残留農薬・食品汚染にもどる
n01002#東京都健康安全研究センターの2016年度農作物残留農薬調査報告(1)国産農作物中の残留農薬#19-01
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【参考サイト】東京都健康安全研究センター:研究年報の頁 68号(2017)
国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査(平成28年度)
東京都健康安全研究センターが実施した2016年4月から17年3月にかけての農作物(都内入手)残留農薬調査結果を、センター年報68号から紹介します。今号は国産農作物についてです。
残留分析の対象となった作物は22種80検体で、分析農薬は代謝分解物を含め有機リン系92、カーバメート系26、有機塩素系39、ピレスロイド系16、ネオニコチノイド系その他の含窒素系ほか123、合計296成分でした。
★残留農薬検出率は63%
17種の作物50検体から39種の農薬が痕跡〜620ppb検出されました。検出率は63%で、前年より1%減りました。検出された農薬の種類の内訳は,有機リン系4種類,有機塩素系4種類,カーバメート系3種類,ピレスロイド系6種類,ネオニコチノイドなど含窒素系及びその他の農薬22種類で、残留基準や一律基準(0.01ppm=10ppb)を超えたものはありませんでした。
【農薬類】成分別に検出された検体数の多い農薬のワーストテンは表1のようで、ネオニコ系が目立っており。なかでも、ジノテフランは全作物80検体の18.8%に見出されています。
報告では、ネオニコチノイドについて、国産では、ジノテフランが多く検出される理由として、『ジノテフランは人畜毒性が低く,光,植物体中及び土壌中において容易に代謝される、また,他のネオニコチノイド系農薬と同等の殺虫性能を有しながら,他のネオニコチノイド系農薬とは異なる物性及び作用機作を持っており,既存の農薬に対する抵抗性を獲得した病害虫を駆除するために今後も使用の増加が予想される。』としていますが、水系汚染濃度が高い(記事n00602など参照)や人の尿中での検出率や濃度が高いことは(記事n00305など参照)、問題です。、
表1 検出数の多い農薬成分 (検出値単位:ppb)
農薬名 検出数 検出率 検出作物 最大検出値
% 種類数 :作物名
ジノテフラン 15 18.8 7種 310:キュウリ
プロシミドン 11 13.8 3 240:キュウ)
ボスカリド 10 12.5 6 80:トマト
イミダクロプリド 8 10.0 5 130:ホウレンソウ
クレゾキシムメチル6 7.5 3 30:日本ナシ
アセタミプリド 5 6.3 4 60:ピーマン
クロルフェナピル 5 6.3 3 30:キュウリ
ニテンピラム 5 6.3 4 260:ネギ
トリフルミゾール 4 5.0 3 60:キュウリ
DMTP 4 5.0 2 410:ミカン
表2と表3には、農薬が検出された作物と検出数及び最大検出値を示しました。検体数が1の作物に複数の農薬が記載されているものや○番号がついている作物は、同一検体での複合汚染を意味します。
【野菜類】野菜15種のうちアスパラガス、ブロッコリー、ニンジン、レンコンでは、全ての農薬が検出限界以下でしたが、全体の検出率は前年より2%高い57%、殺虫剤14成分、殺菌剤11成分がTr(痕跡)〜600ppb(キュウリのイプロジオン)見出されました。分析検体が5検体以上で、検出率が高かったのは、キュウリとホウレンソウ100%、トマト71%。キャベツ50%などです。
キュウリでは、6種類の殺虫剤がTr〜310ppb(ジノテフラン)及び8種類の殺菌剤がTr〜600 ppb(イプロジオン)検出され、1検体に4種類以上の農薬が検出されたのは、キュウリEが4農薬 キュウリFが5農薬、キュウリIが6農薬でした。
ホウレンソウは5検体に4種の農薬が検出されましたが、複合汚染はホウレンソウCの3農薬が最大で、ホウレンソウ@が2農薬ありました。もっとも高濃度だったのは、検出率60%のイミダクロプリド130で、クロチアニジン70、ジノテフラン50各ppbとつづきました。成分は違いますがネオニコチノイド系農薬が5検体すべてに検出されていることが注目されます。
トマトは7検体中5検体に、4種類の殺虫剤がTr〜110ppb(ジノテフラン),7種類の殺菌剤がTr〜80 ppb(ボスカリド)が検出され、5検体すべてから同時に複数の農薬が見出されました。特にトマトCは7農薬も残留していました。
