残留農薬・食品汚染にもどる
n02103#東京都健康安全研究センターの2017年度農作物残留農薬調査報告(1)国産農作物中の残留農薬#19-12
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【参考サイト】東京都健康安全研究センター:研究年報の頁 69号(2018)
国内産野菜・果実類中の残留農薬実態調査(平成29年度)
東京都健康安全研究センターが実施した2017年4月から18年3月にかけての農作物(都内入手)残留農薬調査結果を、センター年報69号から国産農作物について紹介します。
残留分析の対象となった作物は29種70検体で、分析農薬は代謝分解物を含め有機リン系92、カーバメート系26、有機塩素系39、ピレスロイド系16、ネオニコチノイド系その他の含窒素系ほか123、合計296成分でした。
★残留農薬検出率は59%
21種の作物41検体から27種の農薬が痕跡〜310ppb検出されました。検出率は前年の63%から少し減って59%でした。検出された農薬の種類の内訳は,有機リン系5種類,有機塩素系4種類,ピレスロイド系は前年6から2種類に、ネオニコチノイドなど含窒素系及びその他の農薬は22から16種類に減少し、前年3件のカーバメート系はありませんでした。また残留基準や一律基準(0.01ppm=10ppb)を超えたものはみられませんでした。
【農薬類】検出率の高い農薬の順に、表1に、検出状況を示しました。ネオニコ系が目立っており。なかでも、ジノテフランは全作物70検体の14.3%に見出されました。
報告では、ネオニコチノイについて、ジノテフランが多く検出される理由として、『ジノテフランは人畜毒性が低く,光,植物体中及び土壌中において容易に代謝される、また,他のネオニコチノイド系農薬と同等の殺虫性能を有しながら,他のネオニコチノイド系農薬とは異なる物性及び作用機作を持っており,既存の農薬に対する抵抗性を獲得した病害虫を駆除するために今後も使用の増加が予想される。』としていますが、水系汚染濃度が高い(記事n00602など参照)や人の尿中での検出率や濃度が高いことは(記事n00305など参照)、問題です。 表1 検出数の多い農薬成分 (検出値単位:ppb)
農薬名 検出数 検出率 検出作物 最大検出値
% 種類数 :作物名
ジノテフラン 10 14.3 9種 160:ニラ
イミダクロプリド 8 11.4 8種 20:メロン
クロチアニジン 8 11.4 6種 70:チジミナ
プロシミドン 8 11.4 2種 220:キュウリ
アセタミプリド 5 7.1 5種 40:ニラ
チアメトキサム 4 5.7 3種 180:チジミナ
フロニカミド 4 5.7 3種 190:レタス
表2と表3には、農薬が検出された作物と検出数及び最大検出値を示しました。検体数が1の作物に複数の農薬が記載されているものやアルファベット文字がついている作物は、同一検体での複合汚染を意味します。
【野菜類】国内産野菜22種58作物のうち,農薬が検出された作物を表2に示しました。15種32検体から18種の殺虫剤と6種の殺菌剤がTr(=痕跡、10ppb)〜310ppb検出され、検出率は55%でした。農薬が検出されなかったのは、カボチャ、キャベツ、サツマイモ。タマネギ、ニガウリ、ニンジン、ピーマンでした。
キュウリは10検体すべてから,農薬(9種の殺虫剤及び5種の殺菌剤)がTr〜220ppb検出され、複合汚染も目立ちます。検体Bには、6種の農薬(クロチアニジン70、トリフルミゾール10、ニテンピラム30、ピリダリル50、プロシミドン220、メタラキシル10各ppb)が見出されていました。
ジャガイモには、登録のないメタミドホスが痕跡程度見出されましたが、これは、同時検出のアセフェート20ppbの代謝物と考えられています。また、レンコンにはジスルホトンの代謝物スロホキサイド10〜40ppbが検出されていますが、2018年に登録失効しており、今後、土壌残留したものが移行する恐れがあります。
