農薬の毒性・健康被害にもどる

n03801#2021年度農薬危害防止運動通知・ポスターなど発出〜農薬使用削減なくして、危害防止はできない#21-05
【関連記事】記事n02601(2020年度防止運動通知)
【参考サイト】農水省;農薬の適正な使用の頁
           「2021年度 農薬危害防止運動」の概要実施要綱と啓発ポスター(重点指導項目ラベル確認・使用履歴の記帳飛散防止)
           情報の広場〜農薬を正しく使うために〜
            ・リーフレット:事故被害防止編農薬ラベル確認編 飛散防止編
            ・クロルピクリン剤の安全使用に関する啓発資料:チラシポスター
       農薬工業会:冊子「農薬中毒の症状と治療法」の利用について
               「農薬中毒の症状と治療法」第18版(医療従事者用)(2020年4月。日本中毒情報センター監修)

 農水省、厚労省、環境省等による農薬危害防止運動は、『農薬の使用に伴う人や家畜への危害を防止するためには、農薬を使用する機会が増える6月から8月に指導を強化するのが効果的である』として、多くの都道府県では、原則6月1日から8月31日までの3ヶ月間が展開されることになっています。
 今年は、その通知が、昨年より早く、4月27日に公表され、運動のテーマは『農薬は 周りに配慮し 正しく使用」と設定し、周辺の環境への農薬の飛散防止を徹底することなどを重点的に指導する』です。

 コロナ下、二年目になる危害防止運動では、昨年同様、前文には、『新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に十分配慮し、密閉空間、密集場所、密接場面を避けて実施することとします。』とあり、実施要綱には、新たに第7節で『講習会等や対面での農薬使用者等への指導については、対面によらない方法で実施する、対面で実施する場合は、時期を変更する、感染防止対策を徹底する等、各地域の実情に応じた柔軟な対応をとるものとする。』との追加が見られました。
 下記のように、遵守すべき指導内容を示したポスターやリーフレットが公表されていますが、行政の担当部署や農協などの施設にポスター掲示するだけでは、いままでと変わりがありません。市町村がコロナ対策等を屋外拡声器や町内放送でアナウンスしているように、農薬散布への注意喚起も生産現場や農道、町中、自宅でも、見たり聞いたり出来るよう、広報活動を拡大すべきでしょう。また、リーフレットを用いて、農業者だけでなく、地域の住民をも含めた集まりを幅広く行うことも必要です。

【ポスター】本年度のポスターは、従来と異なり、3つのテーマ別に作成されました。

 ・重点指導項目:クロルピクリンの使用に際して『被覆しますか』とあり、周辺住民 に配慮として、         ■周辺住民に説明・事前周知、   ■被覆をしっかり実施、         ■追加対策の実施(風向きの注意、難透過性資材の活用) が、それぞイラスト付で示されていますが、『どんな場所でも、       必ず被覆』としながら、圃場の畝のみが被覆されており、       地中に注入されたクロルピクリンが畝間から揮散することの       説明はなく、また、被覆を除去して、ガス抜きする際の       大気への放出にも留意せねばなりませんが、その日時を       周辺住民に前以て周知することは義務付けられていません。       使用者は、周辺住民とともに、事前にクロピク使用の可否を       共同で論議すべきです。  ・ラベル確認・使用履歴の記帳:メインテーマは『農薬を知る』『理解する』       『適正に使う』の遵守ですが、毎年のように、同じ行政指導で、       使用する前には<ラベルの適用作物の使用方法を確認>、       使用した後は<農薬の使用履歴を帳簿に記録>と書かれており、       使用者の自主性に任せているだけでは、違反がなくなりません。       これらは、生産者か、一般人かに拘わらず、農薬使用者の鉄則       であり、農薬販売店が、きちんと説明し、遵守を誓約しないと       購入できないような制度にすべきです。 、  ・飛散防止:『農薬は周りに配慮し正しく使用』すれば、飛散防止に       つながるとの認識で、下記4点が記載されています。         @飛散の少ない剤型・飛散低減ノズルを使用         A十分な時間の余裕をもって幅広く周知         B防除機器・散布装置の機能や性能を正しく理解         C周りに影響が少ない天候や時間帯を選択       飛散防止は、散布者だけでなく、住民の受動被曝を避ける       ための遵守事項ですが、その前に、『農薬の使用を減らす       ことが、飛散防止の第一歩』との記載が必要です。       また、遵守違反し、人に被害を与えた原因者に適用された       法的罰則の内容を例示すべきです。

