農薬の毒性・健康被害にもどる
n02201#2018年度の家庭用品吸入事故 1294件〜前年から4件減少しただけ#20-01
【関連記事】記事n01001(2017年度)
【参考サイト】厚労省:「2018年度 家庭用品等に係る健康被害 病院モニター報告」公表(12/25)と報告書
厚労省が「家庭用品に係る健康被害病院モニター報告」の2018年度版を公表しました、皮膚科6施設(前年より4施設減)と小児科8施設のモニター病院での情報収集によるもので、吸入事故に関しては日本中毒情報センターがまとめています。
18年度に報告された事例の件数は、小児誤飲事故が前年から102件減少して626件でした。これは、モニター病院が減少したためでしょう。種類別では、たばこ130件、医薬品・医薬部外品102、食品77、玩具67、プラスチック製品44、金属製品41件でした。
皮膚障害は前年21減の58件で、内訳は、「アレルギー性接触皮膚炎」67.2%と「刺激性接触皮膚炎」25.9%で、ニッケル、金に対するアレルギー反応が多くなっています。
日本中毒情報センターがまとめた吸入事故等は4件減で、1294件となっています。本号では、吸入事故等に関する報告を紹介します。洗剤(洗濯用・台所用)と除菌剤が増えたのが気になります。
★農薬・殺虫剤関係吸入事故は350件
原因製品別の件数上位10を表に示しました。ワーストワンは洗浄剤(住宅・家具用) で、前年より3件減ったものの266件でした。
ついで、殺虫剤が248件で、前年より7件減ですが、園芸用殺虫・殺菌剤、除草剤、忌避剤と合わせると農薬・殺虫剤関係は350件で、ワーストワンとなります。なお、前年10位だった消火剤は22件から7件に減少しました、
表 2018年度の製品種類別吸入事故件数
製品の種類 件数 比率 前年
% 増減
洗浄剤(住宅・家具用) 266 20.6 - 3
殺虫剤 248 19.2 - 7
漂白剤 119 9.2 -27
防水スプレー 92 7.1 .6
除菌剤 89 6.9 31
洗剤(洗濯用・台所用) 67 5.2 36
芳香・消臭・脱臭剤 65 5.0 - 4
園芸用殺虫・殺菌剤 42 3.2 -13
忌避剤 39 3.0 18
除草剤 21 1.8 - 2
上位10品目 1048 81.0 22
総 数 1294 100% - 4
★項目別件数〜有症率は69.4%の901件
2018年度の吸入事故1298件の報告者は、消費者や学校、薬局、消防署等からの報告件数が 1,237 件(95.6%)、受診した医療機関や医師が常駐する特別養護老人ホーム等からの報告件数が 57 件(4.4%)でした。
【症状別】有症率は、前年と同様で901件(69.6%)で、複合症状をカウントした内訳は、咳、喉の痛み、息苦しさ等の呼吸器症状:378件、眼の違和感、痛み、充血等の眼症状:296件、悪心、嘔吐、腹痛等の消化器症状:261件、頭痛、めまい等の神経症状:209件でした。前年増減でいえば、呼吸器症状の18減、消化器症状の35減、神経症状の1増、眼の症状の14増でした。
【製品形態別】「スプレー式」が前年6件増の672件(うちエアゾールが336件、ポンプ式が336件)、「液体」363件、「固形」115件、「粉末状」82件、「蒸散型」34件、その他ガスなど20件、不明が8件でした。
以下、それぞれの事例の一部を紹介します。(注:「転帰」は、治療後の症状の変化のこと)
★殺虫剤・防虫剤 266件〜ピレスロイド含有剤が多い
殺虫剤と衣料防虫剤に関する事例は合わせて、前年8件減の266件(有症率 77.1%)%)でした。用途別では、衛生害虫用が155件、不快害虫用が78件で衣料用18件などでした。成分別では、ピレスロイド系製品が183件、ピレスロイド・メトキサジアゾン製剤が30件でした。
