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n02105#毒物指定の有機リン剤EPNが登録67年でついに失効#19-12
【関連記事】野鳥等の被害:記事t17705記事t20208記事t20504記事t26805
      人の中毒(科学警察研究所):記事t31302記事n01804
【参考サイト】農薬毒性の事典(三省堂版);EPN解説記事

 有機リン剤のエチルチオメトンが本年7月に登録失効したのに続き、毒物指定のある殺虫剤EPNを含む最後の乳剤2製品の登録が2018年11月13日で失効し、市場から消えさることになりました。同農薬は、1951年10月29日、最初の単剤が登録されて以来、複合剤を含め358の製剤が登録されました。出荷統計のある1962年以後、失効までに、1万5045トン(ピークは1969年の907トンで、1991年まで、年間200トン以上出荷)が使用されてきました(環境リスク・健康研究センターのDB:EPN出荷量推移一覧参照)。多くの人の死亡や中毒の原因となり、さらには、野鳥や小動物の殺害にも使われました。

★使用禁止を求めるパブコメ意見に耳を貸さず
 EPNは、神経毒性が強く、ADIは0.0014mg/kg体重/日、ARfDば0.0066 mg/kg 体重に設定されていますが、わたしたちは、パブコメ意見て、『アメリカやEUでは、神経毒性の強いEPNNは、登録されておらず、ADIやARfDは設定されていない。農薬評価書には、その理由について記載がされていない。/ラットの単回経口投与試験の結果では、最大無作用量が不明で、最小毒性量2mg/kg体重を評価し、安全係数は、300が採用されている。その根拠となる試験については、「単回経口投与等により生ずる可能性のある毒性影響等」には、急性毒性毒性試験のエンドポイントが記載されているが、データの詳細は不明である。/ラットの発達神経毒性試験は、データも示されず、「無毒性量は母動物及び胎児で 1.4 mg/kg 体重/日であると考えられた。発達神経毒性は認められなかった。」とされているだけで、根拠となる<ラットにおける発達神経毒性試験>は未公表で、データの詳細は不明である。/EPNは、急性毒性が強く、毒劇法では、毒物に指定されている有機リン剤で、使用禁止にすべき農薬である。/環境省の調査によれば、有機リン剤やその代謝物は、日常的にヒトの尿中に検出されており、EPN代謝物もその中に含まれている。アセチルコリンエステラーゼ活性に影響を与える他の有機リン剤による複合作用も毒性評価にとりいれるべきである。』との主張をしました。

★毒物指定農薬製剤の出荷は1%以下だが

 
毒物指定の農薬製剤の2001年以後の出荷量推移は
 左図のようになっています。
 年間生産量は、2010年以後、総製剤生産量の
 1%以下となっており、2018年は、1855トンでした。
 EPNの登録失効により、現在、毒劇法で、
 急性毒性の強い毒物として登録のある農薬成分は、
 特定毒物のリン化アルミニウムを別格として、
 殺虫剤6種(アバメクチン、オキサミル、カズサホス、
 テフルトリン、フッ化スルフリル、メソミル)と殺菌剤
 ジチアノン及び除草剤パラコート、殺鼠剤ダイファシノンです。
 しかし、毒物指定がなく、低毒性といわれるMEP(スミチオン)や
 グリホサートでも、中毒や死に致ることもあり、自殺する人が
 あとを絶たないことを忘れてはなりません。*
 *注:記事n01804にある科学警察研究所資料の表2参照。