最大残留値が高いのは、チジミナ−シペルメトリン310、キュウリ−プロシミドン220、トマト−ボスカリド210、レタス−フロニカミド190、チジミナ−チアメトキサム180、ニラ−ジノテフランとレタス−アゾキシストロビン160各ppbでした。
表2 2017年度の国産野菜の残留調査結果
(単位;ppb) 作物名のアルファベットは同一検体を示す
作物名 検出数 農薬名 最大検出値 作物名 検出数 農薬名 最大検出値
/検体数 (ppb) /検体数 (ppb)
キュウリF 1 /10 TPN 30 トマトC 1 / 3 イミダクロプリド 10
HJ 2 /10 イプロジオン 110 A 1 / 3 ジノテフラン 60
I 1 /10 イミダクロプリド Tr B 1 / 3 クロチアニジン Tr
BEG 3 /10 クロチアニジン: 70 A 1 / 3 ボスカリド 210
I 1 /10 クロルフェナピル 50 ナスA 1 / 3 クロチアニジン Tr
CI 2 /10 ジノテフラン 10 A 1 / 3 ピリダリル Tr
G 1 /10 チアメトキサム 60 ニラ 1 / 1 アセタミプリド 40
AB 2 /10 トリフルミゾール 10 1 / 1 ジノテフラン 160
BD 2 /10 ニテンピラム 30 1 / 1 プロチオホス Tr
BJ 2 /10 ピリダリル 50 ネギB 1 / 3 アゾキシストロビン 30
ABCEGHJ 7 /10 プロシミドン 220 B 1 / 3 イプロジオン Tr
D 1 /10 ペルメトリン Tr A 1 / 3 ジノテフラン 70
EG 2 /10 ホスチアゼート 40 ハクサイ 1 / 1 アセタミプリド Tr
BE 2 /10 メタラキシル 10 1 / 1 ボスカリド Tr
ゴボウ 1 / 1 プロチオホス 10 ホウレンソウ 1 / 1 イミダクロプリド Tr
コマツナC 1 / 3 クロチアニジン 20 ミズナA 1 / 2 ジノテフラン 80
B 1 / 3 ジノテフラン Tr A 1 / 2 フロニカミド 130
AC 2 / 3 チアメトキサム 20 レタスB 1 / 2 アゾキシストロビン160
ジャガイモA 1 / 3 イミダクロプリド Tr A 1 / 2 イミダクロプリド 10
B 1 / 3 アセフェート 20 A 1 / 2 インドキサカルブ Tr
B 1 / 3 メタミドホス Tr B 1 / 2 フロニカミド 190
ダイコン根 1 / 1 アセタミプリド Tr レンコンAB 2 / 3 ジスルホトン
1 / 1 イミダクロプリド Tr スルホキサイド 40
チジミナ 1 / 1 イミダクロプリド Tr
1 / 1 クロチアニジン 70
1 / 1 シペルメトリン 310
1 / 1 チアメトキサム 180
【果実類】国内産果実7種12検体のうち,農薬が検出された作物を表3に示しました。モモ以外の6種9検体から8種の殺虫剤と7種の殺菌剤がTr(痕跡)〜140ppb検出され、検出率は75%でした。
メロンは3検体すべてから殺虫剤や殺菌剤が痕跡〜140ppb検出されました。最大値はプロシミドンです。全果だけでなく、表中()で示した濃度での果肉への移行が認められました。なかには,メロンのニテンピラムやカキのジノテフランのように,果肉の検出値の方が高いものもありました。これらは,浸透移行性を有することから,根や葉,果皮等から吸収され果実全体に移行したものと考えられています。
表3 2017年度の国産果実の残留調査結果 表4 2017年度 国産野菜と果実の農薬複合残留状況
(単位;ppb) ()は果肉で、他は全果
作物名 検出数 農薬名 最大検出値 野菜名 検体数 検出農薬数
/検体数 (ppb) 0 1種 2種 3種 4種 5種 6種
カボチャ 1 1
イチゴA 1 / 2 クレソキシムメチル 10 キャベツ 5 5
