農薬の毒性・健康被害にもどる
n03701#2019年度の家庭用品吸入事故 180件〜調査縮小か? 前年から1000件以上減#21-04
【関連記事】記事n02201(調査内容は2018年度であるが、公表は2019/12/25)
【参考サイト】厚労省:「2019年度 家庭用品に係る健康被害の年次とりまとめ報告」
(概要と報告書。2021/03/30公表)
厚労省が「家庭用品に係る健康被害病院モニター報告」の2019年度版を、3月30日に、公表しました。皮膚障害については、「一般社団法人皮膚安全性症例情報ネット」が、家庭用品による健康被害については、「日本中毒情報センター(JPIC)」が情報をとりまとめており、いずれも。調査期間は2019年4月1 日から2020年3月31日までとなっています。
なお、報告中、異常事例というのは、重症度の高いもので、下記の薬機法施行規則による重症度判断基準に該当する健康被害事例が1件以上発生した場合に報告されます。
1)死亡、障害又は死亡若しくは障害につながる恐れのある事例
2)治療のために入院又は入院期間の延長が必要とされる事例。
3)後世代における先天性の疾患又は異常の恐れがある事例。
4)原因製品の使用中止後、治療に要する期間が30日以上(加療30日以上)の事例
【皮膚障害】42件の事故があり、うち重症度の高い事例が6件でした。原因で多いのは、ネックレス(5件)、ピアス(5件)、ビューラー(5件)、イヤリング(4件)で、 性別は、女性が 41 件(97.6%)と大半を占め、皮膚障害の種類は、「アレルギー性接触皮膚炎」36 件(85.7%)と「刺激性接触皮膚炎」5件(11.9%)でした。報告では、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い、今後、マスク着用が原因となる被害事例が増える懸念があり、注視する必要があるとされています。
【誤飲誤食】2018年度は、小児誤飲事故が626件ありましたが、19年度は調査報告はありません。
【吸入事故等】日本中毒情報センターが、吸入事故及び眼の被害事例をまとめています。
2018年度の吸入事故等は1294件でしたが、2019年度は大幅に減少し180件でした。以下の表に原因別件数をあげておきます。なお、家庭用品名の項目は、18年度と99年度は異なり、前者が10項目で1048件でしたが、後者は19項目で180件あり、
表 2019年度・家庭用品による吸入事故等の報告全数 ()は2018年度
家庭用品名 件数 家庭用品名 件数
防水スプレー 66 (92) 接着剤 2
除菌剤 50 (89) 洗剤(洗濯用・台所用) 2 (67)
洗浄剤(住宅用・家具用) 10 (266) 洗剤・洗浄剤(その他) 2
殺虫剤 9 (248) 乾燥剤 1
防虫剤 6 ワックス 1
防カビ剤 5 線香 1
漂白剤 5 (119) 塗料 1
芳香・消臭・脱臭剤 4 (65) その他の家庭用品 10
シールはがし 3 表記載の10品目以外 (246)
忌避剤 2 (39)
除草剤 (21) 総 数 180 (1204)
園芸用殺虫・殺菌剤 (42)
★前年との比較ができないとのいいわけ
報告書では、2018年度から1100余件も被害が減ったことについては、『今回のとりまとめ報告では、誤飲等の主に使用者側の要因による事故情報は収集・集計していないため、昨年度までのモニター報告の年次報告における報告件数とは単純比較ができない。』との説明があるだけで、厚労省の担当部署に尋ねても、単に、日本中毒情報センターの報告をそのまま、アップしただけで、なぜ、削減しているかの理由は不明ということでした。コロナ騒動の結果、行政の処理能力が低下し、調査自体が前年より縮小され、経年変化の検討が不可能になったのかと推測せざるをえません。
ここでは、とりあえず、「家庭用品に係る吸入事故等に関する報告」にある農薬及びその関連物質の事故について紹介します。
なお、記事n03704でとりあげた除菌剤や芳香剤の事例も参照してください。
★調査はどのように行われたか
事故事例の調査は、下記の要領で行われていますが、個々の事例内容についての説明は、前年に比べ、大幅にカットされています。
【集計期間】19年4月1日から20年3月31日まで
【報告対象】健康被害事例のうち、薬機法、農薬取締法に関連する化学物質を原因とする
