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n03101#ドリフトによるデメリットを無視した農水省の農薬Q&A#20-109
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 農水省は、8月下旬、農薬に関するよくある質問というQ&A式のファイル文書を開公表しました。その概要と木村-黒田純子さんによるコメントを紹介します。

★農薬Q&Aにみられる一方的な主張
 農水省のQ&A『農薬に関するよくある質問』(pdf版全15頁)には、以下のような15の項目があります。自ら発した問とその答えの概要を記しましたが、農薬は、人や環境に、何の害もおよぼさず、メリットばかりのようです。住宅地域や生活圏、有機圃場へのドリフト被害には全くふれず、高濃度でのドローン空中散布が行政への届けなしで可能になっている現状を省みることもありません。被害を受ける住民目線で、デメリット版Q&Aを作る必要がありそうです。
 問1<どうして農薬を使用するようになったのか>
   農作物の収量や品質、農家の労働時間の削減に、病害虫や雑草防除の重要性とその手段が
   概説され、作物の収量や品質の向上、さらには、労働時間の短縮が目指される。

 問2<農薬の安全性はどのように確保されているのか>
   意図的に環境中に放出されるものであることから、人の健康や環境に対する
   安全を確保することが必要だ、として、農薬登録制度についての説明がある。

 問3<農薬の登録にあたって、安全性評価がどのように行われているか>
   多数の試験実施項目の一覧表が3頁分あり、90種類以上の試験がある。 
   登録後も定期的(15年毎)に最新の科学的知見に基づき、安全性等の再評価を行う。
   農薬の安全性に関する科学的知見を収集し、必要な場合には随時、登録の見直し等を
   行う。
 [木村-黒田さんのコメント]
  @毒性試験に入っていない項目と問題点
   入っていない項目  
    1 環境ホルモン作用
    2 複数の農薬による複合影響、
    3 3世代以降への影響
   次世代で影響が出なくとも3世代以降で悪影響が出る動物実験として、除草剤
   グリホサート、アトラジン、ビンクロゾリン(登録失効1998/04/14)が報告されている。
   EUでは環境ホルモン作用のために失効した農薬が既に複数ある。

  表 環境ホルモン作用のためEUで失効となっている農薬類 (一部抜粋)
   農薬の種類      農薬名     EU      日本
   カルバメート系殺虫剤 カルバリル    失効  2007  使用中
   ピレスロイド系殺虫剤 ペルメトリン   失効  2000  使用中
   有機リン系殺虫剤   フェニトロチオン 失効  2007  使用中
   殺菌剤        プロシミドン   失効  2006  使用中
   除草剤        アラクロール   失効  2006  使用中
   除草剤        アトラジン    失効  2004  使用中
   除草剤        シマジン     失効  2004  使用中
     (ECの2016_impact_assessment_annex_en.pdfより引用)

  A原体と製剤の問題についての指摘
   農薬の安全基準(一日摂取許容量=ADI)を決めるための毒性試験は、ヒトへの
   影響を調べる哺乳類への試験では原則的に原体で実施されているが、農薬製剤は
   毒性が桁違いに高いことがあるため、製剤でやるべきとの意見が複数の研究者が
   論文で主張している。
   製剤の種類が多すぎるなら、安全係数をもっと引き上げるべきだろう。
   グリホサートやネオニコチノイドでは、製剤の毒性が100倍も高いことがあるため、
   製剤の毒性試験がいくつか実施されて、農薬抄録に記載されているが、急性毒性試験のみ。

 問4<農薬の登録にあたって、政府の役割分担はどうなっているか>
   内閣府食品安全委員会(ADIの設定)、厚労省(残留基準の設定)、環境省(環境中の生物や
   人への影響の安全性評価と基準設定)、農水省(農薬の登録)

 問5<農薬の安全性を向上させるため、どのような取組を行ってきたか>
   科学的に審査し、効果があり、かつ安全であると判断した農薬だけを登録し、
   最新の科学的知見に基づき、不断に見直しを行う。