【リーフレットほか】ここでも、『情報の広場〜農薬を正しく使うために〜』として、ポスターの内容をより詳しく説明した3つのリーフレットが掲載されています。

 ・事故被害防止編:<農薬事故はなぜ起こる?>として、いままでの       事故の原因が示され、保管管理不良・泥酔等による誤飲誤食が       34%、マスク・メガネ等装備不十分が18%、農薬使用後の       作業管理不良13%となっています。       さらに、事故・被害を未然に防ぐための農薬使用時の注意点       として、下記の項目があります。             ■周囲の方への配慮、    ■農薬ラベルの確認の徹底、             ■土壌くん蒸剤の安全使用、 ■容器の移し替えは厳禁、       これらは、農薬取締法関連の法令や農薬を使用する者が遵守すべき       基準を定める省令に基づき、違反すると罰則を科せられるものも       ありますが、多くの場合、口頭注意にとどまっているため、       なかなか違反はなくなりません。少なくとも、違反者には、農薬       使用を禁止するなど、法的措置を行うべきです。  ・農薬ラベル確認編 :<残留基準値超過の原因は?>として、誤使用を含め、       ラベル記載どおりに農薬使用がなされていない点が指摘されています。       さらに、隣接圃場で使用した農薬の飛散、防除器具の洗浄が不十分で、       以前に使用した農薬が残っていて混入したお粗末な事案もなくなり       ません。また、食衛法による残留基準超え防止のためとして、       下記が記載されています。             ■適用農作物を確認、  ■使用量・希釈倍数を確認、             ■使用時期を確認、   ■使用回数を確認、       これらは、使用者のやるべき基本ですが、旧態依然として、確認しないで、       散布する事例や人的ミスよる事例が起っており、注意喚起の強化だけでは、       違反はなくなりません。       散布農薬を調合・使用する場合には、複数の人でチェックしたり、       装置洗浄、ラベル違反やうっかりミスを警告する点検システムの       確立が急務です。  ・飛散防止編:まず、飛散(ドリフト)の説明があり、農薬の剤型、風速、ノズルと作物との距離、       散布圧力、粒子径などにより、飛散状況が変化するとあります。圃場の地形と気象条件の       関連を評価して、飛散防止対策をとる必要もあり、下記のような課題があげられています。        ■近隣住民等に対する影響、■周辺作物の薬害、残留基準値超過        ■環境への負荷、     ■散布者自身への暴露       散布者は保護具で防除できるとしても、ノーガードの近隣住民は、飛散した微粒子や液滴を       被曝するだけでなく、散布後も気中に漂う気体農薬や微小の粉塵を吸入し続けます。       また、周辺作物への飛散では、残留基準を超えなければよいというのは、納得できません。       使用しないなら、残留はゼロです。散布者はゼロになるよう隣接圃場への飛散防止措置を       とるのが本来あるべき姿です。仮に、飛散により当該作物に使用されていない農薬が       検出された場合、一律基準以下でも、その作物の販売価値が低下するわけですから、       加害散布者には賠償責任が生することになります。   この項にある<飛散による被害を防ぐための農薬使用時の注意点>には、下記の言及があります。            ■農薬だけに頼らない病害虫防除の検討、 ■飛散の少ない剤型・飛散低減ノズルを使用、        ■周りに影響が少ない天候や時間帯を選択、■十分な時間の余裕をもって幅広く周知          ■防除機器・散布装置の機能や性能を正しく理解   被害防止に最も重要なのは、農薬を使用しないことであり、赤字の項目が、最重要です。   天候については、無風又は風が弱いときなど、近隣に影響が少ない天候・時間帯に行う/   風向きやノズルの向きに注意し、適正な散布圧力・散布量で散布を行う、とあり、   周知については、農薬使用の目的、散布日時、使用農薬の種類及び農薬使用者等の連絡先を、   幅広く知らせる/近隣に学校、通学路等がある場合には、万が一にも子どもが農薬を浴びる   ことのないよう散布の時間帯に最大限配慮するとともに、当該学校や子どもの保護者等へ周知を、   図るとしています。   これらを遵守できなければ、農薬散布の資格はなく、散布禁止につなげるべきです。

  ほかにも、ドローン等の無人航空機による空中散布の場合、操縦者は、機体・散布装置に関する機能や性能、散布方法について理解し、飛散を防止する。さらに、 動力噴霧機、スピードスプレーヤー等 による散布の場合も、防除機器・散布装置に関する機能や性能を正しく理解することが求められていることを忘れてはなりません。特に、ドローンについては、次節を参考にしてください。

