農薬の毒性・健康被害にもどる
n01204#神奈川県相模原市のメソミル=ランネートによるネコ毒殺を追う (新巻圭)#19-03
【関連記事】記事t23604、記事t28305
【参考サイト】相模原市:猫の不審死について(相模原警察署発表情報)
昨年11月下旬、神奈川県相模原市田名の相模川河川敷などで、11月18日4匹と25日1匹のネコの死骸が相次いでみつかりました。相模原署の発表によると、高田橋周辺約1キロの範囲の4カ所に、青色の毒物入りネコ餌が、プラスチック容器や地面に直接置かれたりしていたということです。同署は、動物愛護法違反の疑いで捜査をはじめました。警察は、毒物がなにであるかは、公表しませんでしたが、いままでも小動物や野鳥の毒餌に使われた農薬のメソミルだと思われました。死んだネコの中には、餌をあたえられていた地域猫もいたとの報道もありました。
図1散在する毒餌(出典:産経新聞) 図2 農薬販売店にある水和剤
相模原市は、HPで警察情報をながし、市民に以下の注意を呼びかけました。
・犬等を連れている方は、不審な餌のようなものを食べさせないよう十分に注意してください。
・猫を飼っている方は、事故等の危険性もありますので、屋内で飼育するようにしてください。
・不審な餌のようなものを見つけた場合、警察へご連絡ください。
しかし、原因毒物については、明らかにされることはなく、結局、相模原警察署が、
2月25日に毒殺事件の容疑者を検挙した時点の報道で、メソミル製剤のランネートである
ことが判明しました。
★警察や行政による成分の特定と公表が遅い
毒物確認のため、報道のあった翌日26日午前中、関係する神奈川県や相模原市の担当各課に成分を問い合わせました。
この時点で、動物愛護を担当する相模原市生活衛生課生活衛生班では、「警察と現場に同行したが、薬物は全量警察が押収していった」とのこと。事件のあった相模川河川敷の対岸は、愛川町だったので、動物愛護を担当する神奈川県生活衛生課動物愛護グループと毒劇物を担当する薬務課薬事指導グループに事件内容を聞きましたが、報道以上の事件内容は把握されていませんでした。
また、全県で農薬を担当する農業振興課調整グループでも、同様でした。
★犯人の想定入手経路
神奈川県では、2013年9月に海老名市で、スズメ約110羽が死んでいるのがみつかりましたが、県の分析で胃の内容物からメソミルが検出されていました(記事t26705参照)。
メソミルは、巨大SNS「5ちゃんねる」(旧2ちゃんねる)では、自動車のラジエーター不凍液エチレングリコールより、即効性がある「殺猫剤」として知られています。
犯人の入手経路を次の@〜Eのように想定してみました。また、もし、実店舗で購入するとすれば、犯人の生活圏の辺縁地域で入手すると推定して、事件地周辺の農協とホームセンターを訪問して調べました。
【調査範囲】海老名市、座間市、相模原市、愛川町、厚木市、伊勢原市、秦野市、平塚市
【想定入手経路】@ネットでの購入、A店舗での購入、B店舗での万引き・盗難、C農家による譲渡、
D農家等の保管庫からの盗難、Eフリママーケットでの入手
@は、購入者を事前登録制にしたため、本人確認が必要となり、匿名の入手はしにくくなった。
A調べたところ、同品は農協店舗と、ホームセンター「カインズ」の一部店舗で販売していて、
いずれも保管庫は施錠され、販売時は譲受書に住所氏名等記入・押印し、その内容を身分証等で
確認しなければ購入できないので、不審者の購入はほぼ不可能。
B施錠、テレビカメラ録画がされており、持ち出しはほぼ不可能
CDに関しては、県及び各JAから農家指導がされているが、十分ではない。
Eチェックが手薄で、唯一流出の可能性がある。
例えば、メルカリでは、出品者と購入者の互いの住所知らずに取引できる。
農薬取締法では、農薬登録を取得していない者による農薬の製造又は加工(小分け含む)は禁止されていますが、最終有効年月がすぎても、回収義務がないため、購入者が倉庫などに放置しているものもあります。販売については、小売りやネット・フリーマーケットも販売所ごとに、所在の都道府県へ「販売者の届出」が必要です。また、毒劇物取締法でも、業を行うには登録が必要ですが、運営者は何ら周知も対策を取っておらず、違法販売の抜け道となっています。
★毒物指定すべきなのに
