは区別されます。  つまり、その道具に思い入れがあって付ける「銘」なのです。

「銘」は作者や所蔵者の名によるもの、形状によるもの、逸話によるもの、和歌に因んだものなどがありますが、「銘」をつけるときはそれなりに思いがあってつけるのです。利休茶杓の「泪」、長次郎の楽茶碗「早船」、宗旦竹一重切花入「大師」、利休瀬戸茶入れ「不聞猿」などいろいろです。

抹茶や、和菓子にも銘をつけています。抹茶は家元がお好みでつけられるので茶銘といい、和菓子の場合は菓子名なのです。

このように道具などに「銘」をつけて、茶会のテーマに相応しい銘の道具を使い、小さな宇宙を作り出す茶道は独特な文化といえるのではないでしょうか。

2004.3.20 八炉の稽古

釣釜のこの季節に、先生のお宅では八炉の稽古をします。八炉とは、炉の切ってある場所で茶室を4畳半、台目出炉、向切、隅炉の4つの型に分け、それぞれ本勝手と逆勝手があるので計八炉ということです。

先生のお宅の稽古場は八畳本勝手の造りなので、茶道口や釜の向きを変えて それぞれの型の茶室と思って稽古をします。本勝手は客が亭主の右側にきますし、逆勝手は左側にきます。そこで、茶室に入る足や、道具の置き付け、帛紗を腰につける位置などが違ってきます。

隅炉は炉が点前座左側の隅にあり、風炉の時と同じような道具の置き付けですのでわりと簡単です。しかし向切は点前座右側に炉が切ってあるので、水指の位置が左です。向切の逆勝手となると隅炉と同じようですが、客が亭主の左側にきますから道具の置く位置が違います。

とにかく八炉の稽古は、頭を使わないと点前ができないので、刺激的で楽しく、脳の老化防止にはとても効果があるものです。 抹茶にはカテキン、フラボノイド、ビタミンC,ポリフェノールなど含み、体に良いといわれています。このように茶道の稽古には いろいろと良いことがありやめられません。

2004.3.7 茶杓の銘

 茶杓にはもともと銘がついています。しかし、稽古のときは稽古用の茶杓を使用するので特に銘は付いていません。

そこで稽古点前中、「お茶杓のご銘は」という時に、お点前さんが一瞬戸惑われます。「今の季節にちなんだもので何か考えられたら」と助け舟をだすのですが、「うーん」としばし無言。季節に敏感になって欲しいので その時々のものを考えてもらいます。もっともどうしても考えつかないときは「好日」とか、「清風」など無季のものでもいいとします。

 茶杓の銘は、お道具の取り合わせの中でとても重要な役目をなすのです。その銘で季節を感じたり、祝意追悼を表したり、亭主の気持ちを代弁します。銘が人と人の心をつなぎ、茶席の中でいきいきとはたらくのです。

昔の茶杓の銘にはいろいろと面白いものがあります。利休の「泪」は有名ですが、「蟻通し」「一滴」「虫食い」「大晦日」など。ほかに歌銘のものもあります。

 三田富子氏の著書「お茶と心のはたらき」のなかには、とてもユニークな銘が出て来ます。「のどか」「うらら」「これから」「幾山河」「まちかね」「ふたたび」「夕ぐれて」そして極め付きは「生きよ」。これにはびっくりしました。茶席の最後に茶杓の銘を聞いて、客が胸にぐっとこみあげてくるものがあるというのが最高であると氏は書かれています。こういう精神的な銘を使うには私はまだまだ年齢不足、力不足ですが、確かに茶杓の銘はとても重要だと思います。

2004.2.17 高取の味楽窯

主人に同行して福岡に行き、高取焼の亀井味楽窯を訪ねることにしました。

味楽美術館に入るとすぐのところが、販売用の作品のショウルームになっており、高価な水指、茶入などが並んでいます。二階が美術展示室になっているらしいのですが、どなたもいらっしゃいません。「ごめんくださーい」と大声で呼んでもどなたも出ていらっしゃらなく 無断で入るわけもいかず 携帯電話で電話してみました。すると「今行きますからどうぞご覧になっていてください」と言われ、恐る恐る中に入りました。二階を観て下に戻ると、係りの若い女性の方がいらしていてホッとしました。