一度の噴射で長時間効果が持続するバリアー用エアゾール(ワンプッシュ式蚊取り等)による事例は、前年8件減の 61 件ありました。
◎事例1 【原因製品:ピレスロイド含有殺虫剤(スプレータイプ)】
患者 2 歳 男児
状況 子どもが自分の口周辺めがけて1回噴射した。
症状 口腔咽頭の違和感、皮膚の発赤(口周囲)
処置 水洗
転帰 家庭内で経過観察、水洗後に改善
◎事例2 【原因製品:ジメチルエーテル・フロン含有殺虫剤(スプレータイプ)】
患者 52 歳 女性
状況 ゴキブリを凍死させるタイプのスプレーを夫が室内で2〜3回噴射した際、
近くにいた妻が吸い込んだ
症状 息苦しさ、口唇のしびれ、めまい
処置 室内の換気、新鮮な空気下に移動
転帰 家庭内で経過観察、換気後に改善
◎事例3 【原因製品:ピレスロイド含有殺虫剤(ワンプッシュ式蚊取り)】
患者 5歳男児、1歳男児、37 歳女性
状況 ゴキブリがいたので、母親がワンプッシュ式蚊取りを3分間程度の間に
10回以上噴射。窓は開いていたが、部屋が真っ白になり、子ども2名も吸入した。
症状 喉の違和感、眼の違和感(5歳、37 歳)
処置 うがい、水分摂取、入浴
転帰 家庭内で経過観察、翌日には改善
◎事例4【原因製品:ピレスロイド含有殺虫剤(ワンプッシュ式、不快害虫用)】
患者 11 歳 男児
状況 虫よけ剤と間違って、手に2回噴射し、顔に塗った。付着した手で眼をこすり、
眼に入った可能性もある。
症状 眼の違和感・充血、眼瞼の発赤、皮膚の灼熱感・しびれ感・痛み・腫脹(顔)
処置 家庭で水洗、医療機関で点眼薬処方
転帰 眼科外来受診(当日)、転帰不明
◎事例5【原因製品:ピレスロイド・メトキサジアゾン含有剤(一回使い切りタイプ)】
患者 89 歳 女性
状況 くん煙剤を使用中に火災警報器が鳴ったため、止めるために入室した。
マスクなどはせずドアを閉めた状態で 10 分程度作業して、吸入した。
症状 呼吸困難感(気管支喘息の既往)
処置 医療機関で輸液、酸素投与
転帰 内科外来受診(当日)、軽快
◎事例6【原因製品:ピレスロイド含有殺虫剤(強力噴射スプレータイプ)】
患者 18 歳 男性
状況 部屋にアブが侵入、屋外専用のエアゾール式殺虫剤を1分間使用した。
症状 咳(喘息の既往)
処置 室内の換気、医療機関で気管支拡張剤処方
転帰 外来受診、処方薬使用後に改善
◎事例 7【原因製品:防虫剤(ナフタレン)】
患者 78 歳 女性
状況 引き出しに防虫剤を入れて使用したが、強い臭いがして、夜間に起きてしまった。
症状 喉の痛み
処置 室内の換気、薬剤除去
転帰 家庭内で経過観察、1週間程度で改善
★園芸用農薬・除草剤等は68件〜有機リン含有剤が23件
園芸用殺虫・殺菌剤及び除草剤は前年13件減の68件(有症率 83.3%)で。殺虫剤・殺菌剤42件、除草剤21件、肥料(植物活力剤等)5件で、成分では、有機リン含有剤が23件、グリホサート含有剤が9件でした。
◎事例1 【原因製品::チオファネートメチル含有殺菌剤(粉末タイプ)】
患者 63 歳 男性
状況 庭のバラに、粉状の殺菌剤の溶解液を噴霧器で 30 分間程度散布した。
風が吹いてミストを吸入し、顔にもかかった。手袋やマスクは未着用。
症状 悪心、めまい
処置 特になし
転帰 家庭内で経過観察、翌朝には改善
◎事例2 【原因製品::有機リン含有殺虫剤(液体タイプ)】】
患者 69 歳 女性
状況 物置にあった 30 年以上前の殺虫剤150mlを、家人が庭の土に埋めて捨てた。
その後 1 階の部屋にひどい臭いがする。
症状 悪心
処置 医療機関で制吐剤処方
転帰 外来受診(翌日)、2 週間程度で臭いが消失して症状改善、軽快
★洗浄剤及びパイプ洗浄剤、漂白剤 合計で452件〜次亜塩素酸系が308件
洗浄剤及び洗剤の合計は前年33件増の333 件(有症率 66.7%)でした。
@ 洗浄剤(住宅用・家具用)
