農薬の毒性・健康被害にもどる
n03405#農水省、2019年度の農薬事故件数を公表〜人の中毒は前年14件減の11件だが#21-01
【関連サイト】農水省:農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況についての頁
2019年度農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況にある被害詳細と平成27〜令和元年度推移
農水省は、1月26日、令和元年度 農薬の使用に伴う事故及び被害の発生状況についての調査結果を発表しました。この調査は、2019年4月から20年3月までの、人の中毒事故、農作物・魚類等の都道府県からの被害報告をまとめたものです。
★人身事故件数は11件23人、作物被害8件、魚類被害7件
【関連記事】記事n02701、記事n02801
2019年度の事故等の農水省の調査結果を表1に示し、前年との比較を行いました。
表1 2019年度の農薬中毒・危被害件数
人の被害 19年 前年件数 被害対象 19年 前年件数
件数(人数) 増減 件数 増減
死亡 散布中 0( 0) 0 農作物 8 +1
誤用 0( 0) -4 家畜 0 0
小計 0( 0) -4 カイコ 0 0
中毒 散布中 9(21) -3 魚類 7 +2
誤用 2( 2) -7 小計 15 +3
小計 11(23) -10 蜜蜂 43 +22
計 11(23) -14
2018年度 自動車/建築物/その他の被害はゼロ、19年度は報告記載なし
【人体被害】 人の中毒件数は前年より14件減り、11件で、死亡者はなく、中毒者数は23人でした。
そのうち、クロルピクリンの土壌処理による中毒は5件17人と一番おおく、被覆を行わなかったり、被覆が十分でなく、漏洩したことにより、近隣住民が、目にしみるや充血、喉・胸及び鼻の痛み、流涙、咳、吐き気などの体調不良を訴えたものです。2018年度の被害14人(記事n02701)が減ることはなく、19年度は、前年を凌駕するにいたったのは由々しいことです。農水省が2020年7月15日に発出した通知被覆を要する土壌くん蒸剤の使用実態等に基づく適正な取扱いの徹底について(記事n02801参照)は、おそすぎたのです。
ほかに、散布者の被害には、散布調整時や散布時の保護具不備3件、防除器具の漏れ1件が報告されています。また、誤飲・誤食による被害2件ありました。農作物被害8件、魚介類被害7件、家畜・カイコ被害と物損はそれぞれゼロでしたが、蜜蜂被害は前年の21件から、倍増し43件ありました。
【農作物被害】 報告のあったのは8件で、隣接圃場や圃場周辺部の除草剤などの散布による小麦の枯死・黄化3件や大豆の黄化2件、ブロッコリー白化1件、水稲の褐変1件のほか、土壌くん蒸剤クロルピクリンが漏洩し、隣接のみずなが白化した事例1件もありました。
【魚類被害】前年5件だった魚類の斃死は、2件増加し、7件となりました。原因として、@農薬の散布後、水路付近で薬剤が残った状態で散布機の洗浄を行った、A余った農薬を誤って水路に漏洩させた、B余った農薬希釈液を河川につながる側溝に廃棄した などが原因でした。
★人の中毒事故11件〜ワーストワンはクロルピクリン5件17人
表2に、農薬による人の中毒事故の詳細を示します(ただし、農水省は、発生場所や原因農薬名はクロルピクリン以外明らかにしていません)。前年4例あった集団中毒事例は、本年は赤字の3例で、いずれもクロルピクリンによるものです。
農薬中毒となった原因で多かったのは、表2に記したように、被覆が不十分であった等、農薬使用後の作業管理の不良が5件。マスク・メガネ・服装等装備不十分が3件。保管管理不良や泥酔等による誤飲誤食が2件です。
表2 2019年度の人の農薬事故 (農水省詳細報告資料より作成)
原因略号 (a)マスク、メガネ、服装等装備不十分 3件
(b)強風中や風下での散布等、自らの不注意により本人が暴露 1件
