農薬の毒性・健康被害にもどる
n01101#農水省、2017年度の農薬事故公表〜集団中毒は3件で19人#19-02
【関連記事】記事31706(2016年事故)、記事n01105.htm7(ミツバチ被害)
【参考サイト】農水省:2017年度農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況にある被害詳細と平成25〜29年度推移
農水省は、2月6日、平成29年度 農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況についての調査結果を発表しました。この調査は、2017年4月から18年3月までの、人の中毒事故、農作物・家畜等の被害を都道府県の農政部署から集めて、まとめたものです。ほかにも、農薬散布車による車両事故死があることを忘れてはなりません(記事n00204参照)。
★人身事故件数は21だが、被害人数は38人
2017年度の事故等の統計は、表1に示しました。人の中毒件数は前年より2件増えた21件ですが、中毒者数は、誤飲死亡の1人を加え、15人増の38人(散布者8人、通園・学校8人、クロピク:住民7人)でした。人の中毒の詳細は、次節の表2に示します。そのほか、農作物被害3件、魚介類被害13件、蜜蜂被害が33件あり、家畜・カイコ被害と物損はそれぞれゼロでした。
【農作物被害】 報告のあった3件は、いずれも、水稲被害で、畔や遊歩道ほかに散布した除草剤の飛散によるものでした。昨年、JR九州による鉄道除草でも。福岡県で大豆畑に影響がでました(n00802参照)。不思議なのは、農水省が、農薬の適用違反使用で、残留基準が超えて、販売できなくなった作物を被害としてカウントしないことです。
【魚類被害】前年より、8件も多い13件の魚類の斃死被害がありました。報告には、原因として不要となった農薬の水路や河川への廃棄4件、河川や魚体から農薬が検出された9件とありますが、肝心の農薬名の記載がありません。農薬名をあげると、メーカーの販売に影響をあたえることを忖度しているのでしょうか。
【ミツバチ被害】ミツバチ被害33件については、記事n01105にまとめましたので、参照ください。
表1 2017年度の農薬中毒・危被害件数(農水省公表)
区分 17年 前年件数 被害対象 17年 前年件数 被害対象 17年 前年件数
件数(人数) 増減 件数 増減 件数 増減
死亡 散布中 0( 0) 0 農作物 3 -1 自動車 0 0
誤用 1( 1) +1 家畜 0 0 建築物 0 0
小計 1( 1) +1 カイコ 0 0 その他 0 -1
中毒 散布中 10(22) +1 魚類 13 +6 小計 0 -1
誤用 10(15) 0 小計 16 +5
小計 20(37) +1 蜜蜂 33* +3
計 21(38) +2 * 本誌 てんとう虫情報
★人の死亡・中毒事故
表2に、農薬による人の中毒事故の詳細を示します。といっても、発生場所や原因農薬名は明らかにされていません。
死亡事故は誤飲による1人で、2018年2月に、『認知症の方が物置にある農薬を飲料と間違えて飲用』と記載されています。このような死亡事故は、氷山の一角であることは、後述の厚労省の統計で、農薬死者が年間200台であることからもわかります。
2017年度で、特徴的だったのは、表中、赤字で示した集団的中毒です。これらが、3件のため、中毒者数が前年より増えた一因になっていると思われます。
【農水省の集団中毒事例】
・2017/06:土壌くん蒸剤クロルピクリンの使用に際して、被覆をしなかったため、
蒸散した刺激性ガスが近隣住民に被害を与えた例です。子どもから高齢者まで、
7人の方が、眼の痛み、涙がでる、嘔吐などの症状を示しました。
農薬危害防止運動でも、毎年のように、注意喚起されていますが、『住宅地等が
風下になる場合には、土壌くん蒸剤の使用を控える/住宅地等の周辺では高温期の
処理を避ける/土壌くん蒸剤を使用した際は被覆を完全に行う/適正な厚さの
被覆資材を用いる/特に、土壌くん蒸剤の使用前には、改めてラベルの記載事項を
確認し、記載事項を遵守する』との指導だけでは、事故を防げません。使用規制
を厳しくすべきです。
・2017/08:とあるペンションでの出来事です。調製した農薬希釈液をタンク内で保管ていたところ、
合宿来ていた生徒が水道水と間違えてスポーツドリンクの粉の希釈に用い、6人の生徒が