 問6<2018年に農薬取締法が改正の背景は?> 問7<農薬取締法の改正の主な内容は?> 
   最新の科学的知見を的確に反映する。
   登録農薬について、定期的(15年毎)に最新の科学的知見に基づき、再評価を行う。
   農薬使用者やミツバチへの影響評価、環境への影響評価など、審査を充実する。
   (注)当グループの記事n00201下表の
     「2018年の改定農薬取締法連記事のまとめ」を参照してください。

 問8<今後、どのように再評価を進めるか>。 
   国から農薬メーカーに対し、最新の試験要求に則ったデータの提出を求める。
   国としても再評価に向けて農薬の安全性に関する新しい知見を収集する。
   再評価は2021年度から開始し、国内での使用量が多い農薬から順次実施していく。
   初年度は、国内での使用量が多いグリホサートやネオニコチノイド系農薬などの
   評価を開始。

 問9<今後、どのように安全性に関する審査の充実を進めていくか>
   農薬使用者やミツバチへの影響評価など、農薬の安全性に関する審査を充実する。
   使用者への影響評価については、農薬の毒性の強さだけでなく、使用時の暴露量も
   考え、ミツバチについては、農薬に暴露した花粉や花蜜を持ち帰った際の巣内の
   成虫や幼虫への影響など、蜂群全体への影響についても評価する。
   環境への影響評価については、既存の水産動植物(魚類、甲殻類等)、水草や鳥類等
   に対する影響についても評価する。
   これらは、2020年4月から開始する。
 
 問10<発がん性について>
   使用方法どおりに使用すれば、人の健康上の問題がないことを確認して登録される。
   グリホサートは、2015年に国際がん研究機関(IARC)が発がん性グループ 2A に
   分類したが、この分類は実際の農薬の使用方法で農薬を使用した場合に、どれだけの
   量をヒトが摂取するのかを考慮したものではない。
 [木村-黒田さんのコメント]
  グリホサートについて、IARCの発がん性ランク2Aについて記載しており、リスク評価
  (毒性×曝露量)の限り問題なしとしているが、日本人のグリホサートの曝露量は
   調べられていない。
   また、毒性についても、新しい毒性に関わる論文がここ数年の間に多数出ている。
  参考資料:記事n01802.htm(2019/09)
    グリホサートの毒性:環境脳神経科学情報センターのHPにある解説

 問11<発達神経毒性について>
   農薬の登録にあたっては、2019年4月より、発達神経毒性試験の提出を求めている。
   なお、ネオニコチノイド系農薬についても、食品安全委員会において、評価時点で
   発達神経毒性に係る最新の情報も含む各種資料も踏まえて評価しており、登録された
   使用方法どおりに使用すれば、人の健康上の問題がないことが確認されている。
 [木村-黒田さんのコメント]は→次節に

 問12<農薬には、どのような種類があるか> 
   農薬は日々新しいものが開発されており、有効成分約600種、製品4000種類以上の
   農薬が登録されている。
   病害虫の農薬に対する抵抗性の発現を抑制したり、新たな病害虫に対応していく
   必要があることから、様々な種類の農薬が必要となっている。

 問13<日本の農薬の使用量は諸外国に比べて多いのか> 
   我が国は、温暖湿潤な気候のため、病害虫が発生しやすく、農作物が被害を受け
   やすい環境にある。
   我が国の面積当たりの平均農薬使用量(11.8 kg/ha、2017 年)は、気象条件の
   異なる欧米より多いものの、我が国と気象条件が近い中国や韓国とは同程度か、
   少ないものとなっている。

 問14<農薬をできるだけ減らしていくべきではないか>
   農薬は、農作物の安定的な生産にとって必要です。一方、必要以上に農薬を使う
   ことは、環境などに悪影響を及ぼす可能性があるほか、農家にとっても生産コストが
   増大するため、好ましくない。
   総合的病害虫・雑草管理(IPM)の推進や、発生前の予防的な農薬散布による防除
   (スケジュール防除)から、発生予察情報に基づく適時・適切な防除への転換など
   を通じ、防除に必要な量だけを的確なタイミングで使用するような取組も進める。

