食品汚染・残留農薬にもどる

n03403#春菊基準違反その後〜農水省の対応をみる#21-01

 前号の記事n03301で、春菊での9倍もの残留基準違反について、JAくるめ、福岡市ほかに問い合わせした結果を紹介しました。農水省へも、問い合わせしていましたが、同省は、12月24日に通知 農薬の不適正使用により健康に悪影響を及ぼすおそれがある事案の発生及び農薬の適正使用に係る指導の徹底について(2消安第4308号)を発出したことを知らせてきました。その内容を紹介します。

★農水省傘下の地方農政局担当部署への通知
 農水省の上記通知「2消安第4308号」は、北海道農政事務所と沖縄県の内閣府沖縄総合事務局を含む、全国の6農政局(東北/関東/北陸/東海/近畿/四国・九州)の担当部署に宛てになっています。文面は、『今般、農業者による農薬の不適正使用の結果、当該農薬の有効成分の農作物中の残留濃度が食品衛生法に基づき定められた残留基準値を大幅に超過し、当該農作物を摂食した場合に健康に悪影響を及ぼすおそれがある事案が発生しました(別添参照)』との前文があり、違反がいままでの多くの事例と異なり、格段に注意を要するレベルであったことがわかります。その上で、管轄下の都道府県に対し、事案の説明とともに、下記の3項目が指導されています。
 @農薬の適正使用に係る指導徹底を図るよう依頼方お願する。
 A農業者の農薬使用に当たっては、使用履歴の記帳も重要であることから、昨年5月15日発出の
  消費・安全局長通知「平成30年度の食品流通改善巡回点検指導事業の調査点検結果について」にあった
  「農薬の不適正用を防止するための基本的な対策」も活用するよう、併せて周知願う。
 B都道府県における指導内容の改善に向けて、別添の4(2消安第4308号の別添の(4)県内における
  今後の指導内容の改善をいう)における指導内容の改善も参考としていただくよう、周知を願う。

★目標は "残留基準違反をなくす"でなく、"食品中の残留量を減らす”に
 2消安第4308号の別添の概要と各項目へのコメントは下段に示しましたが、農薬を使用するすべての団体・個人が、当該通知にある指導事項を、自分のこととしてうけとめ、遵守しておれば、基準違反など起こりようがないはずです。しかし、現状では、毎年のように、全国各地で、違反が報告されています。
 そもそも、行政の指導は『農薬は適正に使用されればよい』というのが基本であり、これは『残留基準以下ならば問題ない』とイコールになっています。
 このことは、たとえば、農水省東海農政局が監修した資料『農薬の適正使用について』(2017年5月、名城大学連続講座用)をみてもわかります。
 pdf版57pの文書の文頭には、農薬のイメージとして、人体に悪い/環境に悪い/危険な化学物質/安全性に不安/何となく嫌いなどがあげられており、ついで、目次として、農薬の役割/農薬の安全性確保の仕組み/安全な農薬の確保/農薬の適正な使用/まとめ、という構成で、この負のイメージを『農薬は、品質のよい農作物を効率よく安定して生産し、生産コストを抑え、市場に供給するために不可欠なもの』におきかえることが目指されています。
 このような、農薬使用がゼロにならない現状に対して、私たちが求めるのは、出来る限り、食品中の残留農薬量を減らすことであり、残留基準を超えなければ可とすることに留まるわけにはいきません。別添には、事案の概要/残留基準値超過が発生した原因等/県が事案発生以前に実施していた指導内容等/県内における今後の指導内容の改善の項目にわけた記述があります。それぞれについての概要と当グループのコメントを述べておきます。


 **** 2消安第4308号の別添へのコメント ****

【1.事案の概要】 福岡県での春菊における高濃度残留事案を念頭においた説明ですが、作物名も、残留基準違反のイソキサチオンや他の違反農薬の成分名が示されることもなく、『当該有効成分の残留濃度及び急性参照用量から見て、当該農作物の摂取により、 健康に悪影響を及ぼすおそれがあることが判明し、当該農作物に対し、管轄の食品 衛生検査所は絶対に喫食しないよう注意喚起を行い、また、出荷した卸売会社等は 自主回収を行うこととなった。』と記載されているだけです。
このような一般的な説明では、インパクトがありません。福岡市の収去検査により、基準違反がみつかったという実例を明確に解説すべきでしょう。