【クロルピクリンについて】啓発資料として、近隣住民の被害が絶えることのない土壌くん蒸剤クロルピクリンについては、チラシとポスターにより、安全使用に関する下記の注意喚起がなされました。

  ・チラシ;使用時に被覆をすることが強調され、<正しく使用しないと思わぬ事故につながります>との警告の下、     周辺住民に説明・事前周知、被覆をしっかり実施、追加対策の実施のお願いが記載されています。   ・ポスター:<クロルピクリン剤 安全使用6箇条!>として以下の項目があります。      1 周辺に配慮、      2 使用時は必ず被覆、   3 ビニールハウスでも被覆、         4 防護装備を正しく着用、 5 鍵のかかる場所に保管、 6 使用後は正しく処分、     これら項目は、クロピク使用が前提になっており、健康被害を受けることになる周辺住民に説明や事前の周知をしても、処理圃場に被覆をしても、被害をなくすことはできません。     「周辺に人が居住し、活動する生活圏がある場合は、クロルピクリンを使用してはならない」     という文言を最初に書くべきです。   

【実施要綱と重点指導事項】農薬使用削減に触れず、使用を前提とする要綱は、昨年も今年も、その内容は下記のようで、ほとんどかわりません。
    (1) 農薬及びその取扱いに関する正しい知識の普及啓発
    (2) 農薬による事故を防止するための指導
    (3) 農薬の適正使用等についての指導
    (4) 農薬の適正販売についての指導
    (5) 有用生物や水質への影響低減のための関係者の連携
  それでも、今年は、『近年継続して農薬の使用に伴う事故・被害等が発生している』とし、下記のような徹底すべき重点指導事項が 追加されていました。
     ・ 農薬ラベルによる使用基準の確認と使用履歴の記帳の徹底
     ・ 土壌くん蒸剤を使用した後の適切な管理の徹底
     ・ 住宅地等で農薬を使用する際の周辺への配慮及び飛散防止対策の徹底
     ・ 誤飲を防ぐため、施錠された場所に保管するなど、保管管理の徹底

★地散より高濃度・広範囲なドローン空中散布をやめるべき
 農水省は、スマート農業と称して、ドローンによる農薬散布の拡大をめざしています。 地上散布より高濃度で、短時間に広範囲で実施されるドローン散布は効率がよいとの認識で、域外の住宅地域の農薬大気汚染防止については、二の次です。
 実施要綱中、第6実施事項の『1 農薬及びその取扱いに関する正しい知識の普及啓発』にある『(3)指導・周知が行き届きにくい農薬使用者への普及啓発 』の節では、『地域の実情に応じて、生産者団体や作物ごとの部会及び出荷先に加えて、農産物直売所、青果市場、農薬販売店等を通じた情報発信を行うこと。』のほかドローン散布について、下記の記載がされました。

      無人マルチローターを利用して農薬散布を実施する場合、通常よりも高濃度の農薬を       使用する可能性があるため、農薬の適正使用に関して十分理解しておくことが必要である。       このため、無人マルチローターの関係団体、メーカー、販売店、教習施設等に対して、       無人マルチローターを用いる農薬使用者への、普及啓発資料の配付や講習会参加の       呼びかけを要請すること。

 しかし、無人航空機農薬散布資格者の認定が業界団体にまかされている上、ドローン型は無人ヘリコプターの場合と異なり、実施計画を行政に提出する義務はなく、地散なみに扱われることなど問題が多く、法的な規制が必要です。特に、水田等では空中散布は個人の圃場というより、より広範な地域レベルでの防除が行われており、たとえ、個々人が自己保有の圃場の散布届を出していても、同一区域で、同じ時間帯に、複数の散布者及び・又は複数の機体で散布する場合の面積は大きく、従って地域の住宅地や環境への影響も拡大するので、現状のように、散布者まかせではなく、クロルピクリン使用と同じく、地域住民とともに、散布についても、その可否を含め、検討すべきです。にも拘わらず、ドローン空中散布は、イラスト入りで、

    防除機器・散布装置の機能や性能を正しく理解      ・ 無人航空機(ドローン等)を用いて農薬を散布する場合、操縦者は、あらかじめメーカーが       作成した取扱説明書等により、機体・散布装置に関する機能や性能、散布方法について理解し、       飛散を防止しましょう。

