ネオニコチノイド系農薬・斑点米関係にもどる

n00602#ネオニコチノイド農薬の水系汚染〜環境化学討論会の報告より (3)川崎市と大阪府の河川#18-09
【関連記事】記事n00402記事n00502
【参考サイト】日本環境化学会:Top Page
               第27回環境化学討論会とプログラム(2018年5月、那覇市開催)
 前号につづき、第27回環境化学討論会で報告された河川水汚染状況について、川崎市と大阪府及び環境省の2017年度調査結果を紹介します。

★川崎市〜多摩川水系での総濃度の最高は1月に500ng/Lを超える
・ 川崎市内水環境中におけるネオニコチノイド系殺虫剤の環境実態調査
     ○鈴木義浩1,藤田一樹2,財原宏一1,千室麻由子2,井上雄一
          (1 川崎市環境局環境総合研究所, 2 川崎市環境局環境対策部)

 川崎市環境総合研究所の鈴木さんらは、市内の河川5地点(多摩川水系3地点、鶴見川水系2地点)で、2017年6月から2018年2月まで月1回採水を行い、7種のネオニコチノイドとフィプロニルの調査がなされました。図1に、そのうち2地点での結果を示します。

図1 川崎市内河川水中のネオニコチノイド類

最も総濃度が高かったのは、@の多摩川水系
三沢川で、2018年1月に500ng/Lを超え、
イミダクロプリドが350ng/L、
フィプロニルが150ng/Lを占めていました。

次ぎに高いのは、Cの鶴見川水系麻生川で、
2017年7月に、290ng/L、そのうち250ng/Lが
ジノテフランでした。

他の3ヶ所(多摩川水系二ヶ領本川と平瀬川、
鶴見川水系矢上川)は、最も高い総濃度が
55〜110ng/Lでした。


 今後、各地点の農薬別濃度の違いや採水時期の違いなどの原因を追究する必要があるとされています。

★大阪府〜河川水の最大検出値は、9月に1800ng/Lを超える
【参考サイト】農業環境技術研究所:Top Page 技術マニュアルの頁
           農薬の生態リスク評価のための種の感受性分布(SSD)解析PDF版マニュアル

・大阪府内における河川水中ネオニコチノイド系農薬濃度の実態調査
      ○大山浩司,矢吹芳教,伊藤耕二,大福高史、伴野有彩
      (地方独立行政法人大阪府立環境農林水産総合研究所)

 大阪府では公衆衛生研究所が実施してきた水道水源となる河川水のネオニコチノイド濃度の調査を紹介しましたが(記事t30003参照)、今回は、府立環境農林水産総合研究所の大山さんらが実施したネオニコチノイド7種とフィプロニルの調査結果の報告です。
 河川水の採取地点は、図3に○番号で示した14個所で、2017年6、9月、12月と2018年3月に行われました。

 月別の農薬総検出濃度の傾向をみると、6月は地点Mが560ng/Lであったほかは、13地点で250ng/L以下、9月は地点Hで1900ng/L、地点Mで1750ng/L、その他5地点で500ng/Lを超えました。12月に500ng/Lを超えたのは地点Mだけで、残り13地点は100ng/L以下、3月の採取では、地点Mが130ng/Lを超えました。図3には、一番高かった9月と、低かった3月の全地点の総農薬濃度をしめしましたが、地点Mが通年にわたり、高い傾向にありました。
 ニテンピラムは全測定点で検出されず、田植え時期の育苗箱剤として使用されたイミダクロプリドが稲作地域FからMで目立ちました。ジノテフランは、斑点米カメムシ用殺虫剤として夏場に使用されるためか、9月に高い濃度で検出されています。
 クロチアニジンは、地点Bで通年検出されていますが、上流部にあるゴルフ場で使用される農薬の影響がでているのではないかと推測されています。

 研究者らは、『大阪府内の河川水中ネオニコチノイド系農薬濃度を調査ところ、採水地点周辺の作付けに応じた農薬が高い濃度になることが示唆された。また、SSD (水産動植物の種の感受性分布によるリスク評価手法)による解析を行ったところ、今回の調査河川においてはネオニコチノイド系農薬による生態系への影響が懸念される状況でないことが分った』としています。



★環境省の2017年度調査結果〜12農薬の分析で、水田除草剤の検出濃度が高い
【参考サイト】環境省:中央環境審議会土壌農薬部会農薬小委員会
            第64回議事次第・資料平成29年度河川中農薬モニタリング調査結果について

 環境省は、毎年、対象農薬を決め、河川水の調査を実施していますが、7月の第64回中央環境審議会土壌農薬部会農薬小委員会で公表された2017年度の結果を紹介します。
 河川の採取は、対象農薬の使用時期の直前から開始し、使用最盛期にはできるだけ高頻度に、その後は1〜2週間おきに濃度が十分下がるまで調査を行うこととされており、 今回は、6道府県(北海道、茨城県、埼玉県、長野県、大阪府、奈良県)で、表1のような農薬が検出され。その最大濃度の検出範囲を示しました。水田除草剤の検出濃度が高いことがわかりますが、いずれも、水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準や水質汚濁に係る農薬登録保留基準を超えるものは、ありませんでした。
  表1 環境省の2017年度の河川水中の農薬分析結果 (単位:ng/L)

