農薬の毒性・健康被害にもどる
n03001#厚労省による農薬関連死亡者数、科警研統計による中毒者数はいずれも年間200人を超える#20-09
【関連記事】記事n01804、記事n02701(2018年農水省事故報告)
農薬中毒統計には、農水省の2018年度の報告を記事n02701で示しましたが、今号では、厚労省と科学警察研究所(以下科警研という)の二つの資料を紹介します。
★厚労省人口動態統計:2018年度は前年37人減で死者214人
【関連サイト】厚労統計協会:Top Page。ICD分類による年次死亡数データと2018年(csvデータ)
厚労省の人口動態統計によると、2018年の国際分類T60による農薬関係の死亡者は、表1のように、前年より37人減少して、214人でした。2016年→2017年→2018年と死者数は242人→251人→214人と増減があります。国際分類コードによる農薬の種類別では、除草剤と殺菌剤の合計が78人、有機リンとカーバメート系殺虫剤の合計が74人でした。なお、この報告では、農薬の成分別の数値は不明です。また、分類コードT59.6の硫化水素による自殺事例が急増したのは2008年でしたが、以後年間50-60人となり(記事t31302)、さらに40人以下に減少しています。
表1 厚労省の人口動態統計による2018年の農薬による死者数
分類コード 男 女 合計(2017年)
T59.6 硫化水素 26 8 34 (40)
T60 農薬の毒作用 117 97 214(251)
T60.0 有機燐及びカルバメート殺虫剤 43 31 74 (84)
T60.1 ハロゲン系殺虫剤 1 1 2 (2)
T60.2 その他の殺虫剤 3 0 3 (8)
T60.3 除草剤及び防黴剤 (殺菌剤) 34 44 78 (87)
T60.4 殺鼠剤 2 1 3 (1)
T60.8 その他の農薬 2 0 2 (3)
T60.9 農薬,詳細不明 32 20 52 (66)
★科警研:農薬中毒者は2017年264人、18年216人
警察庁科警研の調査資料「薬物による中毒事故等の発生状況」(警視庁が所管する東京都を除く、全国46道府県の地方警察からの報告)では、医薬品や農薬(農薬と衛生害虫用殺虫剤・殺菌剤なども含む)等による中毒事例が、薬物や農薬成分ごとに記載されており、中毒者の年齢や性別、原因となった成分名がわかります。
記事n01804に掲載した2016年の統計につづき、2017、18年の事例について、成分別の中毒者数をまとめました。
農薬関連物質を含む事例については農薬分類区分以外に、揮発性毒物、その他という分類があります。表には、揮発性分類のうち硫化水素(石灰硫黄合剤使用)及び塩素ガスとその他分類にある農薬と医薬品等他の物質を同時摂取した事例もあり、これらを合算すると、農薬関連の中毒者数は2017年264人、18年216人でした。
表2には、農薬成分別の中毒者数を示してあります。自殺や誤飲の結果、死に到ったケースも多いと思いますが、中毒者中の死者数は不明です。同表には、複数の農薬製剤や農薬と医薬品その他の薬剤を同時に摂取した事例は、( )に外数として記載(中毒人数は含有される薬剤ごとに、重複カウント)してあります。
【農薬分類にある中毒者数推移】表2の【1】にしめしたように、2013年の271人から2016年204人、2017年210人、2018年176人と減少傾向にあります。
【殺虫剤】殺虫剤ではカーバメート系メソミル(毒物指定、45%以下は劇物)が2017年42人、18年24人と一番多く、ついで、有機リン系のMEP(商品名スミチオンなど、毒劇物指定なし)、マラソン(毒劇物指定なし)、及びMEP・マラソン混合剤(商品名スミソンなど)が合わせて、2017年36人、2018年25人、ネオニコチノイド系殺虫剤では、アセタミプリド(劇物指定、2%以下は指定なし)とジノテフラン(毒劇物指定なし)が2018年に合わせて4人でした。
【除草剤】 除草剤ではグリホサート(商品名ラウンドアップなど、毒劇物指定なし)が2017年32人、2018年19人、ついでジクワット・パラコート混合剤(商品名プリグロックスLなど、ジクワットは劇物指定、パラコートは毒物指定)が2017,18年ともに30人で、ワースト1、2位でした。グリホシネート(商品名バスタなど、毒劇物指定なし)2017と18年合計で12人でした。パラコート単剤は、2018年に登録失効していますので、2017年12人、2018年9人は、今後減少することでしょう。