 問15<農薬によるミツバチへの影響を軽減するため、どのような取組を行っているか> 
   農薬が原因と疑われるミツバチの被害状況調査調査では、被害は年間 50 件程度で、
   欧米のような CCD は報告されていない。
   被害の多くは水稲のカメムシ防除時期に発生していおり、農家と養蜂家との農薬散布情報の
   共有等の被害軽減対策を推進している。
   巣内のミツバチに与える影響評価の充実を図り、今後、最新の科学的知見に基づいて、
   全ての農薬について、再評価を行う。
★木村-黒田さんの発達神経毒性についてのコメント
【関連記事】記事n00504(2018/08、(自著紹介:地球を脅かす化学物質―発達障害やアレルギー急増の原因(海鳴社9))

 発達神経毒性試験は、2019年3月まで、日本では毒性試験の項目に入っていなかった。
 しかし、欧米では農薬の毒性試験のなかに発達神経毒性試験が入れられているため、農水省の資料には、ネオニコチノイド7種については、ニテンピラム以外の6種では評価書に発達神経毒性の記載がある。グリホサートには記載がない。
 再度、評価書や抄録を確認したところ、下記のように、発達神経毒性は認められなかったと記載されているだけだったり、データが未公開だったりで、甚だ不明瞭である。
 また、2019年4月以降、日本の農薬登録に発達神経毒性が入れられたが、必須項目ではなく、古いOECDの方法を取り入れており、高次脳機能がこれで調べられるか疑問視されている。  実際、発達神経毒性については、国際的な議論が続いており、2020年11月に第5回の国際学術会議(DNT5)が開催される予定だったが、新型コロナで延期予定。未だに適切な発達神経毒性試験がないのが実状(DNT5;about-the-event)。
   ***   農薬成分別の発達神経毒性試験の内容   ***
【1】イミダクロプリド
 評価書 ラットで発達神経毒性実施と記載。
  750 ppm投与群で、仔ラットの成長期に運動機能の低下がみられたとしているが、
  60日後に回復したので発達神経毒性は認められなかったとしている。
 抄録には。その他として発達神経毒性試験が記載されているが、それぞれの項目について、
  詳しいデータはなく、対照群と投与群で差は認められなかったとしか、記載されていない。

【2】チアクロプリド
 評価書 ラットで発達神経毒性実施と記載。
  300ppm(25.6mg/kg/day)で母子の体重抑制と仔ラットで性成長に異常が見られている。
 チアクロプリドは環境ホルモン作用が報告されているので、その影響が考えられる。
 発達神経毒性は認められなかったとしているが、抄録はいまだに公開されていないので、
 実験結果の詳細は不明。

【3】チアメトキサム
 評価書 ラットで発達神経毒性実施。
  4,000 ppm(299r/kg/day) 投与群で脳の大きさや形態計測において異常が起きている
  にも関わらず、これは体重低下によるものと解釈し、発達神経毒性は認められなかったと
  記載している。さらに参考文献未公表。
 抄録には、発達神経毒性試験については項目のみで内容の記載なし。
 チアメトキサムのラットを用いた発達神経毒性試験(GLP 対応)
  シンジェンタセントラルトキシコロジーラボラトリー(英国)、2003、2007年、未公表

【4】アセタミプリド
 評価書 ラットで発達神経毒性実施。
  45mg/kg/dayで母子の体重抑制、仔ラットで聴覚驚愕反応(自閉症児でよくみられる
  反応)で、雌雄ともに異常が見られている。
  評価書では発達神経毒性があったとは記載されていないが、他の評価書のように
  認められなかったとは記載していない。
 抄録(acetamiprid_06 18 ページ)をみると、聴覚驚愕反応試験で、45mg/kg/day以下の
  投与群でのデータが記載されていない(実施はしているよう)。無毒性量を10r/kg/day
  としているが、聴覚驚愕反応試験のデータがないため、極めて不十分な記載。

