食品汚染・残留農薬にもどる

n03901#農水省が「みどりの食料システム戦略」を策定〜2050年までに達成でいいのか#21-06
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           有機農業をめぐる我が国の現状について(2019/07/26)
       みどりの食料システム戦略のページ(戦略本体全体版参考資料全体版)

 農水省は、5月12日に、「みどりの食料システム戦略1策定について」を公表しました。同システム戦略のページにある戦略本体全体版と同参考資料全体版の中で、まず、【現状と今後の課題】として、
  ○生産者の減少・高齢化、地域コミュニティの衰退、
  ○温暖化、大規模自然災害、 ○コロナを契機としたサプライチェーン混乱、内食拡大、
  ○SDGs(Sustainable Development Goalsー持続可能な開発目標)や環境への対応強化、
  ○国際ルールメーキングへの参画
をあげ、『農林水産業や地域の将来も見据えた持続可能な食料の構築が急務』とし、さらに『中長期的な観点から、調達、生産、加工、流通、消費の各段階の取組とカーボンニュートラル等の環境負荷軽減のイノベーションを推進』と、横文字をならべて、その思いを述べています。なお、ここで、中長期というのは2050年までの30年間を意味しています。以下、その主張をみていきましょう。

【趣旨】の項では、『我が国の食料・農林水産業は、気候変動やこれに伴う大規模自然災害、   生産者の高齢化や減少等の生産基盤の脆弱化、新型コロナを契機とした生産・消費の変化への   対応など大変厳しい課題に直面しています。』と述べ、つつけて、『SDGsや環境への対応が   重視されるようになり、我が国の食料・農林水産業においても的確に対応していく必要がある』   『国際的な議論の中で、我が国としてもアジアモンスーン地域の立場から、新しい食料システムを   提案していく必要がある』とし、『農林水産業や地域の将来も見据えた持続可能な食料システムの   構築が急務の課題となっています。』との認識を示した上、食料・農林水産業の生産力向上と 持続性の両立をイノベーションで実現する戦略=「みどりの食料システム戦略」を策定した。 となっています。

★具体的な目標は7項目
 農水省は、30年後の2050年までに達成をめざすとして、、以下の7項目をあげました。これらについて、『調達から生産、加工・流通、消費における関係者の意欲的な取組を引き出すとともに、革新的な技術・生産体系の開発と社会実装に取り組んでいくこと』、としています。

  1.農林水産業のCO2ゼロエミッション化の実現
  2.化学農薬の使用量を30%低減(リスク換算では50%低減)
  3.化学肥料の使用量を30%低減
  4.耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%、100万haに拡大
  5.2030年までに持続可能性に配慮した輸入原材料調達の実現
  6.エリートツリー等を林業用苗木の9割以上に拡大
  7.ニホンウナギ、クロマグロ等の養殖において人工種苗比率100%を実現 等

 いずれも、これらの施策が、ある日突然、エイヤッと実施されるわけではありません。 30年間にわたり、予算を含め、詳細な実施計画の提示がないままでは、大言壮語の意気込みだけかと、疑問に思わざるをえません。農薬使用を継続しつづけることは、SDGs(持続可能な開発目標)とは、相対するもので、農薬使用の削減なくして、目標の達成にはつながりません。本号では、第2項の農薬削減についての農水省の主張をみてみます。

★現状と課題では、さまざまな指摘がなされたが
 みどりの食料システム戦略の参考資料では、まず、『食料・農林水産業が勅直面する課題と取組の現状』が取り上げられ、温暖化による気候変動・大規模自然災害の増加/世界全体と日本の農業由来の温室効果ガスの排出/生産基盤の脆弱化 地域コミュニティの衰退/コロナを契機とした生産・消費の変化が課題となると指摘され、その解決の取組みの現状が述べられ、具体的には、下記のような事項の拡大・推進が指摘されもしました。
 ○気候変動に適応する持続的な農業の実現に向け、高温に強い品種や生産技術の開発
 ○脱炭素社会の実現に向け、農林水産分野の革新的な環境イノベーションの創出
 ○農作物のゲノム情報や生育罩の育種に関するビッグデータを整備し,これをAIや新たな育種技術と
  組み合わせて活用することで、従来よりも効果的かつ迅速に育種すること可能となる
  「スマート育種システム」を開発中。
 ○海外に対して強みを持つ国産ゲノム編集技術やゲノム編集作物の開発も進展。
 ○気候変動に対応する品種などを効率よく提供することが可能に。
 ○労働力不足が深刻化する中、生産性を飛躍的に高めるロボット、ICTなどの先端技術の活用が不可欠
  事例として。ドローンによる害虫被害の確認及びその結果に基づくピンポイント農薬散布技術
 ほかに、新たな働き方、生産者のすそ野の拡大に貢献する新技術の開発・実装及現場で培われた優れた技術の横展開/ フードサプライチェーンの強靭化に向けた取組/ 腸内細菌叢及び代謝物の機能開明とおいしくて健康に良い食の提案・提供にも触れられました。

★農薬使用をどう削減するのか
 農水省は『化学農薬使用量50%低減と有機農業の取組面積を耕地面積の25%、100万haに拡大』をぶちあげたのですから、まず、同省の農薬リスクについての主張にあるリスクの求め方(化学農薬使用量(リスク換算)の推定)をみてみましょう。その手順は以下のようです。