 農薬名        採水個所(数)   最大濃度         農薬名         採水個所(数)   最大濃度 
                      検出範囲                        検出範囲
 【殺虫剤】                       【水稲用除草剤】
 BPMC           奈良県(3)    1040〜1700         キノクラミン(ACN)  大阪府(4)   70〜210
 PAP        北海道(1)    <40              テニルクロール      大阪府(4)     <40
 アクリナトリン     長野県(1)    <0.5            ブタクロール            大阪府(4)      190〜370
 クロチアニジン     埼玉県(1)     124                                     奈良県(3)       16〜96
 シラフルオフェン   奈良県(3)     <40             プレチラクロール       茨城県(3)      1100〜2440
 チアメトキサム     埼玉県(4)        21〜83                       埼玉県(1)         2.22
 トラロメトリン        長野県(1)        <0.5                           大阪府(4)        90〜580
                                                                       奈良県(3)       100〜500
                                                          ブロモブチド            大阪府(4)      5500〜15300 
★まとめにかえて〜複合汚染の影響は?
 3回の連載で、ネオニコチノイド系殺虫剤等の河川水中の濃度調査結果を報告しました。
 使用成分、使用場所や使用時期により検出濃度は違いますが、農薬散布の多い夏場の水系に複数の成分が高い濃度で検出される状況は全国共通です。とくに、水田で多用されるジノテフランを筆頭に、イミダクロプリド、クロチアニジンがこれつづきます。また、水系での代謝物も見出されており、下水処理場では、流入水よりも放流水の濃度が高くなっており、処理場で浄化されにくいことを物語っています。

 水田や畑や果樹や森林などの農耕地で農薬が使用される場合は、環境省の設定した水質汚濁に係る農薬登録保留基準(以下、水質保留基準という)及び水産動植物の被害防止に係る農薬登録保留基準(以下、水産保留基準という)を超えないことが求められます。

 表2にネオニコチノイド類などの両登録保留基準と、水質保留基準のもとになるヒトに対するADI(一日摂取許容量)を示しました。一般に水産動植物は、ヒトよりも感受性が強く、影響を受けやすいため、水産保留基準以下の多い実測汚染レベルでは、ヒトへの影響は少ないというのが、研究者の言い分です。  しかし、水産生物についての影響評価は、単成分についてであり、複数のネオニコチノイド類やその他の農薬が検出される場合にあてはまるとはいえません。ちなみに、ヒトが飲用する水道水の場合は、監視項目農薬の評価値は水質保留基準とほぼ同じですが、単成分だけでなく、全農薬濃度で評価されますし、EUの水道基準は、単成分で100ng/L、総農薬成分で500ng/Lとなっています。  河川水の総ネオニコチノイド系濃度が、水産動植物やこれらを餌とする両生類、魚介類、野鳥類などを含む生態系全体へ及ぼす影響の評価はなされていないといっても過言ではありません。
 また、環境省は、河川・湖沼水だけでなく、底質中にもネオニコチノイド類を検出しており、これらが長期にわたって残留する実態を報告しており、(記事t28802記事t30403など参照)、底質中の農薬の水生生物への影響も懸念されます。

 もう一つ問題なのは、農薬以外にも身の回りでネオニコチノイド類やフィプロニルが使用されていることです。
 シロアリ防除剤、ヒアリや外来毒アリ駆除剤、家庭用殺虫剤、不快害虫用殺虫剤、ペット用動物薬などは、法規制がなく、フィプロニル以外は化管法の指定物質でないため、その用途別使用量は全く不明です。これらが、河川水を汚染し、下水処理場へも流入している可能性は、都市部の水系で、冬場にも検出されることと無関係ではないでしょう。特に、フィプロニルが多摩川支流で、1月に、水産基準を6倍以上の150ng/Lも検出されたのは異常です。わたしたちは、記事t31202で、フィプロニルはやめるべきだとしていますが、規制のすすむEUでは、すでに、フィプロニルの農薬登録は昨年失効しました。さらに、今年末には、ミツバチの大量死を惹き起こすイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムの開放系での全面使用禁止が実施されます。  水生生物への影響として問題となっている事例に、アメリカワシントン州や五大湖周辺で使用されるネオニコチノイドがあります。前者においては、養殖カキの生育に被害を与える甲殻類のシュリンプを駆除するため海浜で散布されるイミダクロプリド剤が、他の水産生物等への影響がが懸念され、使用規制のターゲットになっています。

 日本でも農薬に限らず、ネオニコチノイド類の水質や底質の汚染源をきちんと解明し、使用規制につなげるべきです。
  表2 ネオニコチノイドなどの登録保留基準とADI

       水質汚濁に係る     水産動植物の被害防止に係る  ADI
 農薬名     農薬登録保留基準      農薬登録保留基準       mg/kg体重/日

 アセタミプリド 0.18mg/L(=180000ng/L) 2.5μg/L(=2500ng/L)     0.071
 イミダクロプリド0.15    (=150000)   1.9     (=1900)        0.057
 クロチアニジン 0.25    (=25000)    2.8     (=2800)        0.07
 ジノテフラン  0.58    (=58000)   12      (=12000)         0.22
 チアクロプリド 0.3     (=30000)    3.6     (=3600)            0.012
 チアメトキサム 0.047   (=47000)    3.5     (=3500)           0.018
 ニテンピラム  1.4   (=1400000)   11      (=11000)	    0.53
 エチプロール  0.01    (=10000)   19      (=19000)            0.005
 フィプロニル  0.00050   (=500)    0.024    (=24)            0.00019
 

作成:2018-09-30