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n03201#新たな食品添加物アゾキシストロビンがじゃがいもに#20-11
厚労省は農薬について、アゾキシストロビン、シフルフェナミド、ビキサフェン、ピリプロキシフェン、ピリフルキナゾンの5成分の残留基準改定(アゾキシストロビンは食品添加物拡大も含む)を提案し、10月21日から11月25日まで、パブコメ意見募集がなされました。この間、意見投稿の窓口であるe-govのサイトは、システムの改定のため、11月18日〜11月24日まで閉鎖されました。なんとか、最終日に投稿することができました(投稿意見はこちら)。
ここでは、じゃがいもの食品添加物にも拡大指定されるアゾキシストロビンについて、紹介します。
★アゾキシストロビンの食品残留について
アゾキシストロビン(商品名アミスターなど。主に野菜類に適用)は、1998年4月に登録された殺菌剤で、2013年3月に、柑橘類の食品添加物・防かび剤としても認可されています。
毒劇法では、劇物(80%以下指定なし)で、ADIは0.18mg/kg体重/日、ARfDは1.5mg/kg体重となっています。詳しくは、反農薬東京グループの毒性解説:アゾキシストロビンをみてください。
食品残留実態については、厚労省や東京都の調査などで、しばしば、検出されています(記事n00604、記事n02303参照)。
残留基準については、2008年からいままでに、4回の改定が実施され、その時々に、下記のようなパブコメ意見を提出しています。
2008年3月、2010年8月、2012年10月、2014年6月
★アゾキシストロビンの個別食品の残留基準についての意見
【関連サイト】厚労省:「食品、添加物等の規格基準の一部を改正する件(案)」
(農薬等(アゾキシストロビン等5品目)の概要
別紙1農薬残留基準案と資料、食品添加物規格基準の新旧対照表と資料
今回は、アソキシストロビンについて、上記のような5回目の意見募集です。
一般的に、わたしたちは、提案された残留基準について意見を述べる場合、まず、以下の@Aのように個々の残留基準にどのような問題があるかを検討し、ついで、次節のBのように食品全体についての摂取量の評価について意見を述べてきました。
@原則的に、あらたに提案されたか、もしくは、現行基準を緩和した食品に対するものについては、残留基準1ppmよりおおきなものに反対します。その理由は、農薬の摂取をできるだけ減らすことをめざすため、基準値をできるだけ低くしたいからです。そのため、試験事例が少ない/最大残留値より高い基準にしている/残留データが不明な国際基準に緩和・援用している、などの見地から、意見をのべてきました。今回のアゾキシストロビンについては、【意見1】【意見2】です。
A現行残留基準があり、いままでのパブコメ意見で、低値化要望が受け容れられず、残留実態の調査もせず、そのまま、据え置かれたものについては、再度、見直しを求めます。今回では、【意見3】で、70近くの食品をあげていますが、魚介類以外は、@と同じく、基準が2ppm以上であり、残留試験事例が少ない/最大残留値よりも高く設定している/残留実測データが不明などの理由で、すでに、低値にすることをもとめましたが、再考されず、現行基準が維持されたものです。
これらのなかには、散布後ゼロ日の最大残留値よりも高い基準があり、その設定にクレームをつけましたし、魚介類については、養殖などに適用があるわけではなく、水系を通じた2次汚染によるものなので、本来検出してはならないとして、基準設定に反対しています。(【意見1】【意見2】【意見3】は、こちらをみてください。)
B残留試験データの資料にある長期摂取推定量と短期摂取推定量に関する評価で、前者はADIと後者はARfDと比較され、これに関するアゾキシストロビンについての意見は、次節のようです。
★アゾキシストロビン基準への総括的意見〜基準全体の低値化をもとめる
【関連サイト】厚労省:食品中の残留農薬等.農産物食品分類表(日本食品化学研究振興財団の分類表、農水省の作物群分類)
食品別一日摂食量:農産物摂取量、畜水産物摂取量、旧フードファクター、農作物別一日最大摂食量一覧
厚労省が、提案した残留基準案は、上記の別紙1にあるように、2ppm以上の食品が多すぎます。
総括的意見として、下記の推定摂取量から、『全体的に残留基準が高すぎる。もっと低値にすべきである。』とし、また、メーカーが実施する残留試験(高めにでるよう設計されている)でなく、残留実態調査が基準を超えることがなければ、実測値を基準にすればよいとも主張しています。
【TMDI=理論最大推定摂取量】一生涯にわたり毎日摂取しても影響がでない量ADI(一日摂取許容量)に関する評価で、各食品の暴露量が残留基準と同じレベル)だと仮定して、それらの総和を算出したTMDIと比較されます。
