行政・業界の動きにもどる

n00304#農薬種類別出荷量の推移〜2016年度も有機リン剤がワーストワン#18-06
【関連記事】記事t30906(2015年までの農薬別出荷量推移)
【参考サイト】環境リスク研究センター:農薬データベース
       環境省:PRTRインフォメーション広場にある平成28年度届出外排出量推計結果のうち
              殺虫剤に係る需要分野別・対象化学物質別結果



 環境リスク研究センターの農薬データベースは、4月に
更新され、2016年度の成分別出荷量が追加されました。
 本号では、農薬別の出荷量がどのようになっているかを、
主に神経毒性のある代表的な農薬について報告します。

 左図は、有機リン23種、有機カーバメート殺虫剤13種、
 ピレスロイド15種、ネオニコチノイド7種、
 IGR(昆虫成長制御剤)12種について、各成分合計出荷量の
 2011-16年の推移です。

 2016年度の出荷量等は、原体成分別に上位にある農薬を、
下記の表にまとめました。
 原体輸出があるものは輸出量を示しました。
 また、化管法に指定されている成分(農薬成分の一部が
指定されているだけ)で、農薬以外の用途の殺虫剤に
使用されているものの排出推計量を示しました。
 空欄になっている個所は、輸出がなかったり、化管法の
指定物質でないため統計がないものです。
 出荷量には、国産原体だけでなく、輸入原体も使用されて
いる農薬もあります。


    表 主な農薬成分のの2016年度の原体出荷量と輸出量
     (単位:トン。出典:出荷量は農薬DB、輸出量は農薬要覧2017。( )は2015年度。)
      * 化管法の指定物質で、農薬用途以外の殺虫剤(家庭用、防疫用、不快害虫用、シロアリ防除用)
      # EUでは使用されていないが、日本で登録されている農薬

    成分名         農薬出荷量         農薬原体輸出量    化管法指定の殺虫剤*
    有機リン系
     DDVP         日本でもEUでも農薬登録失効           66.145
     DMTP#          114.24 (118.39) 
     MEP#           379.124(411.156)  1037.4(806.3)   17.434
     MPP#          10.218(48.050)             7.014
     ダイアジノン#       329.954(347.474)               0.264
     アセフェート#       274.937(300.423) 
     マラチオン          103.25 (107.528)
     23成分合計        1873.933(2008.306)
    ネオニコチノイド系
     アセタミプリド       57.064(51.485)      402.0(565.9)
     イミダクロプリド#    61.241(65.994)         
     クロチアニジン#      78.234(75.602)      375.7(438.1)
     ジノテフラン#       156.804(167.349)     202.6(220.8)
     チアクロプリド       13.679(12.742) 
     チアメトキサム       47.876(49.205) 
     7成分合計           420.637(428.865)
    カーバメート系殺虫剤
     BPMC#            29.576( 41.089)      34.0( 16.0)   23.004
     NAC#             49.15 ( 51.305)                 12.198
     ベンフラカルブ#      40.327( 42.761)     200.7(316.0)
     メソミル            19.789( 64.176)
      13成分合計        223.237(287.073)  
    ピレスロイド系
     エトフェンプロックス 80.506(85.539)      268.8(311.0)    3.774
     シペルメトリン#      12.972(12.414)
     シラフルオフェン#    19.267(21.712)
     テトラメトリン(フタルスリン)農薬は登録失効          30.413 
     フェンバレレート#     8.6(9.03)          6.4(  6.8)
     ペルメトリン#       13.237(13.251)                 8.564
     15成分合計         155.278(166.33)
    IGR系
     テブフェノジド        9.9 (12.013)        41.6( 30.3)
     ブプロフェジン       60.079(64.471)      356.5(584.2) 
     12成分合計         94.919(101.63) 
    フェニルピラゾール系
     フィプロニル#       17.629(21.567)                 2.924
     エチプロール#       34.093(35.981)
    グリホサート系4成分5440.589(5156.793) 
    クロルピクリン#   6507.43 (6071.10) 

