環境汚染にもどる

n01702#2018年のミツバチの農薬被害状況21件があきらかに〜今年の8月には、蜂蜜の、イミダクロプリド残留基準違反#19-08
【関連記事】記事t31101(2016年度)、記事t31403記事t31707、 記事n00401(2017年度)、記事n01105
【参考サイト】農水省:2018年度の農薬が原因の可能性がある蜜蜂被害事例報告件数及び都道府県による蜜蜂被害軽減対策の検証結果にある
              蜜蜂被害報告件数検証結果
              通知「令和元年度の蜜蜂被害軽減対策の推進について」(6/21)
        農薬工業会ミツバチ被害事故に関する農薬工業会の見解について(2019年8月改訂版)
★農薬による被害事例は21件
 農水省の報告によると2018年の農薬事故被害事例は、下表に示したように、21件で、前年の33件より減少しました。今回の農水省報告は、都道府県別の被害件数と対策情報が公表されただけで,事故発生年月や被害状況などの記載はなく、今後の詳細報告を待たねばなりません。

 2018年度は、前年から半減したものの、北海道がトップで6件、ついで、被害数2件が福島と群馬、宮崎、1件が岩手、山形、茨城、栃木、愛知、島根、香川、福岡、熊本9県でした。
表 2018年度の都道府県別、農薬によるミツバチ被害件数
県名 2013-16 17年 18年 県名 2013-16 17年 18年 県名 2013-16 17年 18年 
北海道   104 13 6   静岡 0 0 0  岡山 1 0 0 青森   5 1 0  新潟 1 0 0   広島 2 0 0 岩手   5 2 1   富山 0 0 0   山口 0 0 0 宮城   0 0 0   石川 1 0 0   徳島 1 0 0 秋田   8 3 0   福井 0 0 0   香川 0 0 1 山形   0 0 1   岐阜 14 2 0  愛媛 0 0 0 福島   7 1 2   愛知 0 2 1   高知 0 0 0   茨城  1 0 1   三重 0 0 0   福岡 10 0 1 栃木   14 4 1   滋賀 0 1 0  佐賀 5 0 0   群馬  5 1 2   京都府 2 0 0  長崎 1 0 0 埼玉  0 0 0   大阪府 0 0 0   熊本 5 1 1 千葉  4 0 0   兵庫 2 0 0  大分 6 0 0 東京都  0 0 0   奈良 1 0 0  宮崎 6 1 2 神奈川  4 0 0   和歌山 6 0 0  鹿児島 0 1 0 山梨  0 0 0   鳥取 0 0 0  沖縄 1 0 0 長野   2 0 0  島根 4 0 1  計 228 33 21
★農水省は。養蜂蜜蜂のみに注目〜野生の蜜蜂・ポリネーターは眼中にない
【参考サイト】農水省:養蜂をめぐる情勢(2018/11)、施設園芸における花粉交配をめぐる情勢(2019/01)

 蜂蜜の2017年の年間消費量は4万5627トン(うち国産が6.2%)であり、同年の蜂蜜・蜜蜂産品の生産額82億1700万円ですが、蜜蜂等による送粉サービスの経済価値は、約4700億円と見積もられ、このうち施設セイヨウミツバチが730億円、施設マルハナバチが273億円で、約70%の3300億円が野生送粉者による寄与とされています。
 従って、前節のように、農水省が把握している蜜蜂被害というのは、蜂蜜等の製品を作ったり、施設などでの授粉のために養蜂業者が家畜として飼育・供給している蜜蜂に限ったものであり、自然界のミツバチや他のポリネーターへの農薬被害は含まれていません。
 このように、畜産としての養蜂業をとらえているだけでは、農薬によるミツバチ・ポリネーターの被害の全容は判りません。
 農水省の統計にあらわれるのは、下記のような状況だけです。