または当該物質が原因と疑われる健康被害事例がカウントされ、原則として製品設計上、
想定された範囲での使用に伴うもので、誤使用や小児の誤飲・誤食等の明らかな使用者側の
要因によると考えられる症例は含まない。
【調査(情報収集)・集計方法】問合せ時に聴取した詳細な情報に加え、問合せ時以降の健康状態等に
ついて、医療機関に対してはアンケート用紙の郵送、その他の相談者に対しては電話に
よって追跡調査を行うことにより実施した。
・健康被害事例として報告があったものの全数を「報告全数」とし、全数報告の内、重症度が
以下の要件に該当する健康被害症例は、「異常事例」として集計した。
・報告全数は全ての消費者製品を対象とし、重症度に関わらず全ての健康被害事例を
集計している。なお、発生件数(問合せ件数)1件を報告1件としている。これらの
中には、1件に対して、複数製品が関与する場合や患者が複数名でる場合が含まれている。
★健康被害報告は180件〜防水スプレーと除菌剤が各50件超え
2019年度において、健康被害事例の報告全数は180 件、うち上述の「異常事例」に該当するものはゼロで、性別では、男性46人、女性132人、不明2人、年齢別では0-19歳19人、20から59歳111人、60歳以上50人でした。主な原因別の件数は 下記のようで、50件を超えたのは、防水スプレーと、除菌剤でした。
* 防水スプレーに関する健康被害事例(報告全数 66 件)
報告された事例の多い順に、
@屋内や車内で換気を十分せずに使用した事例:40 件(60.6%)
A製剤を風下から散布し、吸入した又は眼に入った事例、
B人の近辺で使用し、影響が出た事例等が挙げられ、
マスクをせず換気しながら、防水スプレーを室内で使用した。翌日、呼吸苦のため受診し、
胸部レントゲン検査で異常を認めて、6 日間入院した事例もありました。
スプレー剤の成分別の件数と症状は下表のようでした。
成分名と件数 症状
フッ素樹脂(26 件) 咳・息苦しさ・胸部レントゲン異常等
シリコーン樹脂(7件) 咳・喉の痛み等
シリコーン樹脂・フッ素樹脂の両成分を含むもの(10 件)
咳・息苦しさ・胸部レントゲン異常等
成分不明のもの(23 件) 咳・息苦しさ等
* 除菌剤に関する健康被害事例(報告全数 50 件)
新型コロナウイルス感染症の流行とともに増加している可能性があるとされ、成分別では
二酸化塩素含有製品による事例が 44 件と最も多く、ついで、次亜塩素酸含有製品が4件でした。
塩素系の成分は、臭いが特徴的で刺激性があることから報告例が多いこと、また、塩素系薬剤の
使用直後に酸性物質を使用した場合や加熱によっても、塩素ガスが発生する可能性があるため、
安易に複数の製品を併用しない等、使用者が使用方法に注意を払うことも必要であるとの指摘が
あります。
また、二酸化塩素製品はウイルス対策用としてここ10年ほどで家庭内でも広く使われるように
なった新しい製品であり、使用経験及び安全性に関する情報について未だ十分とは言えない
状況であり、今後も引き続き注視していくとの記述もあります。
除菌剤の成分別の件数と症状は下表のようでした。
成分名と件数 症状
二酸化塩素(44 件) 眼の痛み・喉の痛み等
次亜塩素酸塩類(4件) 喉の痛み・頭痛等
アルコール(2件) 悪心等
* 洗浄剤(住宅用・家具用)に関する健康被害事例(報告全数 10 件)
成分名と件数 症状
次亜塩素酸塩類(7件) 眼の痛み・息苦しさ等
陰・非イオン性界面活性剤(3件)皮膚のしびれ等
* 殺虫剤に関する健康被害事例(報告全数9件)
成分名と件数 症状
ピレスロイド含有剤(9件) 咳・息苦しさ等
* 防虫剤に関する健康被害事例b(報告全数6件)
成分名と件数 症状
ナフタレン含有剤(3件) 頭痛等
パラジクロルベンゼン含有剤(1件) 眼の充血等
植物油(1件) 眼の違和感等
成分不明のもの(1件) 動悸等
* 防カビ剤に関する健康被害事例(報告全数5件)
成分名と件数 症状
陽イオン系(4件) 咳・息苦しさ等
イソプロピルメチルフェノール(1件) 倦怠感等
* 漂白剤に関する健康被害事例(報告全数5件)
成分名と件数 症状
次亜塩素酸塩類(4件) 喉の違和感・息苦しさ等
過炭酸塩(1件) 喉の違和感等
* 芳香・消臭・脱臭剤に関する健康被害事例(報告全数4件)
成分名と件数 症状
植物精油(3件) 喉の違和感・悪心等
成分不明のもの(1件) 眼の違和感等
作成:2020-04-28