食品汚染・残留農薬にもどる

n00902#茨城県JA鉾田出荷のホウレンソウにフェニトロチオン4.4ppm残留していた#18-12
【関連記事】記事t31507(2017年の事例)、記事n00705
【参考サイト】茨城県:鉾田市産「ホウレンソウ」の残留農薬基準違反について(12/21)
 12月21日に、茨城県がプレスリリースをだし、同県鉾田市の農家が、JAほこたを通じて出荷したホウレンソウに有機リン剤MEP(フェニトロチオン)が4.4ppmという高濃度で検出され、鉾田保健所長が20日に回収命令を出したことを公表しました。
 
★発端は、名古屋市での収去検査で残留基準の22倍検出
 ホウレンソウの残留基準は0.2ppmですが、愛知県食品衛生検査所が、12月11日に、名古屋市中央卸売市場内のゼントライ青果株式会社から収去検査したところ、MEPが残留基準0.2ppmの22倍にあたる4.4ppm検出されました。
 当該ホウレンソウは、茨城県のJAほこたが12月10日に出荷(8箱−1箱あたり 200 g×25袋入り)したもので、連絡を受けた鉾田保健所と鹿行農林事務所が,12月20日に、当該生産者に対し食品衛生法及び農薬取締法に基づく立入検査を実施し,出荷状況等を把握するとともに農薬の不適正使用を確認したということです。プレスリリースには下記の写真がでています(生産者氏名個所は事務局でぼかしをいれた)。



★生産者は農薬取締法違反〜使用時期を守らず
 茨城県に問い合わせた結果、使用農薬は日農スミチオン乳剤(登録番号5042、MEP50%含有)であることがわかりました。この製剤のホウレンソウの適用登録は、アブラムシ類には希釈倍率1000〜2000倍、ホウレンソウケナガコナダニには2000倍で、いずれも収穫21日前までに2回以下の散布となっています。
 県の立入検査の結果、生産者は21日前以降に使用していたことがわかり、それ以外は法令違反を確認できなかったため、高残留の原因は収穫前日数の不足とのことでした。ただし、当該生産者は、今回のケースで。省令第九条(帳簿の記載)に基づき、農薬使用履歴をただしく記載しておらず、詳細は、やぶの中です。ともかく、県は、食品衛生法だけでなく、農薬取締法違反であることを認めており、後者によると、罰則は『三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する』となります。

 県は、「ほこた農業協同組合」は,収去品と同一ロット及びそれ以外で疑いのあるホウレンソウの出荷先17社(出荷数量:1717箱)に対し,すみやかに自主回収を開始しており、今後は,県において当該品の流通先を管轄する自治体を通じて回収状況の確認を行うと、していますが、出荷は10都府県に及び、27日17時現在,流通先については調査中とのことです。
 また、『27日17時現在,健康被害報告やクレームはありません。』、さらに、今後の対策として、『本事案を含めた農薬不適正使用について実例をあげながら,ラベル表示事項を守ること,農薬使用記録を正しくつけること等,農薬の適正使用の徹底について,当該生産者,生産者の所属する団体,それ以外の県内農薬使用者に対し,個別指導や講習会,チラシ等により指導をしてまいります。』と、しています。

★目立つ鉾田市でのホウレンソウ残留基準違反
 鉾田市産のホウレンソウについては、昨年11月にも残留基準違反が発覚しています(記事t31507参照)。この時は、
  ・横浜市の11月1日の収去検査で、茨城県鉾田市のつくえ農園で生産されたホウレンソウに、
   MEPが1.3ppm)検出された。
  ・鉾田市の鉾田ゆうきは、11月1日、自主検査の結果、出荷したホウレンソウに、殺虫剤ルフェヌロンが、
   0.1ppm 検出(一律基準0.01ppm )検出されたとして、回収報告を県に提出した。
 であり、MEPは、1.3ppmでしたが、今回は、これを超える4.4ppm検出されており、昨年からの県の指導が、十分であったと思えません。また、今年の出荷元のJAほこたの責任も問われます。同農協は、農業を支えるサポートとして、営農指導を実施しており、HPには『種まきから収穫まで確かな農業を営んでいけるようサポートをしています。各農産物別に部会があり、農家ネットワークで生育のコツや注意など様々な情報を共有することができます。−以下略−』とあります。また、そのフェイスブックの12月3日にはホウレン草の展示会の模様が写真いりで掲載されています。組合員である当該生産者に、どのような指導していたのか疑問です。