A 1 / 2 トリフルミゾール Tr キュウリ 10 1 4 2 2 1
カキA 1 / 2 アセタミプリド Tr(Tr) ゴボウ 1 1
AB 2 / 2 ジノテフラン 20(30) コマツナ 3 2 1
A 1 / 2 ジフェノコナゾール Tr サツマイモ 3 3
西洋ナシ 1 / 1 クロチアニジン Tr(Tr) ジャガイモ 3 1 1 1
1 / 1 ジノテフラン 40(30) ダイコン根 1 1
1 / 1 シペルメトリン 30 タマネギ 1 1
日本ナシ 1 / 1 アセタミプリド 20(10) チジミナ 1 1
1 / 1 ピラクロストロビン Tr トマト 5 2 2 1
1 / 1 ボスカリド 20 ナス 3 2 1
ブドウA 1 / 2 クロルフェナピル 20 ニガウリ 1 1
メロンA 1 / 3 イミダクロプリド 20 ニラ 1 1
A 1 / 3 プロシミドン 140(50) ニンジン 6 6
BC 2 / 3 フロニカミド 30(10) ネギ 3 1 1 1
B 1 / 3 ニテンピラム 10(20) ハクサイ 1 1
B 1 / 3 TPN 40 ピーマン 1 1
ホウレンソウ 1 1
ミズナ 2 1 1
レタス 2 2
レンコン 3 1 2
小計 58 26 11 14 3 3 0 1
果実名 検体数 検出農薬数
0 1種 2種 3種
イチゴ 2 1 1
カキ 2 1 1
西洋ナシ 1 1
日本ナシ 1 1
ブドウ 2 1 1
メロン 3 1 1 1
モモ 1 1
小計 12 3 3 2 4
★複合汚染は果実やハウス栽培野菜に注意
例年通り。複数の農薬が検出される事例が多くみられ、表4に、複合残留の状況を示しました。2種以上の農薬が残留していた検体は、野菜で36%、果実で50%でした。
キュウリで6種の農薬が検出されたのは、前述のBですが、4種の農薬が検出された野菜は、キュウリ2検体でE(クロチアニジン70、プロシミドン140、ホスチアゼート40、メタラキシルTr )とG(クロチアニジンTr、チアメトキサム60、プロシミドン70、ホスチアゼートTr)、チジミナ(イミダクロプリドTr、クロチアニジン70、シペルメトリン310、チアメトキサム120ppb)、3種の農薬が検出された果実は、カキ(アセタミプリドTr、ジノテフラン20ppb、ジフェノコナゾールTr)、西洋ナシ(クロチアニジンTr、ジノテフラン40、シペルメトリン30ppb)、日本ナシ(アセタミプリド20、ピラクロストロビンTr、ボスカリド20ppb)とメロン(フロニカミド30、ニテンピラム10、TPN40ppb)でした。
★検出農薬の動向と今後について
報告では、野菜・果実に残留する農薬について以下の指摘がなされていることも注視すべきです。
・ネオニコチノイド系農薬はジノテフランが10検体、イミダクロプリド9、クロチアニジンが7作物から
検出されるなど検出頻度は高く、この傾向は数年続くと考えられる。
特に、ジノテフランの検出率は、2014年度以降国内産の野菜及び果実から検出された殺虫剤のなかで、
もっとも高かった。ネオニコチノイド系農薬は,浸透移行性のほかに。高い殺虫活性及び残効性を有し、
また、作物への薬害が少ないため使用が増えていると考えられた。
・ミツバチ減少の一因と指摘され、EUではイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムの3農薬について
屋外での使用禁止が決定している。国内での使用状況についても今後の動向が注目される。
*注:EUでは、2018年12月に3種の使用規制が実施されたが、日本では、現在にいたるまで、規制なし
・国内農業では、多品種少量栽培が行われており、土壌中残留農薬の他作物への移行や散布対象外作物への
農薬飛散等を防ぐため細かな農薬管理が必要とされる。また、農薬の使用状況は気候や病害虫の発生により
変化していく。今後も継続的に調査を行い、検出農薬の動向を注視していきたい。
作成:2019-12-30