健康被害にもどる
n02802#本年前半の農薬及び関連物質による危被害〜豪雨水害、工場火災、農薬犯罪、残留基準違反など#20-07
【関連記事】2019年の農薬危被害:水系汚染・魚毒事件、事件・事故、残留基準違反
本年の農薬環境汚染について、記事n02603で、水戸市の逆川出の魚毒事件を紹介しました。7月には、各地で豪雨被害がおこり、農薬汚染が懸念されます。この号では、新聞報道や自治体の情報から、本年前半に発生した農薬その他による危被害の事例をとりあげます。
★令和2年7月豪雨による被害〜日田市では農協倉庫から約1トンの農薬流出したが98%回収
7月3日から9日にかけて、鹿児島県、大分県、熊本県、岐阜県に連続して豪雨が襲い、河川氾濫や土砂流入で、85名の死者・行方不明者がで、多くの家屋や農地が被害をうけたことお悔やみとお見舞いを申し上げます。
【JAおおいた】7月7日には、大分県日田市天瀬町(あまがせまち)で、筑後川水系の玖珠川(くすがわ)が氾濫し、JAおおいたの農薬倉庫が河川水と土石の流入で、損壊し、保管していた農薬が河川に流出しました。
JAおおいたが、10日に発出したお知らせでは『事故発生後、西部保健所に連絡し、農薬の流出量について確認を行っております。流出した可能性がある量は674sと考えられます。仮に全量が流出した場合でも、濁流に流出したことにより希釈され、人体や水生生物への影響はないものとみており、現在被害の報告は受けておりません』と、希望的な見解が述べられていただけですか、日田市は、同日、「玖珠川に流出した農薬の取り扱い」として、『7月7日の水害で、JAおおいた天瀬支店の倉庫に保管していた農薬の一部が、玖珠川に流出しました。河川で農薬が入った袋などを発見したら、触れずに下記の問合せ先にご連絡ください。』とした緊急情報をだしています。
その後のJAおおいたの7/16の報告、7/28の報告によると、農薬保管量は674sでなく、直近に新たに入荷している農薬を加えた被災時における農薬保管量は、1,104sとのことで、下記のように98%が回収されたとなっています。
回収状況:7月15日 被災時保管農薬量 回収された農薬量 回収率
農薬総重量 1,104Kg 813Kg 74%
(うち劇物農薬 57Kg 57Kg 100%)
7月28日 総重量の 98% 1,081kgを回収
【三井化学大牟田工場】7月の豪雨で、福岡県大牟田市にある三井化学は、「九州地方の豪雨による当社への影響について」(7/08第一報と7/14第二報)を発信しています。概略は以下のようです。
・7月6日夕刻から、豪雨による弊社電気設備の浸水のため、全プラントを停止しました。
・天候の回復を待ち、復旧のための点検作業を順次開始し、本格的な復旧作業に入ります。
・7月8日夜に、弊社電気設備が復旧しました。そののち、現地天候の回復を見ながら、
復旧のための点検作業を開始しました。現在、点検作業が終了したプラントから
順次再稼動しています。
大牟田工場は、三井化学の農薬製造の中心となる工場で、ジノテフラン/エトフェンプロックス/クロルピクリンらが製造され、過去には、ダイオキシン類を含有する2,4,5−T、PCP、CNPが製造されていただけに、工場内外の農薬やダイオキシン類の汚染調査がなされたかどうかが、気になるところです。同社に問い合わせたところ以下のような回答でした。
・農薬関連施設に、浸水はなく、他のトラブルもない。。
・工場全体の排水処理施設には、浸水があったが、排水規制値を越すことはない。
・豪雨前後の土壌中ダイオキシン類の変化を調査はない。
★塩素系物質による被害
農薬と直接関係ありませんが、塩素系物質による汚染があとをたちません。
【兵庫県】3月30日、兵庫県丹波篠山市の清掃センターで、空き缶やビンなどの処理工程で、異臭が発生し、作業者8人が手のしびれや嘔吐の症状などを訴え、救急搬送されました。症状の重いひとはなく、通常の有害物質の検査では、原因は不明です。
【鹿児島県】5月8日、鹿児島市の和田川で魚の大量死がみつかかりました。前日、付近の和田中学校のプールで、職員が通常より多い、塩素系消毒剤を投入したのが、原因と考えらており、回収された死魚は300匹を超えたとのことです。