アゾキシストロビンのADIは0.18mg/kg体重/日と高いため、TMDIの対ADI比は低くく、表1のように、年齢・性別区分とも危険レベルの80%を超えることはありません(80%は、科学的に安全だと立証されたものでなく、ADIの寄与率を食品から80%、大気から10%、その他10%と割り振ったものにすぎません)。それでも、ほうれんそう、たまねぎ、ばれいしょ、レタス、きゃべつのTMDIへの寄与率が高く、幼小児区分で同比は79.7%となります。
【EDI=推定摂取量】残留試験や残留実態調査をベースにして、残留基準よりも低い暴露量を取り込むと仮定して、算出された総和がEDIで、その対ADI比は、TMDIの場合より大幅に低く、安全性が強調されることになります(上述の幼小児区分は、20.8%となる)。
表1 アゾキシストロビンの推定摂取量と対ADI比
国民全体 幼小児 妊婦 高齢者
推定摂取量 計 TMDI EDI TMDI EDI TMDI EDI TMDI EDI
単位:μg/人/day) 4356.0 1178.3 2367.6 618.5 4178.7 1070.9 5063.4 1388.6
ADI比(%) 43.9 11.9 79.7 20.8 39.7 10.2 50.1 13.8
たとえば、暴露量は、下記のように残留基準より低値になっている。
ばれいしょ:残留基準7.3ppm→暴露量2.3ppm、たまねぎ:10ppm→2.2ppm,
ほうれんそう;30ppm→6.22ppm、
オレンジ:10ppm→1.49ppm、いちご:10ppm→1.3ppm、茶:10ppm→1.39ppmなどで、
残留量の実態が低ければ、残留基準そのものを低くした方がいいと思うのですが。
【ESTI=短期推定摂取量】TDIにおいては、食品別の食べる量は、国民全体などの平均値ですが、好みにより、一度に平均以上に食べるケースがあります。そのため、短期間(一度に摂取した場合も含む)摂取によって健康への影響がでない量がARfD(急性参照用量)で、アゾキシストロビンのARfDは、当初、設定されていませんでしたが、2020年3月の農薬評価書で、1.5mg/kg体重と評価されました。国民全体についてのESTIは、暴露量を残留基準より低値に仮定して算出された食品が81種、幼小児については、46種あります。
たとえば、はくさい:残留基準5ppm→暴露量2.3ppm、ほうれんそう:30ppm→23ppm、もやし:70ppm→48ppm、
いちご:10ppm→4.5ppm、茶:10ppm→1.31ppmなどで、そのうちESTI/ARfD比が高いのは、
下記の食品です。
国民全体区分で、ずいき*:30%、れんこん*:20%、
幼小児区分で、 れんこん*:30%、レタス*:20%、ほうれんそう*:20%、
オレンジ*:20%、ぶどう:20%
*印は暴露量を残留基準より低値にして、算出した比率
厚労省は、最大摂食量から求めたESTIのARfD比が100%を超えないことを安全の目安としていますが、わたしたちは、個々の食品ごとに同比が10%を超えないようにすべきとしています。
★ばれいしょへの食品添加物指定に反対する〜使用により摂取量増加が避けられない
【関連サイト】厚労省:ポストハーベスト農薬の添加物としての摂取量推計について
ところで、アゾキシストロビンが、食品添加物に指定されたのは、2012年で、 当時、国内では農薬としてポストハーベスト適用がなかったためです。それまで、なつみかんの果実全体、レモン、オレンジ、グレープフルーツ、ライム、その他のかんきつ類果実の残留基準は、散布0日後の最大残留値よりも高い2ppmでしたが、同年、わたしたちの反対にもかかわらず、ポストハーベスト用の食品添加物・防かび剤に指定され、残留基準は食品添加物の規格基準10ppmと同等になりました。
さらに、ばれいしょの残留試験4事例から得られた最大残留値0.02ppmをもとに設定されていた現行基準1ppmでは、保存効果がないとして、すでに、収穫後のばれいしょにスプレー処理していたアメリカでの試験8事例で得られた最大残留値4.75ppmを参考にし、またも、わたしたちの意向を無視して、規格基準7ppmの食品添加物としての認可が目論まれました。そのため、国際基準なみに、残留基準案も7倍緩和されました。
アゾキシストロビンの推定摂取量TMDIの食品別の寄与率は、国民全体区分で、その他の野菜類21.5%に、ついで、食品添加物として使用されることになったばれいしょと柑橘類由来が10.5%、さらに、ほうれんそう8.8%、たまねぎ7.2%となり、幼小児での食品添加物からの寄与率は、18.7%とさらに高くなってしまいました。
アメリカ産ばれいしょの輸入で、ジャガイモシストセンチュウなどの病害虫の侵入が問題視されていますが、わたしたちは、残留農薬の摂取が増えることも懸念します。アゾキシストロビンの食品添加物指定や残留基準緩和が、柑橘類やばれいしょの輸入先であるアメリカの意向をくんだもので、その摂取量を押し上げているからです。今後とも、残留農薬基準等の緩和に歯止めをかけることに注意を払う必要があります。
