環境汚染にもどる

n01103#水道水中の農薬検出状況と監視項目対象農薬と目標値変更#19-02
【関連記事】記事t30103(2016/09/05から10/07募集のパブコメ)

 水道水中の農薬について、厚労省は、検査義務のある水道基準でなく、水質管理目標設定項目として、総農薬方式(個々の農薬の検出値と目標値の比率の総和が1を超えないとされる)で管理しています。現在120種の対象農薬の管理目標値を設定しているものの、個々の農薬がその目標値を超えたからといって、ただちに、給水制限となるわけではありません。厚労省が主導しているのは、分析対象の農薬とその目標値を決めることです。

★2017年度:対象農薬が目標値は原案通り
【参考サイト】厚労省:2017年度の水道水中における農薬類の目標値等見直し(案)」に関する御意見募集について 見直し案 新旧対照表
      反農薬東京グループの意見厚労省の回答

 2017年度には、「2,4―D、イソキサチオン、シアナジンの目標値強化/プロチオホスの分析にオキソン体を合算/ジチアノンジとメピペレートを対象農薬からその他農薬類に変更して、原案通り施行されただけです。
 わたしたちは、以下の農薬を対象農薬とするようパブコメ意見を述べましたが、『今後も内閣府食品安全委員会の食品健康影響評価等の最新の科学的知見を踏まえ、逐次、目標値等の見直しを行うこととしています。』との回答しかありませんでした。
  (1)クロルピクリン、(2)イミダクロプリド、(3)ジノテフラン、(4)クロチアニジン、
  (5)チフルザミド、(6)テブコナゾール、(7)ピリミノバックメチル、(8)フラメトピル、
  (9)エチプロール
★水道水中の農薬汚染状況はどうか〜2015、16年の調査結果より
【参考サイト】厚労省:水質基準逐次改正検討会 平成30年度第1回;議事録資料
           内閣府食品安全委員会における評価の概要にある農薬項目
           農薬類の分類の現状と課題について(平成29年度第1回検討会資料)
           農薬類の分類の見直しに関する検討状況について農薬類の水質検査データ(2015/2016年度)
           水環境学会誌:全国の水道事業を対象とした農薬の測定計画と検出状況の関連解析
                  小坂浩司、浅見真理、 佐々木万紀子、松井佳彦、秋葉道宏(Vol.40, No.3, pp.125-133(2017))

 2018年度に実施される改定の前に、11月開催の平成30年度第1回水質基準逐次改正検討会の資料水道水の農薬汚染状況に関する調査結果概略を紹介します。これらば、管理目標値が設定されている対象農薬120種にかかわるもので、前節にあげたネオニコチノイドほかは、分析されていません。
【農薬類の対目標値超過等の状況】
 全国の水道事業体の2015と16年度の報告をまとめたもので、給水栓水における、農薬類の検出値の対目標値超過等の状況がしめされています。具体的には、対象農薬リストにある118農薬ごとに、全国の調査地点における年間の最高値が目標値の何パーセント値超過したかを下のように、6つの区分にわけ、該当地点数がでています(詳細は表2参照)。
 表1 対象農薬検出状況    数値左が2015年度、右が2016年度の件数

 対目標値超 0/0、対50%値超 0/0、対10%値超 5/2、対5%値超 5/2、対2%値超 7/3、対1%値超 16/4 合計 33/11
 調査された水道事業体はどこかわかりませんし、採水時期も不明です。対象農薬の目標値はCNPの0.0001mg/Lからグリホサートの2mg/Lの幅があり、実測値が公表されれば、明確になるのですが、ともかく、表からわかることは、農薬ごとの目標値を50%以上超えたケースは認められなかったし、目標値の1%以下検出された数は不明だということになります。

★118農薬中36種が検出されたが、実測値は不明
 目標値の1%を超えて検出された農薬は、36種で延べ222検体でした。
 区分別での検出地点数の多い農薬は、下記のようで,農薬別では、ダイアジノンがもっもと多い27個所、ついでジクワット23個所、アセフェート18個所でした。
 【対10%値超〜50%の検出地点数】43:アセフェート17、ジクワット22、ジチアノン/ダイアジノン/DEP/MPP各1

 【対5%値超〜10%の検出地点数】29:MCPA/ピペロホス11、プレチラクロール2、
  イミノクタジン酢酸塩/ジクワット/ジチオカルバメー ト系農薬/DEP/パラコート各1

 【対2%値超〜5%の検出地点数】38:イソフェンホス13、ピリダフェンチオン11、ホスチアゼート/ジチオカーバ系農薬各3、
  カズサホス2、ジメタメトリン /テルブカルブ/DEP/BPMC/プロモブチド/メフェナセット各1