 −化学農薬使用量の低減に関するKPIを設定ー
   KPI=Key Performance Indicator (重要業績評価指標)の説明
   環境負荷を軽減し、持続的な農業生産を確保することを目的とする中で、
    KPI は、生産現場や農薬メーカーも含む幅広い関係者が計画的に取り
   組みやすく、消費者の理解を得られやすくすることが重要。このため、
   従来の環境保全型農業のような個々の農家段階での単純な使用量ではなく、
   環境へのインパクトを全国の総量で低減していることを検証可能な形で
   示せるよう、「リスク換算」で算出することとした とあり、
  ・「リスク換算」の求め方については、
   @「有効成分ベースの農薬出荷量」に「リスク係数」を掛けたものの総和を取ること
   A「リスク係数」は、ADI(許容一日摂取量)を基に係数を検討すること
   B 有効成分ベースの農薬出荷量」及び「リスク係数」については、
    科学の発展に応じて充実させることとする。たとえば、環境負荷に関する
    指標や環境生物に対する毒性指標について、国際的に共通に利用可能な
    ものが将来確立されれば、化学農薬の環境へのインパクトを評価する
    指標として併せて使用することも検討してはどうかなど、まだ、確定した
    ものではありません。
   C有効成分ベースの農薬出荷量
    農水省が毎年行う調査(FAO(国連食糧農業機関)に「使用量」として報告)を
    ベースとする。
    なお、毎年、殺虫剤、殺菌剤、除草剤、殺鼠剤及び植物成長調整剤の出荷量を
    報告しているが、展着剤、誘引剤、忌避剤等除外されている。
    重量換算できない天敵及び微生物農薬も除外されている。
    ADI が設定されていない有効成分は除外する。
    結果としてマシン油等 67 成分が除外され、対象となる有効成分は 416 成分
    (2019 農薬年度現在)。
    なお、国内で ADI が設定されていないが国際的に(JMPR において)設定されて
    いるものはその値を活用(2019農薬年度現在、2成分)。
    農薬の有効成分の ADI 値は極めて小さい(0.001 mg/kg 体重/日未満)もの
    から、極めて大きい(1mg/kg体重/日以上)ものまであり、ADI 値をそのまま
    係数として換算した場合、極端な ADI 値が強く反映され、生産現場や農薬
    メーカーの取組を正しく評価できない恐れ。そのため、ADI 値に応じた
    「区分」に分け、係数を設定し、リスク換算に用いる。
    有効成分それぞれの ADI 値の分布(下表)を見ると、「0.01 未満」、
    「0.01 以上〜0.1 未満」、「0.1 以上〜」の3区分でリスク係数を設定することが妥当。

    表 ADI 値ごとの有効成分数の割合(2019 農薬年度現在)
  0.001 未満   0.001 以上    0.01 以上    0.1 以上    1以上
          〜0.01 未満    〜0.1 未満   〜1未満
    2%       30%        52%     14%      3%

  ・有効成分の出荷量が最も多い「0.01 未満」を「標準」区分(グループ1)とし 
    「0.01 以上〜0.1 未満」(グループ2)、「0.1 以上」(グループ3)の
    3区分とする。
  ・リスク係数」については、「標準」区分のグループ1を「1」とすると
    ADI の絶対値に鑑み、グループ2はその 1/10 の「0.1」とし、
    グループ3は,さらにその 1/10 の「0.01」とすることが考えられるが、
    その場合、よりリスクの低い農薬への切り替えが過大に評価されることとなり、
    使用量を削減する生産現場及びメーカーの努力の評価を過少にすることから、
    KPI としては不適切。 そのため、各グループの係数「1」「0.1」「0.01」の
    平方根である「1」「0.316」「0.1」をリスク係数とする。

  表(参考)各グループの有効成分数と使用量(リスク換算)(2019 農薬年度現在)
    ADI    0.01未満   0.01以上    0.1以上   合 計   
                〜0.1未満
   有効成分数   131成分    215成分    70成分   416成分
   使用量     17,409    4,927     993    23,330
   (リスク換算) リスク換算トン(※使用量の小数点以下は四捨五入している。)
★30年後とはいわず、短期達成を
 戦略の最終節(5)本戦略が目指す姿と KPI(重要業績評価指標)では、2050年に達成された姿が以下のように描かれています。
                              
  『スマート防除技術体系の活用や、リスクの高い農薬からリスクのより低い
  農薬への転換を段階的に進めつつ、化学農薬のみに依存しない総合的な病害虫
  管理体系の確立・普及等を図ることに加え、2040 年までに、多く使われて
  いるネオニコチノイド系農薬を含む従来の殺虫剤を使用しなくてもすむような
  新規農薬等の開発により、2050 年までに、化学農薬使用量(リスク換算)の 50%低減を目指す。 』 
 化学合成農薬にたよることは、持続性がなく、SDGsに、相反することなのは、自明であり、環境と調和した農業として、その比率は低いものの、すでに、有機農業や無農薬栽培を、多くの人たちが実践しています。この現状を拡大していく政策の実行や研究を、十分な予算をつけ、迅速にすすめるべきです。
作成:2021-06-30