*** 反農薬東京グループのパブコメへの投稿意見(個別基準関連) ***
【意見1】下記の食品の残留基準を2ppm以上にすることに反対である。もっと低値にすべきである
(1)大麦 2ppm
[理由]1、現行基準0.5ppmと設定した際には、残留試験3事例で、最大残留値0.23ppmであった。
2、今回、残留試験データが不明なまま、国際基準1.5ppmよりもさらに緩和している。
(2)その他の穀類 10ppm 0.5ppm
[理由]1、具体的な穀類の残留データはなく、現行基準0.5ppmを緩和し、国際基準10ppmを採用している。
(3)はくさい 5ppm
[理由]1、残留試験2事例で、最大残留値0.10ppmである。
2、現行基準3ppmを高すぎるとしたが、国際基準5ppmに緩和している。
(4)にら 10ppm
[理由]1、残留試験2事例で、散布14日後の最大残留値2.42ppmである。
2、現行基準70ppmを高すぎるとしたが、国際基準10ppmでも、まだ、高い。
(5)その他のなす科野菜 3ppm
[理由]現行基準30ppmを高すぎるとしたが、国際基準3ppmでも、まだ、高い。
(6)メロン類果実(果皮を含む。)2ppm
[理由]残留試験6事例で、散布1日後の果実の最大残留値0.482ppm、果肉で8事例で0.012ppmである。
(7)びわ(果梗こう除き、果皮及び種子を含む。) 3ppm
[理由]残留試験3事例で、散布7日後の果実の最大残留値0.97ppm、果皮で8.1ppmある。果肉では、6事例で最大残留値0.04ppmである。
(8)もも(果皮及び種子を含む。) 2ppm
[理由]1、残留試験2事例で、散布1日後の果実の最大残留値0.97ppm、果皮で6.42ppm、果肉で0.014ppmである。
2.国際基準2ppmが援用されている。
【意見2】しいたけとその他きのこ類の現行基準 3ppmを削除したのは、賛成である
【意見3】下記の食品の残留基準について、いままでのパブコメで高すぎるとしたが、
残留実態も示さず、据え置かれており、再考を求める
*印を記した成分は、反対にも拘らず、食品添加物に指定されている。
(1)だいこん類の葉 50ppm、 (2)かぶ類の葉 15ppm、 (3)クレソン 70ppm、 (4)キャベツ 5ppm、
(5)芽キャベツ 5ppm、 (6)ケール 40ppm、 (7)こまつな 15ppm、 (8)きょうな 40ppm、
(9)チンゲンサイ 40ppm、(10)カリフラワー 5ppm、(11)ブロッコリー 5ppm、
(12)その他のあぶらな科野菜 40ppm、(13)アーティチョーク 5ppm、(14)チコリ 30ppm、
(15)エンダイブ 30ppm、(16)しゅんぎく 30ppm、(17)レタス 30ppm、(18)その他のきく科野菜 70ppm、
(19)たまねぎ 10ppm、(20)ねぎ 10ppm、(21)にんにく 10ppm、(22)アスパラガス 2ppm、
(23)わけぎ 10ppm、(24)その他のゆり科野菜 70ppm、(25)パセリ 70ppm、(26)セロリ 30ppm、
(27)みつば 5ppm、(28)その他のせり科野菜 70ppm、(29)トマト 3ppm、(30)ピーマン 3ppm、
(31)なす 3ppm、(32)ほうれんそう 30ppm、(33)オクラ 3ppm、(34)未成熟えんどう 3ppm、
(35)未成熟いんげん 3ppm、(36)えだまめ 5ppm、(37)その他の野菜 70ppm
(38)なつみかんの果実全体* 10ppm、(39)レモン* 10ppm、(40)オレンジ* 10ppm、
(41)グレープフルーツ* 10ppm、(42)ライム* 10ppm、(43)その他のかんきつ類果実* 10ppm、
(44)りんご 2ppm、(45)日本なし 2ppm、(46)西洋なし 2ppm、(47)ネクタリン 3ppm、
(48)あんず 2ppm、(49)すもも 2ppm、(50)うめ 2ppm、(51)おうとう 3ppm、 (52)いちご 10ppm、
(53)ラズベリー 5ppm、(54)ブラックベリー 5ppm、(55)ブルーベリー 5ppm、(56)ハックルベリー 5ppm、
(57)その他のベリー類果実 5ppm、(58)ぶどう 10ppm、(59)バナナ 3ppm、(60)パパイヤ 2ppm、
(61)その他の果実 5ppm、(62)茶 10ppm、(63)ホップ 30ppm、(64)その他のスパイス 70ppm、
(65)その他のハーブ 70ppm、(66)乾燥ハーブ 300ppm、
(67)乾燥とうがらし:原材料をその他のなす科野菜として 3ppm、
(68)魚介類 0.08ppm
[理由再掲]代謝物を含め、魚類濃縮性試験もなく、魚介類の種類毎の残留量の実測値が
少ないまま拙速に、残留基準を決めるのはおかしい。
作成:2020-11-25、更新:2020-11-30