 【対1%値超〜2%の検出地点数】112:ダイアジノン26、EPN16、クロルピリホス12、アニロホス11、
  アミトラズ/ダラポン (DPA)10、ピラクロニル/DEP各5、ブタクロール4、ブロモブチド2、
  D-D/アセフェート/イソキサチオン/インダノファン/オキシン銅/カズサホス/カフェンストロール/ピラゾキシフェン/ピロキロン/
  ベンフレセート/ホスチアゼート各1
 表2に、農薬別検出地点数を示しました。118種の対象農薬ごとに、年間の調査地点数は異なり、2015と16年の年間では、173(2016年のジチアノン)〜708(2015年のダイアジノン)と幅がありました。なお、検出地点数区分が赤斜体になっているのは、10%値超〜50%になっている農薬です。
 さらに、有機リン剤を赤字で示しましたが、EPN、アセフェート、クロルピリホス、フェニトロチオン、ダイアジノン、トリクロルホンほかが目立ち、さらに、除草剤パラコート、ジクッワトなども検出されています。こられの中には、登録失効後5年以上たった農薬も検出されていますし、対象農薬でないネオニコチノイド系は、分析報告すらありません。また、前述のように目標値に幅があり、実測値が不明なため、目標値が高いものは、たとえ検出されても、1%を超えないとして、報告にはでてきません。。
 表2 農薬別の検出状況(検出地点数;目標値の1%以上の濃度で検出された地点数)

農薬名        目標値 検出地点数      農薬名       目標値  検出地点数
                  (mg/L)
D−D         0.05   対1%値超〜2%: 1    ジチオカーバメート系
DPA(ダラポン) 0.08   対1%値超〜2%:10                0.005  対2%値超〜5%:3/5%値超〜10%: 1
EPN       0.004  対1%値超〜2%:16       ジメタメトリン    0.02    対2%値超〜5%: 1
MCPA       0.005  対5%値超〜10%:11      ダイアジノン   0.003  対1%値超〜2%:26/10%値超〜50%:1
アセフェート     0.006   対1%値超〜2%: 1/     テルブカルブ(MBPMC)0.02  対2%値超〜5%: 1
              10%値超〜50%:17       トリクロルホン(DEP)0.005  対1%超〜2%: 5/2%値超〜5%: 1/
アニロホス      0.003   対1%値超〜2%:11                     5%値超〜10%: 1/10%値超〜50%: 1
アミトラズ        0.006  対1%値超〜2%:10       パラコート    0.005    対5%値超〜10%: 1
イソキサチオン    0.008   対1%値超〜2%: 1       ピペロホス    0.0009  対5%値超〜10%:11
イソフェンホス    0.001   対2%値超〜5%:13       ピラクロニル   0.01    対1%値超〜2%: 5
イミノクタジン酢酸塩0.006 対5%値超〜10%: 1      ピラゾキシフェン 0.004   対1%値超〜2%: 1
インダノファン    0.009   対1%値超〜2%: 1       ピリダフェンチオン0.002   対2%値超〜5%:11
オキシン銅       0.03     対1%値超〜2%: 1       ピロキロン      0.05     対1%値超〜2%: 1
カズサホス        0.0006  対1%値超〜2%: 1/     フェノブカルブ(BPMC)0.03   対2%値超〜5%: 1
                           2%値超〜5%: 2         フェンチオン(MPP) 0.006   対10%値超〜50%: 1
カフェンストロール0.008   対1%値超〜2%: 1       ブタクロール      0.03   対1%値超〜2%: 4
クロルピリホス    0.003   対1%値超〜2%:12       プレチラクロール  0.05    対5%値超〜10%: 2
ジクワット        0.005   対5%値超〜10%:1/     ブロモブチド      0.1     対1%値超〜2%: 2/2%値超〜5%: 1
                           10%値超〜50%:22      ベンフレセート    0.07    対1%値超〜2%: 1
ジチアノン       0.03    対10%値超〜50%: 1     ホスチアゼート    0.003    対1%値超〜2%: 1/2%値超〜5%: 3
                                                  メフェナセット    0.02    対2%値超〜5%: 1
★複合汚染も否定できない
 2015年は28事業体の、2016年は12事業体の水道水中に目標値の1%を超える農薬が検出されたとの水道統計があります。表3に、同一水道事業体で、複数の農薬が検出された事例を示しました。採水時期が不明のため、必ずしも、同時に検出されたとは、いいいきれませんが、その可能性は否定できません。一番多くの農薬が検出されたのは、ア事業体で、8種の報告があります。農薬名が赤字のところは、対目標値が10%超〜50%のものです。
 また、表にはしめしませんでしたが、1種の農薬を対目標値の1%を超えて検出した事業体の数は、2015年18、2016年7ありました。
 表3 事業体別の検出農薬数と農薬名 (事業体名:アルファベットは2016年、カタカナは2015年調査)

