残留農薬・食品汚染にもどる

n01202#東京都健康安全研究センターの2016年度農作物残留農薬調査報告(3)輸入農作物中の残留農薬 (その2)柑橘類#19-03
【関連記事】記事n01002(2016年度国産品)、記事n01102(2016年度輸入野菜類など)、記事t31904(2015年度輸入柑橘類)
【参考サイト】東京都健康安全研究センター:研究年報の頁 68号(2017)
        輸入農産物中の残留農薬実態調査(平成28年度−果実類)

 前号につづき、東京都健康安全研究センターの年報68号から輸入果実20種157検体について残留農薬実態調査の結果を3回にわけて、紹介します。何らかの農薬が検出されたのは、18種107検体(検出率68%)です。296の農薬やその代謝物のうち59種類の農薬が痕跡(10ppb未満)〜3000ppb)検出され、その種類別内訳は、下表のようで、残留基準や一律基準を超えたものはありませんでした。
 表1  検出された農薬の種類別数
   有機リン系殺虫剤        10種   含窒素系及びその他の殺菌剤 24種
   カルバメート系殺虫剤      2種    含窒素系及びその他の除草剤  3種
   ピレスロイド系殺虫剤       7種    有機塩素系農薬              5種
   含窒素系及びその他の殺虫剤 8種 
★柑橘類は食品添加物・防黴剤の残留が多い
 本号では、5種類46検体の柑橘類の検出状況を表2に示しました。24種の農薬が見出され、総検出検体数は180ありました。
 検出数が多い順にみると、食品添加物防黴剤イマザリルが45検体、TBZ(チアベンダゾール)が41検体で、全46検体のうち南アフリカ産レモンを除くすべてからイマザリル又はTBZもしくは両方が痕跡〜3000 ppb(オーストラリア産オレンジのTBZ)検出され,いずれも基準値の1/2以下でした。果肉8検体から,イマザリル又はTBZが痕跡〜750ppb検出されています。
 クロルピリホスは4種19検体で検出され、検出率が100%だったのはチリ産レモン、最大検出値ははアメリカ産オレンジの260ppbでしたが、果肉には見出されませんでした。
 フルジオキソニルはチリ産とアメリカ産のレモン11検体に、92%の検出率で、最大1600ppb残留していました。
 OPP、ピラクロストロビン、ピリプロキシフェンはいずれも9検体づつ検出され、一番高いのは、アメリカ産グレープフルーツのOPPで1100ppbでした。
 ネオニコチノイド系のイミダクロプリドは3種8検体に見出され、イスラエル産グレープフルーツが一番高く30ppbでしたが、浸透性のためか、果肉に残留していた検体もありました。
 ピリメタニルは3種7検体に検出され、一番高いのは南アフリカ産グレープフルーツで、2400ppbでした。
 除草剤のシマジンが、チリ産レモンに検出されたのは、奇異な感じがしました。
【複合汚染】南アフリカのオレンジにはTBZ/イマザリル/イミダクロプリド/、イスラエル産グレープフルーツには、TBZ/イマザリル/イミダクロプリド/クロルピリホス/ピリメタニルの5農薬が複合検出されました。表中、検体数1の以外の複合汚染状況は。はっきりしませんが、すくなくとも同国産のスイーティーには4種以上の農薬が残留していることがわかります。また、南アフリカのオレンジには4種以上の、アメリカ産オレンジやグレープフルーツには3種以上の農薬の複合残留した検体が確認されます。
【果肉への移行】総じて、食品添加物・防黴剤ですが、それ以外にも上述のイミダクロプリドほかの農薬の果肉への移行が、総延べ検出数180のうち71件あり、注意を要します。
  表2 輸入柑橘類における農薬の検出状況−全果での数値で単位:ppb、()は果肉

