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ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる

n00401#2017年度の農薬によるミツバチ被害は33件〜農水省の対策ではなくせない#18-07
【関連記事】記事t31101(2016年度)、記事t31403記事t31707
【参考サイト】農水省:平成29年度の農薬が原因の可能性がある蜜蜂被害事例報告件数及び都道府県による
             蜜蜂被害軽減対策の検証結果蜜蜂被害事例報告件数及び
               都道府県による蜜蜂被害軽減対策の検証結果
           通知;平成30年度の蜜蜂被害軽減対策の推進について(6/21)

 農水省は、2017年の農薬によるミツバチ被害調査結果を明らかにし、今年の対策を示しました。報告によると被害件数は、前年から3件増加し33件で、被害が発生した都道府数は、10→11→13と年々増えています。都道府県別の発生件数は下表のようでした。
   表 農薬が原因の可能性のある都道府県別のミツバチ被害報告件数

県名 2015年 16年 17年  県名 2015年 16年 17年 県名 2015年 16年 17年
北海道   29   13    13   静岡     0    0    0    岡山     0    0   0
青森      0   0      1     新潟     0    0     0     広島     0    0     0
岩手      3   1      2     富山     0    0     0     山口     0    0     0
宮城      0   0      0     石川     0    1     0     徳島     0    0     0
秋田      0   3      3     福井     0    0     0     香川     0    0     0
山形      0   0      0     岐阜     1    0     2     愛媛     0    0     0
福島      0   4      1   愛知     0    0     2    高知     0    0     0
茨城      0   0      0     三重     0    0     0     福岡     1    1     0
栃木      0   1      4     滋賀     0    0     1     佐賀     2    0     0
群馬      2   1      1     京都府   0    0     0     長崎     0    0     0
埼玉      0   0      0     大阪府   0    0     0     熊本     1    1     1
千葉      0   0      0     兵庫     0    0     0     大分     0    0     0
東京都    0   0      0   奈良     0    0     0    宮崎     4    1     1
神奈川    0   0      0     和歌山   5    0     0     鹿児島   0    0     1
山梨     0   0      0     鳥取     0    0     0     沖縄     0    0     0
長野      2   0      0     島根     0    3     0      計     50   30   33

 2017年は、北海道がトップで前年同様13件あり、ついで、栃木4、秋田3件とつづきます。北海道での発生が多いのは、かわらす、わたしたちは、すでに、道に対して、原因と考えられる斑点米カメムシ防除のネオニコチノイドなどの農薬散布をやめるよう求めましたが、北海道は、いままでと同じ対策で、十分だとしか答えません(記事t30701参照)。

★農水省は指導効果はどうだったか
 農水省は、都道府県が実施した対策を検証し、効果があったとする内容をあげていますが、2017年に対策効果があったとするのは46都道府県で、その内訳(重複回答あり)は、以下でした。
 ・情報の共有(提供)に基づく対策の実施(巣箱の移動、巣門の閉鎖、避難場所の設置、蜜蜂に配慮した農薬散布等):41都道府県(前年38)
 ・蜜蜂被害に関する知見、被害軽減対策等の周知(通知の発出、講習会での周知等):31都道府県(前年24)
 ・被害軽減のための体制の整備(協議会の設置、開催等):14都道府県(前年11)

 そのほか、『2016年度に被害が報告された30件のうち、4件で2017年度にも同一の場所で被害が報告されたが、 周辺で使用された農薬の情報等からは原因は特定できなかった。26件については、農薬散布時間を夕方に変更しその間巣門を閉鎖、農薬散布期間中の巣箱の退避、巣箱の設置場所の変更等の対策により、被害報告はなかった。』としています。

 そもそも、被害ゼロの都道府県が34あり、農水省は、指導内容が適切であったと主張する材料には困らないようですが、被害件数は減らなかったという実態をみると、もはや、その指導内容は限界にあるともいえます。  被害の多い5道県があげている対策の効果や課題、問題点の概要は以下のようでした。
【北海道】15-17年で被害数:55
 効果の検証:・地域別に対策会議を開催したことにより、農薬使用者、養蜂家の双方において、
        農薬による被害防止に対する意識が高まった
       ・農薬散布情報の提供の徹底により、農薬暴露が軽減された
       ・一部の養蜂家において避難場所を確保したことから、件数は昨年と変わらないが、
        被害規模の縮小傾向が認められた。
 課題や今後の改善:・避難場所や巣箱の退避のための労力の確保が困難、 ・使用農薬を特定すること
       ・個人による農薬散布情報の把握・放牧地の活用等の避難場所の確保の検討