(c)被覆が不十分であった等、農薬使用後の作業管理の不良 5件
(d)保管管理不良等による誤飲誤食 2件
発生月 中毒程度 被害数 中毒発生時の状況/症状 原因
2019年4月 軽症 1 散布時に装備が不十分で、嘔吐・悪心 (a)
2019年4月 重症 1 ペットボトルに移し替えた農薬を飲料水と間違えて飲用 (d)
急性腎障害、横紋筋融解症、下痢、脱水症。尿色や便色が黒緑色に変化。
2019年4月 中軽症 1 防除器具の調子が悪く、使用者が防除器具に息を吹き込んだ際に (b)
揮発した農薬を吸い込み暴露。
気分不良、浮遊感、まっすぐ歩けない、倦怠感
2019年5月 不明 1 調製時に装備が不十分で、目に異物感・充血 (a)
2019年5月 不明 2 クロルピクリンの使用時に被覆を行ったが、 (c)
農薬が揮発して近隣住民が目の痛み、充血
2019年9月 中軽症 1 散布時に装備が不十分で、咽頭痛、咳、悪心、吐気、嘔吐 (a)
2019年9月 軽症 1 農薬をお茶と間違えて飲用。自覚症状なし (d)
2019年12月 軽症 3 クロルピクリンの使用時に被覆を行わなかった。 (c)
農薬が揮発して近隣住民が目のしみ、吐き気、
2019年12月 軽症 1 クロルピクリンの使用時に被覆を行わなかった (c)
農薬が揮発して近隣住民が目のしみ、吐き気、
2020年1月 中軽症 3 クロルピクリン使用時に被覆を行わなかった。 (c)
眼、喉、胸及び鼻の痛み、流涙、咳
軽症 3 眼、喉、胸及び鼻の痛み、流涙、咳、
軽症 4 眼、喉、胸及び鼻の痛み、流涙、咳流涙、咳
2020年3月 不明 1 クロルピクリン使用時に被覆を行わなかった。 (c)
農薬が揮発して近隣住民が頭痛
★年度別の推移をみる
農水省は、人に対する事故原因を内容別に解析しています。平成27年から令和元年のトータル事故件数の推移は、表3のように漸減傾向です。
5年間の合計件数でみて、BCGが原因となるケースは少なく、目立つのは、@防具の不備:22件、E使用後の被覆の不備:16件、F誤飲誤食:29件です。@の防具については、散布者自身の問題としてとらえるのでなく、散布地周辺の住民の受動被害につながることも忘れてはなりません。Fは人数も多く、身の回りにある毒物が、不注意だけでなく、自殺などに使用されることがあるので、管理に注意を要します。Eはクロルピクリンを主とする土壌くん蒸剤が原因であり、揮発性の刺激性ガスにより、周辺住民が被害をうけていることと一致します。住宅地周辺での使用をやめること以外、有効な対策はありません。
表3 原因別事故件数の推移
原因区分 事故件数の推移 ( )は人数
@マスク、メガネ、服装等の装備が不十分 H27 H28 H29 H30 R1
4(4) 3(3) 6(6) 6(7) 3(3)
A強風中や風下での散布等、
自らの不注意により本人が暴露 2(3) 2(2) 1(1) 1(1) 1(1)
B長時間や高温時の作業、不健康状態での散布 0(0) 0(0) 0(0) 0(0) 0(0)
C防除器具の故障、操作ミス、整備不良等による 0(0) 0(0) 1(1) 0(0) 0(0)
農薬のドリフトや流出
Dドリフト防止対策の未実施等による 1(7) 1(1) 2(8) 1(1) 0(0)
農薬のドリフトや流出
E被覆が不十分であった等、農薬使用後の 3(20) 3(7) 1(7) 4(14) 5(17)
作業管理の不良
F保管管理不良等による誤飲誤食 11(11) 7(7) 6(11) 3(3) 2(2)
G運搬中における容器の転落・転倒等の容器破損 1(3) 0(0) 0(0) 1(5) 0(0)
Hその他 1(12) 1(1) 2(2) 2(4) 0(0)
I原因不明 5(5) 2(2) 2(2) 7(7) 0(0)
計 28(65) 19(23) 21(38) 25(42) 11(23)
作成:2021-01-30