農薬の毒性・健康被害にもどる

n01405#農薬危害防止〜住宅地通知の遵守義務と無登録除草剤の使用禁止が必要だ#19-05
 記事n01301で述べたように、本年の農薬危害防止運動を前に、農水省等の省庁へ、@残留農薬/A鉄道等での除草剤散布/B住宅地等での農薬や無登録除草剤散布/Cドローン・無人航空機による農薬空中散布/Dその他の5項目にわけ、31件の要望と質問をだしましたが、ここでは、Bに関する回答を紹介します。

★住宅地通知について〜通知遵守には、義務規定が不可欠
 農水省の実施要綱では、従来から、通知「住宅地等における農薬使用について」(住宅地や公共施設等の近くでは、農耕地、非農耕地に拘わらず、農薬散布を出来るだけ行わないことを求められている。以下、住宅地通知という)を遵守するようとの指導が行われています。
 ところが、2018年10月、沖縄県浦添市の浦添運動公園で、同市の仕様書に反して、指定管理者が園内で、何の通知もなく、グリホサート系除草剤を散布し、芝を枯らすという通知違反の事例が発覚しました(記事n00803参照)。
 わたしたちは、これを重く見て、農水省らが、どのように対処したかを質しました。下記の質問1で、農水省は、この件について、2月には、沖縄県に出向いて、市町村の職員や防除業者を対象に住宅地通知に係る講習会の講師として参加したと答えています。このような事例は、全国どこでも、起こり得ます。本省の実地指導だけでは、もぐらたたきがつづくことになります。昨年の農薬取締法の改定では、本法や「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(以下、遵守省令という)で、強化された個所は囲み記事のようですが、この省令に基づく、住宅地通知には、変更はなく、遵守には、指導内容の義務化が必要です。
【質問1】浦添市の事例は、仕様書を順守せず、嘘の報告をした指定管理者に一番の
  責任があるととともに、市が住宅地通知等を知りながら、管理を業者まかせにしていた
  責任も無視できません。農水省・環境省は、本件について、いつ、どこから、どのような
  報告を受け、どのような調査と指導をなさいましたか、月日の順に、その経緯と内容を
  教えてください。また、文書指導があれば、文書もお示しください。−以下略−

 (農水省回答)本事案につきましては、沖縄県を通じて、事案の事実関係について報告を受けております。
  農林水産省から、沖縄県に対して本事案の原因究明に努め、原因に基づく必要な指導を
  実施するよう依頼しており、沖縄県は、浦添市及び防除業者に対して、再発防止に向けた
  取組を実施するよう指導したと承知しています。
  農林水産省としては、本年2月に沖縄県で開催された、沖縄県及び県内の市町村の職員、
  防除業者を対象とした住宅地通知に係る講習会に講師として参加し、住宅地通知の周知徹底等の
  指導を実施したところです。今後も、同様の事案が発生しないよう、県が実施する講習会への
  参加等により、農薬の適正使用の理解の促進について、都道府県と連携して対応してまいります。
  (環境省回答) 環境省は、2018 年10 月の事案発生後、農林水産省より情報提供を受けました。
  その後、農林水産省が沖縄県に対し、原因究明及び再発防止に向けて、浦添市及び防除業者を
  指導するよう要請したと聞いたことから、環境省としても、沖縄環境調査官事務所に対し、
  情報共有を行うとともに、沖縄県等から相談があれば環境本省に連絡するよう、依頼しています。

【質問2】農薬取締法では、芝生管理に、非選択性のグリホサート系除草剤を散布することは
  できないはずですが、両市の事例では、指定管理者が農薬取締法に違反していましたか。
  公共施設での無登録除草剤の使用について、農水省・環境省はどうお考えですか。
  また、行政の管理者の責任について、どうお考えですか。

 (農水省回答)農薬は、ラベルに従い使用方法通りに使用する必要があり、本事案については、
  沖縄県から関係者に対して指導を行っていると承知しています。これまでも都道府県においては、
  生産者のみならず、防除業者に対しても農薬の適正使用の講習会を通じて指導をしているところであり、
  農林水産省としましても、都道府県に対し、農業場面のみならず、道路、公園等といった不特定多数の
  方が立ち寄る公共施設の所管部局の担当者等を対象とした講習会の開催等をお願いするなどして、
  担当者への徹底を指導しているところです。
  (環境省回答)公共施設いかんにかかわらず、農作物や樹木等に除草剤を使用する際には、
  農薬取締法に基づき登録された農薬を、ラベルに書かれた使用方法を守って使用していただくことが
  基本であることから、公園等における植栽管理に当たっては、使用基準省令及び住宅地通知によって、
  農薬の適正な使用について、指導を行ってきたところです。
  環境省としては、農林水産省や地方自治体等の関係機関と連携しつつ、このような事案が
  再び発生しないよう、引き続き、地方自治体も含め指導していきたいと考えています。