 農水省畜産局の「養蜂をめぐる情勢」などの資料で、ミツバチの
 飼育動向をみると、 2012年以後の飼育戸数は、左図のようで、
 2018年は9578戸です。同年の蜂群数は21万3千でこの数年、殆ど
 変動はありません。
 養蜂用蜜源の面積はミカン3.55万ha、リンゴ2.24万、レンゲ0.66万、
 アカシア0.67万、その他6.08万ha、合計で、前年より1.1万ha増えて
 13.20万haとなったものの、10年前より半減しています。
 養蜂業者は、蜜源を求めて、各地に転飼し、転飼群数は、2017年は
 県外転飼が14.4万群、県内転飼が11.2万群となっています。

 (注)飼育戸数が、2012-13年で増えたのは、養蜂振興法改定で、
   趣味の養蜂も届出が義務付けられたため

★被害防止対策〜問題点は解決されるか
 農水省による、都道府県別の農薬による蜜蜂被害軽減対策の検証結果をみてみましょう。そのまとめは次ぎのようになっています。
   ・情報の共有(提供)に基づく対策の実施(巣箱の移動、巣門の閉鎖、避難場所の設置、
   蜜蜂に配慮した農薬散布等):40都道府県
   ・蜜蜂被害に関する知見、被害軽減対策等の周知(通知の発出、講習会での周知等):32都道府県
   ・被害軽減のための体制の整備(協議会の設置、開催等):13都道府県
 また、『2017年度に被害33件のうち、2件で18年度にも同一の場所で被害が報告された。31件については、巣箱の設置場所の変更、情報共有の推進による農薬散布期間中の巣箱の退避等の対策により、30年度に被害報告はなかった。
被害が継続している地域については、農林水産省も都道府県等に協力して、地域で更なる被害防止対策の検討・実施を進める予定となっている。』としています。
 以下、2013年から18年の被害が多い順に、4件以上あった自治体の対策状況をしめします。どのような対策が効果があったか、また、その問題点(文中赤字で示す)は何かなどがあげられています。

【北海道】2013年〜18年の被害は123と一番多く、18年は6件で、前年から半減しました。
  実施した対策は、地域別対策会議を開催し、地域ごとに可能な対策を講じた/農薬散布情報の
  提供の徹底/事前に防除計画情報を提供/養蜂家に対する現地指導/巣箱設置情報の情報提供などで、
  効果があったのは、『養蜂家に対する現地指導を行ったこと により、巣箱の避難等に対する意識が高まり、
  一部の養蜂家が避難場所の確保 に取組んだ結果、道内の被害件数が半減したことから、避難場所の確保が
  有効 な対策であることが確認された。』
   ただし、避難のための労力確保が難しい。という課題が残り、今後 、放牧地の活用等避難場所の検討 

【栃木】2013年〜18年の被害は19ですが。18年は1件で、前年から3件減りました。   
  水稲農家へは、 各農協を通じて水稲農家向けチラシを配付。養蜂家へは、養蜂家向けチラシ及び
  個人防除の予測時期及び無人ヘリによる農薬散布情報を配布
  県は栃木県無人ヘリコプター推進協議会に対して、蜜蜂の飼育場所等の情報を提供 
  2018年度から県は各農協に、管轄内だけでなく、隣接地域の蜜蜂飼育場所等の情報 を追記して提供した。 
  水稲農家及び養蜂家への注意喚起を促すことから効果はある
  課題として、個人防除者への蜜蜂の飼育場所等の情報の伝達が困難
  養蜂家の巣箱情報を提供する際に、個人情報保護の観点から、提供が難しい場合もある。
  養蜂家が巣箱を水田の周辺から退避させるには、他に設置する場所がなく、実施が困難な場合がある。 

【岐阜】2013年〜18年の被害は16ですが。前年から2件減り。18年は0でした。
  農林事務所から養蜂業者の情報を農協などの農薬使用者に提供することで、 被害の削減に一定の効果あり。
  天候等により急に農薬散布の予定日が 変更になった場合、巣箱の退避等の対応が難しい。
 
