農薬の毒性・健康被害にもどる

n00305#ネオニコチノイドの人体汚染〜新生児の尿にも検出#18-06
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【参考サイト】日本環境化学会:Top Page第27回環境化学討論会とプログラム(2018年5月、那覇市市開催)
   1C-16 ネオニコチノイド系殺虫剤のヒト健康影響評価問題点の整理と今後の研究課題
     〇池中良徳1、一瀬貴大1、ニマコ コリンズ1、市川 剛2、水川葉月1、中山翔太1、有薗幸司3、石塚真由美1
        (1.北海道大学、2.獨協医科大学、3.熊本県立大学)

★8種のネオニコチノイド系農薬の検出
 記事n00304に、有機リン剤やネオニコチノイドなど神経毒性のある農薬の日本での出荷量の推移を示しましたが、これらの農薬が日本人の尿中に検出されていることも、大いに問題です。たとえば、2016年のてんとう虫情報の連載記事では、一般人人体被害との関連経年変化三歳児農薬散布者の検出状況を示しました。共通にいえることは、ネオニコチノイドでは、ジノテフランの濃度が高いこと、アセタミプリドは代謝物のデスメチル体として検出されることなどです。
 昨年の第25回環境化学討論会で、北海道大学の池中良徳さんらは、長野県の松くい虫対策のエコワン3フロアブル(チアクロプリド)散布地区などで、幼児46人の尿を分析した結果を報告しましたが、チアクロ以外のネオニコチノイドの濃度が高いことがわかりました(記事t31105)。今年、那覇市で開催された環境化学討論会では、この研究の続報が報告されました。

★新生児の尿にも検出〜アセタミプリド代謝物検出率87%
 池中さんらは、ネオニコチノイドが、『記憶・学習などの脳機能に及ぼす影響はじめ、毒性影響には不明な点が多いことなどから、健康に及ぼす懸念が払拭できていない。とりわけ、感受性が高いこどもたちや化学物質に過敏な人々の健康へのリスクを評価するためには、ネオニコチノイド農薬が体内にどの程度取り込まれているかを把握することがまず必要である。』として、幼児(3〜6歳)と新生児(生後48時間以内)の尿の分析を行いました。調査対象は、幼児46名、新生児47名で、農薬成分は8種です。幼児の場合の分析結果を下図に示します。

 右図は、検出されたネオニコチノイド成分数の月別比率ですが、多くの幼児で、2〜6 成分が検出されており、2〜4成分の複合汚染が目立ちます。左図は、尿中濃度をクレアチニン補正してμg/gCr単位でしめしたものです。ジノテフランの検出頻度48〜56%、最大濃度は72μg/L、アセタミプリドの代謝物デスメチル体の検出頻度83〜94%、最大濃度は18.7μg/Lでした。
 新生児については、アセタミプリドの代謝物デスメチル体 が分析した47 検体中41 検体で検出されました。出産後48時間以内の尿に検出されるのは、子宮内で母体経由のネオニコ汚染にさらされていることの証しであり、生まれてからも母乳経由の汚染にさらされる恐れが強いです。
 著者らは、暴露量を補正計算し、ジノテフランが最大136 μg/日に、アセタミプリドが43 μg/日であり、それぞれのADI に対し4%程度であるものの、クロチアニジンがマウスの実験では、無毒性量の9.7 mg/kg よりも低い5 mg/kg の投与で、不安用行動を引き起こす事などを挙げ、『幼児が複数のネオニコチノイドによって曝露されている現状を併せて考慮すると、幼児や新生児の曝露レベルは決して無視できる範囲に無く、より曝露量を減少させる必要がある。』と警告しています。

★ヒトへの毒性懸念される〜胎児期暴露と発達への影響
【参考サイト】ストレス科学研究:Top PageVol.32, p96-97,2017)
 西浜柚季子 (東京大学)
    胎児期ネオニコチノイド系農薬曝露と小児期の発達及び自閉症傾向との関連

 西浜さんらは、ネオニコチノイド系7成分とフロニカミドを対象とし、妊娠11〜12週の女性229 名の尿(2009-2011年採取。於昭和大学産婦人科)を分析しました。その結果は、下表のようで、アセタミプリド代謝物とジノテフランの濃度が高いと思われます。
 表  妊娠女性の尿中の農薬検出状況(N=229)
 農薬名     検出率(%)中央値(μg/L) 検出下限(LOD, μg/L)
 アセタミプリド    6     <LOD       0.01
   同上デスメチル体 64       0.16             0.09
 イミダクロプリド   0.4    <LOD       0.2
 クロチアニジン    34         <LOD             0.09
 ジノテフラン       78          0.35             0.06
 チアクロプリド    0     <LOD       0.07
 チアメトキサム   13     <LOD       0.2
 フロニカミド       39         <LOD             0.02
 これは、母体が、ネオニコチノイドに汚染されていることの結果です。登録された妊婦のネオニコチノイド汚染は妊娠11〜12週のもので、アセタミプリドのデスメチル体とジノテフランの検出がが続き、出生してからも母乳経由で新生児のネオニコ摂取があれば、脳・神経系などの発達にも影響がでる恐れは払拭できません。
 池中さんは尿中検出量とADIを比較して、ヒトへの影響を評価しましたが、西浜さんは、出生直後から,2 歳時点まで発育,発達に関する以下の追跡調査を実施しました。
  @出生時の身体測定データ(N=178)、A6 か月/12か月/18か月時点での発育データ、B18 か月時点で行った発達調査結果(N=125。保護者による発達一般の記入調査をもとにした発達指数)、C成育環境調査、D 24か月時点での自閉症スクリーニング検査(N= 107。保護者による記入調査)
 Dの調査では、2 歳時点での自閉症傾向が陽性となった児は107 名中5 名でした。
 胎児の発達段階への影響がどのように出現するかは、妊娠中のどの時期に、どんな科学物質に、どの程度さらされるかによると考えられます。  ネオニコチノイドに特化した西浜さんの研究では、上記の子どものデータをもとに、胎児期被曝と発達への影響の関連が調べられましたが、どのネオニコチノイドでも、自閉症傾向との間に関連性がみられなかったということです。  報告では、尿中ネオニコチノイド濃度の分布は示されておらず、疫学調査に要な統計的解析がないまま、結論として。『本研究対象者の低い曝露レベルであれば,妊娠期のNEOs 曝露は胎児の発育,出生後の児の発達や自閉症傾向に影響を及ぼさないことが示唆された。』となっていますが、報告末尾で『疫学調査の常として,1 つの調査結果だけで影響の有無を断ずることはできないので,今後も類似のデザインでの調査の積み重ねが必要である。』と記載されていますから、西浜研究では、母体のネオニコチノイド汚染と出生児の発達や自閉症傾向に影響を見出せなかった、ということになります。
作成:2018-06-25