【その他の農薬等】
農薬でないクレゾールやホウ酸を含め、多くの農薬類似成分があがっていますが、それぞれの中毒者数は、年間1-2人のケースが大部分です。
【揮発性物質】表2の【4】には、農薬に関連する硫化水素や塩素をとりあげました。硫化水素による自殺事例の総数は、2017年35人、18年25人と減少してきました。このうち、硫黄源として、石灰硫黄合剤が使用されるケースが両年合わせて12人みられました。ほかにも、石灰硫黄合剤そのものを摂取した事例もあります。
もうひとつ揮発性ガスによる事例として漂白剤や洗剤の成分、次亜塩素酸塩等と酸性物質の混合によって発生した塩素ガスによる中毒事例は4人ありました。漂白や殺菌用の次亜塩素酸塩系製品(アルカリ成分も含む)そのものを摂取した事例もみられました。
表2 2017〜18年の農薬別中毒数 <出典:科警研資料61号、62号>
【1、農薬分類にある中毒者合計数】*1
*1 科警研の農薬分類にある合計数、()は その他の農薬に分類されたもので内数
年度 2015年 16年 17年 18年
中毒者数 243(42) 204(22) 210(22) 176(36)
【2、その他の分類にある農薬含有物による中毒者数】*2
*2 科警研の他の分類にあり、医薬品などのほか 農薬成分を含むもの
年度 2015年 16年 17年 18年
中毒者数 38 29 18 13
【3、農薬の成分別の中毒者数】
( )は複数薬剤摂取で外数、重複カウントあり
成分名 中毒者数 成分名 中毒者数
2017年 2018年 2017年 2018年
■有機リン系殺虫剤 ■その他の農薬
CYAP - 1(1) TPN - (2)
DDVP 2(1) 1 アゾキシストロビン (1) -
DEP 3(1) 2(1) イミノクタジン 1 -
DMTP 8(1) 4(3) イミプロトリン (1) -
EPN 1 1 エトフェンプロックス - 1
MEP 13(8) 5(5) エマメクチン 1(1) -
MEP・マラソン 7(8) 12(1) カルタップ 2 -
MPP - (1) クレゾール 1 1
PAP 3 1 クロルピクリン 1 1
アセフェート 1 2(2) クロルフェナピル 1(1) -
イソキサチオン 1 1 臭化メチル - 1
エチルチオメトン - 1 ダイファシノン (1) -
クロルピリミホスメチル- 1 テブフェンピラド 1 1
ダイアジノン - 3 トリシクラゾール - (1)
ピリミホスメチル - 1 トリホリン 1 -
マラソン 16(3) 8(7) トルフェンピラド (3) 1
■カーバメート系殺虫剤 ピリダベン 1(1) (1)
BPMC 1(1) - フェンバレレート - (1)
チオジカルブ - 1 フィプロニル (1) -
ベンフラカルブ 1 - ププロフェジン (1) -
メソミル 42(4) 24(5) ペルメトリン (2) (2)
■ネオニコチノイド系殺虫剤 ベンゾエピン - 2
アセタミプリド - 3(1) ペンタゾン - 1
ジノテフラン - 1(1) ベンチアゾール (1) -
■除草剤 ホウ酸 1 -
2,4−PA (1) 5(1) マシン油 (1) (1)
MCPA (2) 1(1) マンゼブ - (1)
グリホサート 32(9) 19(7) ミルベメクチン - 1
グルホシネート 5(2) 7(2) モノフルオル酢酸塩系 2 -
ジクワット (2) 1 ピリオキシアルキレン
ジクワット・パラコート30(1) 30 系界面活性剤(展着剤) 1 -
トリフルラリン - (1)
ブロマシル - (1)
パラコート 12(2) 9
【4、揮発性物質関連による中毒者数】
成分名 中毒者数 成分名 中毒者数
2017年 2018年 2017年 2018年
硫化水素 35 25(1) 次亜塩素酸塩 5(1) (1)
うち石灰硫黄合剤使用 9 3 石灰硫黄合剤 - (1)
塩素ガス 3 1(1)
作成:2019-09-30