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★n02605#2018年度の農薬種類別出荷量〜環境リスク・健康研究センターのデータベースより#20-05
【関連記事】記事n01303(2017年の農薬別出荷量)
【参考サイト】環境リスク研究センター:化学物質・農薬データベース
       環境省:PRTRインフォメーション広場にある2018年度届出外排出量推計結果のうち
              殺虫剤に係る需要分野別・対象化学物質別の排出量推計結果農薬に係る排出量推計結果

★トップの有機リンは2702t、二位のネオニコは425t   環境リスク研究センターの化学物質・農薬データベースは、3月下旬に、データベースが更新され、2018年度の成分別出荷量が追加されました。
 本号では、農薬別の出荷量がどのようになっているかを、主に神経毒性のある代表的な農薬について報告します。

 右図は、有機リン23種、有機カーバメート殺虫剤13種、ピレスロイド15種、ネオニコチノイド7種、IGR(昆虫成長制御剤)12種について、各成分合計出荷量の2013-18年の推移です。
 有機リンの減少傾向はつづいていますが、抜きにでて、数量が多いことはかわりません。いままで、前年若干増えたカーバメートは再び減少に転じています。ピレスロイドは漸減、IGRは頭打ちでしたが、ネオニコが9トンほど増えました。

 2018年度の出荷量等は、原体成分別に上位にある農薬を下記の表にまとめました。
 原体輸出があるものは輸出量を示しました。農薬成分のうち、化管法(PRTR法)に指定されているものは、農薬以外の用途(家庭用、防疫用、不快害虫用、シロアリ用など)に使用されているものの排出推計量を示しました。
 空欄になっている個所は、輸出がなかったり、化管法の指定物質でないため統計がないものです。出荷量には、国産原体だけでなく、輸入原体も使用されている農薬もあります。
  表 主な農薬成分のの2018年度の原体出荷量と輸出量
     (単位:トン。出典:出荷量は農薬DB、輸出量は農薬要覧2019年版。( )は2017年度。)
      * 化管法の指定物質で、農薬用途以外の殺虫剤(家庭用、防疫用、不快害虫用、シロアリ防除用)
      # EUでは使用されていないが、日本で登録されている農薬

        成分名         農薬出荷量         農薬原体輸出量    化管法指定
                                 の殺虫剤*
    有機リン系
     DDVP        日本でもEUでも農薬登録失効        51.985(49.502)
     DMTP#         105.51 (115.44)
     MEP#          338.57 (366.36)   1545.9 (649.1)  16.858(18.584)
     MPP#        -0.13 (-0.011)            4.606(6.506)
     ダイアジノン#      313.27 (339.57)               0.062(0.230)
     アセフェート#      243.07 (278.04)
     マラチオン          91.19 (105.63)
     23成分合計        1701.77 (1801.64)
    ネオニコチノイド系
     アセタミプリド       50.156 (50.288)    672.9 (546.1)
     イミダクロプリド#    67.486 (64.318)
     クロチアニジン#      74.804 (75.907)    94.8 (199.0)
     ジノテフラン#       166.98 (156.84)     224.2 (244.5)
     チアクロプリド       14.212 (14.385)
     チアメトキサム#      46.15 (48.355)
     7成分合計           425.34 (416.324)
    カーバメート系殺虫剤
     BPMC#            20.95 (35.13)       41.0 (45.0)  12.772 (5.156)
     NAC#             44.58 (49.79)                11.624 (11.359)
     ベンフラカルブ#      35.35 (36.05)      493.0 (545.0)
     メソミル            53.396 (98.520)
       8成分合計        232.887 (310.495)
    ピレスロイド系
     エトフェンプロックス 75.151 (76.747)    186.2 (303.4)  4.326 (3.272)
     シペルメトリン#      12.297  (11.55)
     シラフルオフェン#    20.155 (20.385)
     テトラメトリン(フタルスリン)農薬は登録失効      33.314 (34.506) 
     フェンバレレート#     7.84 ( 7.92)       2.4 (6.64)
     ペルメトリン#       11.92 (12.86)                 8.241(5.888)
     15成分合計         145.9129 (149.043)
    IGR系
     テブフェノジド        9.4077( 9.447)     34.8 (44.6)
     ブプロフェジン       60.405 (60.065)    474.4(544.4)
     12成分合計         94.813 (94.518)
    フェニルピラゾール系
     フィプロニル#       15.597 (15.449)               4.646(3.272)
     エチプロール#       35.252 (35.069)
    グリホサート系4成分 6164.72 (5667.29)
    クロルピクリン#    6908.97 (6526.16)