農薬数  事業体           検出農薬 
8種    ア事業体(A系統)  ダイアジノンジクワット、D−D、エスプロカルブ、ジスルホトン、チオベンカルブ、
              メフェナセット、モリネート 
8種    ア事業体(B系統)  フェンチオンジクワット、ダイアジノン、ジクロルボス、エチルチオメトン、
              チオベンカルブ、メフェナセット、モリネート 
7種    ア事業体(他4系統)ジクワット、ダイアジノン、エスプロカルブ、ジスルホトン、チオベンカルブ、
                            メフェナセット、モリネート
7種    イ事業体(6系統)  アセフェートジクワット、ダイアジノン、クロロタロニル、ジウロン、トリフルラリン、
                            メチダチオン        
6種    ウ事業体(A系統)  イソフェンホス、クロルピリホス、チウラム、ペンシクロン、ペンディメタリン、MCPP        
4種    A事業体(ア系統)  ブロモブチド,ホスチアゼート、ブタクロール、プロピコナゾール
4種    ウ事業体(B系統)  イソフェンホス、クロルピリホス、チウラム、ペンシクロン
4種    エ事業体        ダイアジノン、イソプロチオラン、イプロベンホス、ダイムロン
3種    オ事業体            ダイアジノン、シメトリン、メフェナセット
2種    A事業体(イ系統)  ホスチアゼート、カズサホス
2種    B事業体            カフェンストロール、ブロモブチド
2種    C事業体        ピラクロニル,ブタクロール
2種    D事業体            ブタクロール,ピラクロニル
2種    E事業体            トリクロルホン、シハロポップエチル
2種    F事業体            トリクロルホン、トリフルラリン
2種    カ事業体(2系統)  ピラクロニル、ブタクロール
2種    キ事業体            カズサホス、ブロモブチド
2種    ク事業体            ジメタメトリン、ベンフレセート
 複数の農薬の場合、先述のように総農薬方式で評価されますが、1農薬でも目標値を超えれば、安全目安を超えますし、たとえ、個々の農薬が目標値の10%であっても、10成分が複合検出されてもだめです。しかも対象農薬120にはいっていないネオニコチノイド系の汚染などは、評価の外にあるわけです。

 水道水の農薬濃度は、水源流域で使用される農薬の種類とその使用時期の影響をうけることはいうまでもありません。しかし、一律的に対象農薬を現状のように分析するだけでは、人の健康への影響を防止するには、あまりに、心もとないといえます。
 個々の農薬の目標値のほとんどは、ADI×0.1×平均体重(成人約55kg)÷一日摂取量2L として算出されています。
 わたしたちは、このようなADIベースの総農薬方式ではなく、水道水の農薬規制をEUの個別農薬で100ng/L、総農薬で500ng/L以下にするよう、ずっと、求めていますが、実現しません。
 【グリホサートを例にして】除草剤グリホサートは、2015年、IARCが発がん分類のランクを2A(ヒトに対して恐らく発がん性がある)に強化しました(記事t28401参照)。その後、欧米各国では、使用規制の動きがすすんでいます。日本では、登録農薬のほか、農耕地には使えないとして同一成分の除草剤が製造・販売され、空き地や道路など身近で使用されています(記事n00803参照)。
 グリホサートは、ADIが1mg/kg体重/日と高いため、水道水管理目標値は2mg/Lと対象農薬の中で一番高くなっています。したがって、分析しても、対目標値1%=0.02mg/Lでは、検出されないのが現実です。EUの目標は、100ng/L=0.0001mg/Lですから、日本の方が、2万倍も緩いわけで、たとえ、目標値の0.01%=0.0002mg/Lでも、EUの目標を超えてしまいます。厚労省の報告をみて、安心だとはいえません。

★2018年度の見直し案へのパブコメ意見
【参考サイト】2018年度の「水道水中における農薬類の目標値等見直し(案)」に関する御意見募集について 見直し案新旧対照表