【沖縄県】6月22日、沖縄県の嘉手納町と北谷町にひろがる嘉手納基地にある危険物質を取り扱う施設で火災が発生し、塩素を含むガスが発生したとの情報を、アメリカ軍が明らかにしました。基地周辺の住民には、黒煙で、火災に気がつきましたが、地元への連絡は遅れたそうです。出火状況や汚染状況の詳細は不明です。翌日の河野防衛大臣記者会見での質疑は囲み記事をごらんください。
7月2日には、地元の嘉手納町議会が、嘉手納基地内の危険物取扱施設火災に対する『意見書』(内閣総理大臣/外務大臣/防衛大臣/内閣官房長官(沖縄基地負担軽減担当)/沖縄及び北方対策担当大臣/外務省特命全権大使(沖縄担当 沖縄防衛局長/沖縄県知事宛)と抗議決議(駐日米国大使/在日米軍司令官/在沖米軍沖縄地域調整官/在沖米国総領事/嘉手納基地第18航空団司令官/沖縄県議会議長宛)を提出し、
1 火災原因を徹底究明し、その結果を速やかに公表すること。
2 実効性ある再発防止策を講ずること。
3 通報体制を遵守し、事故に関する正確かつ迅速な情報提供を行うこと。
を、求めました。
沖縄では、嘉手納基地のほか宜野湾市の普天間基地でも、後述のように、PFOSなど有機フッ素化合物の汚染が問題となっています。
【北海道】7月6日、北海道恵庭市の市営のごみ焼却施設で、塩素ガスが発生し、作業者5人が病院に搬送されました。いずれも軽症ということです。塩素ガスは施設内の地下水ろ過装置に、次亜塩酸酸ナトリウムを補充する際に、誤って塩酸を投入したのが原因でした。
【徳島県】7月17日、徳島市の市立勝占認定こども園にある屋外簡易プールで、塩素系消毒液のかわりに、台所用漂白剤が使用されました。担当職員が代替可能と誤った判断で使用したということです。
プール用には、次亜塩素酸ナトリウム液/次亜塩素酸カルシウム/塩素化イソシアヌル酸などの製品があり、使用方法や水中塩素濃度がきめられています。一方、台所用漂白剤は、次亜塩素酸ナトリウム/水酸化ナトリウム/アルキルエーテル硫酸エステルナトリウムらを含み、衣料用漂白剤の組成とも異なります。
薬剤容器の表示に従った使用方法を守ることが最低条件です。
★【農薬散布車による事故】
反農薬東京グループは、記事n00204(2018/05)と記事t21605(2009/08)で、農薬散布車スピードスプレーヤーによる死亡事故をとりあげましたが、相変わらず、事故が発生しています。
【福島県】3月31日、福島市の果樹畑で、自走式農薬散布車と樹木に挟まれて、作業していた男性が死亡しました。
農水省が公表している2018年に発生した農作業死亡事故の概要によると、年間死者数は274人となっており、そのうち農業機械作業に係る事故が約60%の164人です。農薬用の動力防除機による死者は8人(機械の転落・転倒3、挟まれる2、ひかれる1、機械からの転落1、その他1)でした。同年の>山梨県の事例では、散布車の下敷きによる死亡2、散布車ごとの転落負傷1があがっています。
★火災など〜日産化学富山工場では、塩素系ガス発生
工場火災やスプレー製品による火災もありました。
【千葉県】2月11日、千葉県習志野市の居酒屋で、従業員がゴキブリ退治の殺虫剤スプレーを噴射したところ、火気に引火・爆発しました。客を含む5人が、怪我・火傷を負いました。
【富山県】6月12日の早朝、日産化学の富山工場の倉庫で火災がありました。会社が発信したお詫び(第一報、第二報)によると、一般倉庫内の保管品(廃棄予定の規格外塩素系洗浄剤)から出火したもので、被害状況などは以下のようです。
・人的被害:なし。物的被害:倉庫内設備(自動火災報知器、シャッター)および
フォークリフトの損傷、その他保管品(廃棄予定の塩素系殺菌消毒剤)の損傷。
・環境への影響は、一時的に塩素系ガスが発生いたしましたが、 工場敷地外周辺で
当該ガスは検知されておりません。
・事故発生当日、工場周辺の小中学校4校にて、登校の遅れがありました。
・原因は、吸湿により発熱しやすい廃棄予定の規格外塩素系洗浄剤が、アルミ袋
シール包装の不良により吸湿して温度が上昇し、その熱によって周囲の紙製ドラム等から
発火したものと推定しております。
・対策は、当該保管の際のシール包装の確認、記録を確実に行うとともに、速やかな
廃棄処理を実施します。
・事故を再発させないために、 事故調査結果を踏まえ、 対策を徹底して実行していきます。
また、これらの内容は当社全工場にて共有し、 安全活動に取り組んでまいります.
