食品汚染・残留農薬にもどる
t00501#国民の健康を売り渡す厚生省−農薬の新残留基準批判#92-01
 昨年12月9日、厚生省は農産物への農薬残留基準の追加案を発表しました(別表−略−)。従来決まっていた26種類の農薬に加えて、新たに34種類の農薬の残留基準が提案され、対象となる農産物名も従来の53種類から130種類に増えました(「その他の野菜」などの項目で、作物名のあがっていない農産物もカバーできるようになっています)。
 わたしたちは、先に、農薬およびその関連物質を、できる限り身の回りから減らすことを目指し、「農薬にさらされない権利」を提唱しました。その中の一つとして「農薬を食べない権利」をあげています。
 また、作物中に残留する農薬については、食品添加物と同じ扱いにする、ポストハーベスト使用を止める、基準のない農薬が残留しているものの販売を禁止する、国内よりも高い基準をめざす国際平準化に反対するなど、残留基準を厳しくする旨の主張を、パンフ反農薬シリーズほかの日常活動を通じて行なってきました。
 環境保護の立場から、生態系への影響配慮や人の命と健康を守ることを目標に、農薬使用を減らして行こうとする動きは世界的にも活発です。そもそも残留基準の強化というのは、いきなり残留ゼロとまではいかなくとも、その数値を低くすることであって、決して高くするものであってはならないはずです。
 ところが基準案の数値は、何の科学的な根拠も示さずに、ただFAO/WHO合同委員会が設定し、どの国でも受け入れられるという緩い勧告値をそのまま日本での残留基準として適用したものです。日本での個々の農産物摂取量など、食生活の違いは一切考慮されていません。この基準がそのまま通ってしまえば、私たちは今まで以上に農薬を取り込むことになるのです。
 以下に、今回の残留基準案の問題点を解説を加えながら具体的に検討します。
(1)残留基準と登録保留基準
 現在、日本には農作物に対する農薬の残留基準は二種類あります。
 一つは、「食品衛生法」に基づいて厚生省が決めた「農薬残留基準」です。これは「食品・食品添加物等規格基準」の一部になっていて、53種類の作物に26種類の農薬の基準値が設定されていました(すべての作物について、26種の農薬の基準があるわけではない)。この基準に合致しないものは、食品としての規格に適合しないから、これを輸入し、加工し、使用し、調理し、保存し、または販売をしてはならないとされています。
 もう一つは、「農薬取締法」に基づいて環境庁が設定した「登録保留基準」です。これは242種類の農薬に設定されていますが、あくまで参考値であり、残留基準のように市場農作物の検査を実施する義務もなく、基準を超えたものの市場流通を規制することはできません。 
 今回、厚生省が発表したものは「食品衛生法」に基づく「農薬残留基準」です。なお、厚生省の説明によると、農薬残留基準は登録保留基準に優先するので、新たに農薬残留基準が決まると、自動的に登録保留基準は農薬残留基準の値になるということです。つまり、同時に登録保留基準も緩和されることになります。
(2)国際平準化は農薬摂取量増大への道
 まず、言えることは、この基準案は農産物の自由化の動きを念頭におき、食糧輸入をスムーズに行うために、非常に政治的に決められたもので、科学的根拠の薄いものだということです。
 本来なら、日本での農薬登録制度の下で提出された毒性データをもとに、以下に述べるADI(一日摂取許容量)を算出し、日本人の食生活での摂取量を考慮して残留基準値を設定せねばならないのに、今回の案では、FAO/WHOの合同委員会が設定した残留勧告値が、ほとんどそのまま採用されています。この委員会の構成メンバーには、農薬メーカーや巨大穀物商社などの息のかかった者が入っていることで、前からいろいろ問題視されています。また、厚生省は以前からこの勧告値を「国際基準」と呼び、あたかも非常に権威があるかのごとくふるまってきました。最近では、アメリカがガットの場で執拗にこの基準を国際的な統一基準にするよう主張してきていることも周知の事実です。要するに、農産物を商品化して、儲けようとする企業に有利にはたらくのが、今回の基準案だと思われます。
 もうひとつ忘れてならないことは、残留基準がいったん決められたら、それは、単に外国からの輸入農産物に適用されるにとどまらず、国産品にも適用されるということです。
 端的な例は、ポストハーベスト農薬(収穫後に使用される農薬)に適用される残留基準です。(収穫前に散布されても、発芽防止剤や収穫作業の効率をあげるために使用される除草剤などもポストハーベスト農薬とみなすべきです。)
 クロロプロファム(IPC)のバレイショに対する発芽防止剤としての適用やフェニトロチオン(スミチオン)・マラチオン(マラソン)の小麦に対するポストハーベスト適用は、現在国内では使用が認められていませんが、この基準が決まると国産品についても、同様の適用がなされることになり、残留農薬摂取量の増大につながります。
−以下の節は略−
(3)残留基準の決め方
(4)ADIと摂取量の問題点
(5)複合汚染と総量規制
(6)フェニトロチオン(スミチオン)の場合
(7)ダミノジッド(ビーナイン)

  (8)今後の運動にむけて
 すべてがこのように、わけのわからない数字として並んでいる今回の基準案の根拠となる毒性・残留性データを、どうしても厚生省に明らかにしてもらわなければなりません。基準値算出のもととなるADIすら明らかになっていません。このことは、「農薬にさらされない権利」宣言に述べた4つの「知る権利」のうち「農薬の毒性・残留性を知る権利」の正当な行使です。「国際基準を引き当てた」などといういい訳が通らないことは、これまでの説明で明らかだと思います。アメリカのガットでの要求を日本が先取りして決め、非科学的、政治的であり、厚生省は国民の健康を売り渡したと非難されてもしかたありません。
 残留基準の強化とは、現行の数値をできる限りゼロに近づけることです。発ガン性や催奇形性のある農薬(これには、その農薬そのものだけでなく、不純物や代謝物もについても考慮されねばならない)の使用禁止、ポストハーベスト農薬使用の禁止などが、盛り込まれるよう要求していく運動が必要です。
 化学肥料・農薬・農業機械を3つの柱とした農業の工業化と経済優先、生産性至上主義が大手をふっている日本の農業政策を見直し、その土地の風土に合った、季節の農産物を食べることを基本として、環境を破壊せず、健康を増進する政策に切り替えていくことが重要です。
 また、「国際基準」といわれるFAO/WHO合同委員会の設定する残留勧告値の問題点にメスをいれる国際的な消費者運動を展開していくことも大切だと思われます。

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作成:1998-04-01