 水質基準逐次改正検討会を経て、厚労省は、農薬類について、対象農薬や目標値の見直しを、毎年のように実施していますが、パブコメ意見募集として、提示された2018年度の改定案の概要は以下のようです。
   ・目標値の見直し
    「カルバリル(NAC)」の目標値を、現行の「0.05mg/L」から「0.02mg/L」に改める。
    「プロベナゾール」の目標値を、現行の「0.05mg/L」から「0.03mg/L」に改める。
    「メタラキシル」の目標値を、現行の「0.06mg/L」から「0.2mg/L」に改める。
   ・対象農薬の削除
    「エディフェンホス(エジフェンホス、EDDP)」、「エトリジアゾール(エクロメゾール)」、「カルプロパミド」及び「メチルダイムロン」
   ・「オリサストロビン」について、代謝物である(5Z)-オリサストロビンの濃度も測定、「注4」として追加
【反農薬東京グループのパブコメ意見】
 厚労省の見直し案に対し、反農薬東京グループは5項目の意見を述べました。そのうち、いくつかの概要を以下に示しします(パブコメ意見全文)。
【意見1】水道水や原水の農薬汚染状況の調査が不十分である。残留実態調査の実施をを強化し、
   残留基準設定に反映さすべきである。
    今後、水道事象者による農薬分析件数を増やすとともに、目標値をもっと低くして、
   国民の水道水からの農薬の摂取量を減らすべきである。
  [理由] −略−

【意見2】 −略−

【意見3】下記農薬は、食品安全委員会が設定したADIをもとに、目標値が設定されているが、わたしたちは、
   EU並に単独農薬で100ng/L=0.0001mg/L、総農薬で500ng/L=0.0005mg/Lを求めている。残留実態にみあうよう
   もっと、低値にすべきである。
  [総合的理由]EUの水道水の農薬基準は、日本のように個々の農薬で目標値が設定されていないが、
   上記数値は、日本の目標値よりも低いケースがほとんどである。
   東京オリンピック・パラリンピックを前に、食品については、GAPなどの認定者が少なく、
   国産品の多くはGAP基準をクリアできないことが、問題となっている。水道水中の農薬についても、
   【意見1】の [理由]2に示した222検体のほとんどは、EU基準を超える。外国から来るひとに、
   安心して、水道水を飲んでもらえなくなる。
 
 以下については、個別 [理由]を示す

 (1)カルバリルについて
  [理由]1.ADI0.0073mg/kg体重/日をもとに、0.05→0.02mg/L と強化されたが、残留実態調査で
    は0.0005mg/Lを超えていない。
   2.ラットの発がん性試験で、膀胱、肝臓、甲状腺及び腎臓、マウスでは、肝臓、腎臓及び血管
    (主に肝臓及び脾臓)に腫瘍の増加又は増加傾向が認められ、非遺伝毒性メカニズムとされているが、
    出来るだけ摂取量をさげるべきで、目標値も低くすべきである。

 (2)プロベナゾールについて
  [理由]1、ADI0.01 mg/kg体重/日をもとに、0.05→0.03mg/Lに強化されたが。残留実態調査では
    0.0005mg/Lを超えていない。
   2、ラットの発生毒性試験で。胸骨核等の骨化遅延及び胸腺頸部残留が認められ、胎児の発育遅延に
    起因するものと考えられているが、出来るだけ摂取量をさげるべきである。また、代謝物のひとつに
    サッカリンがあるが、食品添加物・甘味剤としての使用による摂取との関連性が検討されていない。

 (3)メタラキシルについて
  [理由]ADI0.08mg/kg体重/日もとに、0.2mg/Lに緩和されたが、残留実態調査では0.0006 mg/Lを超えていない。


【意見4】オリサストロビン目標値を、代謝物である(5Z)-オリサストロビンの濃度も測 定し、
  原体と合算することには賛成だが、現行目標値を0.1mg/Lを低値に見直すべきである。
 
  [理由]1、現行目標値0.1mg/Lは、ADI0.052mg/kg体重/日をもとにしているが、残留実態調査では。
    0.001mg/Lを超えていない。
   2、発がん性試験では、十二指腸(ラット、マウス)及び甲状腺(ラット)で腫瘍が認められたが、
    いずれも発生機序は非遺伝毒性メカニズムと評価されいるが、出来るだけ摂取量をさげるべきで、
    目標値もひくくすべきである。


【意見5】下記の農薬は、登録失効したことを理由に、対象農薬か除外されたが、回収状況が確認された時点で、
  削除すべきである。
   (1)エジフェンホス(EDDP)登録失効:2013/02/19、
   (2)エクロメゾール 登録失効:2012/01/01、
   (3)カルプロパミド 登録失効:2017/04/26
   (4)メチルダイムロン 登録失効:2005/07/14。

  [理由]1、農薬取締法では、登録失効したり、最終有効年月をすぎた農薬の回収義務はなく、
    農薬の販売の禁止を定める省令で指定されていない農薬を使用しないことは努力規定で、
    使用しても罰則は適用されないため、使用が継続される危険がある。

   2、特に、2018年の農薬取締法改定で、3年ごとの再登録制度がなくなっため、メーカーの都合で、
    登録が継続することになる。
厚労省:2018年12月の農薬目標値等見直しのパブコメ結果(3/13の第20回厚生科学審議会生活環境水道部会資料より)

作成:2019-02-28、更新:2019-03-13