【5】クロチアニジン
 評価書 ラットで発達神経毒性実施。
  1750ppm投与群で、脳の海馬や小脳の形態計測において、異常が確認されているが、
  軽度とみなし発達神経毒性は認められなかったと記載されている。
 抄録には1750ppm以下の投与でのデータが空白。また聴覚驚愕試験(自閉症児に
  よくみられる症状)においては、500ppm、1750ppm投与群で異常が出ているにも関わらず、
  評価書には記載されていない。抄録においても、異常が出ている以外のデータが空白に
  なっており、極めて不適切。さらに参考資料は未発表。
   参考資料 発達神経毒性試験 Argus 2000年未公表

【6】ジノテフラン
 評価書 ラットで発達神経毒性実施。
  10000ppmで母ラットの体重抑制が認められ、仔動物では影響は認められないとしているが
  データは記載されていない。
 抄録には発達神経毒性のデータは一部公表としてあるが、どこに記載されているのか不明、
  もしくは未公開の可能性あり。なお、ジノテフランの抄録では、他の毒性試験の
  結果の表が空白のものが多い。
  評価書の参考資料 ジノテフランのラットにおける発達神経毒性試験 未公表

【7】ニテンピラム
 評価書 発達神経毒性試験の記載なし。

【8】グリホサート
 評価書 発達神経毒性試験の記載なし。
★農薬に頼らない農業をめざすために
 農水省の考え方は、食糧確保のためには、農薬は必要だが、出来るだけ、人や環境・生態系に安全なもの使い、出来るだけ暴露・摂取しないとうことにしか力点がおかれていませんが、これらを実現するには、当然ながら、出来るだけ使用しないことが重要だと思います。
 わたしたちは、2018年の農薬取締法改正を前に下表のてんとう連載記事「農薬取締法改定が俎上に」で、国民の農薬摂取を減らし、生物多様性や生態系保全のため、生活環境や一般環境での農薬汚染を防止しすることを第一に考え、農水省のような農業競争力強化支援法の一環としての農取法改定とは明確な一線を引き、以下のようなことが実現するようめざしたいと提言しています。
   @登録の際の毒性や残留性試験、環境への影響試験の内容を強化し、試験データを公開する。
   AEUで、登録が失効している農薬成分を点検し、日本での規制を進める。
   B再評価制度は15年間という期限でなく、三年間ごとの再登録期間中に、申請者に、
    人や環境への影響を調査させ、新たな毒性や環境への悪影響が判明したものは、使用規制する。
   C農薬登録や適用拡大ついて、国民の意見を聞く。
   D住宅地通知や無人航空機による空中散布の技術指導指針などの内容を法令の条文にいれる。 

 *** 2018年の改定農薬取締法連記事のまとめ ***

農薬取締法改定が俎上に

発行年月記事番号タイトル
2017/08t31201(その1)農水省版「人も蜜蜂も」
2017/09t31301(その2)農水省の目指す再評価制度とは
2017/10t31401(その3)農薬の受動被曝を防ぐには
2017/11t31501(その4)農薬以外での使用も法規制が必要
2017/12t31601(その5)健康被害がでてからの農薬再評価制度でいいのか
〜日本でなじみの有機リンなどはEUでは軒並み登録なし
2018/01t31702(その6)国民の意見も聞かずに進める農水省
2018/05n00201改定農薬取締法の国会審議〜衆議院農林水産委では原案可決
2018/06/05資料改定法案への条文別コメント
2018/06n00301改定農薬取締法が成立〜農薬使用者の安全性はいままで以上に確保されるか

農薬取締法関連パブコメ意見など

発行年月記事番号タイトル
2018/10n00701政令では、施行日と水質汚濁性農薬の変更を提案
2018/10n00702省令関係〜農薬使用者の遵守省令強化などを提案
2018/11n00805生活環境動植物についての意見募集
2018/12n00901生活環境動植物一次案へのパブコメ〜生態系・生物多様性保持の立場から
2019/03n01201農取法関連の省令や通知改定でパプコメがつづく
2019/04n01305施行規則、省令や告示の改定に関するパプコメ
2019/05n01801農薬再評価制度が動き出す〜14農薬の試験成績提出期限告示したが問題は山積み

作成:2020-10-30