メソミルは毒性が強いため、毒劇法による劇物指定がされていましたが、わたしたちは、小動物や鳥の毒殺事件や自殺に使用される同剤を毒物指定するように求めていました(記事t18304、記事t18702参照)。しかし、厚労省が2009年2月パブコメに提案したのは、原体メソミルを毒物指定するものの、含有45%以下は除くというものでした。
反農薬東京グループの意見は、改定案には反映されず、2009年4月から施行されたのは、毒物指定されたものの『メトミル(告示ではメトミルと表記されている)及びこれを含有する製剤メソミル45%以下を含有する ものを除く。』で、出荷の多い、45%含有製剤は劇物のままでした(厚労省通知:薬食発第0408002号)。
それから、10年、いまだ、メソミル製剤による毒殺事件はつづいています。
今回の容疑者の購入ルートは、裁判であきらかになるまで、待つほかないのでしょうか。
★再発防止のために必要なこと
毒劇物を担当する神奈川県薬務課は、届出販売店において販売時の身分証のチェックなどを定めた「神奈川県薬事衛生推進計画」を2016年に策定していますが、県内で同法を管轄する6市(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市、藤沢市、茅ヶ崎市)に情報提供したが、いまのところ策定していません。
本年1月に県農業振興課からJA全農かながわ、神奈川県農薬商業会にメソミル(=ランネート剤)の販売状況について聴き取ったところ、「販売量は回復している」という趣旨の答えでした。
今後、悪意の者への薬剤の入手を阻むには、下記のような事項が必要だと思います。
@毎年開催される県農薬販売者講習会で、販売時の購入者の観察や施錠管理の徹底を指導すること。
A農家の農薬庫の施錠・管理、不要農薬の回収等を、農業団体に徹底させること。
Bフリマ販売の規制を、県として運営者に申し入れること。
C県警には、犯人の薬剤の入手経路、分析結果の公表をすみやかにするよう、県から申し入れること。
★宇都宮では犬が、北区ではハトが
報道によると、3月1日、栃木県宇都宮市で飼い犬2頭がが毒死したとの報道がありました。自宅の庭にあった餌を調べた宇都宮南署は、成分は不明ですが、農薬が検出されたとして、器物損壊容疑で捜査しているとのことです。ちなみに、野生の動物の場合は
動物愛護法、飼育している動物は器物としてあつかわれるようです。
さらに、東京都では、北区の神谷公園で、1月13日にハトやスズメ5羽の死骸がみつかりましたが、警視庁は、メソミル混入の毒餌を与えたとして、4月2日、鳥獣保護法違反で容疑者を逮捕しています。
農薬は通販で購入しており、現場近くでは、2016年4月以後、100羽ほどが被害にあい、昨年10月赤羽公園でも、ハト18羽が死んでいたそうで、その関連も調べるそうです。
(左写真は、共同通信記事より)
*** 囲み記事:メソミル=ランネートの出荷量 *** |
メソミル単剤は、水和剤でランネート45DF(宇都宮化成、原体45%の青色水和性微粒
及び細粒)と粉粒剤でランネート微粒剤(三井化学アグロ。原体1.5%の白色微粒及び粗粉)
が登録されており、最近の出荷量は下表のようです。
2014年11月に、メソミル原体メーカーであるデュポン社のアメリカ・テキサス州の
工場で, 原料メチルメルカプタンの漏洩・爆発事故(労働者4人死亡。ほか負傷あり)
がおこり、原体輸入がしばらくストップしたことがありました。
(a)原体出荷量 (出典:国立環境研DB) (b)製剤出荷量(出典:農薬要覧)
年 全国 神奈川県 全国 神奈川県
2012 86.982トン 1.553トン 2016年水和剤 42.6トン 0.9トン
2013 102.600 2.362 2016年粉粒剤 0.6 -
2014 81.823 1.319 2017年水和剤 217 4.4
2015 64.176 1.464 2017年粉粒剤 25.3 -
2016 19.789 0.416
厚労省が、2019/04/19〜05/18に実施した下記のパブコメ意見募集で
「毒物及び劇物指定令の一部を改正する政令(案)」について」に関する御意見の募集
メソミルに関する意見を述べました。⇒ 提出意見にある【意見2】です
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作成:2019-03-30、更新:2019-05-30