【秋田】15-17年で被害数:6
 効果の検証:・県の養蜂担当者間で被害防止対策や被害が発生時の応について情報共有
       ・防止対策に関する取組事例や問題点について意見交換を行った
 課題や今後の改善:・養蜂業者が薬剤防除の事前情報を把握していたが、前年度対策なしで
                被害がなかったため、今年度被害回避の対策を取らず、被害を受けた。
        被害に対する養蜂業者や耕種農家の意識の改善が必要
       ・被害防止対策会議等において過去の蜜蜂事故の発生事例の紹介し、両者意識の改善を図る。

【岩手】15-17年で被害数:6
 効果の検証:・蜜蜂危被害を減らすためには、危被害防止対策の継続だけでは難しい
       ・水稲カメムシ防除回数が減少、または不要となるよう環境整備する
 課題や今後の改善:・農薬自体の散布を減らすなど、抜本的な対策のためには、農産物検査における
        着色粒規定の緩和なども一つの方法ではないかと考える

【福島】15-17年で被害数:5
 効果の検証:・行政経由での養蜂家への情報提供から、防除実施者による養蜂家への直接情報提供を実施し
        防除計画の情報共有が進んだ
 課題や今後の改善:・防除実施者から養蜂家への情報提供業務が増加した。
       ・防除情報の提供後、養蜂家によっては対策を実施しない事例がある。
       ・養蜂家と連絡が取れない事例がある。  ・個人防除の情報把握は困難である。
       ・行政を経由せず、直接情報提供で、一部の養蜂家からは情報提供の同意が得られず、
        不十分な点がある。この対策を講じた初年度であることから、対策の浸透を図ると共に、
        養蜂家から情報提供の同意を得られるような対応を進めていきたい

【栃木】15-17年で被害数:5
 効果の検証:・水稲農家及び養蜂家への注意喚起を促すことによる効果はある
  課題や今後の改善:・個人防除者への蜜蜂の飼育場所等の情報の伝達が困難。
              ・個人情報保護の観点から養蜂家の情報を提供することが困難。
              ・巣箱を水田の周辺から退避させるには、他に設置する場所がなく、実施困難
              ・個人防除者への情報提供方法を検討する。
 ほかに、都道府県から下記のようなコメントがあり、加害者である農薬使用者の責任に委ねられている内容が多いでした。
【散布情報・共有化など】
  青森、鹿児島:詳細な散布情報
  山形:防除時間帯の調整を行うなど、被害防止のための連携が図られている地域も見られる。
     県外の防除業者に防除を委託する実施主体の薬剤散布計画の把握及び
     養蜂家の転飼計画等の情報共有
     個人防除の場合の養蜂家と農薬使用者の効果的な情報共有方法
  千葉;詳細な蜂の飼育場所が分かりにくい/詳細な散布計画の情報収集に時間がかかる
  茨城:巣箱の移動先ない
  群馬、愛知、宮崎、島根:養蜂者の個人情報保護。飼育届のない養蜂者や個人養蜂者への情報提供困難
  長野:散布計画の伝達経路改善
  石川:個人防除農家の情報提供/粒剤の価格が高い
  愛知:個人養蜂者への情報提供
  滋賀:水稲カメムシ農薬以外の原因
  兵庫;散布情報を入手できる仕組の検討
  徳島:事前周知の効果あり
  長崎:被害報告の徹底
   大分:防除業者の事前広報の徹底
  静岡、岐阜、兵庫、奈良、島根、広島、愛媛、高知 鹿児島:共有化の効果あり
  
【無人航空機について】
  山形、静岡:防除計画の早期情報提供
  長野:巣箱の避難等の措置を行える時間的余裕をもって周知することが困難
  兵庫:転飼者等への情報提供は困難
   佐賀:予定変更の周知徹底
  熊本:情報を提供しても、巣箱の設置数が多く、移動が困難・養蜂家の要望に合う避難場所の確保
  香川:農業用ドローンの普及に伴い、新規に航空防除を行う業者等が増加しており、新規参入者への周知を要す
    航空防除新規参入者に対し、安全対策と併せて蜜蜂危害防止について情報提供を行う
  沖縄;石垣市無人航空機防除地区別協議会で、対策協議
  宮崎、大分、島根、山口:周知の効果あり
★農水省の2018年の通知も殆ど前年と同じ
【参考サイト】農水省:養蜂をめぐる情勢(2017/10)、施設園芸における花粉交配をめぐる情勢(2018/03)