【秋田】2013年〜18年の被害は11ですが。前年から3件減り。18年は0でした
  養蜂業者に対し過去の蜜蜂事故の発生事例を紹介した。
  ほ場の近くで蜜蜂が飼養されている場合 は危害防止対策を徹底するよう農業者に 対し依頼した。
  養蜂業者に対し、蜜場周辺における無 人ヘリの防除計画等について情報提供を 実施した。 
  課題として、個別農家の農薬散布計画について情報提供が行われず、養蜂業者が事前に 散布情報を
  把握できない場合がある。
  農家側も周辺で蜜蜂を飼養して いる養蜂業者の連絡先が分からず、情報提供できない場合がある。 

【福岡】2013年〜18年の被害は11ですが。18年は1件で、前年から増えました。
  養蜂家へ農薬散布情報を提供することにより、巣門の閉鎖等の対応が可能となった。
   降雨(梅雨など)が続いたあとの晴天の日は、防除と蜜蜂の活動が重なり、調整が難しい。

【福島】2013年〜18年の被害は10ですが、18年は2件で、前年から1件増えました
  対策は、農水省の指示通りで、関係機関における養蜂家の飼育情報の共有と防除実施者から
  養蜂家への情報提供。
  課題として、防除情報を提供しても、多数の蜂群を有る養蜂家は対策を実施できないこと
  (それにより空中散布を断念し た事例もある)。また、ドローンで個人防除を実施する場合、
  養蜂家と情報共有を図る際に軋轢を生じることがある。

【宮崎】2013年〜18年の被害は9ですが。18年は2件で、前年から1件増えました。 
  無人ヘリを含む水稲防除日程の周知が図られたと考えられ、被害防止に一定の効果があった。 
  個人により無人ヘリ防除日程についての情報共有が行われていないケースがある。

【岩手】2013年〜18年の被害は8ですが。18年は1件で、前年から1減りました。
  連絡協議会の開催で、 県、市町村、JA、県養蜂組合でのJAの防除暦(主に水稲および果樹)、
  蜜蜂飼育届内容、無人ヘリコプター防除計画を共有し、事前の巣箱の待避 が円滑に進んだ。
  カメムシ防除との因果関係が明らかでない被害事案もある。蜜蜂斃死には、農薬被害以外情報が乏しい。
  カメムシ防除回数が減少、または不要となるよう環境整備するなど、抜本的な対策が必要と思われる
  これに向けては、農産物検査におけ る着色粒規定の緩和等も一つの方法ではないかと考える。 

【群馬】2013年〜18年の被害は8ですが。18年は2件で、前年から増えました。
   水稲開花期における蜜蜂被害軽減対策についてのパンフレットを養蜂家へ配布効果あり。
  養蜂家が諸事情により巣箱の位置を明らかにできない場合があるため、 農薬使用者はどこに
  巣箱があるのか把握できず、現状の対策 に限界がある。
  養蜂家に巣箱を退避する場所が無いことがある。 

【熊本】2013年〜18年の被害は7ですが。17と18年は1でした。
  無人航空機による防除計画の養蜂家へ の配布 
  巣箱の設置場所や無人航空機の防除計画等の情報の精度が低いものがあり、活用されていない。
  無人航空機の防除時期や箇所等の情報を提供しても、巣箱の設置数が多く、移動が困難 
  水稲防除時期の避難場所の設置。養蜂家の要望に合う避難場所の確保

【青森】2013年〜18年の被害は6ですが。17年1で、188年はゼロでした。
  関係団体の認識や養蜂家と耕種農家との連絡調整の強化を図った
  養蜂家から耕種農家及び耕種農家から養蜂家への情報提供、防除計画と巣箱位置の情報共有する
  毎年春先の農作業時期に入る前に、散布ほ場と巣箱の位置に係る情報を連絡し合う。
  飛散の危険がある場所から巣箱を遠ざける等の対応が行われるよう働きかける。 
  現在の防除計画は詳細な散布予定日や散布ほ場の記載がないため、 防除計画に記載の連絡先に対し、
  養蜂家が自ら詳細情報を確認する必要がある。