【質問3】住宅地等では、周辺住民に周知することなく、安易に除草剤が撒かれることも多く、
  健康被害を訴える人が絶えません。最近では、ラウンドアップ系だけでなく、長期効果を謳う
  複合粒剤(複数の活性成分のほか、粒剤には結合剤ほかの補助成分が配合されている)も登録されており、
  浮遊微粒子が長期間、周辺大気を汚染して、ヒトの健康に影響することを危惧しています。
  住宅地での除草に、できる限り除草剤を使用しないこと、万一、使用する場合は、住宅地通知を守るよう、
  地域レベルで回覧がいくよう各自治体を指導してください

  (農水省回答)これまでも、住宅地等で農薬を使用する場合は、住宅地通知の趣旨を理解し使用するよう
  危害防止運動等の機会を通して指導してきたところですが、昨年、沖縄県の公園における事案が
  発生していることから、都道府県に対して、公園、学校等不特定多数の人が立ち寄る公共施設の
  所管部局等の職員等も含め、広く住宅地通知の周知及び指導に努めて参ります。引き続き、
  使用者への周知が徹底されるよう都道府県と連携して指導して参ります。
  (環境省回答) 今のところ、複合粒剤を含む粒剤全般について、施用後、大気中にとどまり、
  人の健康に悪影響を与えるという科学的な知見は承知していませんが、いずれにしても、農作物や
  樹木等に除草剤を使用する際には、ラベルに書かれた使用方法を守って使用していただくことが必須です。
   環境省としては、今回のような事案を再び発生させないために、住宅地、公園、学校等において
  農薬が適正に使用されるよう、農林水産省や都道府県と連携しつつ、各自治体を指導していきたい
  と考えています。

【質問4】農水省は『各都道府県で把握した情報につきましては、国の行う都道府県の担当者の
  出席する会議等で報告いただき、他の都道府県にも共有していく予定としています。』と、
  されていますが、上述の事例について共有化をお願いします。

  (農水省回答)都道府県との情報の共有につきましては、各都道府県の農薬指導部局の
  再発防止策の検討等、今後の指導の参考にしていただくことを目的に実施しているものです。
  引き続き、このような考え方に基づき、都道府県と連携して指導してまいります。
★農薬として使用できない除草剤〜通知で販売注意するより、販売禁止にすべき
 沖縄県では、農薬登録のない除草剤も使用されていました。このため、実施要綱で、新たに指導事項として追加されたのは、「(6)農薬として使用できない除草剤の販売に対する指導」です。しかし、これは、記事n01301で述べたように、2003年の農薬取締法条文に記載されていることの指導にすぎません。
 同時に発出された通知「農薬として使用することができない除草剤の販売等について」(以下、除草剤通知という)では、『ドラッグストアやいわゆる 100 円ショップ等において、農薬に該当しない除草剤が多く販売されるようになっており、また、インターネットを通じた販売・購入も容易になっている。』『容器・包装や販売所における「非農耕地専用」という表示が、当該除草剤の購入者に、農耕地でなければ使用できる(例:公園、緑地等であれ ば植栽管理に用いることができる)との誤解を与える』との指摘がみられます。無登録の除草剤を食用作物だけでなく、非食用作物にも使わない、というあたりまえの指導をあらためて、行ったのは、違反事例が、沖縄県だけでなく、全国的に、みられることのあらわれです。
 わたしたちの質問5であきらかになったように、農水省が点検した販売店の60%以上で、農薬登録のない除草剤が売られており、そのうち販売箇所の15%が植栽用に使用できないとの表示なしの農薬取締法違反販売だったというのですから驚きです。
 今回の除草剤通知では、『販売者が、レジや売り場で、農薬に該当しない除草剤を農作物や樹木・芝・花き等の植物の栽培・管理に使用しないよう購入者に説明』との注意がありますが、これが実践されたとしても、購入者が、登録除草剤と同じ成分の無登録製品を植栽に使用しない保障はありません。無登録農薬を食用作物にに使用すると、罰則が科せられますが、非食用作物に使用しても、罰則は適用されません。いままで、グリホサート系除草剤の使用で、告発され、罰金や懲役になった使用者はいません。
 農水省は、今回の通知にある指導に加え、質問6の答えで、『農薬に該当しない除草剤について、問い合わせ等があった際は、周囲に配慮して使用するよう助言しております。』としています。しかし、指導や助言を、無視する使用者には、何の効果もありません。きちんとした法規制が必要です。それには、登録農薬と同じ組成である無登録除草剤については、はっきりと販売禁止にすればいいのです。すなはち、すべての登録農薬と同じ成分の除草剤は、まず、農薬登録を義務付けた上で、住宅地通知を適用すべきなのです。
【質問5】農薬取締法では、非農薬系除草剤について、ラベルや販売棚に、農薬として使用出来ない旨の
  表示が必要で、農水省はメーカーや販売店の点検調査をされていますが、2016、17年度の総点検数と
  違反数を教えてください。
 (農水省回答) 農薬に該当しない除草剤の販売業者への指導について、2016年度(平成28年度)及び
  2017年度(平成29年度)の結果をお答えします。
       販売所に点検箇所 非農薬系除草剤販売箇所 陳列棚に農作物に使用不可の表示なし
   2016年度:4,350箇所     2,785箇所       423箇所(15.2%)
   2017年度:3,883箇所     2,319箇所       361箇所(15.6%)

