残留農薬・食品汚染にもどる

n02504#クロルピクリンの残留基準が原案どおり告示される#20-04
【関連記事】記事n00804(健康影響評価について)、記事n02004(残留基準について)
【参考サイト】食品安全委員会:クロルピクリンに係る食品健康影響評価に関する審議結果(案)についての意見・情報の募集について
               農薬評価書案反農薬東京グループの意見
               パブコメ結果を踏まえた決定評価書(食安委の見解:p57-60)(2018/12/19)
        厚労省:食品中の農薬等(クロルピクリン等6品目)の残留基準設定に関する御意見の募集について
               資料。 反農薬東京グループの意見と厚労省の募集結果及び回答

 クロルピクリンについては、2018年に食品安全委員会から農薬評価書案のパブコメ意見募集され、ADIは0.001mg/kg体重/日とARfDは0.5mg/kg体重が設定されていますが、前号のトピックスでもふれたように、厚労省は、昨年10月7日から11月5日までパブコメ意見を募集したクロルピクリンの残留基準を、2020年03月31日付け官報号外65号で原案どおり(コメなど70農作物の残留基準のすべてが0.01ppm)告示しました。
 2名から6つの意見が提出されたとのことで、同省の見解も公表されています。  当グループは記事n02004に示したように、5つの意見を述べました。以下に、厚労省の[回答]を紹介します。

★高すぎるADIを根拠に、80%を超えないから問題ないと
 わたしたちは、残留基準の根拠としての食品安全委員会の決めたADIは0.001mg/kg体重/日。ARfDは0.5mg/kg体重が高すぎるとして反対しており、食品以外の水や大気からの摂取も考慮すべきとしました。
 厚労省の回答は『環境からの暴露については、農林水産省又は環境省が所管する法令等に基づき、適正に農薬の使用がなされ、安全性が確保されているものと承知しています。その上で、食品中の農薬等の残留基準設定においては、水や大気など農作物以外から農薬が体内に取り込まれる可能性を考慮し、摂取量が一日摂取許容量(ADI)の80%を超えない範囲で残留基準を設定しています。』でした。
 食品からの摂取にしか眼をむけず、クロルピクリンが大気中に揮散したり、地下水を汚染して、現実に被害がでていることは、我関せずの見解です。

★土壌や作物に残留するクロピク以外の塩化物がどうなるかは不明と
 クロルピクリンは、作物の定植や播種前に土壌処理する農薬で、しかも揮発性であるため、生育した作物での残留試験は 55 作物 67 品目で 193 件(うち社内試験 94 件)で、クロルピクリンはいずれも検出限界以下(多くは<0.005 ppm )でした。
 わたしたちは、食安委に、クロルピクリンの64.7%は塩素であり、処理土壌で栽培した作物に塩素成分が、どのような化合物として、どの程度残留しているかを示すべきだと、しました。この時は『作物残留試験成績では、塩素を含む化合物が含まれる土壌で栽培した作物へのクロルピクリン以外の化合物に関する残留について、記載されていませんでした。いただいた残留基準に係る御意見の内容については、リスク管理に関するものと考えられることから、厚生労働省に伝えます。』でした。しかし、このことに関する厚労省の回答は『クロルピクリンの使用に係る農地等の土壌への残留については、農林水産省による農薬取締法に基づく農薬登録手続において、登録の拒否条件に該当す るか否かが判断されるものと思料します。厚生労働省においても、農作物に残留する塩素化合物については、食品安全情報や国際的動向を注視し、対応してまいります。』で、科学的な内容は示されませんでした。

★厚労省は、農水省や環境省にクロピク使用中止を求めないと
 わたしたちは、パブコメの中で、事例を示し、化学物質過敏症のヒトへの健康影響をどう考えるか。処理地域周辺住民の疫学調査をもとめているが、どう考えるかとも尋ねましたが、いずれも。厚労省からの回答はありませんでした。
 また、農水省や環境省に対し、人や環境に有害なクロルピクリンの使用をやめるよう求めてほしいとの要望には、『国内の農薬の登録については、農薬取締法を所管する農林水産省により、農業者への健康影響、水質や水生生物などへの影響、周辺農作物や有用生物への影響、農薬が残留した農産物を食べた消費者への健康への影響、病害虫防除の効果など、安全性、有効性等が考慮され、使用が認められているものと承知しています。』との回答で、あたかも、クロルピクリンによる被害がないかのような言い分でした。

★遺伝毒性があっても、発がん機構は、非遺伝毒性メカニズムだと
 食安委の健康影響評価で、わたしたちは、『クロルピクリンは、マウスの発がん性試験で、雌雄に肺の細気管支肺胞腺腫及び癌並びにハーダー腺腺腫、雌で前胃の扁平上皮乳頭腫及び癌の発生頻度増加が認められたが、腫瘍発生は非遺伝毒性メカニズムと考えられている。このような農薬はその摂取を出来るだけ減らすべきである。そのためには、残留基準を低値に設定することが肝要である』としましたが、残留基準のパブコメでは、 以下のような意見がありました。
 『評価に供された遺伝毒性試験の in vitro(シャーレや試験管内で、組織や細胞を
  用いて調べる)試験の一部で陽性の結果が得られたにもかかわらず「小核試験を
  始め in vivo(生体内に直接被験物質を投与して調べる)試験では陰性の結果が
  得られたので、クロルピクリンは生体にとって問題となる遺伝毒性はないと結論」
  しているのは、危険。リスクがゼロにならない限り農薬等の残留は認めるべきでない』
 いうならば、遺伝毒性があるから、発がんリスクはゼロにならないと主張です。
 これに対する厚労省の回答は『遺伝毒性試験として、複数のin vitro試験及びin vivo試験が  実施されており、内閣府食品安全委員会による食品健康影響評価においては、これらの試験  結果を総合的に評価して遺伝毒性の有無を評価しています。詳細については、食安委の評価書を御覧ください』

クロピクの水質汚濁に係る農薬登録基準のパブコメ実施中
 環境省から、5月8日締切で、クロピクの登録基準を0.002mg/Lとするとの提案が出され、パブコメ意見の募集がされています。
 この基準値は、ADI:0.001 (mg/kg 体重/日)、人の体重:53.3 (kg)、ADIの10 %配分、 飲料水一日摂取量:2 (L /人/日) から、算出されたものです。使用しなければ、ゼロになることを念頭に、先の健康影響評価についての当グループの意見を参照に、ご意見を投稿してください。

【参考サイト】環境省:クロルピクリンの水質汚濁に係る農薬登録基準についての意見募集基準案資料


作成:2020-04-30