 農薬使用規制を求めたのは、上述の赤字で示した岩手県(2005年夏、斑点米カメムシ防除のネオニコチノイドのクロチアニジン(ダントツ)散布で、ミツバチが被害を受けた最初の県-記事t17005)だけでした。
 斑点米カメムシ防除に農薬散布は必要だとの考えに固執している農水省は、発生年月も発生場所も具体的な農薬使用状況も明かさない被害報告とともに、6月21日に通知「平成30年度の蜜蜂被害軽減対策の推進について」(30消安第1970号、30生畜第518号)を発出しました。

 養蜂を管轄する農水省畜産局が毎年公表している「養蜂をめぐる情勢」では、ミツバチの飼育動向がわかります。これによると、養蜂振興法の改定により、業者だけでなく、一般の養蜂者にも届出が義務づけられた2013年に飼育戸数が8312となって以降、2017年までは、9300、9567、9452、9325戸と大きな変化はありませんし、蜂群数も21万群台で終始しています。養蜂用蜜源の面積は、2013年の14.8万haから減少傾向にあり2016年は12.1万haをきっています。養蜂業者は、蜜源を求めて、各地に転飼し、転飼群数は、2016年は県外転飼が14.2万群、県内転飼が17.3万群となっています。
 一方、今回の発表では、2016年のと同じく(記事t31101)、被害状況の詳細が不明な上、発生場所や発生年月の記載されていません。同年は、その後の報告で、記事t31707にあるように被害状況、発生年月が明らかにされ、30件の被害での被害箱数は1321でした。
 21万の蜂群のうち、被害は0.1%にも満たないという農水省の認識のせいでしょうか。本年のミチバチ被害防止対策の指導通知は、例年と殆ど同じで、特段の記述もなく。以下のように、現在の被害状況を是認するだけで、減らそうという本気度はみられません。
 『被害を軽減させるためには、例えば、以下の対策を実施することが有効であること
   が確認されたこと。
  ・農薬使用者と養蜂家の間の情報共有
  ・巣箱の設置場所の工夫・退避
  ・巣門の閉鎖(併せて日陰に設置するなどの対応が必要)
  ・農薬の使用の工夫(粒剤を使用する、蜜蜂の活動の盛んな時間の使用を避ける等
   平成29年度においても、農薬の関与が疑われる被害事例が報告されており、引き続き、
   農薬による蜜蜂の被害を軽減するため、下記の事項を貴管下の各(都道府県)に対し、
  周知・指導願いたい。』
 と、赤字部分が追加されましたが、記事t30101にあるように、以前から、挙げていることで、目新しい対策ではありません。それどころか、上述の「養蜂をめぐる情勢」などからは、蜂蜜などは輸入すればいい、花粉媒介用のハチ不足はないし、あれば、輸入に頼ればいいという考えが伺われます。要するに、畜産担当部署は、ミツバチを畜産物と考え、養蜂者を管理し、転飼を含め、限られた蜜源を行政の権限で、割り振っていこうという上から目線の政策をとっているだけで、その対策は、自然界の野生種には、当てはまりません。

★農薬の使用規制なくしてポリネーター被害はなくならない
 EUでは、ミツバチやポリネーターの生育に有害なフェニルピラゾール系フィプロニルの農薬登録は、昨年、失効し(記事t31405記事t31503)、さらに、記事t26106で報告したように2013年以来、暫定実施されている3種のネオニコチノイド(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム)の使用を、今年度中に、本格的に禁止しようとしています。にも拘わらず、日本の農水省は、どのような農薬がミチバチ被害の原因かには全く触れず、調査報告にも通知にもネオニコチノイドの”ネ”の字もでてきません、
 農水省は、農薬を直接被曝することが、養蜂ミツバチに被害を与えるとしていますが、ポリネーターが、直接被曝以外にも、花粉や花蜜などが残留した餌を巣への持ち帰り、それを食べることによる蜂群維持への影響評価を忘れてはなりません。
 次ぎに、二つの研究例をあげます。

★環境省の調査〜野生ハナバチから多くの農薬が検出された
【参考サイト】環境省:農薬小委員会第63回(5/15)にある
           平成29年度農薬の花粉媒介昆虫に対する環境影響調査の概要