★農薬以外でも使われる有機リン剤
 神経毒性が問題となる有機リン23種の合計出荷量は、2006年約4100ト/年ンが2015年には、ほぼ半減して約2008トンとなっていましたが、2016年はさらに減少しました。それでも、種類別では1900トン弱で、第二位のネオニコチノイドの4.5倍程度の出荷量です。
 成分別での第一位は、MEP(フェニトロチオン、商品名スミチオンなど)で、これだけでも、ネオニコ合計の90%の出荷量です。さらに、輸出量は1000トンを超えており、有機リンの雄住友化学の稼ぎ頭である状況はかわりません。
 ついで、ダイアジノン、アセフェート、DMTP(メチダチオン)、マラチオンとつづきます。化管法統計で調べると、これらの中で、家庭で使用される農薬として多いのは、アセフェートとMEPでそれぞれ年間59.012、48.869トンでした。
 このほか、家庭での使用が多いのは、DDVPとMPPです。前者すでに農薬登録が失効し、後者の農薬使用は減少しています。とくに、DDVPはゴキブリ駆除などの防疫用殺虫剤としての用途が60トンを超えており、身の回りの有機リン剤として要注意です。

★ネオニコチノイドの出荷は420トンだが、輸出はその2.5倍
【参考サイト】有機農業ニュースクリップ:Top Page とネオニコ系農薬出荷量が減少傾向(2018.04.12 No.910)

 最近。出荷量が頭打ちになったものの、ネオニコは7成分合わせて年間420トン出荷されています。また、日本で原体が生産されているアセタミプリド、クロチアニジン、ジノテフランの3成分の合計輸出量は、前年の1200ト強ンから、1000トン弱減りましたが、それでも国内出荷量の2.5倍あります。日本で被害を起こしている農薬を海外に売り込むことにも歯止めが必要です。
 EUでは、2013年から、使用規制が実施されていたイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムの3成分が、ミツバチへの影響が明確になり、本年末までに、加盟国全域で、屋外使用について全面禁止となる予定です。
 日本では、あらたなネオニコ(フルピラジフロン、スルホキサフロル、トリフルメゾピリム)の登録や既存のネオニコの適用拡大(それも残留基準の緩和を伴った)がつづいています。さらに、農薬用途だけでなく、家庭用殺虫剤やシロアリ防除剤としての身の回りでの使用も増えており、わたしたちは、化管法の指定物質するよう求めていますが、所管省は重い腰をあげず、その使用量も不明なままです。

★その他の有害農薬はまだまだある
 有機カーバメートは前年よりさらに減少し、2016年には、13成分の合計が年250トンをきりました。NACは50トン前後であまりかわりませんが、BPMC,メソミルの減少率が大きいです。  ピレスロイド系とIGR系殺虫剤も減少傾向にあり、前者は年間160、後者は100トン前後で推移しています。神経毒性や魚毒性があるピレスの中で使用量が多いエトフェンプロックスは三井化学が開発した成分で、年間80トンと輸出用270トンが生産されています。また、農薬失効したテトラメトリンが30トン(うち20トンは家庭用殺虫剤)も使用されていることも見逃せません。
 IGRでは、日本農薬が製造している殺虫剤ブプロフェジンの出荷量が年間 60トンですが、輸出はその6倍近くの356トンです。EUでは、ブプロフェジンが残留した作物から、調理・加工時の加熱により有害なアニリンが発生することが懸念され、2017年に、食用作物への適用登録が失効しています。  フェニルピラゾール系の2種は、水稲に使われ、フィプロニルは育苗箱への適用により、赤トンボの減少につながっていますし(記事t30403など)、エチプロールはカメムシ駆除の空中散布などで、ミツバチに被害を与えています。フィプロニルは、ペット用動物薬の用途もあり、昨年、EUでは、鶏舎で違法使用され、卵に残留していて大きな問題となりました(記事t31405など)。  その他、住民の中毒が一番多い土壌くん蒸剤クロルピクリンは、年間6500トンも使用されています(記事t31303)。さらに、IRACの発がん性ランクがアップしたグリホサート(記事t28401)は農薬としてだけでなく、空き地、駐車場、運動施設、道路、鉄道などでも使われていますが、非農耕地用には、登録が不要で。出荷量が不明なだけでなく、周辺への周知もなく、散布されています。

★早急に再評価すべき農薬は山積み
 あわただしく成立した改定農薬取締法では、再評価制度が導入されて、15年を経た農薬で、出荷量が多い、ADIが低い、海外で問題になっている農薬などを優先的に再評価することになりましたが、個々の農薬を何時までに、どのように評価し、どのように使用規制するかの具体策はみえてきません(記事n00301参照)。  同制度が実施されているEU諸国では、表に#印をつけたように、すでに、有機リン剤等が使われなくなっています((記事t31601)。
 さらに、農薬だけでなく、身の回りで、それと同じ成分が使用されている製剤を含め、使用規制の強化を求める必要があります。

作成:2018-06-25