  作物名   生産国  検出数                     最大値     検出率
                       /検体数   農薬名          ppb         % 
  オレンジ   アメリカ     1 / 8      NAC              Tr         12.5
                1 / 8      OPP             680         12.5
               8(4)/ 8(8)   TBZ            2300(30)    100
               8(6)/ 8(8)   イマザリル        1900(40)    100
                1 / 8      クロルピリホス     260         12.5
                1 / 8      シフルトリン        Tr         12.5
                3 / 8      ピリプロキシフェン  10         37.5
                1 / 8      フェンプロパトリン  40         12.5
  オレンジ   オースト    2 / 7      OPP              Tr         28.6
              ラリア   7(7)/7(7)    TBZ            3000(750)   100
                        7(7)/7(7)    イマザリル        2300(150)   100
  オレンジ   南アフリカ 1(1)/1(1)   TBZ             600(90)
                        1(1)/1(1)    イマザリル        1000(30)
                        1(1)/1(1)    イミダクロプリド    10(Tr)
                         1 / 1      ピリプロキシフェン  Tr
  グレープ   アメリカ   6(1)/7(7)    OPP            1100(Tr)    85.7
    フルーツ            7(4)/7(7)    TBZ        1200(20)  100
                          1 / 7      PMP             250        14.3
                        7(5)/7(7)    イマザリル        1700(30)   100
                         2 / 7      イミダクロプリド    20        28.6
                     5 / 7      クロルピリホス      90        71.4
                    1 / 7      シペルメトリン      10        14.3
                          4 / 7      ピラクロストロビン 140        57.1
                          1 / 7      フェンブコナゾール  Tr        14.3
  グレープ   イスラエル 1(1)/1(1)    TBZ             760(Tr)
    フルーツ            1(1)/1(1)    イマザリル        1900(30)
                        1(1)/1(1)    イミダクロプリド    30(Tr)
                          1 / 1      クロルピリホス      20
                          1 / 1      ピリメタニル       460
  グレープ   南アフリカ 3(3)/5(5)    TBZ            1500(30)    60
    フルーツ            5(4)/5(5)    イマザリル        1700(80)  100
                          2 / 5      イミダクロプリド    20        40
                          3 / 5      クロルピリホス      10        60
                          5 / 5      ピラクロストロビン  40       100
                          3 / 5      ピリプロキシフェン  20        60
                        3(1)/5(5)    ピリメタニル      2400(Tr)    60
                          3 / 5      ブプロフェジン      20        60
                          1 / 5      メチダチオン        Tr        20
  グレープ   メキシコ     1 / 1      TBZ              20
    フルーツ              1 / 1      イマザリル        1600
  スイー     イスラエル 2(1)/2(2)    TBZ            2700(10)  100 
     ティー             2(1)/2(2)    イマザリル        2400(Tr)  100
                        2(1)/2(2)    イミダクロプリド    20(Tr)  100
                          1 / 2      クロルピリホス      Tr        50
                          1 / 2      ブロモプロピレート  80        50
                          1 / 2      ピリプロキシフェン  50        50
                          1 / 2      ピリメタニル       130        50
  メロ       アメリカ   1(1)/1(1)    TBZ            1000(Tr)   100
    ゴールド            1(1)/1(1)    イマザリル        1000(Tr)   100
  レモン     アメリカ   4(2)/5(5)    TBZ            1200(Tr)    80
                           3 / 5      アゾキシストロビン 570        60
                        5(2)/5(5)    イマザリル        1700(20)   100
                          1 / 5      クロルピリホス     30         20
                          1 / 5      チアメトキサム     10         20
                          1 / 5      ピリプロキシフェン Tr         20
                          4 / 5      フルジオキソニル 1600         80
                          1 / 5      メタラキシル       Tr         20
  レモン     チリ       6(4)/7(7)    TBZ            450(80)     85.7
                          1 / 7      PMP            10         14.3
                        1(1)/7(7)    アセタミプリド     10(Tr)     14.3
                          1 / 7      イプロジオン       Tr         14.3
                        7(7)/7(7)    イマザリル       1900(130)   100
                          7 / 7      クロルピリホス     80        100
                          1 / 7      シマジン           Tr         14.3
                        2(1)/ 7(7)   ピリメタニル      400(Tr)     27.3
                          1 / 7      ブプロフェジン     20         14.3
                        7(1)/7(7)    フルジオキソニル  960(Tr)    100
  レモン     南アフリカ   1 / 1      アゾキシストロビン 20  

囲み記事:横浜市記者発表(2019/01/28)より
記者発表にある写真

★アメリカから輸入のグレープフルーツにストレプトマイシンが残留基準違反
【参考サイト】食品安全委員会;ハザード概要シート(案)(ストレプトマイシン)
       Nature:Nature VOL 567 p302-303(21 MARCH 2019)

 東京都の調査ではありませんが、本年1月下旬に判明したのは、抗生物質系のストレプトマイシンのグレープフルーツでの残留基準違反です。
 厚労省から、横浜市内の輸入者テナートレイディングが、アメリカから輸入したカートン入り「生鮮グレープフルーツ」の抜き取り検査で、殺菌剤ストレプトマイシンが0.06ppm検出されたとの通報を受け、横浜市は、基準(ジヒドロストレプトマイシン及びストレプトマイシンの和として 0.02ppm)を超えていたため、1月28日、回収命令をだしました。輸入数量1323カートン(1カートン27〜48 個入り)のうち、 704カートンがすでに、販売されており、2万個以上が流通しているそうです。
 アメリカでは、柑橘類にストレプトマイシン系薬剤が使用されており、カンキツグリーニング病防止のため、さらに使用拡大の動きがあります。このため、同国の研究者や公衆衛生学者、環境保護団体らが、抗生物質耐性菌の拡大を懸念して、使用に反対しています。医薬品使用で、ヒトに聴覚障害の副作用も知られていますが、日本では農薬のほか動物医薬品用途もあります。ただし、ミカンをはじめとする柑橘類への適用登録はありません。そのうち、日本の柑橘残留基準を緩和するよう、アメリカから要求がくる恐れがあります。
 

作成:2019-03-30