【和歌山】2013年〜18年の被害は6ですが。17と18年は0でした。
  無人航空機による農薬散布計画を畜産課及び地域の養蜂組合へ提供 
  関係者の情報共有に努める。

【大分】2013年〜18年の被害は6ですが。17と18年は0でした。
  同意のあった養蜂家の巣箱の位置等の情報を無人航空機防除業者へ提供し、防除地域周辺における
  巣箱の有無を事前確認をする
  無人航空機防除業者からの防除計画の提出が遅れがちで、養蜂家へ迅速に情報提供出来ないことがあり、
  計画書を早急に提出するよう指導する。  

【島根】2013年〜18年の被害は5ですが。17年は0と18年は1でした。 
  有人ヘリ連絡協議会(島根県森林病害 虫等防除連絡協議会)
  情報提供:養蜂家から耕種農家へ(内容:飼育場所、飼育蜂郡数、飼育期間、 方法:文書)
   耕種農家から養蜂家へ (内容:無人航空機防除実施計画、方法: 文書、県のHP) 
  ・養蜂家側の課題:飼育届(住所、連絡先等)の情報提供に同意していない養蜂家に対し
   耕種農家からの情報提供ができない。
  ・耕種農家側の課題:無人航空機防除実施者・JA生産組織 以外の農業者に、 蜜蜂農薬被害防止対策の
   周知が徹底されているとはいえな い。 

【佐賀】2013年〜18年の被害は5ですが。17と18年は0でした。 
  施設野菜で用いる蜜蜂の被害防止、無人ヘリ防除による蜜蜂被害を防止 、水稲および果樹ほ場の
  近隣の巣箱の 被害防止 として効果があったと考える。
  系統外業者の無人ヘリ防除計画の提 出が直前になることがあり、情報共有す ることが難しい。 

【千葉】2013年〜18年の被害は4ですが。17と18年は0でした。  
  農林水産航空事業の実施計画につい て、町字単位での詳細な散布計画の情報 を収集し、養蜂家へ提供
  転飼調整会議で県畜産課と連携し、県養蜂協会の各地区役員に注意喚起 
  詳細な蜂の飼育場所が分かりにくい。町字単位での詳細な散布計画の情報 収集に時間がかかる。 

【神奈川】】2013年〜18年の被害は4ですが。17と18年は0でした。 
  関係団体を通じ、養蜂家と耕種農家にお いて、蜂場設置場所や農薬使用に関する 情報を共有
  農薬を大規模散布する際、農薬使用者 から養蜂家へ事前連絡
【散布情報・共有化など】農水省の指導の骨格のひとつで、殆どの自治体で行われています。
  農薬使用者と養蜂者の情報共有で、農薬使用者が農薬散布情報を、養蜂者は巣箱の設置情報を
  互いに交換共有することですが、両者の連携がスムーズに行かない点が、指摘されています。
  また、巣箱の退避先がない、移動が困難など、養蜂者の対応がとれないケースもあります。
  個人情報保護や盗難防止の観点から、養蜂者が巣箱の位置情報などを提供しないケースが、愛知、
  島根、大分でみられました。

【使用農薬の剤型や散布時刻について】農水省は、粒剤の利用を推奨していますが、
  これを検討しているのは、秋田と石川の2県で、石川県は、価格が高いことから、浸透しないと
  しています。また、散布時刻についての検討は、山形しかみられませんでした。