今年 私は還暦を記念して秋に茶会を計画しているので、水指を と思っていろいろと見ていました。みなとても素敵なので、迷っていると、若い男の方と中年の男の方が話しながら入ってみえました。若い方の方が奥に入って亀甲の落雁とお薄を持ってみえ「どうぞご一緒にいかがですか」と私にも勧められました。なんと若い方の方が15代亀井味楽氏ご本人だったのです。息子さんの通う高取小学校でPTA役員をされていて、今日は総合学習で生徒さんに焼物の授業をされたそうで、中年の方は校長先生だったのです。

亀井味楽氏と 結局いろいろ迷いましたが、とても気に入った水指と出会え、しかもその作者である15代の味楽氏に思いがけず直にお目にかかれたということに、不思議なご縁を感じて、勇気ある決断をしました。

15代味楽氏は、若々しくハンサムで、きさくで、とても声に張りがある素敵な方で、「ご一緒に写真を」とお願いすると「いいですよ」とおっしゃられ、あっという間に作務衣に着替え隣に坐ってくださいました。当代というと、“近寄りがたい存在の方”というイメージでしたが、今日は本当にラッキーで、忘れられない日となりました。茶会ではこの話もご披露して水指を皆様に見ていただこうと今から楽しみです。

2004.2.06 仙遊之式

先生のお宅での、今日の稽古は「仙遊之式」。

廻り花の後、炭は炭所望、そして本香と次香が焚かれ、濃茶、と続き、お薄は花月になります。

ベテラン揃いの方々にまじって私が引いたのは炭を入れる一番簡単な役の三の札でした。「仙遊之式」は「且坐之式」が、しっかり頭に入ってないと出来ません。お香を2種類焚くことと、東、半東も花を入れ、香を聞き、濃茶を頂くこと、そして薄茶が花月となるところが、「且坐之式」と違います。一応予習はしていったものの、やはり、実際にすると動きや、足の運び、挨拶など混乱することがあり、その度に、先生が声をかけて指導してくださいます。お薄の花月が終わって坐変わりするとき「蜘蛛の子ちらし」がこの式の特徴です。

我家の茶道教室は初心者が多いため、日々の稽古に終われて七事式はおろか、平花月すらたまにしかしない有様・・・。ちょっと反省しました。

2004.1.20 猿の香合

思いがけない方から 猿の香合を送って頂きました。かつて私が師事していた故T先生のお知り合いの方からです。その方は酉年なのですが、なぜかT先生は申年と思い込まれたらしく、12年前の申年に下さったという物らしいです。今年、年賀状で私が還暦を迎えることを書いたので、「是非これを戴いてください」と送ってくださったのです。小さな箱の表には懐かしいT先生の字で「申さる」と書かれてありました。中から薄茶色の体で 真っ赤な顔に、目がまん丸のかわいいお猿さんが「はじめまして」と言っているかのようにでてきました。T先生がお使いになっていたものらしく、お香を入れた後が少し黒くなって残っています。

我家の水屋には、私が茶道をするきっかけをつくってくれた祖母の写真とともに、T先生の写真もかざってあります。

今回、その方のおかげで、8年前にお亡くなりになったT先生とまた出合えたような嬉しい気持ちになりました。

2004.1.10 初釜茶事

新しい年を迎え、我が家では7日に初釜茶事をしました。今年は皆様 着物で参加してくださりとても華やかでした。お茶の世界は無地の着物が正式といわれていますが、初釜は思いっきり華やかに訪問着等を着てもよいといわれています。  新年の挨拶を交わした後、初炭、懐石、濃茶、続きお薄と進みます。

年に1、2回は稽古茶事をするよう心がけていますが、茶事は準備が大変です。

道具組や献立を考えたり、お茶道具を準備したり、食器をそろえたり、買い物したり、予め調理をしておいたり、もちろんお掃除も、着物の用意も。お椀、器、お箸、盆、酒器等 使用する道具の種類と数の多いこと。かれこれ4、5日は準備にかかります。茶事の流れもメモして、一応貼っておきます。当日は温かい物は温かく、お待たせせずに次々にお出しするのは大変慌しく、しかもそれを落ち着いて涼しい顔でするのです。亭主をやってみて初めて“お茶事が最高のおもてなしである”というのを実感するのです。そして、客として呼ばれた時の客振りもできてくると思います。

今年は、稽古茶事を脱皮して、茶友を ほんの2,3人くらい招いて茶事ができたらなあと思います。茶友同士 茶事に招かれたり、招いたりできれば最高です。

懐石道具の準備

茶道具の準備

着物の準備

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