環境汚染にもどる
n02901#2019年のミツバチの農薬被害は43件〜前年倍増でも、対策はそのまま#20-08
【関連記事】記事n02701(2018年度農薬被害)、記事n02703(2018年度ミツバチ被害)
【参考サイト】農水省:2019年度の農薬が原因の可能性がある蜜蜂被害事例報告件数及び都道府県による蜜蜂被害軽減対策の検証結果にある被害報告件数(別表1)と被害軽減対策の検証結果(別表2)
農水省は、5月の2018年度につづき、8月3日に19年度のミツバチ被害状況と今年度の対策を公表しました。ミツバチ被害件数は43件で、前年より倍増しました。下表に2015年度以降の都道府県別被害数の推移を示します。被害は全国の9県で報告され、北海道があいかわらず、ワースト1位、60%の26件、ついで、熊本が6件で2位でした。
前年には、地域でミツバチ被害が発生した年月、被害箱数、被害頭数が報告されていましたが、今回は都道府県別件数のみです。そのかわり、とのような被害軽減対策が実施され、その効果はどうであったか検証が詳しく報告されています。
表 2015-2019年度の農薬によるミツバチ被害件数の都道府県別推移
県名 2015 2016 2017 2018 2019 県名 2015 2016 2017 2018 2019
北海道 29 13 13 6 26 京都府 0 0 0 0 0
青森県 0 0 1 0 0 大阪府 0 0 0 0 0
岩手県 3 1 2 1 2 兵庫県 0 0 0 0 0
宮城県 0 0 0 0 1 奈良県 0 0 0 0 0
秋田県 0 3 3 0 0 和歌山県 5 0 0 0 0
山形県 0 0 0 1 0 鳥取県 0 0 0 0 0
福島県 0 4 1 2 2 島根県 0 3 0 1 0
茨城県 0 0 0 1 0 岡山県 0 0 0 0 0
栃木県 0 1 4 1 2 広島県 0 0 0 0 0
群馬県 2 1 1 2 2 山口県 0 0 0 0 0
埼玉県 0 0 0 0 0 徳島県 0 0 0 0 0
千葉県 0 0 0 0 0 香川県 0 0 0 1 0
東京都 0 0 0 0 0 愛媛県 0 0 0 0 0
神奈川県 0 0 0 0 0 高知県 0 0 0 0 0
山梨県 0 0 0 0 0 福岡県 1 1 0 1 0
長野県 2 0 0 0 0 佐賀県 2 0 0 0 0
静岡県 0 0 0 0 0 長崎県 0 0 0 0 0
新潟県 0 0 0 0 1 熊本県 1 1 1 1 6
富山県 0 0 0 0 0 大分県 0 0 0 0 1
石川県 0 1 0 0 0 宮崎県 4 1 1 2 0
福井県 0 0 0 0 0 鹿児島県 0 0 1 0 0
岐阜県 1 0 2 0 0 沖縄県 0 0 0 0 0
愛知県 0 0 2 1 0 計 50 30 33 21 43
三重県 0 0 0 0 0 被害発生
滋賀県 0 0 1 0 0 県数 10 11 13 13 9
★農水省の検証結果〜農薬散布情報の共有化を自画自賛
農水省は、ミツバチの被害について、水稲のカメムシ防除の時期に多く、ハチが直接農薬を暴露しなければよいとの認識のもと、養蜂現場やハチが摂取する花蜜や花粉、水分の採取場所での、農薬散布をやめさせるのでなく、農薬散布情報を使用者と養蜂者の間で共有し、巣箱の設置場所の工夫退避、巣門の閉鎖、粒剤の使用や使用時刻を配慮すべしというのが指導方針でした。その結果はどうだったかを、以下のようにまとめています.