★有機リンMEP国内出荷量は350トン。輸出量は倍増の1500トン超え
 神経毒性が問題となる有機リン23種の合計出荷量は、前年から約100トン減、MEP28トンを筆頭に、ダイアジノン、アセフェート、マラチオン、DMTPと軒並み10トン以上の減少です。MPPは前々年からマイナス値がつづいていましたが、2020年6月10日、登録失効し、昨年11月に失効したEPN(記事n02105)と同じ運命をたどりました。DDVPが、いまだ、ゴギブリ用殺虫剤として防疫用に使われつづけていることも、注意を要します。
 昨年は、1000トンを超えていたMEPの輸出量が390トン減少して、歓迎しましたが、これは、裏切られ、今年は、昨年の倍増の1500トンの輸出がありました。MEPはスミチオンという商品名で知られるとおり、住友化学の製品で、同社は、ネオニコチノイドのクロチアニジン、ピレスロイド系の主力生産メーカーで、農薬メーカーのトップの座にある稼ぎ頭である状況はかわりません。


★頭打ちのネオニコチノイドは国内416トンだが、輸出は990トン
【参考サイト】有機農業ニュースクリップ:Top Page とネオニコ系農薬出荷量が減少傾向(2018.04.12 No.910)
       食品安全委員会情報:EU、ブプロフェジンの適用作物を非食用作物のみに制限

 ネオニコは、この10年余り、出荷量が400トンを超えたあたりで低迷しており、2018年は、ジノテフランが10トン増えたの目立つくらいです。個々のネオニコの推移については、参考サイトにあげた、有機農業ニュースクリップの表を参照してください。
表にあげた6成分につづくのは、ニテンピラム、新たに登録されたスルホキサフロル、フルピラジフロン、トリフルメゾピリムなど、次の世代のネオニコチオノドが控えています。それよりも、日本で原体が生産されているアセタミプリド、クロチアニジン、ジノテフランの3成分の合計輸出量が1000トン近くあるのは要注意です。海外で、ミツバチ被害を起こすだけでなく、ネオニコ耐性のある水稲害虫が日本のやってくることになります。
 EUでは、2013年から、使用規制が実施されていたイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムの3成分が、ミツバチへの影響が明確になり、2018年末に、加盟国全域で、屋外使用について全面禁止となっており、今年の4月には、チアクロプリドの登録が失効しています。
 農薬用途だけでなく、動物用医薬品や、家庭用殺虫剤やシロアリ防除剤などとしての身の回りでの使用量は、明確ではありません。わたしたちは、化管法の指定物質するよう求めていますが、所管省はようやく重い腰をあげはじめ、パブコメ意見を募集が終わっています(記事n02401)。

 減少傾向にあった有機カーバメートは、2017年に8成分で310.4トンに増えたものの、18年はまた減少しています。これは、ペットの殺害に使われることの多い毒物メソミル(商品名ランネートなど)の変動が大きいためで、同剤は今後、使用規制を強化せねばならない殺虫剤のひとつです。国内使用より多い劇物ベンフラカルブ(商品名オンコルなど)、BPMC(商品名バッサなど)も問題で、なかでも、前者は、年間500トン近く輸出されています。
 ピレスロイド系は減少傾向、IGR系殺虫剤は頭打ち傾向にあり、前者は15成分で年間1約150トン、後者は12成分95トン前後で推移しています。神経毒性や魚毒性があるピレスの中で使用量が多いのは三井化学が開発したエトフェンプロックス(商品名トレボンなど)で、年間76.7トンと輸出用303.4トンが生産されています。また、農薬失効したテトラメトリン(フタルスリ)が34.5トンが家庭用殺虫剤として出荷されています。

 IGRでは、日本農薬が製造している殺虫剤ブプロフェジン(商品名アプロードなど)の出荷量は年間 60トン、輸出はその8倍の480トンです。日本では、水稲、野菜、果樹、茶、花卉などにひろく適用がありますが、EUではブプロフェジンが残留した作物から、調理・加工時の加熱により有害なアニリンが発生するため、食用作物には使用できません。
 フェニルピラゾール系の2種は、水稲育苗箱に使われ赤トンボの減少の原因となるフィプロニル(商品名プリンスなど)と、カメムシ駆除の空中散布などで、ミツバチに被害を与えエチプロール(商品名キラップなど)はそれぞれ、15トンと35トンで、前年とあまりかわりませんでした。  その他、住民の中毒が一番多い土壌くん蒸剤クロルピクリン(関連記事一覧)は、前年増400トンの6900トン、さらに、IRACの発がん性ランク2Aのグリホサート(記事t28401)は、前年500トン増の6200トン出荷があるほか、無登録の非植栽用除草剤として、空き地、駐車場、運動施設、道路、鉄道などでも使われていますが、出荷量が不明なだけでなく、周辺への周知もなく、散布されています(記事n01301記事n01405記事n01802参照)。

 なお、再評価が必要だとして、昨年9月に14農薬成分(ネオニコチノイド系5成分、グリホサート系4成分を含む)が告示されました(記事n01801)。再評価の頁にある優先度基準をもとに、5つに区分された農薬リストが一覧できます。すでに、再評価されたEU諸国では、表に#印をつけたように、有機リン剤やネオニコチノイド、クロルピクリンほかが使われなくなっています(日本で登録があるが、EUでは使用できない農薬は記事t31601参照)。

作成:2020-05-30、更新:2020-07-02