  いずれの年度も表示の無かった販売所等に対しては、是正を指導しました。なお、容器又は
  包装に農薬として使用できない旨を表示すべき農薬に該当する除草剤はありませんでした。

【質問6】非農薬系除草剤については、農薬でないから、住宅地通知を守り、散布周知する必要も
  ないという散布者もいます。当該散布者にも、登録農薬と同じように、周知を徹底するよう
  指導してください。
  (農水省回答) 農薬に該当しない除草剤は、農薬取締法で定義する「農薬」に当たらないものですが、
  農薬に該当しない除草剤について、問い合わせ等があった際は、周囲に配慮して使用するよう
  助言しております。
★グリホサート系は、登録の有無に関係なく。住宅地等で使うな
【関連記事】記事t24306記事t24606(化管法に関する要望)
      記事t25504(SAMICについてのパブコメ意見)
      記事t28405記事t28505t28605(2013/14年度の環境省調査)
【参考サイト】環境省;殺虫剤等に関する実態調査2006年度使用実態等調査業務報告書2013年度2014年度

 農薬に該当しない除草剤で、一番多く販売され、身の回りで使用されているのは、グリホサート系除草剤です。環境省の調査報告では、2006年出荷量約 1,750tとの報告があるだけで、その後は不明です。
 わたしたちは、農薬登録の有無に関係なく、グリホサート系除草剤を鉄道、道路、空き地、公園、運動場、一般住宅、教育施設、公共施設などで使用しないこと、万一、使用する場合は、農薬除草剤と同様、住宅地通知を遵守することを求めてきました。しかし、植栽地への登録除草剤の使用ですら、近隣への周知が徹底されておらず、農薬に過敏な住民の中に、健康への影響を訴える人が跡を絶ちません。
 その使用をできるだけ減らすべきです。そのためには、除草剤通知のあて先である15の販売者に対しては、販売するなとの要請行動を起こす必要があります。その第一段階として下記の質問を行いました。
【質問7】グリホサート含有の無登録の非農薬系除草剤の、ホームセンターやインターネットを
  通じての販売は、IARCが発がん性ランクを2Aに強化した2015 年以後も、とどまることが
  ありません。身の回りの生活環境(空き地、駐車場や運動場、鉄道敷地や道路)で、何の規制もなく
  使用できます。欧米では、生活環境での同剤の使用を禁止する地域もでています。
   グリホサートを化管法指定物質とするとともに、日本でも販売・使用規制する法律の制定を求めます。
  (環境省回答)化管法の見直しについては、現在中央環境審議会と産業構造審議会のもと
  合同で審議されており、指定化学物質の見直しの考え方についても審議の対象とされているところです。
  指定物質の見直しについては、化学物質の製造、輸入又は使用の動向や一般環境中での検出状況、
  新たな有害性情報の蓄積等を勘案して行うこととしており、合同審議会の取りまとめ結果をもとに
  対象物質の選定を行う予定です。
  なお、本件については、化学物質の管理・規制を共管する経済産業省にも情報提供を行います。
 この回答後、5月24日から6月13日まで、経済産業省と環境省は化管法見直し合同会合の取りまとめ(案)に対する意見募集についてが、実施されており、グリホサートやネオニコチノイド系農薬などの指定を目指していきたいと思います。