*令和元年度(平成31年度)においては、全ての都道府県が対策を実施し、対策の効果があったとの回答があった。
[コメント]作物別では水稲・カメムシ対策について注意をはらったのは14県(北海道、青森、
宮城、栃木、長野、富山、石川、福井、愛知、島根、愛媛、福岡、佐賀、熊本)
ウメppvウイルス:東京、 松枯れ:長野、富山
ゴルフ場 三重県となっています。
*実施した対策のうち、効果があったと考えられると都道府県が回答した主な対策は、以下のとおり。
※2 都道府県数は項目間の重複あり
・情報の共有(提供)に基づく対策の実施(巣箱の移動、避難場所の設置、蜜蜂に配慮した農薬散布等):41都道府県
・蜜蜂被害に関する知見、被害軽減対策等の周知(通知の発出、講習会での周知等)34都道府県
・被害軽減のための体制の整備(協議会の設置、開催等):11都道府県
*平成30年度に被害が報告された21件のうち、6件で令和元年度(平成31年度)にも同一の場所で被害が報告された。
15件については、巣箱の設置場所の変更、情報共有の推進による農薬散布期間中の巣箱の退避等の対策により、
令和元年度(平成31年度)に被害報告はなかった。
巣箱前に1000匹以上の死骸があった/巣箱についている蜜蜂数が急減した/働き蜂中の外勤蜂の比率が著しく減少した、などをミツバチ被害とみなし、飼育状況や周辺での農薬状況などを報告する様式が調査実施要領で決められていても、前年のように被害巣箱数も被害頭数も明かされていないため、一体何頭のハチが殺され、ハチの繁殖に影響がでたのか不明ですし、原因農薬名もでてこないという検証結果ってなんでしょう。
次に、被害件数の多い北海道と熊本県の検証結果をみてみましょう。
【北海道】26件の被害がありましたが、効果のあったのは、○地域別に対策会議を開催し、地域ごとに可能 な対策を講じた/ ○養蜂家に対する現地指導 をあげ、後者については、避難場所の確保につながったとしています。今後の課題には、避難のための労力確保が難しい/採蜜可能な避難場所の持続的な確保が難しいをあげ、さらに改善するには、放牧地の活用等避難場所の検討/病害虫発生予察情報の養蜂家への情報提供の徹底/畦畔の雑草管理の徹底の必要性を提案しています。
【熊本】は6件の被害でしたが、○蜜蜂飼育集計表の無人航空機組織、JA、関 係機関への配布/○蜜蜂への危害防止チラシの作成/○無人航空機による防除計画の養蜂家への配布/○蜜蜂危害防止に係る検討会の開催/○蜜蜂に対する農薬危害防止対策会議の開催/○水稲防除時期の避難場所の設置などが効果があったとしているものの昨年より被害がふえているので、無人航空機の情報精度の向上や、巣箱の設置数が多く、 移動が困難 ・養蜂家の要望に合う避難場所の確保の必要性が指摘されています。
【その他の県】他の県において、関心が高い被害防止対策は、以下です。
*無人航空機による空中散布をあげているのは、岩手、山形、福島、石川、静岡、兵庫 島根、佐賀 大分、熊本、宮崎、鹿児島の12県です。
ドローン散布については、個人所有による拡大傾向にあるものの、地散並のとりあつかいで、実施計画を自治体に提出する必要ながくなったことが、懸念材料になっています。岩手県が独自に無人航空機(産業用無人ヘリコプター、ドローン等)による農薬の空中散布等についてを発出し、農水省のいう無人ヘリだけだなく、ドローンの散布計画も情報収集し、農薬の空中散布実施による蜜蜂の被害や農薬飛散等の事故を未然に防止するため、岩手県養蜂組合へ情報提供する等、安全対策を講じることとする。また、散布実績についても収集し、農薬使用指導に活用するので、趣旨をご理解の上、散布計画、散布実績について、岩手県農林水産部農業普及技術課へ情報提供をお願いしますと述べています。