【2.残留基準値超過が発生した原因等】 『 県が当該農作物を出荷した生産者等に聞き取り調査を行った結果、生産者団体には所属しているが、作物部会には所属していない生産者(1名)が家庭菜園に散布した農薬の残液を適切に処理せず、同農薬の適用農作物等の範囲に含まれない農作物に散布したことが直接の要因であることが判明した。』とあり、『当該生産者においては、
 ・農薬のラベルの確認が不十分であること
 ・農薬の使用履歴が記帳されていないこと
 ・農薬タンク及びホース内の洗浄が不十分であること
 ・農薬の保管状況が適切ではなかったこと
が判明し、農薬の使用等に関する知識及び理解が極めて不十分であった。』とされていますが、これらの事項は、いままでも、さんざん指導されていた内容にすぎません。記載の4点は、日常的なミスでもおこることで、出荷したJAくるめや販売会社の実態を調べ、生産者への指導に欠けていた事項・理由を明らかにして、その責任をきちんと糾すべきです。

【3.県が事案発生以前に実施していた指導内容等】 以下の指摘があります。 部会員のみに指導していたとは、単なる言い逃れです。個々の生産者へ行政の指導が行き届かない現行の仕組みをどのように改善するか、具体的な方向性がみえません。
 ・主に生産者団体や直売所の部会員を対象に、農薬適正使用講習会を定期的に実施し、
  農薬の適正使用に係る指導を実施していた。 
 ・生産者団体等に所属していない生産者の把握は困難であるが、要請に応じて農薬の適正使用に
  係る情報提供を行ってきた。しかし、当該農家は、県から直接指導を受けたことはなかった。
【4.県内における今後の指導内容の改善】 下記の項目と対策が記載されています。しかし、その前に、やるべきことは、段階的でもいいですから、期限を決めて、農薬の使用を減らしていくことが、不可欠だということを認識すべきです。
 ・県は不適正使用を行った生産者に対しては文書による警告を行い、今後農薬使用基準に違反して
  農薬を使用することがないよう誓約書の提出を求めるとともに、
、・県が作成した当該農作物に適用がある農薬登録一覧表を手交し、最新の農薬の登録情報を入手するよう指導した。
 ・当該事案が発生した生産者団体管内の生産者を対象とした農薬適正使用にかかる講習会を生産者団体と
  開催し、再発防止に努めるとともに、再発防止に向けた以下の取組を進めることとしている。
   (1)農薬に関する知識や理解が十分でないことへの対策
   (1-1)県下一斉に、全ての生産者団体及び直売所が、所属する全組合員に対し、県の協力の下、
    農薬適正使用講習会を実施する。併せて、県GAP等の取組を促す。
   (1-2)県のホームページで適正使用に関する資料を掲載し、農薬使用者が常に農薬の適正使用に
    関する知識と理解を深められるようにする。
  (2)周知指導の行き届きにくい農薬使用者への対応
   (2-1)地域協議会の活用や直売所、農薬販売店の協力の下、生産者団体外の直売所への出荷者や
    個人出荷者等の周知指導の行き届きにくい農薬使用者に対して、講習会への参加を呼びかけ、
    必要に応じ、直接指導を行う。
   (2-2)農薬販売店に、生産者が農薬ラベルを遵守する、農薬を使用した際は記帳する等のポスター等を
    配布するとともに、農薬販売時に生産者に対して、注意喚起の声掛けを行うよう依頼する。
   (2-3)=(1-1)の文中「県の協力の下」が「各普及指導センター協力の下」と変更
   (2-4)=(1-2)
  (3)農薬の使用に関する記帳を行わないことへの対策
   (3-1)生産者団体や直売所に対して、集荷時に生産者から提出された農薬散布履歴の確認を必ず行い、
   (3-2)農薬の使用状況に問題が無いことを確認した上で、農作物を受け入れることも
    検討するよう指導する。
   (3-3)JAに対して、集荷時における農薬の使用状況の確認に加えて、出荷前の自主検査も
    検討するよう促す。

作成:2021-01-30