【水稲カメムシ対策と無人航空機による農薬空中散布について】農水省は、養蜂蜜蜂被害について、
  今までの通知等で、『水稲のカメムシ防除に使用された殺虫剤に、蜜蜂が直接暴露したことが
  原因である可能性が高いと考えられること。』としていますが、蜂の直接被曝に限定している上、
  殺虫剤名すらあげていません。カメムシ駆除には、ジノテフラン、クロチアニジンなどの
  ネオニコチノイド系やエチプロール、エトフェンプロックスがよく使用されます。
  水田では、7-8月の水稲の開花時期に、無人航空機で散布されることが多いため、空散情報の提供が
  問題になります。
  作物別には、下記のような自治体が検討していました。水稲関係が多く、岩手県が、
  『カメムシ防除回数が減少又はなくす/農産物検査における着色粒規定の緩和する』を
   あげているのは、注目されます。

  ・水稲又は斑点米カメムシ対策:19県(岩手、秋田、山形、宮城、茨城、栃木、群馬、長野、富山、
   石川、福井、愛知、愛媛、福岡、佐賀、熊本、宮崎、鹿児島。沖縄)
  ・松くい虫対策:3県(長野、富山、島根)、・ウメ輪紋ウイルス;東京都
  ・果樹対策:5県(岩手、山形、富山、愛知、佐賀) ・ゴルフ場農薬;2県(三重、滋賀)

  なかでも、農薬濃度が高く、高所から広範囲に農薬を散布する無人航空機による空中散布は、
  周知されても、実際の巣箱の退避は簡単ではありません。

  ・無人航空機対策:26県(岩手、宮城、山形、群馬、栃木、埼玉、長野、静岡、石川、愛知、滋賀、
   京都、兵庫、和歌山、鳥取、島根、山口、徳島、香川、愛媛、佐賀、長崎、熊本、宮崎)。
   うち。ドローン型は、福島、兵庫の2県で、福島は個人のドローンによる防除情報が得られるかに
   疑問を呈しています。
   また、兵庫は、『ドローンを用いた空中散布については、事業計画、実績報告の必要がなくなり、
   従来行っていた「蜜蜂の飼育及び農薬に係る情報提供実施要領」に基づく養蜂家への情報提供が行えなくなる
   ことから(この件は、記事n01701参照)、関係者間の情報共有に支障を及ぼす。
   (近年、@ドローンを用いた空中散布を行う防除業者が増加している。A今後、無人ヘリ並に
   大規模に農薬散布が可能な大型ドローン参入が見込まれる中、トラブルの発生を懸念している。)』
 総じていえることは、農水省の対策では、養蜂蜜蜂の被害をなくすことは出来ず、まして、自然界のポリネーター対策のおいておや、ということになります。
 農水省の発出した通知では、『都道府県の農薬指導部局は、農業団体等の協力を得て、蜂場が設置される可能性のある場所の周辺(蜜蜂の飛翔範囲を考慮すれば、通常、蜂場から半径約2kmの範囲)の水稲のカメムシ防除の時期等の情報を、畜産部局及び養蜂組合等にできる限り速やかに伝えること(情報は、無人ヘリコプターの空中散布計画や地域の農業団体が作成する防除暦等から得ること)。』となっており、無人ヘリコプターしか触れられていません。無人航空機の一種であるドローンの散布計画が周知対象になっていないことが、大きな問題点として残ります。
 上述の兵庫県の『情報提供実施要領』でも、無人ヘリコプター等となっており、ドローンという語句はでてきません、提供されるのは県農林振興事務所に提出のあった農 薬散布計画に係る情報だけです。自治体レベルでもドローン散布情報を含めた散布計画を提供することを求める運動の展開が必要です。

,★日本養蜂協会の動き
【参考サイト】農水省:通知 蜜蜂被害軽減対策の推進についてにある令和元年度通知 元消安第912号(19年6月21日)
        日本養蜂協会:Top Page蜜蜂被害報告マニュアル及び蜜蜂被害報告書様式