同様にドローン空中散布計画を県に届けるようもとめている自治体として、宮城、群馬、茨城、埼玉、岐阜、大阪、兵庫などがあり、養蜂者へ情報提供する手段のひとつとなっています。福島、静岡、石川、大分は散布計画の迅速な情報提供を、熊本は情報精度が低いことを指摘し、宮崎や鹿児島は個人防除者の情報を万全にするようとの指摘をしています。
(注)農水省とは異なり、兵庫県については、防除業者届出制度が独自に実施され
大阪府については、
農業用ドローンによる農薬散布に係る安全使用実施要領あります。記事n02803を参照ください。
*巣箱の避難や移動については、岐阜が天候の変更なので急な予定変更があること。山形、茨城、栃木、三重では、移動先がないこと。熊本でも移動が困難 ・養蜂家の要望に合う避難場所の確保 できないとの指摘がありました。
*水稲、カメムシ関係:岩手、石川、愛知、福岡、鹿児島が注視しており、福岡では、天候の影響でウンカ発生し、イネの開花期とかさなることが懸念されています。
*情報提供:鳥取では 実施計画が遅れるとしていますが、愛知では、個人情報保護や巣箱の盗難防止の観点から、養蜂家の同意なしにJAや水稲農家に果樹農家等に情報提供しないことにしている。このため、JAや水 稲農家、果樹農家等が養蜂組合等を通 じて水稲防除暦や農薬散布計画を提供 するのみの、一方通行の情報共有が多くなっている。蜜蜂の被害防止をより確 実にするためには、養蜂家から周囲の 耕種農家に対して、 ある程度の情報提供(巣箱の概ねの位置等)を行うよう理解を得る必要があるとの声もきこえます。
★2020年度の対策〜農薬使用規制せずして、被害防止はできない
被害が継続している地域や前年度より被害が増加している都道府県においては、農林水産省と都道府県等が協力して、更なる被害防止対策の検討・実施を進める予定であるとして、農水省が6月30日発出した蜜蜂被害軽減対策の推進について(2消安第1564号、2生畜第575号)の内容は、前年とほとんどかわりません。
通知前文で『特に、前年度被害が生じた場所での被害の再発や同一の場所での複数回被害の発生等被害が継続している地域においては、行政、養蜂組合、農業団体等の関係者が協議する場を設けるなどにより、原因究明とそれに基づく更なる被害軽減対策の推進等を徹底願いたい。』とし、本文中では、被害を軽減させるためには、例えば,
<1農薬による被害の低減について(1)蜜蜂の被害に関する認識の共有>では、
『巣門の閉鎖』とあった個所が、『巣箱を日陰に設置するほか、巣内の温度が上昇しないことを確認するなど、
蜜蜂に影響がない状況下での巣門の閉鎖』になる
<同 (2)情報共有の更なる徹底 (イ)水稲の防除に係る情報関係>では、
『無人ヘリコプターの空中散布計画や地域の農業団体が作成する防除暦』に加え
『地域の実情に応じた無人マルチローターの使用者からの自主的な情報提供等から得ること)。』を追加。
<同 (3)被害軽減のための対策の推進>では、
『農薬が散布されている間、巣門を閉鎖すること(併せて日陰に設置するなどの対応が必要)』を
『巣箱を日陰に設置するほか、巣内の温度が上昇しないことを確認するなど
、蜜蜂に影響がない状況下での巣門の閉鎖を検討』と改稿されました。さらに
『農薬の散布は、蜜蜂の活動が最も盛んな時間帯(午前8時〜12時まで)を避け、可能な限り、
早朝又は夕刻に行うこと。』からは、後半の早朝、夕刻の項がぬけ、
『農薬の散布は、蜜蜂の活動が最も盛んな時間帯(午前8時〜12時まで)を避けること。』と
なりました。
<同 (4)策の有効性の検証等>は、昨年もあった事項ですが、今年も継続されることに
なったのは、被害が減らない証拠です。また、
<2 蜜蜂に寄生するダニの被害の低減について>が新たに追加されました。