 なお、次号(記事n01505)では、鉄道会社の除草剤使用ほかをとりあげます。

*** 囲み記事:2018年改定の農薬取締法で改定された個所 *** 

【1】農薬取締法
   昨年6月の国会で改定法を議決する際。衆議院及び参議院で付帯決議がなされ、   以下のような記述がある。   衆議院『六 安全な農産物の生産及び農薬使用者の安全を確保し、農薬による事故  を防止するために、登録に係る適用病害虫の範囲及び使用方法、 貯蔵上又は使用上の  注意事項等を農薬使用者にわかりやすい手法で表示及び情報提供が行われるよう措置  し、農薬の安全かつ適正な使用及び保管管理の徹底を図ること。また、農薬使用の際  に、農薬使用者及び農薬散布地の近隣住民に被害が出ないようにするため、 農林水産  大臣及び都道府県知事は農薬使用者に対して十分な指導及び助言を行うこと。』   参議院『八 安全な農産物の生産及び農薬使用者の安全を確保し、農薬による事故  を防止するために、登録に係る適用病害虫の範囲及び使用方法、貯蔵上又は使用上の  注意事項等を農薬使用者にわかりやすい手法で表示及び情報提供が行われるよう措置  し、農薬の安全かつ適正な使用及び保管管理の徹底を図ること。また、農薬使用の際  に、農薬使用者及び農薬散布地の近隣住民に被害が出ないようにするため、農林水産  大臣及び都道府県知事は【防除業者を含む】農薬使用者に対して十分な指導及び助言  を行うこと』  *第二十七条(農薬の使用に関する理解等)   この条文は、旧法第十二条の三(農薬の使用の指導)の改定で、赤字が変更個所  農薬使用者は、農薬の使用に当たっては、農薬の安全かつ適正な使用に関する知識  と理解を深めるように努めるとともに、農業改良助長法(昭和二十三年法律第百六十  五号)第八条第一項に規定する普及指導員若しくは植物防疫法(昭和二十五年法律  第百五十一号) 第三十三条第一項に規定する病害虫防除員又はこれらに準ずるもの  として都道府県知事が 指定する者の指導を受けるように努めるものとする。  *第二十八条(農林水産大臣、環境大臣及び都道府県知事の援助)   この条文は、旧法第十二条の四(農林水産大臣及び都道府県知事の援助)の改定で、 赤字がが変更個所  農林水産大臣、環境大臣及び都道府県知事は、農薬について、その使用に伴うと  認められる人畜、農作物等若しくは生活環境動植物の被害、水質の汚濁又は土壌の  汚染を防止するため必要な知識の普及、その生産、使用等に関する情報の提供その他  その安全かつ適正な使用及びその安全性その他の品質の確保に関する  助言、指導その他の援助を行うように努めるものとする。
【2】遵守省令省令条文   人畜に関する部分のみを下記にあげた。これにより、従来の省令よりも厳しい   対応を指導できる。  *第一条(農薬使用者の責務)    二 人畜に危険を及ぼさないようにすること。→ 6/28     『人畜に被害が生じないようにすること』と改定された。    五 水産動植物の被害が発生し、かつ、その被害が著しいものとならないように     すること。 にある「水産動植物」を、『生活環境動植物』」と6/28変更された。  *第二条(表示事項の遵守)いままでは、食用作物のみが対象となっていたが、   下記の2が追加され、非食用作物でも、ラベルの使用基準の遵守が記載された、   ただし、罰則なしの努力規定   2 農薬使用者は、農薬取締法第十六条第四号、第九号及び第十一号に掲げる事項に  従って農薬を安全かつ適正に使用するよう努めなければならない。 法第十六条(製造者及び輸入者のの表示)      四 登録に係る適用病害虫の範囲及び使用方法       九 農薬の貯蔵上又は使用上の注意事項(第六号に掲げる事項を除く。)      十一 最終有効年月            六 人畜に有毒な農薬については、その旨、使用に際して講ずべき被害防止        方法に、従うことが 6/28に追加なされた。  *第六条(住宅地等における農薬の使用)で『住宅の用に供する土地及びこれらに   近接する土地』とあった個所が、『住宅、学校、保育所、病院、公園その他の   人が居住し、滞在し、又は頻繁に訪れる施設の敷地及びこれらに近接する土地』   となった。  *第九条(帳簿の記載) →  旧省令のママで、努力規定  注:わたしたちは、パブコメ意見として、下記のような努力規定を義務規定とすることを    求めたが、実現していない。     『第五条(ゴルフ場における農薬の使用)の第二項、第六条(住宅地等におけ    る農薬の使用)、第七条(水田における農薬の使用)、第八条(被覆を要する農    薬の使用)、第九条(帳簿の記載)にある努力規定は、遵守すべき義務規定と    して、違反すれば、農薬取締法の罰則を科するべきである』

作成:2019-05-30、更新:2019-06-30