環境汚染にもどる
n02904#コロナのおかげで、ネオニコ研究が減った?〜本年度の環境化学討論会が中止に#20-08
【関連サイト】2019年第28回学会記事記事n01702(ミツバチ被害)、記事n01902(水系汚染報告)
【参考サイト】日本環境化学会:Top Page
第28回環境化学討論会と口頭発表プログラム(2019.6、さいたま市開催)
第29回環境化学討論会の延期および第30回環境化学討論会の順延についてのお知らせ
コロナ問題で、集会自粛の動きの中、学会も例外ではありません。日本環境化学会が毎年、開催している討論会も、第29回の大阪大会(2020/06/24〜26)が来年に延期され、2021年の富山大会も2022年に順送りになるとのことです。
★昨年の討論会の補足として〜新生児への母体からのネオニコ移動
【関連記事】記事n00305
【参考サイト】アクト:Top Page、助成先活動情報(ネオニコチノイド、母体から胎児へ移行)
NPO福島県有機農業ネットワークのブログ(2019年3月28日):
有機農産物を食べることで、殺虫剤ネオニコチノイド注1)への曝露を低減できる
第28回環境化学討論会:actのHPへ転載された論文
ネオニコチノイドの母子間移行の実態と移行メカニズムの解明
○池中良徳 ,一瀬貴大1,ニマコ・コリンズ , 市川剛 ,野見山桂 ,長谷川浩 。
中山翔太 ,星信彦,平久美子 , 石塚真由美
北海道大学の池中さんらは、記事n00305で、ネオニコチノイド系農薬を、ヒトの新生児の尿中に検出したことを紹介しましたが、上述の2019年の学会では、母体から胎児への移行メカニズムを明らかにするため、以下のような研究を行いました。
【試験方法と結果】
@妊婦尿(n=162)および新生児(n=31)の尿中ネオニコチノイド濃度を測定
生後 1〜3日の新生児の尿にイミダクロプリドおよびデスメチルセタミプリドがそれぞれ
32%および 16%の検出率で検出され、濃度は LOD−1.5 ppb(最小値―最大値)であった、
母体では、検出頻度および濃度とも新生児よりも高く、7 種のネオニコチノイドの合計では
検出率は 96%、濃度範囲は LOD−56 ppb であった。
Aネオニコチノイドを使用していない有機農産物を5日間または 30日間摂取したボランティアの
尿中濃度の変化をモニタリング
有機農産物を食べた後の尿中ジノテフラン濃度は、食べる前と比べ有意に低かった
日本人の主なネオニコチノイドの摂取源は飲食物である事が示唆された
B愛媛大学生物環境試料バンクに保存されているニホンザル胎児個体を用い、血液、胎盤、脳組織中の
ネオニコチノイドおよびその代謝物の分析
胎児臓器からアセタミプリドおよびイミダクロプリドとその代謝産物が検出された。
イミダクロプリドは胎盤から 100%検出され、濃度も最大で 8 ppb 程度曝露を受けており、
胎盤を通じ母子間移行する事が明らかになった。
C妊娠マウスに対して,クロチアニジン 65mg/kg/day を投与した。妊娠 18.5 日に投与
その 1、3、6 時間、4 日および 9 日後にそれぞれ母獣(後大静脈)および胎子(心臓)から採血
妊娠マウスへのクロチアニジンの投与実験で、母獣と同程度の親化合物および代謝産物が検出され、
胎児から検出され、迅速に胎盤関門を通過する事が明らかになった。
【結論】
ネオニコチノイドにより胎児期から曝露を受けている事が明らかになり、その摂取源は
飲食物である可能性が高い事が明らかになった。また、ネオニコチノイドは胎盤関門を
速やかに通過し、母体から胎児へ移行する事も本研究により明らかになった。
★アクト助成によるネオニコチノイドの井戸水・湧水汚染調査
【関連記事】亀田豊さん関連記事:記事/t30003、記事t31403、記事n00401、、記事n01902の注
【参考サイト】千葉工業大学亀田研究室;Top Page、パッシブサンプリング法 研究成果(2017/06/02)
アクト:Top Page、2019 年度「ネオニコチノイド系農薬の地下水汚染調査プロジェクト」調査結果発表
地下水調査結果報告と調査の手順確定版
討論会では、毎年のように農薬、特にネオニコチノイド系の水系汚染状況に関する研究発表がが行われ、報告の紹介をしてきましたが、それもかなわなくなりました。その補足というわけではありませんが、5月に公表された一般社団法人アクト・ビヨンド・トラスト(略称アクト)の調査報告を紹介します。
アクトは、ネオニコチノイド系農薬について、調査や研究に関する公募助成企画を募集していますが、2019年度研究助成テーマである地下水中のネオニコチノイド汚染調査の概要が、5月27日に公表されました。全国から応募した参加者が、試料の採取を行い、千葉工業大学の亀岡豊研究室のグループが分析したものです。
、
【研究方法】亀田さんは、2016年の環境化学討論会での記事t30003で紹介したように、従来の河川水の一回採取による農薬分析ではなく、パッシブサンプリング法という手法をとっています。これは、特殊なプラスディック製サンプラーをネットにいれ、採取地点に、約30日間、水に浸った状態で設置、その後回収されたサンプラーに吸着している農薬を分析するものです。
【試料採取】採取希望者を応募し、現地で、サンプリングを行い、研究者に試料を送付した。
【分析対象農薬】ネオニコチノイド系化学物質 7 種(アセタミプリド、イミダクロプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアクロプリド、チアメトキサム、ニテンピラム)とフィプロニルおよびその代謝物 3 種(フィプロニル デスルフィニルフィプロニル スルホン、フィプロニル スルフィド)。