★県は安全だというが
【参考サイト】三省堂「農薬毒性の事典・第3版」:MEPの毒性解説

 茨城県は MEP4.4ppmの残留について、『体重 60kgの人の場合,今回,当該農薬が 4.40ppm 検出された「ホウレンソウ」に当てはめると,毎日一生涯,約 67g を食べ続けた場合に該当します。このことから,通常の食生活において当該「ホウレンソウ」を摂食したとしても,健康に影響を及ぼすことは考えられません。』とし、『人間や家畜,鳥などの温血動物に対して影響が少なく,害虫に対して選択的な効果を示す。』と主張しています。

 通常、厚労省は、ある農薬のADI(MEPの場合は、0.0049mg/kg体重/日)が決まれば、残留基準に一人当たりの食品別摂食量を乗じて 理論最大一日摂取量=TMDI=柏H品別の残留基準×当該食品の摂取量/平均体重を求め、 ADI×0.8 > TMDI を安全性の目安にしています。  この時の国民全体平均体重は55.1kgで、ホウレンソウの一人当たりの一日摂食量は国民平均で12.8g(幼小児では、5.9g)です。すなはち、生涯にわたり、毎日、約6-13gのホウレンソウを食べると仮定するわけですが、わたしたちは、1回に食べる量はもっと多く、県が、いう1回の食事で、67gを食べる人は相当数いると思います。毎日、食べないにしろ、ホウレンソウだけで、ADIを超えるような食事をしたくありません。
 ちなみに、有機リン剤であるMEPは、神経伝達物質のアセチルコリンを分解する酵素アセチルコリンエステラーゼの活性を阻害し、正常な神経伝達機能を妨げます。程度の差はありますが、ヒトにも虫にも作用します。MEPのヒトの中毒症状は、軽症でも、食欲不振,胸部圧迫感,発汗,流涎,悪心,嘔吐,腹痛,下痢,倦怠感,不安感,頭痛,めまい,軽度の縮瞳、などがあるとされています(農薬中毒の症状と治療法」参照)。

★残留基準の高い農薬は基準違反になりにくいのか
【関連記事】記事t27604記事t28606記事t29804記事n00203
【参考サイト】農水省:国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査結果について
   ホウレンソウは2012年度2013年度2014年度

 農水省は、毎年、国産農作物の残留実態を調査しています。ホウレンソウについて、下表に2012-14年の3年間の結果をまとめました。なお、2015と16年度はホウレンソウの調査はなされていません。
 約30種の農薬が調査対象になっており、農薬によって、検体数も違いますし、定量限界(0.01〜0.03ppmが多い)も農薬により異なっており、検出数ゼロといっても残留には幅があります。表には検出範囲と残留基準を示しましたが、ホウレンソウで残留基準を超えたものはありませんでした。それでも、赤字で示した農薬が検出されています。

 目立つ農薬は、ネオニコチノイド系で、EUで禁止になったイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムだけでなく、ジノテフランやアセタミプリドも最大で、6.2ppm(イミダクロプリド)検出されています。これらは、残留基準が高いので、違反の摘発は殆どありません。ネオニコチノイドはヒトの尿中にも検出されており(記事t29805記事n00305など参照)、わたしたちが取り込んでいることは間違いありません。回収命令がだされないからといって、安心できないわけです。
 一般に、作物中の農薬の残留量は、散布の際の希釈濃度が高い/使用回数が多い/使用時期が収穫直前まで可能である場合に、高くなります。そのため、農薬を散布する場合、容器ラベルにあるこれら適用事項を守っていれば、残留基準を超えることがないといわれています。
 農薬メーカーは、希釈倍率を高めたり、散布回数を減らしたり、収穫前の使用時期を長くすれば、残留量が少なくなることがわかっているのに、残留試験データで得た出来るだけ高い値を、残留基準として認めさせようとし、その意図を汲んだ農水省、厚労省、食品安全委員会は残留基準を高く設定することになっています。それに、輪をかけるように、農薬使用者が不適性な散布行い、残留基準超えがなくなりません。
 農水省の調査では、ホウレンソウのフェニトロチオン=MEPは、3年間に7検体の分析で、全て検出されずでした。鉾田の違反事例で、残留量が高かったのは、使用時期が収穫21日までなのに、収穫間際に使用したとされ、基準が中程度の0.2ppmであったため、残留量が公表され。食品衛生法違反で回収につながったのがせめてもの幸いです。これは、たまたま、見つかったというレベルのことです。
 いずれにせよ、残留基準違反事例が少ないだけでは、安全の証しとはならず、残留量そのものを減らすことを、目標にすべきです。そのためには、残留基準を低く設定すること、国や自治体の公的機関が分析で得た実際の検出値を公表することがが不可欠です。
 表 ホウレンソウの残留農薬調査(農水省;2012-2014年度結果)