 との説明しか見当たりません。
 ドローン空中散布は、散布対象物上、高度2m以下での目視が原則です(樹木の場合は樹高+2m)。人の生活圏に直接農薬を撒き散らすことができないのは、あたりまえですが、散布された農薬が飛散し、対象外の作物を汚染しないよう防備することはできても、農薬で汚染された生活圏の大気を、人が呼吸しないようにすることは不可能です。

コロナ対策からの教訓〜人が多いところでは農薬は散布するな
 さらに、「新型コロナウイルス感染症への対応」として、下記のような追加がなされました。

      本年度の運動の実施に当たっては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に十分配慮し、       講習会等や対面での農薬使用者等への指導については、対面によらない方法で実施する、       対面で実施する場合は、時期を変更する、感染防止対策を徹底する等、各地域の実情に       応じた柔軟な対応をとるものとする。

 これは、講習会に関することで、多人数・密になることへの注意喚起です。農薬散布に伴うコロナ対策では、ありません。緊急事態宣言やまん延防止措置などコロナ感染に関してとられている対策は、農薬では、さしずめ、『散布周辺地域の農薬の飛散防止に十分配慮し、地域への農薬拡散を抑制できない場合、農薬使用者への指導については、農薬によらない方法を求める。』となるべきです。

★農薬使用を削減した事例の共有化を
 農薬危害防止に必要なのは、農薬を使用しないことです。運動のテーマにある<農薬は周りに配慮し正しく使用>を一歩進め、<農薬使用を減らす>とすべきです。
 通知では。『国は、各都道府県等での取組の効果を検証し、優良な取組事例、取組内容の工夫等を全国レベルで共有することにより、農薬の適正使用に係る指導を充実させるとともに、次年度以降の運動の実効性をなお一層高めるよう努めるものとする』とあります。これは、わたしたちも求めていたもので、前年にも示されていた文書に赤字部分がさらに追加されています。
 農薬を減らした事例をまとめ、それを共有化することは、実現していません。特に、人の健康被害防止は、農薬散布者だけでなく、散布地周辺の住民への配慮を無視してはなりたちません。
 
住宅地通知には、農地での農薬使用と公共施設や一般住宅での農薬散布について遵守事項が明記されています。この通知に基づく各地の優良事例を調査し、それらをまとめ、ぜひ、減農薬の手本にしてもらいたいものです。
 おわりに、農水省の主張する飛散による被害を防ぐための農薬使用時の注意点にある主な事項を下記に示しておきます。

  ■農薬だけに頼らない病害虫防除の検討    ・病害虫に強い作物や品種の栽培、    ・病害虫の発生しにくい適切な土づくりや施肥の実施、    ・人手による害虫の捕殺、防虫網の設置、機械除草等の     物理的防除の活用等により、農薬だけに頼らない病害虫防除方法   ■飛散の少ない剤型・飛散低減ノズルを使用    ・粒剤、微粒剤等の飛散が少ない形状の農薬使用    ・液体の農薬場合は、飛散低減ノズルの使用   ■周りに影響が少ない天候や時間帯を選択    ・農薬散布は、無風又は風が弱いときなど、近隣に     影響が少ない天候・時間帯に行う    ・ほ場の外側から内側に向かって散布    ・できる限り作物の近くから散布    ・散布の方向や位置に注意    ・風向きやノズルの向きに注意し、適正な散布圧力・     散布量で散布を行う   ■十分な時間の余裕をもって幅広く周知    ・農薬の散布に当たっては、事前に周辺住民に対して、     農薬使用の目的、散布日時、使用農薬の種類及び     農薬使用者等の連絡先を十分な時間的余裕をもって     幅広く周知する    ・農薬散布区域の近隣に学校、通学路等がある場合には     万が一にも。子どもが農薬を浴びることのないよう     散布の時間帯に最大限配慮するとともに、当該学校や     子どもの保護者等への周知を図る     ■防除機器・散布装置の機能や性能を正しく理解    ・無人航空機(ドローン等)を用いて農薬を散布する場合、     操縦者は、あらかじめメーカーが作成した取扱説明書等     により、機体・散布装置に関する機能や性能、散布方法に     ついて理解し、飛散を防止する。    ・動力噴霧機、スピードスプレーヤー等を用いて農薬散布を     する場合、使用者は、防除機器・散布装置に関する機能や     性能について正しく理解し、飛散を防止する。


作成:2021-05-30