【調査結果概要】報告は、速報であり、全国26個所の地点での分析結果がしめされています。採取地点の周辺環境は、山林、ゴルフ場、水田、畑、宅地、など、さまざまで、それぞれの地域での農薬使用状況を踏まえた今後の解析結果の報告が待たれますが、とりあえず、検出傾向を下表のようにまとめました。表をみると、以下のようなことがわかります。
・26検体(うち井戸水14、湧水12)中、19検体になんらかの成分が検出され。7検体では、全成分が<0.01pptであった。
・アセタミプリド、チアメトキサム、ニテンピラムはすべての検体で<0.1pptであった
・検出数の多い順では、ジノテフラン13件(検出率50%、検出範囲:0.1〜50.7ppt)、
クロチアニジン10件(検出率38%、検出範囲:0.1〜49.2ppt)、
チアメトキサム8件(検出率31%、検出範囲:0.1〜427ppt)、
・最大検出値は、北関東2の井戸で、周辺は 畑となっており、ジノテフラン427pptである。
同地点は、イミダクロプリド36.5、クロチアニジン 49.2各pptも同時検出されている。
・研究者は『いずれの地点でも、国内で一番厳しいとされる水産動植物の被害防止に係る農薬登録基準値を大きく
下回っていましたので、ヒトに対して短時間で著しい健康影響被害でる可能性は低い』 →下段参照
と考察している。
・各農薬成分の検出原因については、今後の考察が必要である。
表 地域別の検出濃度の一覧 単位:ppt、枝番号は同一地所内の2個所
地域 種別 周辺環境 ジノテ チアメト イミダク クロチア フィプロニルと代謝物
フラン キサム ロプリド ニジン 本体 デスルフィニル スルホン スルフィド
東北1-2 井戸 山林/ゴルフ 0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
東北2 井戸 山林 0.3 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
東北3 湧水 水田 26.4 5.1 27 14.2 0.1 0.1 0.2 2.2
北関東1 井戸 水田/畑 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.2 <0.1
北関東2 井戸 畑 1.1 427 36.5 49.2 <0.1 <0.1 <0.1 0.3
南関東1 井戸 宅地/畑 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.3 0.1
南関東2 井戸 宅地 0.5 0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.3 0.1
南関東2 湧水 宅地/畑 <0.1 <0.1 <0.1 0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
南関東3 湧水 宅地/畑 <0.1 <0.1 <0.1 0.5 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
東海3-1 湧水 水田 50.7 <0.1 <0.1 6.8 <0.1 <0.1 <0.1 0.4
東海3-2 湧水 水田 8.2 2 <0.1 8.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
東海4 湧水 宅地 0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
東海6 湧水 緑地保全区 0.5 47.4 9.9 2.4 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
北陸1 湧水 水田 0.3 0.1 <0.1 25.9 0.1 <0.1 0.4 0.4
北陸2 湧水 竹林 0.1 1.5 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
近畿1 湧水 宅地/畑 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.2 <0.1 0.2 <0.1
近畿3 湧水 宅地/畑 9 <0.1 <0.1 31 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
九州1 井戸 宅地 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1 0.2 <0.1 1.1 <0.1
九州3 井戸 宅地 0.7 28.2 1.7 5.3 <0.1 <0.1 <0.1 <0.1
検出数 13 8 4 10 4 1 7 6
検出率 % 50 31 15 38 15 4 27 23
【参照】ネオニコチノイド系農薬の登録基準等の一覧
mg/L=ppm、μg/L=ppb。ng/L=ppt
農薬名 水質汚濁に係る 水産動植物の被害防止に ADI(一日摂取許容量)
農薬登録基準 mg/L 農薬登録基準μg/L mg/kg体重/日
アセタミプリド 0.18 2.5 0.071
イミダクロプリド 0.15 1.9 0.057
クロチアニジン 0.25 2.8 0.097
ジノテフラン 0.58 12 0.22
チアクロプリド 0.031 3.6 0.012
チアメトキサム 0.047 3.5 0.018
ニテンピラム 1.4 11 0.53
フィプロニル 0.00050 0.024=24ng/L 0.00019
作成:2020-08-30