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n03401#農水省が2019年度の国産農作物の農薬使用状況を公表〜不適切散布は480戸中1戸のみとは?!#21-01

【関連記事】記事n02704(2018年度)、記事n03301記事n03403
【参考サイト】農水省:国内産農産物における農薬の使用状況及び残留状況調査の結果について(令和元年度)の頁
            結果の概要使用状況調査農薬別残留調査作物別残留調査

 農水省は、昨年12月24日、『農薬の不適正使用により健康に悪影響を及ぼすおそれがある事案の発生及び農薬の適正使用に係る指導の徹底について』の通知(2消安第4308号)を発出し、JAくるめ出荷の春菊でのイソキサチオンほかの残留基準違反に対し、『食べるな!危険』と注意喚起を行いましたが(記事n03301)、年明けの1月12日には、これとうらはらな、農薬使用の多くは適正に実施されているとする国産農産物の農薬使用状況と残留状況の調査結果等を発表しました。
 今号では、当該文書の前半にあるの使用状況の項を紹介します。基準違反がなかったとされる残留状況は、次号以降で、報告する予定です。
 合わせて、春菊の残留違反通知についての記事n03403にも眼を通してください。

★調査対象農作物は11種、調査農家数480戸
 農薬使用状況調査対象になった作物は表に示したように、コメ、かんしょと野菜類6種、果実類3種の計11種です。調査対象農家数は、作物ごとに異なり、30又は60戸で、合計480戸でした。農林水産消費安全技術センター(FAMIC)が、予め当該農家に農薬使用状況等記入簿を配布し、使用された農薬の適用農作物、使用量又は希釈倍数、使用時期及び使用回数の調査を行うことは、例年通りです。農家は、栽培した作物1検体分(コメの場合1kg以上、その他は、5個以上かつ2kg以上)を提供して、残留農薬分析が行われることになっています。
表 農水省による2018年度の作物別の農薬使用状況の調査結果

 不適正使用のあった農家数の内容別内訳        
対象農産物調査農家数農薬総
使用回数
平均
使用回数
不適正使
用のあっ
た農家数
誤った作
物に使用
誤った使用
量又は希釈
倍数で使用
誤った時
期に使用
誤った回
数で使用
その他の
不適正使用
米穀605779.621(1.7%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)1(1.7%)
かんしょ301976.570(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
かぶ603656.080(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
チンゲンサイ301294.30(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
ほうれんそう602223.70(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
かぼちゃ302257.50(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
未成熟とうもろこし301474.90(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
えだまめ301886.270(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
いちご601404230(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
りんご601775300(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
もも30689230(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)
4805918121(0.2%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)0(0.0%)1(0.2%)

 今回の使用調査では、使用方法が適切でなかった事例が赤字の1件ありました。これは、水稲農家で、使用方法が「育苗箱土壌に均一に混和」である農薬を、育苗箱に使用した上、苗代の表土にも土壌混和したものでした。
、480戸中1戸という不適切使用は、ほとんどの生産者が「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」にある農薬使用履歴を帳簿に記載するという努力規定を守って、農薬のラベル表示どおりに適正に使っている証拠とはいい難く、国内の100万戸を越える販売農家(経営耕地面積が30a以上又は農産物販売金額が50万円以上の農家をいう)のうちFAMICが書類で審査した479戸に違反がみつけられなかったいう証にすぎません。
 農水省のまとめには、『3387 分析試料検体(延べ数)の試料のうち、定量限界以上の農薬が検出された試料の検体は、合計 421 検体であった。』とあります。延べベースの検出率が約12%というわけですが、東京都の調査結果にある検体ベースで64%(記事n03402)とは、大きく異なります。表からわかるのは、せいぜい、作物ごとに平均何回の農薬が使用されるかということぐらいで、果実での使用回数が圧倒的に多く、収穫までに、リンゴが30回、モモとイチゴは23回も農薬を使用しているのかと驚きます。

★農薬使用履歴の記載義務化と公表が不可欠
 食品の残留基準は、多くの流通品の残留実態よりも高く設定されており、農水省は『基準値は、農薬の使用基準が守られていれば、これを超過することはないものであるので、残留基準値への適合状況の調査は、農薬の使用基準の遵守状況を効率的に把握する手段となる。』としているものの、現実には、春菊に見られたような高濃度の残留違反も発覚しており、実際に摘発されるのは、氷山の一角だとの疑いを払拭することはできません。
 記事n03403に示した12月24日の農水省通知(2消安第4308号)では、農薬の適正使用に関する指導がなされていますが、いままで同様、指導が守られるはずだと自己肯定するようでは、残留違反はなくなりませんし、わたしたちが求める残留量の低下にもつながりません。
 農薬に関する法令の遵守状況を消費者目線で見て気づくのは、現行の遵守事項の多くが努力規定となっており、遵守されているかどうかのチェックも十分でないことです。これを義務規定に強化するよう、何度も要望しているのですが、なしのつぶてです。たとえば、現行では、生産者は、努力規定として、農薬使用履歴を記帳するよう求められますが、記帳しなかったり、いいかげんな記帳をしても、残留検査で基準違反がみつからなければ、スルーされてしまいます。これを義務化し、使用履歴が公表されれば、状況はかわるでしょう。なによりも、消費者が、自分の食べる農作物に使われた農薬を知ることができ、生産者も消費者も、一層、農薬に関心をもち、ひいては、農薬の使用を減らすことにつながると思います。


作成:2021-01-30