 農水省が、6月21日に発出した通知「令和元年度の蜜蜂被害軽減対策の推進について」には、『死虫の発生は、水稲のカメムシ防除に使用された殺虫剤に、蜜蜂が直接暴露したことが原因である可能性が高いと考えられる。』として、例年どおり、下記対策をあげています。しかし、この通知には斑点米カメムシの殺虫剤という語句はありますが、原因農薬である農薬成分名はでてきません。海外で問題となっているネオニコチノイドやその成分であるクロチアニジン、イミダクロプリドなどの成分名はどこにも見当たりません。
  ・農薬使用者と養蜂家の間の情報共有
  ・巣箱の設置場所の工夫・退避
  ・巣門の閉鎖(併せて日陰に設置するなどの対応が必要)
  ・農薬の使用の工夫(粒剤を使用する、蜜蜂の活動の盛んな時間の使用を避ける等)
 養蜂関係者の組織である日本養蜂協会(養蜂業者数2,905業者)は、農水省からこの通知に協力するようとの依頼要請を受け、会員向けに独自の通知を発出していますが、その中で、農薬被害があったと思われる場合は、都道府県の畜産担当部局に連絡するだけでなく、協会にも報告をお願いするとなっています。
 協会は、2019年度に「農薬による蜜蜂への影響調査事業」を計画し、応募の結果、金沢大学山田敏郎名誉教授へ依頼がなされたとのことでしたが(記事n01105)、その後、国が農薬取締法改定で、農薬登録時の蜜蜂への評価方法が検討されていることから、独自の事業は不採択になり、農薬工業会が行う蜜蜂への影響評価事業に協力することに方針転換しました。
 以前は、協会独自に被害調査を実施し、公表していたのですが、農水省へ報告するようになってからは、行われなくなりました。その理由は明確でありませんが。養蜂業者の対応をみると、密源植物が不足気味の上、農作物や家畜の生産者に比べ、立場が弱く、巣箱の転飼を取り仕切る畜産部局に強いことはいえないという状況がうかがえます。会員から『農薬被害を行政に訴えたら、蜂蜜が回収され、「農薬が検出されたら出荷停止になる」といわれた』との訴えがあることからもわかります。
 都市での養蜂者の動きも注目されますが、まだ、欧米のような消費者や環境保護団体とのつながり、農薬使用を規制する力とはなっていません。むしろ、次節にも関連しますが、蜂蜜の残留農薬を調べた千葉工大の亀田さんに協会が抗議したくらいです(記事t31508)。

★愛媛県産の蜂蜜で残留基準違反が発覚
【関連記事】記事t26401記事t26803記事t28201記事t31403記事t31508
【参考サイト】香川・愛媛せとうち旬彩館:Top Pageお知らせ

 花粉や花蜜、溢液(葉から出てきた水分)、水場などの農薬汚染により外勤蜂により巣内に持ち込ちこまれたネオニコチノイドなどが蜂蜜などに残留していることはいままでにも報告してきました(記事t31508。このことは、農水省のいう農薬の直接被曝だけでなく、農薬の摂取により蜂群全体に間接的な影響がでる可能性も無視できないことにつながります。千葉工業大学の亀田さんらの今年の環境化学討論会での発表は囲み記事も参照してください。

 養蜂協会は、2015年に、アセタミプリドの蜂蜜残留基準0.01ppmが実測データをもとに0.2ppmに緩和されたのち、他の農薬の基準緩和を求めており、2017年につづき、18年9月にも「はちみつ中の残留農薬モニタリングに係るはちみつ試料の提供についての協力要請」を協会理事が都道府県の長に発信し、調査が行われています。
 協会の被害報告マニュアルには、死虫の分析経費について、ジノテフラン、クロチアニジンの1検査料金は2万円、200項目の農薬検査は約7万円との記載もあります。