報告では、『トマトは,雨に濡れると実割れや病害菌の伝播がおこるため雨よけが必要であり,年間を通してハウス栽培を行っている地域もある.ハウス栽培はハウス内が適温に保たれるうえに,空気が循環しにくく,病害虫が発生しやすい.このため,農薬も多く使用され複数の農薬が作物に残留した可能性が考えられた』と考察されています。
キャベツは12作物中6作物(50%)から2種類の殺虫剤がTrのほか、殺菌剤プロシミドンがTr〜30 ppb検出されました。キャベツの菌核病や黒すす病対策に適用されるプロシミドンについて、報告書では、今回検出された作物はすべて同一産地のものだと指摘し、、『これらの病原菌は土壌に残り次作以降も感染するおそれがあるので,プロシミドン等の殺菌剤を継続して使用する可能性がある.また,他の生産地域でも病害虫の発生状況によって,今後特定の農薬が多用される可能性がある』としています。
ピーマンは3検体すべてに、ナスは4検体中3検体に、ネオニコチノイド系殺虫剤がTr〜240ppb(ピーマンのニテンピラム)が見出されました。
サツマイモ3検体中1検体にクロルピリホスがTr検出されましたが、報告では、『過去の調査においても,クロルピリホスはサツマイモから頻繁に検出されている.クロルピリホスは土壌吸着性が高く,作物が生育中長く土と接触するため,作物の皮に低濃度ではあるが,残留していたのではないか』との考察がみられました。
表2 2016年度の国産野菜の残留調査結果(単位;ppb) 表3 2016年度の国産果実の残留調査結果
作物名 検出数 農薬名と最大残留値(ppb) 作物名 検出数 農薬名と最大残留値(ppb)
/検体数 /検体数 ()は果肉で、他は全果
キャベツA 1/12 ジノテフラン:Tr キウイ 1/1 イプロジオン:620,DMTP:80)
キャベツ@B 2/12 チアメトキサム:Tr モモ 1/1 アセタミプリド:30,ブプロフェジン:Tr,
キャベツ@ABほか 6/12 プロシミドン:30 クロルピリホス:40,テブコナゾール:120(Tr),
キュウリA 1/10 アセタミプリド:Tr チアクロプリド:Tr
キュウリH 1/10 ジェトフェンカルブ:Tr ブドウ 1/1 クロルフェナピル:Tr,フェンブコナゾール:40,
キュウリI 1/10 キャプタン:190 イミダクロプリド:40,テブコナゾール:20
キュウリE 1/10 トリフルミゾール:60 リンゴ@A 2/2 クレゾキシムメチル:Tr
キュウリI 1/10 ニテンピラム:90 リンゴ@ 1/2 チアクロプリド:60(50),ビフェントリン:20,r
キュウリ@ 1/10 ブプロフェジン:Tr ピラクロストロビン:Tr,ホスカリド:40(Tr)
キュウリI 1/10 ペルメトリン:10 リンゴA 1/2 キャプタン:20,ジノテフラン:Tr,
キュウリF 1/10 ボスカリド:70 トリフロキシストロビン:Tr
キュウリCI 2/10 イプロジオン:600 日本ナシ@ 1/4 シラフルオフェン:Tr
キュウリDE 2/10 アゾキシストロビン:40 日本ナシ@ 1/4 チオジカルブ:Tr
キュウリBEF 3/10 メタラキシル:20 日本ナシB 1/4 ピラクロストロビン:40
キュウリFGH 3/10 クロルフェナピル:30 日本ナシ@ 1/4 フェンブコナゾール:Tr
キュウリ@FHI 4/10 プロシミドン:240 日本ナシB 1/4 フェンプロパトリン:10
キュウリBEFGI 5/10 ジノテフラン:310 日本ナシB 1/4 ペルメトリン:40
サツマイモ 1/ 3 クロルピリホス:Tr 日本ナシ@ 1/4 メソミル:20(10)
ジャガイモ 1/ 4 イミダクロプリド:Tr 日本ナシ@AB 3/4 ボスカリド:70
ジャガイモ 1/ 4 アセフェート:Tr 日本ナシ@AC 3/4 クレゾキシムメチル:30
ダイコン 1/ 8 ボスカリド:Tr 日本ナシAC 2/4 アセタミプリド:20(20)
トマトA 1/ 7 フロニカミド:10 日本ナシ@C 2/4 ジノテフラン:80(50)
トマトB 1/ 7 ジフェノコナゾール:Tr ミカン@ 1/3 クレゾキシムメチル:20
トマトC 1/ 7 アゾキシストロビン:Tr ミカン@ 1/3 PAP:250
トマトC 1/ 7 クロルフェナピル:Tr ミカン@ 1/3 ピリダベン:Tr
トマトC 1/ 7 ジェトフェンカルブ:20 ミカンA 1/3 ビフェントリン:20