洗浄剤 266 件の用途別では、カビ取り用133件、排水パイプ用33件、トイレ用27 件、浴室用18件、洗濯槽用22件、住宅・家具用 7件、成分別では次亜塩素酸系が208件(うち酸との混合による塩素ガス発生事例が111件)でした。形態別ではポンプ式スプレーが151件を占めました。
A洗剤(洗濯用・台所用)
洗剤 67 件で形態別では、液体51件(うちパック型10件)、粉末7件、ポンプ式スプレー8件、その他1件でした。また、つめ替え用製品による事故が10件ありました。
B漂白剤に関する事例は 前年27件減の119 件(有症率 67.2%)で、成分別では、次亜塩素酸系が100 件と最も多く、形態別では液体が66件、ポンプ式スプレーが46 件でした。
酸素系は、粉末型が過炭酸ナトリウム、液体型が過酸化水素です。
酸との混合で発生した塩素ガスの吸入による事例は8件(洗浄剤とあわせると 19 件(前年より12件減)ありました。食酢との混合が1、クエン酸との混合が4件でした。
◎事例1 【原因製品:トイレ用洗浄剤(芳香洗浄剤)】
患者 55 歳 女性
状況 トイレのタンクに置く、液体タイプの芳香洗浄剤のつめ替え用を取り付ける時、
液が飛んで左眼に少し入った。
症状 眼の痛み・充血、角膜損傷、視力低下
処置 家庭と医療機関で洗眼、点眼薬処方
転帰 外来受診(通院7〜8回)、1ヵ月程度で改善
◎事例2 【原因製品:カビ取り用洗浄剤(塩素系)/トイレ用洗浄剤(酸性)】
患者 46 歳 男性
状況 浴室掃除のため、「まぜるな危険」と表示がある塩素系カビ取り剤の希釈液を
壁に噴射し、その上から酸性のトイレ用洗浄剤を刷毛で塗った。
目と鼻の刺激感があり、2分程度で息苦しくなり終了した。
以前も同じように使用したことがあるが、息苦しくなったのは初めてである。
症状 鼻の刺激、息苦しさ、眼の刺激
処置 医療機関で酸素投与
転帰 入院(2日)、軽快
◎事例3【原因製品:カビ取り用洗浄剤(塩素系)】
患者 52 歳 男性
状況 浴室で、タオルで口を覆い、換気扇を回しながら、2種類のスプレータイプの
塩素系カビ取り剤を 20 分程度使用した。
症状 息苦しさ
処置 家庭で牛乳摂取、医療機関で吸入薬(気管支拡張剤)処方
転帰 外来受診(通院2回)、翌日改善
◎事例4 【原因製品:洗濯用洗剤(パック型)】
患者 40歳 女性
状況 洗濯機に洗濯用液体洗剤を入れた際、キャップに付いた洗剤が手に付いたのに
気付かず、その手でコンタクトレンズを外した。
症状 眼の痛み・充血・かすみ・かゆみ、眼脂
処置 家庭で洗眼、医療機関で点眼薬処方
転帰 眼科外来受診(翌日)、1週間程度で改善
◎事例5 【原因製品:洗濯用洗剤(パック型)】
患者 2歳女児
状況 つめ替え用の袋からパック型液体洗剤を取り出し、手で握ったところ、
フィルムが破れて液が飛び散り、1/2 個程度が顔にかかった。
症状 流涎、眼の充血、流涙、眼瞼の腫脹
処置 家庭で洗顔、洗眼、うがい、牛乳摂取、医療機関で洗眼、点眼薬処方
転帰 眼科外来受診(当日、通院3回)、2日後には改善
◎事例6 【原因製品:漂白剤(塩素系)/住宅・家具用洗剤(クエン酸)】
患者 30 歳 女性
状況 キッチンの排水口にクエン酸の溶解液を数回噴射し、続けてスプレータイプの
塩素系漂白剤を数回噴射して水を流した。
症状 喉の違和感、悪心
処置 室内の換気
転帰 家庭内で経過観察、翌朝には改善
◎事例7 【原因製品:漂白剤(塩素系)】
患者 57 歳 女性
状況 まな板にスプレータイプの塩素系漂白剤を噴射し、5分ほどおいて、湯で流した。
湯気と一緒に漂白剤の臭いがして一瞬吸った。マスクやメガネはしていなかった。
症状 喉の違和感
処置 洗眼、うがい、水分摂取、室内の換気)
転帰 家庭内で経過観察、軽快
◎事例8 【原因製品:漂白剤(塩素系)/住宅・家具用洗剤(クエン酸)】