飲んだということです。現場では、いったいどんな管理をしていたのでしょう。
・2017/09:上記2個所は、どこの県かもわかりませんが、この事例は、本誌記事でも
とりあげた埼玉県加須市の不動岡小学校での事例で、体育の授業中に、有機リン剤
ディプテレクス散布されたため、受動被曝した学童6名が、のどの痛み、咳、手のしびれなど
を訴えました。詳しくは 記事t31402をごらんください。
散布者の中毒が9件、誤飲事故も6件とあとを絶ちません。受動被曝の4件(表中*印)には、上述のほか、桜への散布で、通園中の親子が、建設現場近くの農薬散布で、現場作業者あびた事例もありました。特に、後者は、縮瞳、意識障害も起こした重症例ですが、原因農薬は不明です。
農薬中毒となった原因で多かったのは、表2に記したように、マスク・メガネ・服装等装備不十分と保管管理不良や泥酔等による誤飲誤食が各6件でした。
表2 2017年度の人の農薬事故 (農水省詳細報告資料より作成)
原因略号 a:マスク、メガネ、服装等装備不十分 6件 e:保管管理不良や泥酔等による誤飲誤食 6件
b:使用時に注意怠り、本人曝露 1 f:防除機の故障、操作ミスによるもの 1
c:散布農薬の飛散によるもの 2 g:その他 2
d:農薬使用後の作業管理不良 1 h:原因不明 2
発生月 中毒程度 被害数 中毒発生時の状況/症状 原因
H29年4月 中軽症 1 散布液調整時/装備せず、両目痛み、嘔気 a
H29年5月 中軽症 1 散布時被曝/眼瞼から前胸部浮腫性紅斑、両前腕緊満性水泡 a
H29年5月 軽傷 1 散布時被曝/なし a
H29年5月 中軽傷 1 散布中の農園に立入、散布液被曝/発熱 g
H29年6月 不明 7* 土壌くん蒸剤クロルピクリン使用時に被覆しない/
近隣住民に眼の痛み、涙が出る、嘔吐など d
H29年6月 不明 1 ペットボトルに移し替えたものを誤飲/喉の違和感、嘔気 e
H29年6月 重傷 1* 建設現場近くでの農薬散布で、現場作業者が被曝/気分不良、
嘔気、腹痛、縮瞳、意識障害等 h
H29年7月 軽傷 1 誤飲/嘔吐、下痢 e
H29年8月 中軽症 1 散布時被曝/嘔気 a
H29年8月 不明 1 散布中防除器具のホースが外れ、両眼に暴露/なし f
H29年8月 軽傷 2* 桜散布の農薬が飛散。通園中の親子被曝/不整脈 c
H29年8月 軽傷 6 ペンションで調製保管の散布液を、合宿の生徒が
水道水の間違えて、スポーツドリンクを希釈飲用/不明 e
H29年8月 軽傷 1 ペットボトルに移し替えた農薬を誤飲/嘔気 e
H29年8月 軽傷 1 飲料と誤飲/なし e
H29年9月 軽傷 1 散布中被曝/異常行動、顔面打撲、嘔吐 a
H29年9月 軽傷 6* 学校内で防除業者が樹木に散布、窓をあけていた授業中
の生徒が被曝/咳、気分不良 (記事t31402) c
H29年10月 軽傷 1 不注意により原液を顔面にあびる/眼の違和感、充血 g
H29年12月 軽傷 1 2種の農薬を混用使用/気分不良 b
H30年2月 死亡 1 物置にあった農薬を誤飲/全身倦怠感 e
H30年2月 軽傷 1 農薬の服用?/嘔吐 h
H30年3月 中軽症 1 散布中被曝/手,顔,体幹、四肢に湿疹、両手〜前腕に褐色結節 a
★厚労省の人口動態統計や科学警察研究所資料では、農薬死者は年200人台
【関連記事】記事t31302(2015年の統計)
厚労省の人口動態統計には、農薬による死者数の項目があります。農薬名はわかりませんが、農薬の種類にわけて死者数がでており、直近の2016年は。表3のように242人となっています。
また、科学警察研究所の資料は、東京都を管轄する警視庁の統計はありませんが、道府県の死者ごとに自殺等に使用したり、体内に検出された農薬が列挙されており、総数は206人です。いずれも、除草剤によるものが一番多くみられます。
表3 農薬による死者数(2016年)
厚労省の人口動態統計 科学警察研究所資料*
男 女 合計 前年増減 (東京都を除く人数)
農薬合計 134 108 242 -62 206
殺虫剤リン 45 33 78 -29 66
塩素 - 1 1 - 1
その他 2 2 4 - 3 26
除草剤 51 48 99 - 1 90
殺鼠剤 - - - 1
その他の農薬 1 2 3 - 3 24
不明 35 22 57 -24 *石灰硫黄合剤を用いた硫化水素中毒を除く
作成:2019-01-28