★有機リンは減少しつつあるが
 記事n01303で、有機リン剤系農薬成分は、減少しつつあるというものの、ネオニコチノイド系の4倍近くあることを指摘しました。
 最近10年で登録失効した有機リン剤には、2010年:アニロホス/ピラクロホス。2011年:ECP(ジクロフェンチオン)、2012年:DDVP(ジクロルボス。防疫用殺虫剤として使用は継続中)/メスルフェンホス/ビアラホス、2013年:EDDP(エジフェンホス)、2014年:クロルピリホスメチル、2016年:ホサロンがあります。
 2017年現在、年間30トン以下の失効予備群には、DEP(ディプテレックス、登録は1製剤).IBP(登録は2製剤)、MPP(フェンチオン、3製剤登録継続)。ジメトエート(登録は5製剤)、プロフェノホス(登録は1製剤)、カズサホス(登録はマイクロカプセル3製剤)などが控えていますが、一方で、フェニトロチン(MEP、スミチオン)とダイアジノンがそれぞれ年間366トンと340トン、アセフェートが278トン、DMTP(スプラサイド、115トン)、マラチオン106トンなど出荷量の多い有機リン剤もあります。
 すでに、EUでは、再評価の結果、多くの有機リン剤の登録がきえています(記事t31601の表参照)。日本は、再評価対象に有機リンがひとつもはいていないとう状況とは、大違いです(記事n01801)。その上、EUでは、有機リンの代替として登場したネオニコ系もミツバチ、野鳥、水生生物等への影響、人の発達神経毒性も懸念され、使用規制が拡大しつつあります。

★欧米で規制が求められている有機リン剤クロルピリホス
【参考サイト】厚労省;イソプロチオラン等9品目の残留基準設定に関する御意見の募集についての意見募集(2019/05/09)
             概要クロルピリホス案
             反農薬東京グループの意見、厚労省:パブコメ結果意見に対する見解
        食品安全委員会;クロルピリホスに係る食品健康影響評価に関する審議案についての意見募集(2018/01)
                     農薬評価書案(2018/01)
                     反農薬東京グループの意見。食品安全委員会:最終農薬評価書(別添2に意見への見解あり)
                   クロルピリホスのハザード概要シートほか
        渡部和男さんのHP:Top Page資料 農薬・肥料にあるクロルピリホスの毒性解説
        農薬毒性の事典(三省堂版);クロルピリホス解説記事

 もうひとつ、有機リン剤で、気になる成分としてクロルピリホスがあります。農薬の年間出荷量は、中位で、2017年は69トンです(販売推移はこちら)。
 同成分が問題となったのは、シロアリ駆除剤としての用途で、1990年代後半のことでした。1997年夏に、わたしたちが、クロルピリホス(シロアリ駆除剤)の使用中止を求める要望を行政や関係団体に出し(記事t06601記事t06801)、以後、数々の要望や1999年9月の「シロアリ防除剤による健康被害報告と規制を求める集会」(記事t09301)や(「床下の毒物シロアリ防除剤」)の出版を経て、2000年11月、日本しろあり対策協会がクロルピリホス使用自粛をうちだしました(記事t10801)。さらに、翌年1月の社会資本整備審議会の答申を受けたものの(記事t12602)、国土交通省が「建築基準法等の一部を改正する法律案」を公布し、建材におけるクロルピリホス剤を使用禁止にしたのは、2003年7月からでした。

 農薬については、その後も製造・販売・使用が継続する中で、食品安全委員会は食品からの摂取について、評価をやり直し、2007年、ADIを0.1から0.001mg/kg体重/日に、ARfDを0.1mg/kg体重に設定しました。現在、国内では、果樹やジャガイモ、大豆、茶、タマネギなどへの適用があります。
 海外では、市民団体や環境保護団体が、生殖系や子どもの脳・神経系への影響を懸念し、使用規制を求めています。
 アメリカでは、ハワイ、ニューヨーク、カリホルニア州で使用規制がなされています。EUでは、ARfDは0.005mg/kg体重と日本よりも低値ですが、欧州議会が、クロルピリホスの来年1月の登録期限の延期をしないよう決めようとしています。
 タイでは、12月から、グリホサート、パラコートとともに、クロルピリホスの使用禁止が発せられましたが、環境政策に甘いトランプ政権下のアメリカから横槍がはいっている状況です。

作成:2019-12-30