トマトC 1/ 7 ピラクロストロビン:Tr ミカンB 1/3 シラフルオフェン:40
トマト@D 2/ 7 ニテンピラム:10 ミカン@AB1/3 DMTP:410
トマトCD 2/ 7 ペンチオピラド:20
トマト@BC 3/ 7 ジノテフラン:110
トマト@AC 3/ 7 ボスカリド:80
ナス@ 1/ 4 クロチアニジン:40 表4 複合残留の状況
ナスA 1/ 4 ジノテフラン:40,テブフェンピラド:Tr
ナスB 1/ 4 イミダクロプリド:Tr 複合検出 作物種類別検出数
ネギ 1/ 1 ニテンピラム:260 農薬数 野菜 果実 合計
ハクサイ 1/ 1 フロニカミド:40,イミダクロプリド:Tr 1 18 0 18
ピーマン@ 1/ 4 チアメトキサム:Tr 2 11 3 14
ピーマンA 1/ 4 アセタミプリド:60 3 3 2 5
ピーマンB 1/ 4 ボスカリド:Tr,ニテンピラム:240, 4 3 4 7
トリフルミゾール:50 5 1 2 3
ホウレンソウ@ 1/ 5 テフルトリン:10 6 1 0 1
ホウレンソウC 1/ 5 クロチアニジン:70 7 1 1 2
ホウレンソウ@C 2/ 5 ジノテフラン:50 合計 38 12 50
ホウレンソウABCD3/ 5 イミダクロプリド:130
【果実類】果実7種13検体で、農薬が検出されなかったのは、スイカの1検体のみで、92%の検出率でした。殺虫剤17成分がTr〜410 ppb(ミカンのDMTP)、殺菌剤8成分がTr〜620ppb(キウイのイプロジオン)見出されました。検出された全検体が2種以上の農薬が残留しており、果肉から、アセタミプリド、ジノテフラン、テブコナゾール、チアクロプリド、ボスカリド、メソミルらが、移行検出されたものがありました。なお、メソミルは、チオジカルブの分解物に由来すると考えられています。
リンゴでは、2検体から3種類の殺虫剤がTr〜60ppb(チアクロプリド)、4種類の殺菌剤がTr〜40ppb(ボスカリド)検出され.ボスカリドやチアクロプリドは果肉にも残留していました。
日本ナシは4検体すべてに農薬が検出され、そのうち日本ナシ@には、クレゾキシムメチル30、ジノテフラン20、メソミル20各ppbのほか、シラフルオフェン、チオジカルブ、フェンブコナゾール、ホスカリド各Trの7成分が残留していました。
ミカンは3検体に、5種類の殺虫剤がTr〜410ppb、殺菌剤クレソキシムメチルが20ppb検出され、そのうちDMTPは3検体すべてに見出され、検出範囲は80〜410ppbでした。
モモ、ブドウとキウイはそれぞれ1検体の分析しかありませんが、モモには、アクリナトリン30, クロルピリホス40,テブコナゾール120各ppbとチアクロプリドTr、ブプロフェジンTrの5成分、ブドウには4成分が、キウイには2成分が複合残留していました。
★複合汚染は果実やハウス栽培野菜に注意
複数の農薬が検出される事例が多くみられたのも例年通りで、表4に、複合残留の状況を示しました。検出検体の複合残留率は果実が100%、野菜が52.6%です。
4種以上の農薬が検出された検体は、キュウリE、キュウリF、キュウリI、トマト@、トマトC、ピーマンB、、モモ、ブドウ、リンゴ@、リンゴA、、日本ナシ@、日本ナシB、ミカン@でした。
7農薬が検出されたのは上記の日本ナシ@とトマトCで、後者は、ジェトフェンカルブ20、ジノテフラン40、ペンチオピラド20、ボスカリド40各ppbとアゾキシストロビン、クロルフェナピル、ピラクロストロビン各Trでした。
複合汚染について、報告では『複数の農薬の残留が多かったキュウリ及びピーマンについて検査作物の収穫時期を調査したところ,検査作物の収穫時期を調査したところ,夏までに収穫された作物では1作物から1〜2種類の農薬が検出された程度だったが,秋・冬に収穫された作物では1作物から2〜7種類の農薬が同時に検出されていた.このように作物を収穫した季節によって農薬の検出率に違いがみられたのは,気候や栽培方法など作物の生育環境の影響によるものと推察された.夏に収穫される作物は主に露地栽培によるものが多いが,秋冬に収穫される作物はビニールハウスによるハウス栽培が主だと推察される』と考察されています。
また、果実については、『果実は見た目と味により商品価値が左右されるため病害は深刻に受け止められる.そのため,多種類の農薬が併用され,病害虫の予防及び病勢抑制に使用されたと考えられた』との見解がしめされています。
作成:2019-01-28