『養蜂現場におけるバロア病を媒介するミツバチヘギイタダニによる蜜蜂への被害に対応するため、
養蜂家に対し、既存のダニ駆除剤であるアピスタン、アピバールについては連続使用により
薬剤効果の低下も懸念されること、また、新たなダニ駆除剤であるチモバールについては、
高温下(30℃以上)での使用は避けることなど、メーカー指定の用法及び用量、注意事項等を
十分確認の上、適切に使用されるよう周知すること。』とあり、農薬以外のミツバチ用薬剤の
懸念があるようです。
これらの変更の多くは、、記事n02703で述べた、養蜂業界の意見をとりいれたものと思われます。
農薬のミツバチ被害防止の大きなネックとなるのが、農薬使用者と養蜂者の間の散布情報の共有化であることは自明です。今年度の農水省の方針で、いちばん気にかかるのは、『水稲の防除に係る情報関係に「地域の実情に応じた無人マルチローターの使用者からの自主的な情報提供等から得ること』とある一文です。昨年までは、無人ヘリコプターと同じく、実施計画の届出が義務づけられていたのに、ドローンは除外されたのです。実施主体が正しく、情報を養蜂者に提供できるのでしょうか。
また、同じ懸念は、行政が、防除業者の情報を把握していないことにもあります。2003年の農薬取締法改定の結果ですが、無人航空機空中散布だけでなく、地上散布でも防除業者による散布、県境を越えた活動がみられるのに、養蜂者にきちんと散布情報がつたわるのでしょうか。
農水省は、カメムシ対策で、通常、ミツバチの行動半径は約2kmだといいます。近くに餌場がない場合は、距離はもっとのびるでしょう。
また、『 害虫の発生源になる圃場周辺等の雑草管理については、これまでも栽培管
理の一環として実施されてきたところであるが、蜜蜂の開花雑草への訪花を防ぐためにも、農薬を使用する圃場の畦畔や園地の下草等の雑草管理を徹底すること』との指導も毎年みられ、除草剤の使用拡大につながりかねません。
通知の<(4) 対策の有効性の検証等>の項にある 「蜜蜂被害事例調査実施要領」や記載様式も前年同様で。農薬散布を前提とした使用方法に関するものにすぎません。
★65年前にたちかえろう
農水省が農薬に依存する農業を優先し、養蜂だけでなく、作物や果樹の育成に必要な日本ミツバチほかのポリネーター保護を切り捨てたのは、旧養ほう振興法を制定した1955年のことでした。
当時。国会に提案された原案には、第五条(農薬使用の規制)で『農林大臣は、農薬の使用がみつばちに著しい被害を与えるおそれがあると認めるときは、当該農薬を使用する者に対し、その使用を制限し又はその使用の時期、方法等について必要な措置をとるべきことを命ずることができる。』となっていました、これは、有機リン剤パラチオンなどの影響でミツバチ被害が増大したため、危機感をいだいいた養蜂業者の意見をとりいれたものですが、食料増産を第一に考えた農政族議員や農水省、農薬業界らとの力関係の中で、提案議員自らが、第五条削除の修正案を出さざる得なかったためです。この条文はその後の2012年の新法「養蜂振興法」でも実現しませんでした(記事t25203参照)。
そして、農水省は、65年前を忘れたかのうように、いまや、スマート農業をキャッチフレーズに、相変わらず、農作物の生産性向上、みてくれ第一を念頭に、農薬使用を削減しようとしません、それどころか、農薬の残効性をたかめる=一回の散布で長期の病害虫への効果を示すことを良しとし、農薬の食べものでの残留が高くなることや農薬ドリフトによる生活環境や自然環境の汚染防止をあまりに軽視しています。
ミツバチ被害を防止するのは、農薬使用削減を第一とし、行政指導でなく、地上散布や無人航空機を含む空中散布防除業者の地方自治体への届出、農薬使用者の散布周知を養蜂者や地方自治体に義務付ける法制度が必要です。
作成:2020-08-30