富山工場では、プールなどの消毒・殺菌にもちいる塩素化イソシアヌル酸を製造しており、排出された塩素系ガスがなにかは、報告されていません。さらに、塩素系物質には、不純物としてダイオキシン類が含まれていたり、火災により新たに生成するおそれもありますから、これらが、工場内外の環境に影響を及ぼしていないかを明確にしてもらう必要があります。
【埼玉県】7月7日、さいたま市の国道で、大型トラックが火災を起こし、積荷のスプレー缶約8500本が爆発・炎上しました。
【福島県】7月20日、福島市の日東紡績福島第二工場で、火災が起こりましたが、その後、付近の水路で、小魚の死骸がみつかりました。
同社は、工場の屋根の補修工事で、防水シートに火がつき、屋根2200m2が延焼したとた報告しています(お詫び;第一報、第二報)。
作業者2人が火傷を負い。水路の魚が死んだのは、消火作業の水が原因と考えられています。
★小動物殺傷事件
農薬と思われる薬剤を用いた猫の殺害事件が2件発覚しています。
【沖縄県】1月−2月、豊見城市(とみぐすくし)で、猫の不審死が相次いでおり、
1月29日から2月1日かけて、3匹の死骸が発見され、吐血した猫も複数匹見つかっています。地域猫の世話をしているボランティア団体によると、青色の物質が付着した餌もあったとのことで、農薬混入による毒殺と思われ、豊見城署も調査をするそうです。
【福岡県】「猫の島」として知られている北九州市小倉北区の離島・馬島(うましま)で、猫の不審死がつづくことから、動物虐待問題に取り組むNPO法人「SCAT」が、刑事告発をしていました(記事n01904)。
その後、毒餌を置いてネコを殺した動物愛護法違反などの疑いで、島に住む80代の男が書類送検されていましたが、福岡地検小倉支部は6月25日、「起訴するに足りる十分な証拠が得られなかった」として、同人を不起訴処分としました。
★農薬等を用いた盗難・犯罪事件
【広島県】5月2日、広島市で、買い物をしていた夫婦が、ビル内の店舗で、バックを盗む男を目撃、追跡しました。男は、殺虫剤スプレーを噴射し、抵抗しましたが、夫は柔道技で、犯人を取り押さえたということで、後に、広島中央者は、感謝状を贈ったそうです。
【神奈川県】6月15日、横浜市の郵便局に、ガラス瓶2本をもった男が。混ぜると毒がでると、局員3人を脅し、110万円を強奪しましたが、追跡した警官に逮捕されました。ビンの中身は不明です。
【長野県】6月、長野県飯田市の農家で、キュウリなどの作物が枯れるという事件が相次いで起こりました。収穫1週間前に、ハウス栽培のキュウリに農薬を散布したものの、葉が変色し、3日後には枯れてしまったそうです。持ち主が農薬タンクを調べたところ、使用の覚えのない除草剤が検出されました。
何者かがタンクに混入させた疑いがあり、飯田警察署に被害届を提出したそうです。ハウスから1キロほど離れた畑でも、農薬を散布した果物の木が枯れる被害が確認されていて、JAみなみ信州では、防犯カメラの設置するなど、農薬管理に注意を呼び掛けています。
★残留基準違反事例
農薬の適用外使用や残留基準違反が各地でみられました。基準超え生鮮作物だけでなく、冷凍品や加工品でも報告されており、多くの場合、基準違反発覚までに、市場に流通しており、回収措置がとられています。なお、輸入食品の残留基準違反について、記事n02804を参照してください。
【兵庫県:ほうれんそう】1月24日、兵庫県の神戸物産が販売した冷凍のカットほうれんそうからピラクロストロピンが0.02ppm(残留基準0.01ppm)検出され、自主回収されました。
【兵庫県:きくな】1月29日、兵庫県神戸市のJA兵庫六甲が出荷したきくな にトリフルラリンが0.15ppm(基準値:0.05ppm)検出され、回収されました。
【滋賀県:きょうな】1月27日、滋賀県のJA草津市は、きょうな(切水菜)に、ダイアジノンが0.16ppm(残留基準0.1ppm)検出されたため、自主回収しました。
【兵庫県:ピーマン】3月4日、神戸物産販売のピーマン肉詰めフライから、キナルホスが残留基準を超えて検出され、回収されました。