患者 30 歳 女性
状況 キッチンの排水口にクエン酸の溶解液を数回噴射し、続けてスプレータイプの
塩素系漂白剤を数回噴射して水を流した。
症状 喉の違和感、悪心
処置 室内の換気
転帰 家庭内で経過観察、翌朝には改善
★芳香・消臭・脱臭剤、防水スプレー、除菌剤、忌避剤等合わせて285件〜除菌剤は前年31件増
【参考サイト】厚労省;家庭用防水スプレー等製品安全確保マニュアル作成の手引(第3版)
@芳香・消臭・脱臭剤では、65件(有症率70.8%)で、エアゾル型が23件、ポンプ式スプレーが21件。また、自動噴射型芳香剤は5件ありました。香害の原因のひとつ柔軟剤については、消費者庁のデータベースと違い事例の記載はありませんでした(記事n02202の囲みを参照ください)。
A防水スプレー被害は、92件(有症率 46.1%)あり、製品別では靴用の製品が43件、衣類用20件、衣類・靴両用11件)で、使用中の事故が86件あり、うち屋内や車内使用が53件ありました。
B除菌剤については、 前年31件増の89 件(有症率 61.5%)で、成分別では、アルコール系が33件、二酸化塩素系39件、次亜塩素系17件でした。
C忌避剤に関する事例は 前年18 件増の39件(有症率 82.1%)で、製品形態は、スプレータイプ、設置タイプ、シー トタイプ等の様々でしたが、成分別の件数は記載がありませんでした。
◎事例1 【原因製品:芳香・消臭・脱臭剤(自動噴射型エアゾール)】
患者 4 歳 男児
状況 トイレで自動噴射型エアゾールが噴射され、子どもの眼に入った。
噴射口を覗き込んだのかもしれない
症状 眼の痛み
処置 洗眼
転帰 家庭内で経過観察、洗眼後に軽減、翌朝には改善
◎事例2 【原因製品:芳香・消臭・脱臭剤(液体タイプ】
患者 年齢不明 女性
状況 小瓶にスティックを挿すタイプの液体の芳香剤を初めてトイレに設置していた。
徐々に症状が出現した。アレルギーの既往がある。
症状 頭痛、眼のかゆみ、倦怠感
処置 室内の換気、薬剤の除去
転帰 薬剤除去後に軽減、転帰不明
◎事例3 【原因製品:芳香・消臭・脱臭剤(スプレータイプ)】
患者 70 歳 男性
状況 エアゾール式の消臭剤の缶を廃棄するため、缶に穴を開けたところ残液が噴出し、
顔にかかり眼に入った。
症状 眼の違和感
処置 洗眼、洗顔
転帰 洗眼後に軽減、転帰不明
◎事例4 【原因製品:防水スプレー(衣類・布製品用)】
患者 33 歳 女性
状況 ベランダでレインウエア上下に防水スプレーを使用。マスクはしておらず、
使用中、風が自分の方に向いたので、向きを変えて、続けて使用した。
換気と使用量の注意書きは読んでいたが、前回 1 本の半分では効果がなかったので、
1本分使用した。
症状 咳、息苦しさ、悪寒、発熱
処置 安静、医療機関で解熱剤処方
転帰 外来受診(当日、通院複数回)、軽快
◎事例5 【原因製品:防水スプレー(靴用)】
患者 42 歳 男性
状況 玄関内で扉を閉めて、エアゾール式の防水剤を靴3足分に念入りに使用した。
マスクは着用していなかった
症状 咳、発熱、肺炎
処置 詳細不明
転帰 入院(2日)、軽快
◎事例6 【原因製品:虫よけ剤(顆粒タイプ)/不快害虫用殺虫剤(スプレータイプ)】
患者 36 歳 女性
状況 換気の悪い台所に、粒状の虫よけ剤を設置し、エアゾール式の殺虫剤を使用した。
日中は大半台所で過ごしており、翌日より症状が出現した。
症状 ふらつき、感覚異常、眼の違和感
処置 医療機関で輸液
転帰 外来受診(2日後)、転帰不明
◎事例7 【原因製品::防カビ剤(一回使い切りタイプ)】
患者 69歳 女性
状況 閉め切った浴室で、カビ防止用のくん煙剤を使用しながら掃除をして、吸入した。
症状 嘔吐、意識障害
処置 医療機関で呼吸管理
転帰 救急外来受診(当日)、転帰不明
作成:2020-01-28