 環境省の農薬小委員会で検討されたポリネーター調査からその一部を紹介します。
【急性毒性の試験】
 ・クロマルハナバチ成虫個体を用いて、イミダクロプリド、クロチアニジン及びフィプロニルを
  対象に毒性試験を行い、急性接触・経口毒性の半数致死量(48 時間 LD50)を算出し、
  報告されているセイヨウミツバチの 48 時間 LD50(中央値)とを比較した。
  その結果、クロチアニジンとフィプロニルでは両者の差は1〜3倍程度の範囲内であったが、
  イミダクロプリドの急性経口試験においては、クロマルハナバチの LD50 の方が 22 倍程度高い
  クロマルハナバチの方がセイヨウミツバチよりも感受性が低い)結果となった。
  他方、ニホンミツバチについては、イミダクロプリド、クロチアニジン、フィプロニルのほか、
  アセタミプリド、ジノテフラン、チアメトキサム等を対象に急性接触試験が行われており、
  48 時間 LD50 は、文献データから得られるセイヨウミツバチの値と比較すると 2.6〜29 倍程度低く、
  ニホンミツバチの方がセイヨウミツバチよりも感受性が高い結果であった。
 また、『野生ハチへの影響を評価する環境中予測濃度の場合は、評価地点を巣内と定義すると、ハチ個体が直接曝露する、あるいは花粉・花蜜を介して巣内に運び込む等の複雑かつ多様な曝露経路が想定される。』とし、圃場での実態調査を実施し、『野生ハチの農薬曝露の実態を把握するために、植物体への農薬残留、それらが巣へ持ち帰られた際の濃度及び営巣場所の周囲における土地利用状況を調査し、野生ハチの農薬曝露リスクについて考察した。』と、しています。
【訪花昆虫調査】
 ・神奈川県のナス圃場における訪花昆虫調査で。訪花していた昆虫は合計 14 種 37 個体が確認され、
  このうち 10 種 32 個体がハナバチ類であった。
【マルハナバチコロニーのナス圃場における調査】
 ・クロマルハナバチコロニーをナス圃場近傍に設置して、採餌された花粉の同定を行った。
    ナス圃場内に設置したコロニーであっても、ナス以外の植物から採集されたと見られる花粉が
    確認されたことから、圃場外からも採餌していることが示された。
【蜂蜜・花粉中の残留農薬調査】
  ・つくば市内の 7 地点で、ニホンミツバチ及びセイヨウミツバチの巣箱の蜂蜜・花粉を対象に
  16種類の農薬の残留濃度の調査を実施した(7地点のうち4地点の結果を図に示す)。


 地点により、農薬の使用状況や濃度が異なりますが、巣箱に餌として持ち込まれた農薬の実態がよくわかります。餌中の農薬が今後のコロニー維持に、どのような量でどのような影響を及ぼすかの研究結果が待たれます。

★亀田さんの研究〜成虫農薬濃度が高いほどコロニー異常が発生
【参考サイト】日本環境化学会:Top Page第27回環境化学討論会プログラム(2018年5月、那覇市開催)
 ・国内の蜂個体群におけるネオニコチノイド農薬の暴露状況と蜂の異常状態発生確率との関連性に関する研究
   ○亀田 豊1,藤田恵美子1,田中佳央里1(1 千葉工業大学)

 千葉工業大学の亀田さんの研究については、野生のハナバチや蜂蜜中のネオニコチノイドの分析報告がありますが(記事t31403記事t31508)、本年の環境化学討論会では、
 各地の養蜂家より得た成虫33 サンプル、野生成虫サンプル5 サンプルのネオニコチノイド系農薬(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム、ニテンピラムなど)の検出値とコロニー異常(大量死、大量逃去)の関連が調べられました。その結果の一部を図に示します。



 著者らは、異常確率と、成体中のネオニコチノイド濃度の関係から
 『ネオニコチノイドはすべての成体から検出され、海外の報告値よりも数倍から10 倍高い結果となった。
 さらに、残留濃度を階級別に整理したところ、チアメトキサムを除く各ネオニコチノイド及び合計濃度に関して、残留濃度とコロニーの異常状態発生確率に明らかな用量-反応関係が見られた。
 また、各ネオニコチノイド濃度間には統計学的に有意な関係性は見受けられなかった。これらのことから、今回収集されたサンプルではコロニーの異常状態はネオニコチノイドの影響を受けている可能性が高いことが明らかとなった。』としています。



作成:2017-07-27