 そんな中、東京都健康安全研究センターの蜂蜜(愛媛県八幡浜市製造)の検査結果で、イミダクロプリドが一律基準0.01ppm(EUの基準は0.05ppm)を超え、0.03ppm検出されたことが明らかになりました。製品は、香川・愛媛せとうち旬彩館の東京アンテナショップで販売された「純粋はちみつ みかん」で、食品衛生法違反で、8月21日から、回収されています。
 前述のアセタミプリドは、玉川学園購買部販売の「たまがわはちみつ有田市ミカン蜜」で和歌山県有田市の温州ミカン果樹園で採蜜されたものでした(記事t26605記事t28201)。愛媛県の場合もみかんの花期に散布されたイミダクロプリドが残留していたと思われ、今後、基準が緩和される恐れもあります。

★農薬の使用規制なくしてミツバチ被害はなくならない
 EUでは、ミツバチやポリネーターの生育に有害なフェニルピラゾール系フィプロニルの農薬登録は、2017年、失効し(記事t31405記事t31503)、さらに、2018年12月からは、2013年以来、一部の国で暫定実施されていた3種のネオニコチノイド(イミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサム)の使用がEU全域で開放系で禁止となり、さらに、アメリカでも、スルホキサフロルを規制しようとの訴訟もおこっています。欧米だけでなく、ブラジルや台湾、韓国でも、禁止の動きがでていいます。ネオニコチノイドは、ミツバチだけでなく、水生生物、野鳥へも影響がでており、ヒトへの発達神経毒性も懸念されていますが、日本の農水省は、改定農薬取締法で、蜜蜂などの試験項目が強化されるとしたものの、使用規制につながる再評価がどのように実施されるかもわかりません。


*** 第28回環境化学討論会 (2019.6、さいたま市開催、口頭発表プログラム)より ***
 −通年モニタリングによる市街地養蜂に対するネオニコチノイドの発生源及び暴露経路推定−
       亀田 豊,藤田 恵美子(千葉工業大)さんの発表要旨

 市街地の養蜂蜜蜂の成虫,体内花粉,体内蜜,ハチミツ及び周辺の水環境中のネオニコチノイド系農薬(NN)濃度を   通年モニタリングし,暴露経路と主要発生源を推定した。成虫からは6 種検出され,いずれもLD50 以下であった。   湧水からも年間を通して同種のNN が検出された。その中でもクロチアニジンは巣箱付近の歴史的建築物で   大量に散布されており,湧水,蜂を経由してハチミツへ移行するという環境中挙動が示唆された。  【調査方法】 2018年5月から翌年2月まで、基本的にひと月に一回、巣箱前で自然死した蜂成体、   巣箱内のハチミツを採取した。また、蜂の水飲み場として確認されている湧水及び湧水池と   付近の河川に一か月ごとにパッシブサンプラー)を設置/回収した。分析対象は、アセタミプリド、   イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラム。  【蜜蜂本体、体内花粉、体内蜜及びネオニコチノイド濃度推移】蜂本体では 8月にチアメトキサムが   0.62 ng/匹(経口 LD 50:5 ng/匹)、クロチアニジンが 0.25 ng/匹(経口 LD 50:3.8 ng/匹)   検出された。体内花粉・蜜も微量であるが検出された。蜂本体と体内花粉から検出されたNN種組成が   酷似していた。  【蜂の巣周辺の水環境中のネオニコチノイド濃度推移】湧水の 5月を除いたすべてのサンプルで   クロチアニジンを中心にネオニコチノイドが年間を通して検出された。現地のヒアリング調査より、    標高上部にある歴史的建築物で 5、7、9、1 月にシロアリ駆除のためクロチアニジンを    散布していたが。地下水経由で湧水及び湧水池に流出するとともに、散布された極一部に    蜂本体や周辺の草花が暴露した可能性が示唆された。  【ハチミツ中のネオニコチノイド濃度推移】8 月後初めて採取したハチミツの NN 組成は蜂本体、   体内花粉・蜜の組成と酷似していた。11 月のハチミツの花粉は多種類で構成されたことからも、   散布により周辺の複数の花に NNが非意図的に散布され、ハチミツへ移行した可能性が推定された。

作成:2019-08-30