【山口県:ウメ】5月29日 山口市阿知須管内の生産者1名が 農薬の有効期限・使用期限・使用回数が基準違反であったとして、道の駅きららあじすの生産者が自主点検を実施したところ、一部のウメで農薬の使用方法の確認を怠たり、使用基準の違反が判明し、自主回収となりました。
【北海道:輸入果実原料の加工品】6月4日、北海道消費者協会が 冷凍果実(いずれも輸入果実で、ぶどう3、ブルーベリー5、りんご1、マンゴー3、いちご2、パイナップル1の6種類15検体について。412種類の農薬を調べた結果を報告しました。調査結果では、ぶどう、ブルーベリー、りんごで延べ27検体から、農薬が検出され、いずれも残留基準以下(最大はチリ・トルコ産のぶどうで、シプロジニル0.36ppm)でした。
【中国産ニンジン原料の加工品】6月15日、厚労省は加工品を含む中国産ニンジンからトリアジメノールが0.2と1ppm(残留基準0.1ppm)検出され、その一部が流通済みであることを公表しました。その後、同農薬の検査はを義務づけられました。
【滋賀県:キャベツ】6月28日、滋賀県のグリーン近江農業協同組合が出荷したキャベツにファモキサドンが 0.06ppm(残留基準0.01ppm)が検出され、回収されました。
【徳島県:ジャンボピーマン】7月17日、徳島県阿波市で生産されたジャンボピーマンにメソミル1ppm(残留基準0.7ppm)が検出され、阿波食ミュージアムが自主回収していることを公表しました。散布器具の洗浄が不十分であったことが原因だったとしています。
★その他の有害物質〜PCBやPFOS
PCB含有機器が、福島県喜多方市の私有地と香川県高松商業高校でみつかったほか。
有機フッ素化合物(ヒトの健康や環境生物への影響を与えるPFOS,PFOAで。2008年11月21日、化審法の第一種指定物質に指定されている)の汚染も問題となりました。
PFOSについては、環境省が、検討会を設置し、検出状況等を調査しましたし、水系汚染が、東京都福生市横田基地、沖縄県の普天間基地でもみつかっています。文末の参考サイトに関連リンクを記載しました。また、囲み記事の防衛大臣記者会見質疑でも明らかなように、これらを含有するアメリカ軍の大規模火災用の泡消火剤が原因と考えられていますが、自衛隊も同類の消火剤を保有していることも要注意です。
もうひとつ不気味なのは、今年の6月4日、東京湾の神奈川県三浦半島から横須賀市にかけて、ガスのような異臭、シンナー臭がするとの通報が450件近くありました。7月17日にも、横須賀市内の海岸沿いで、同様な通報があり、いずれも、原因不明ということです。
【有機フッ素関連参考サイト】
環境省:有機フッ素化合物の評価等に関する検討会の頁
第一回(2019/12/27):議事次第・配付資料 と議事録。第二回(2020/03/10):議事次第・配付資料 と議事録
環水大水発第2005281号(2020/05/28)で。PFOS・PFOAの合算した水環境に係る暫定的な目標値50ng/Lとする
令和元年度PFOS及びPFOA全国存在状況把握調査の結果について(2020/06/11、結果一覧)
The Informed-Public ProjectのHP:Top Page、普天間基地周りのPFOS/PFOA汚染 : 宜野湾市の当事者性を問う(2018/10/22)
防衛省:防衛省におけるPFOS処理実行計画について(2020/02/26通達)と
PFOS含有消火薬剤の保有状況の修正について(6/18)
衆議院における『防衛省におけるPFOS処理実行計画等に関する質問主意書』:
赤嶺政賢議員による質問書第113号(2020/03/12)と政府答弁書(2020/03/24)
沖縄県:有機フッ素化合物環境中実態調査の結果報告について
・平成30年度夏季結果報告。平成30年度冬季結果報告、令和元年度夏季結果報告
令和元年冬季調査結果、再追加調査結果、雄樋川調査結果
・嘉手納基地へのPFOS等調査のための立入許可申請について(令和2年5月18日付)
*** 囲み記事:河野防衛大臣の記者会見(6月23日)より ***
作成:2020-07-30