   農薬名     検出数   検出範囲  残留基準    農薬名     検出数   検出範囲  残留基準
           /検体数  ppm    ppm                      /検体数  ppm    ppm

   アセタミプリド    2/ 9    0.08-0.12    3         スピノサド       1/11     0.02       10
   アセフェート     0/ 1     −      6         ダイアジノン     1/57     0.04        0.1
   アラクロール     0/16      −         0.01      チアメトキサム   2/ 7    0.04-0.09   10
   イソキサチオン   0/ 3      −     0.1       テフルトリン     3/14    0.02-0.06    0.5
   イプロジオン     0/ 1      −     5         テフルベンズロン 2/ 4    0.07-0.66    5
   イミダクロプリド 26/57    0.02-6.2   15         トルクロホスメチル0/ 2      −         2
   カズサホス       0/ 3     −      0.1       フェニトロチオン  0/ 7      −         0.2
   キャプタン       0/21     −      5         フェントエート    0/ 4      −         0.1
   クロチアニジン    4/ 7    0.11-0.33    3*        フルフェノクスロン56/89   0.02-3.7    10
   クロルフェナピル 0/ 2      −         3         ペルメトリン    0/ 8      −   2
   シアゾファミド   14/41    0.02-3.2    25         マラチオン        0/ 4      −   2
   ジクロルボス     0/ 2      −         0.1       メソミル          2/36    0.03-0.08    5
   ジノテフラン    10/17    0.006-3.2   15         メタミドホス      0/ 1      −         0.5
   シペルメトリン    7/53    0.1-0.56     2         メタラキシル系   1/22     0.03        2
   シメコナゾール    0/ 2      −         0.1       レナシル          0/23      −         0.3

  :クロチアニジンの残留基準は、反対運動にも拘らず、2015年40ppmに緩和されました。その経緯は、↓の囲み記事をごらんください。

*** 囲み記事: クロチアニジンの残留基準40ppmへの緩和経緯 *** 

   【関連記事】記事t28101記事t28202記事t28603記事t29301
     農薬ミニノートシリーズ 4:農薬も一緒に食べる?〜クロチアニジン残留基準の大幅緩和

   ・2009年のパブコメ:ホウレンソウ3ppmについての反対意見
     残留試験で、散布3日後の最大残留値は1.21ppmであるが、14日後は最大残留値は0.48ppmである
 
   ・2013年のパブコメ:ホウレンソウ40ppmについての反対意見
     残留試験2事例では、4回散布で、最大残留値は27.0ppmとされている。
     農薬評価書4版にある残留試験6事例では、4回散布で、散布3日後の最大残留値は27.3ppmであるが、
     散布2回で、散布3日後の最大残留値は0.78ppmである。
     ホウレンソウは離乳食のような加工食品にも使用されている。
     このような高い基準を設定すれば、乳児のクロチアニジン摂取量が増大する恐れがある。

   ・2015年のパブコメ:ホウレンソウ40ppmについての反対意見
     残留値27.3ppmとなった農薬残留試験は、0.5%クロチアニジン粒剤を、
     6kg/10aで、は種時1 回土壌混和し、その後、16%クロチアニジン水溶剤を 
     2000倍希釈した液を 200L/10a 、3回散布した事例である。この条件は、
     下記登録申請要件にある4000倍希釈よりも2倍高濃度である。

      登録申請要件にあるクロチアニジン製剤のホウレンソウのアブラムシへの適用条件
     製剤名         希釈倍率 使用量   使用時期   使用回数
     16%クロチアニジン水溶剤 4000 倍 100〜300L/10a 収穫前日まで  3回以内
     0.5%クロチアニジン粒剤      6kg/10a   は種時     1 回
      総使用回数は、4 回以内(は種時の土壌混和は1 回以内、散布は3 回以内)
     すなはち、残留試験は、残留量を多くするために、登録要件より高い濃度で
     意図的にデザイン・実施されており、そこで得られた最大残留量を無批判に
     受け容れ、約1.5倍して、残留基準を40ppmとしたのが貴省である
     −以下略−

   ・厚労省の2015/05/19の残留基準告示;40ppmとなる。

     反農薬東京グループの替え歌の頁にあるほうれんそう40(YouTube 動画)


作成:2018-12-30